「強くなるのは、なれるのは その2 第三話」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「強くなるのは、なれるのは その2 第三話」(2010/07/11 (日) 18:27:54) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
砲弾が発射される爆音、着弾して地面が抉れる轟音。
爆音、轟音、爆音、轟音。
耳をつんざき大地を揺るがす大音響と、荒れ狂う熱風強風、そして舞い上がる土煙の中を、
加藤は駆けていた。その加藤の視線の先では、ホバー走行により地面、というか文字通り
「地上」を滑りながら、留二亜が撃ちまくっている。
見えないジャイアント・バズから撃ち出される、見える砲弾。既に加藤は一撃食らっているし、
今次々と地面を抉っていることからも、その破壊力は嫌になるほど解っている。
だから食らうわけにはいかないのだが、なにしろ炸裂砲弾だ。かわしても、地面に当たれば
爆発して、爆風が襲ってくる。それを近距離から受ければ当然、体勢が崩れる。
そうなれば走る速度が落ちるどころか、ほぼ停止してしまう。もちろんそんな状態では
ガードもできない。そこを狙い撃たれてしまえば……一撃受けて、飛ばされたところに
更に追い討ちも受けて……終わりだ。
だから、砲弾そのものをかわすだけではなく、かわした後に来る爆風の有効射程外
まで出なくてはならない。必然、「紙一重でかわす」どころではなく、思いっきり
大きな動きで逃げ回らねばならない。
そして留二亜の方は、どうやらホバー走行も砲弾撃ちも全くスタミナを消費しないらしく、
遠慮なく駆け回り、乱射してくる。
「くそっ、分が悪いな。逃げ回ってちゃジリ貧だ。こっちの体力がある内に、勝負を
かけるしかねえ!」
加藤は左右に大きく動いていたのを一変、留二亜に向かって一直線に走った。
その加藤を見て留二亜は、バズーカの構えを解く。
「来る? 望むところ。わたしは本気で相手する、と言ったよね加藤さん。だから、
見せてあげる。わたしの、ドムの必殺技を!」
バズーカを撃たなくなったので、加藤は何にも阻まれることなく走ることができた。
留二亜の方からも向かってくるので、あっという間に二人は肉薄する。
先手は留二亜だった。背中に手を回し、見えないヒート・サーベルを抜き放ち、振り下ろす。
なにしろ見えないので長さはわからないが、一直線の棒であることは間違いない。
留二亜の手の位置と角度からサーベルの軌道を読んで、加藤は振り下ろされてきた
その一撃を、真上に跳んでかわした……と思ったら、
「えっ!?」
その目の前に、留二亜がいた。サーベルを振り下ろした姿勢の留二亜の後ろで、
サーベルを振り下ろした姿勢の留二亜の肩越しに、もう一人の留二亜がバズーカを
構えている。
「え? なに? 二人? 残像……じゃない、本物が二人?」
混乱する加藤に向かって、二人目の留二亜がバズーカを撃つ。空中で不安定な
体勢ながらも、加藤はムリヤリに体をひねって、これも何とか回避した……と思ったら、
その加藤に、ふっと影がかかった。
「まさか三人目っっ!?」
驚いた加藤が視線を上に向けるよりも速く、第三の留二亜が、二人目留二亜の頭上を
跳び越えて襲ってきた。
今度はバズーカもサーベルもない。神に祈りを捧げるように組み合わせた両手を、
自らの頭上に大きく振りかぶり、そこから加藤の脳天へと振り下ろす!
