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「天体戦士サンレッド外伝・東方望月抄 ~惑いて来たれ、遊惰の宴~ 勝ち名乗り」(2010/11/06 (土) 14:55:10) の最新版変更点
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「ふぅん…意外に食い下がってるわね」
と、観客席から闘いを見下ろすレミリアは鼻を鳴らした。
「風見幽香への怒り、そして憎悪…それが奴に力を与えている。そういう事かしら?」
「言い方が悪いよ、レミリアちゃん。せめて正義の怒りをぶつけているって言ってよ」
「どう言おうが、同じ事です」
コタロウは抗議するが、レミリアはすっぱりと切って返す。
「それに、その二つが悪いものだなどと、私は思っておりません」
「ええ~…そうかなあ…」
不満顔で、コタロウは口を尖らせる。
「一番強いのは、愛と友情だと思うけど。漫画やアニメだと、大抵そうだもの」
「成程。そういうこともあるでしょうが、そうでないこともあるでしょう―――負の感情から生まれる力は時に其れ
を凌駕する。特に、怒りと憎しみは―――何よりも強い。憤怒とは、純粋なる人間の情念につきますれば」
まあ、あいつは人間じゃなくてヒーローですが。レミリアはそう締め括り、ジローに向き直った。
「分かるでしょう、あなたなら。かつて怒りと憎しみでその銀刀を振るった、あなたなら…ねえ、ジロー?」
「…貴女の仰る通りですよ、レミリア。それは疑う事なく真実です」
けれど、とジローは微笑んだ。
「ここは弟の説を採用して、愛と友情こそが最強だと言っておきましょう」
「おや、優しいお兄様だこと―――まあ、いいでしょう。こんな議論に意味はない」
「花が枯れるか陽が沈むか―――この闘いの結末は、その二つに一つ。その事実に、何も変わりはない」
深緑の大妖が空を舞う。
それを追い、真紅の太陽が空を駆ける。
単純な速度に関しては、プロミネンスフォームを発動させたサンレッドに比する者は幻想郷にもそうはいまい。
風見幽香といえども、その例外ではない。
「追いかけっこは、正直あまり得意じゃないのよね…」
幽香は、うんざりしたように呟き。
「けど、追いかけてくる相手を追い返すのは得意よ」
奇術師のような仕草で右手を握り込み、開けばその掌には血のように紅い薔薇。
その花びらが、一斉に弾けた。
「花符―――<薔薇吹雪>!」
薔薇の花びらが舞い散るその光景は、誰もが見惚れるほどに美しい。
だが幽香の妖力を宿したそれは、一枚一枚が、鉄をも易々と切り裂く鋭利な刃だ。
サンレッドは、避けない。己の身に太陽闘気を纏わせ、真正面から飛び込んだ。
太陽闘気に触れた花びらは炎上し、灰となる。しかし、全てを焼き尽くす事はできない。
焼け残った花びらに切り刻まれるのに構わず、幽香への最短距離を駆け抜けた。
その勢いのまま、肩から全身をぶつける。空中に弧を描きながら、己の肉体ごと大地へと叩き付けた。
衝突のショックで地鳴りが響き、巨大なクレーターが刻まれた。
その惨状は、隕石が激突したのと何ら変わりがない。
「ぐっ…は…!」
さしもの幽香も堪え切れず、口の端から血を吐く。レッドは、手を緩めない。
「ダラララララァァァァァァっ!」
馬乗りになり、両拳で流星群の如き乱打を放つ。その嵐のような攻撃に、実況も興奮気味に叫んだ。
『完全に流れが変わったか!?サンレッド、鬼神の如き攻勢だ!あの究極加虐生物・風見幽香がメッタ打ちィ!
これで勝負は決まるか!?幻想郷の血濡れの大輪・風見幽香がここで終わるのか!?』
(―――まだだ。この女がこれで終わるはずがねえ)
そう実感していたのは、サンレッド自身だ。
一方的に攻めていながら、勝利に近づいている気がまるでしない。
(まだ何かあるはずだ。こいつには、まだ何か―――)
―――視界の端に、人影を捉えた。
横手から激しい衝撃を受けて吹っ飛ばされたのは、それと同時。
予想外の一撃に、受身を取る事も出来ず地に転がる。
闘いに乱入し、横からレッドを蹴り飛ばした<彼女>は静かに口を開いた。
「女の子にそんな乱暴するなんて、紳士的じゃないわね」
「…!」
そこにいたのは。
緩くウェーブのかかった碧の髪をさっぱりとショートボブにして。
赤いチェック柄の上着とスカートを着て。
淑やかな美貌に穏やかな微笑を浮かべた。
風見幽香そのものだった。
突如現れたもう一人の幽香は、クレーターの中心に半ば程埋まった幽香を力任せに引きずり出す。
「双子…って、わけじゃねえか…」
「そう。私達は二人とも、風見幽香本人よ」
「分身といえば、分かりやすいかしら?」
はあー、と、立ちあがったレッドは嘆息する。
「今更だけど、ここの連中は何でもありだな…もう驚きもしねーよ」
埃を払い、再びファイティング・ポーズを取った。
「来やがれ。どこぞのテニス部員の物真似したくれーじゃ俺にゃ勝てねーって事を教えてやる」
「それじゃあ」
「ダブルスでいくわよ…なんてね!」
二人の幽香が迫る。
繰り出される拳と蹴り。単純に考えても、手数は先程までの二倍だ。
レッドも応戦するが、どう考えても分が悪い。
(まともに肉弾戦やってたら、ジリ貧になるのがオチか…!)
距離を取りつつ闘い、ヒットアンドアウェイを繰り返しての各個撃破。
ここは、それに活路を見い出すしかない。
攻撃を受け流しつつ、プロミネンスフォームの機動力を活かして彼女の勢力圏内から離脱する。
幽香はそれをまっすぐ追うことはしない。
円を描いてそれぞれ左右に展開し、レッドを両側から挟み込むように陣取る。
そして、二人ともに両手を腰だめに構えた。
その姿は、かの国民的ヒーローが必殺技を放つ際のポーズに見えなくもない。
幽香の全身から迸る魔力が、掌に集中していく。その余波がバチバチと火花を散らし、暴風を巻き起こす。
―――彼女が放とうとしているのは、幻想郷に伝わる魔法としては極々つまらない、単純なものだ。
己の魔力を砲弾とし、撃ち出す。ただそれだけの魔法。
習得も使用も特に難しくはない。破壊力も、魔法具の補助なしならば大して脅威というわけでもない。
しかし―――風見幽香のそれは、例外だ。
彼女の莫大な妖力と魔力は、平凡な魔法を戦略兵器のレベルにまで引き上げる―――!
「マスタァァァァァァァァ…!」
「スパァァァァァァァァクッ!」
突き出された両腕から放たれた、破壊と破滅の閃光。
或いはそれは、全てを呑み込み、押し流し、消し飛ばす濁流。
大口を開けた二匹の大蛇の如く、左右からレッドに襲い掛かった。
「―――!」
サンレッドといえど、ここは逃げるしかない。上空へ飛び上がる。
直後、二条の光は互いにぶつかり合い、激しい輝きを残して対消滅する。
「うおっまぶしっ…!」
一瞬、目が眩む。
その時、背中にそっと、誰かの手が当てられた。
優しいくらいに柔らかな手がもたらしたのは、全身が泡立つ様な悪寒だった。
振り向けば、そこにあったのは、今では鬼女としか思えない、その微笑―――!
「さ…三人目、だと…!」
「マスター…スパァァァァァァク!」
零距離から放たれた、万物を焼き尽くす業火。
炎や熱に対して高い耐性を持つレッドですら、骨まで燃えていくような圧倒的な熱量に悲鳴を上げる。
それでも全力で身を翻し、逃れる。
全身から黒煙を吹き出させながらも、態勢を崩す事なく着地した。
三人の幽香も、その前方10メートルの距離に勢揃いする。
「ちっ…聞いてねーぞ、三人に増えるなんざ」
「あら、やろうと思えば百人にだってなれるわよ」
「はん…テニス部員じゃなくて、忍者の方か。芸達者なこった」
レッドは吐き捨て、しかし、何かを確信したように言い放つ。
「けど、さっきの攻防で分かった…その技は欠陥品だ。次で、破ってやらあ」
その自信ありげな態度に、会場は逆転の予感で沸き立つ。対する幽香は、楽しげに唇を三日月の形に歪めた。
「単なる虚勢でもなさそうね…いいわ」
「破れるものなら」
「やってみなさい」
三人揃って、迷う事なく一直線に駆け抜ける。
接近戦でケリを付けるつもりなのは明白だった。
如何にレッドでも、それでは数の優位で押し切られるだろう。
しかして、レッドは退かない。
両の脚を踏ん張り、迎え討つ。
(俺の考えが正しいなら―――やれるはずだ!)
レッドの狙いは一つ。
一人だけ倒しても、二人残る。二人を倒しても、一人残る。
ならば―――三人まとめて迎撃するのみ!
そのためには、一呼吸で三回の攻撃を繰り出すしかない。
無理難題とも思えたが、彼には心当たりがあった。
(一つだけある…完全無欠な、一瞬での三連撃が!)
脳裏に、一回戦で闘った彼女の姿が蘇る。
イメージすべきは、それだ。
「星熊勇儀―――!あんたの技を借りるぜ!」
強烈な踏み込みと共に、一人目の幽香の脇腹を右拳で撃ち抜いた。
間髪入れず、二人目の幽香の側頭部(テンプル)を左拳で砕く。
同時に、右のアッパーカットで最後の幽香を殴り飛ばした。
その一連の動きは、まさしく一回戦で自らがその身に受けた、あの奥義の再現だ。
「見様見真似―――<俺式三歩必殺>!」
吹き飛ばされた三人の幽香は折り重なるように倒れ、一人に戻った。
深いダメージを受け、分身が解けたのだ。
「…確かに分身なんてスゲー技だけどよ…それにゃ、致命的な弱点があった」
倒れたまま動かない幽香にゆっくりと近寄りながら、レッドは語る。
「戦闘力まで、そのまま複製できるわけじゃねー…一つの力を、複数に分散しちまうんだ。分身の数を増やせば
増やすだけ、一人一人は弱くなっちまう。そうじゃなかったら、それこそ百人に分身してりゃいいだけだもんな」
幽香は大地に倒れ、目を閉じたまま身じろぎ一つしない。
そんな彼女まで、あと一歩の距離までレッドは歩み寄った。
「三人になった時点で、相当にパワーもスピードもタフさも落ちてたはずだ。そんな状態なら、ある程度以上の力
と速度さえあれば、一瞬で全員仕留める事はそれほど難しくねー。今、俺がやったみてーにな」
「分かっていたわよ、そんな弱点…」
幽香が、口を開いた。
「分かっていて、どうしてわざわざそんな技を使ったと思ってるの…?」
「…………」
「待っていたのよ、サンレッド…勝利を確信して、あなたが油断する、その瞬間を!」
バネ仕掛けのように跳ね起きて。
がら空きになったレッドの心臓に向けて、右の貫手を突き出す―――!
「だろうな、俺だって分かってたよ…お前がこのまま終わるタマじゃねーって事くれーな!」
―――幽香の手刀は、皮膚を貫く寸前で止められていた。
その細い手首は、レッドの手によってガッシリと掴まれている。
「ズアァァッ!」
全力の握撃。血管が潰され、肉が裂かれ、骨が砕ける。
悲鳴どころか、呻き声さえ上がらなかったのは流石の一言だった。
最後の策を見破られ、戦意を喪失するどころか、更に凶気を滾らせて幽香は吼えた。
左手に全てを込めて、殴りかかってくる。
みしり、と鈍い音がして、レッドの頭蓋が軋む。
更に踏み込み、小さな口を一杯に開いてその首筋に歯を突き立てた。
血飛沫が、端麗な少女の顔を紅く染めていく。
レッドの力が緩んだ隙に、手首を掴んでいたその腕を振り払う。
「これで、本当に最後よ…これに耐えれば、あなたの勝ち」
左手と、使い物にならなくなったはずの右手を合わせて、レッドに向けて砲門の如く突き出す。
残された全身全霊を、その一撃に込めて。
「マスタァァァァァァァァァァァァァァァァ!!スパァァァァァァァァァァァァァァァァクゥゥゥゥゥッ!!!」
咆哮と共に光が弾ける。
奔流はサンレッドを呑み込み、天へと向けて巨大な火柱を噴き上げた。
魂までも燃やし尽くすような爆熱の地獄で、しかし。
サンレッドは、全身を焼かれながらも立っていた。
炎を宿す眼光で、幽香を射抜く。
その瞬間―――風見幽香は、自覚した。
己の敗北を。
ググっと、レッドは弓を引き絞るように身体を後ろへ仰け反らせて。
幽香の額に、自らの額を渾身の力で打ち付けた。
グジャっ、と、トマトが潰れるような音が響く。
グラリと幽香の身体がよろめき、前のめりに倒れ込んだ。
審判・四季映姫がそれに駆け寄り、状態を冷静に見極める。
「風見幽香の戦闘不能を確認…」
長く激しい闘いに今、終止符が打たれた。
「白黒はっきり付きました―――勝者・サンレッド!」
「おおおおおおおおおおーーーーーーーーーっ!」
勝ち名乗りと共に、怒号のような大歓声が闘技場を埋め尽くす。
サンレッドが天を衝くように両手を掲げ、勝利の雄叫びを上げたのはそれと同時だった。
―――天体戦士サンレッド・幻想郷最大トーナメント二回戦突破!
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