「オルテガ・ハンマー!」
留二亜の、渾身のハンマーパンチが、まだ上を向いていなかった加藤の頭頂部に
叩き込まれた。バズーカでもサーベルでもない素手の攻撃だが、それでも
今の留二亜はドムなのである。これは、少女留二亜の打撃ではなく、
重MS・ドムの打撃なのだ。
「がっ……!」
加藤は、まず顎、そして胸、腹の順に地面に激突した。
辛うじて意識は失わなかったものの、頭の中がぐわんぐわんして、全身が
痺れる。まるで上から背中も手足も押さえつけられているみたいで、
とても立ち上がれそうにない。
懸命に首を捻って前方を見れば、小学生女児の靴が六つ、足が六本見える。
三人の留二亜が、そこにいるのだ。
「「「どう? 完璧なドムは」」」
と言った直後、足が二本になった。
歯を食いしばって胸と腹を地面から引き剥がし、両腕を踏ん張って上体を
持ち上げた加藤の目の前に立っているのは、留二亜が一人だけ。
「これがわたしの、ドムの必殺技よ」
見れば見るほど、確かに顔立ちが整った美少女ではあるが、何の変哲もない
10歳ぐらいの女の子だ。それがこの強さ。この力。この攻撃方法。
「ぶ……分身してのジェット・ストリーム・アタック……たった一人で、
黒い三連星を……完璧に再現しやがるとは……」
「当然。それが、わたしに求められたものなのだから」
留二亜は、(全くと言っていいほど膨らみのない)胸を張った。
「兄さんは、ガンダムが大好きでね。わたしが何度、遊んでほしいってお願い
しても、ガンダムごっこ以外は絶対ダメなの。そして兄さんはいつもガンダム役、
わたしはその相手としてドム役」
「ガ、ガンダムごっこ?」
「そう。ちゃんとホバー走行して、ジャイアント・バズやヒート・サーベルを使って、
ジェット・ストリーム・アタックもできるドムでないと、遊んであげないぞってね。
だったら、やるしかないでしょう? だから、やったの」
やった、とか軽く言われても加藤は困る。
しかし実際にやってる以上、否定のしようもなく。
「わたしのドムの強さは、兄さんが好きなガンダムの、ガンダムごっこの為の強さ。
わたしの、兄さんへの愛の強さ。『アイツ』もまた、わたしと方向性は違うけど、
『アイツ』の兄さんへの愛ゆえに強さを得ている。だから……」
留二亜は、ぐっと拳を握り締めた。
「アイツの、最終目的を阻む為だけではなくて。わたしの、愛の強さを
証明する為に。わたしは、アイツに勝たなきゃダメなの」
「……それだけか?」
「ええ、それだけよ。アイツに対して個人的な恨みはないし、兄さんが認めてくれる
以上の強さにも興味はない。わたしの全ては、兄さんへの愛だけ。でも、
それは何よりも大きく強い。それに対抗できるとしたら、わたしと同じ『兄さんへの愛』
で戦ってるアイツだけ。だから、加藤さんはわたしに勝てない」
「は、ははははっ。なるほど、な。そう言われちゃあ……」
加藤は、笑いながら眉を吊り上げながら、ぐぐぐぐっとリキを込めて片膝立ちになった。
「負けるわけにはいかねぇよ、俺は」
「ふうん? わたしの、兄さんへの愛よりも強い愛が、あなたにはあるとでもいうの?
そういえば、神心会空手がどうとか言ってたわね」
留二亜は考えた。
『空手道場か。もしかして、そこの先輩のことを愛してるとか? でも、
この人って彼女がいるようには見えないし。ということは……』
留二亜は、大きく後ずさって加藤を指差し、大声を上げた。
「変態! 不潔! 近寄らないでっ!」
「何をどう考えてそういう結論に至ったっ!? 多分、思いっきり誤解だ! が、」
まだ脳ミソが揺れてる感覚を引きずりながら、加藤は立ち上がった。
「お前の、兄貴への愛を上回ってみせるってのはその通りだぜ」
「……何ですって?」
「そうでなきゃ、お前には勝てないんだろ? だったら、上回ってやるよ」
留二亜の顔に、初めてはっきりと『怒り』が浮かんだ。
「あなたに、兄さんがいようが姉さんがいようが、あるいは恋人がいようが。
わたしの、兄さんへの愛は誰にも負けないっ!」
「そりゃそうだろうな。その一念で、一人ジェット・ストリーム・アタックまでできて
しまうんだから。でもな、それでもお前は『足りない』んだよ。そのことを今、
教えてやる。……来い!」
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: