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「天体戦士サンレッド外伝・東方望月抄 ~惑いて来たれ、遊惰の宴~ 第一試合終了、そして」(2010/07/06 (火) 14:56:37) の最新版変更点
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一回戦第一試合―――勝者・サンレッド。
『幻想郷最大トーナメント、第一試合から波乱の幕開け!天体戦士サンレッドが、幻想郷一の怪力を誇る星熊勇儀
を真っ向から撃ち破りましたぁっ!溝ノ口発の真っ赤なチンピラヒーローが、衝撃の幻想郷デビューを我々に見せ
付けた!この男は何処まで往くのか!?これから目が離せません!』
射命丸文の絶叫と化した実況と鳴り止まぬ歓声の中、彼は地に伏したままの勇儀に手を差し伸べた。
「立ちな。手を貸してやるよ」
「…心配すんな」
よ、っと声を上げて、勇儀が立ち上がる。
「おいおい、無理すんなよ?」
「なに。そこらの奴とは鍛え方が違うさ…ほら。勝ったんだから、観客に愛想良くしなよ」
勇儀はレッドの右腕を掴み、高々と持ち上げさせる。
歓声が、一際大きくなった。
「…ちっ。こういうガラじゃねーんだけどなー」
そう言いつつ、満更でもない様子で左手も高々と突き上げ、観客に向けて大きく手を振った。
「レッドさーん!カッコよかったよーっ!」
「感動しましたぁ!でも忘れないで下さいよ!あなたを抹殺するのは我々フロシャイムですからねーっ!」
―――とりわけ大声を張り上げるこの二人が誰なのか、言うまでもないだろう。
「…あのバカ共。後で殴ってやる…」
「ははは、照れちゃって。あんたはツンデレさんだなあ。ツンデレッドめ」
「そ、そんなんじゃねーよ!あいつらなんか、うっとーしいだけだからな!」
「まあ、そういう事にしといてやるか…ほら」
開けっ広げな仕草で、勇儀は握手を求めた。レッドはというと、胡乱な目である。
「そんなに嫌うなよ。もう握り砕こうとなんてしないさ」
「…へっ。どうだかな」
悪態をつきながらも、レッドはその手を握り返す。
『見てください、何という美しい光景でしょう!死闘を終えて、互いが健闘を称え合う!今や二人は強敵と書いて
<とも>と呼ぶ!さあ皆さん!彼等にもう一度、盛大な拍手を!』
文の音頭取りで、嵐のような拍手が巻き起こる。
二人はそれに向けて手を振りながら、ゆっくりと闘技場を後にしていくのだった。
―――拍手と歓声を背に退場し、通路に出た瞬間、勇儀は糸が切れたようにその場に膝から崩れ落ちた。
そのまま大の字に寝転がり、ぜーぜーと荒く息をつく。
「ったく。やっぱ無理してやがったのか」
「へへ…こんなみっともない姿、知り合い達にはちょっと見せたくないからね…」
「見栄っ張りな奴だな、テメーも」
しょーがねーな、とボヤきながらもレッドは勇儀を助け起こし、鍛え上げた肢体を背に負う。
「俺もちょっくら殴られたんで、一応医務室に行くからよ。ついでに連れてってやらあ」
「はっ。親切な振りして、あたしのおっぱいの感触を背中で楽しむのが目的なんじゃないのかい?」
「なっ…んなわけあるか!俺のたまにしか見せない善意を何だと思ってやがる!?」
「何、仕方ないさ。あたしもこれで乳にはちょいと自信がある。だからさっきのケンカの最中、あんたがパンチを撃つ
そのついでにあたしのおっぱいを触りまくっていた事実も、むしろ誇らしいというものさ」
「ありゃ不可効力だろうが!」
「エロいのは男の罪…それを許すのが女の器」
「じゃかましいわ!その口閉じねーとマジで発禁処分かかるレベルで揉みしだくぞテメー!」
「あはは、これは失礼した。冗談を言うなんて、あたしらしく…というか、鬼らしくないんだけどね」
「あん?何だ、そりゃ」
「鬼は、嘘を吐かないのさ―――だから、冗談もあまり言わない。広い意味じゃ、それも嘘だからね―――まあ、
今はそれが思わず口から出ちまうほど、気分がいいって事で」
そう言って、勇儀は屈託なく笑う。
「いいケンカだった。今のあたしは最高の気分さ、サンレッド」
「フン…褒めたって何も出ねーぞ」
レッドはちょっと照れた様子で鼻を鳴らす。
「こんな俺でも待っててくれる、出来た女がいるんでね。惚れたりすんなよ?」
「ふーん。あんたもスミに置けないもんだ。ま、確かに中々いい男だもんね」
「へ、そうだろ?」
「ああ。あたしがレズじゃなかったら確実に惚れてるレベルだね」
「…おい。それも冗談か?」
「いや、これはガチ」
「…………」
最後の最後で、嫌なカミングアウトを聞いてしまったレッドさんであった。
―――その頃、観客席では。
「やったぁ~っ!兄者、レッドさんが勝ったよ!」
「ええ…やりましたね」
未だ興奮覚めやらぬコタロウに対し、ジローは感慨深げに微笑む。
「レッドも、星熊勇儀も…本当に、いい闘いでした」
「ふふ…確かに。中々愉快な暇潰しでしたよ。死すべき定めを背負うちっぽけな存在が必死にあがく有様は、実に
見物でした」
「…妖夢さん。傲慢系大ボス的な言動はやめてください。感動が台無しじゃないですか」
「てへっ☆ごめんちゃ~い」
妖夢はウインクしながらペロっと舌を出して自分の頭をコツン☆と叩いた。
ジローさんの中に妖夢への殺意がふつふつと湧き上がったが、それを突き詰めてしまうとこのSSがヴァンプ将軍
の事件簿~幻想郷・半人半霊殺人事件~になってしまうので、彼は自制心を総動員して怒りを抑えた。
最終話で涙ながらに自分の身の上話をして<俺って可哀想アピール>なんてジローさんだってしたくないのだ。
どうでもいいけど、そろそろ<黒幕は地獄の傀儡子でした>パターンはやめた方がいいと思うの、私。
「しかし貴女、一体全体どんなキャラになろうとしてるんですか…」
「いや、何。私の場合はキャラと言動が一貫してブレまくりなのがウリでして。登場作品ごとに性格やしゃべり方
が違うとかザラなんですよ?まあ、私に限ったこっちゃありませんが」
「またしても各方面を敵に回しそうな発言ですね…」
「まあまあ、そんなに突っ掛からなくてもいいじゃないですかジローさん。いやー、それにしても感無量ですよ。
私がレッドさんに求めていたのは、ああいう闘いなんです。必殺技使ってフォームも使って…そういうヒーロー的
なバトルを、何だって我々が相手の時にはやってくれないんですかねー?」
ヴァンプ様の言葉に、誰も答える者はいなかった。
彼を傷つけることなくその場を誤魔化す、上手で優しい嘘がつける人材は、残念ながらいなかったのである。
「こほん。ともかく…確かにとんでもない強さだよな、あのサンレッドってのは。なあ、萃香。お前だって危ない
んじゃないか?星熊勇儀って、お前と同格なんだろ」
気を取り直すように魔理沙が咳払いし、萃香に話を振る。
しかし、返答はない。
「あれ?おーい、萃香?」
「…勇儀…」
魔理沙に応じる事なく、どこか放心したように、耐え難い何かを堪えるように、萃香は無二の友の名を呼ぶ。
「まさか…あんたが負けるなんてね…」
「あー…悪い。ショックだったんだ」
「え…ああ、こっちこそすまないね。ぼんやりしてたよ…ええと、そう。そうだね―――力なら、私より勇儀の方
が上さね。それは、疑いようがない」
「へえ。じゃあ、お前じゃサンレッドとやり合ったら勝てないって事?」
「そうは言わないよ」
萃香は、不敵に答える。その自信に満ちた顔立ちには、先程までの弱々しさはまるでない。
「闘いには相性もある。勇儀やサンレッドは、ジャンケンで言うなら間違いなくグーだ。グー同士でぶつかれば、
より強い方が勝つ―――けれど」
「どれだけ強いグーであろうと―――パーには勝てないさ」
よっ、と。
大きく背伸びをして、萃香は歩き出した。
「さーて…私の出番までは、勇儀の見舞いにでも行ってやるか」
<小さな百鬼夜行>伊吹萃香。
彼女は準々決勝にて、サンレッドの前に文字通りの巨大な存在として立ちはだかる事となる。
―――観客席の別の一角には、三人の少女の姿があった。
「へえ…あれがサンレッドねえ…」
興味があるのかないのか、テンション低く呟いたのは<楽園の素敵な巫女>博麗霊夢。
「あんたが目をかけてるだけあって、確かに相当なもんね―――紫」
「あら、分かるかしら?」
楽しげに笑うのは<境界の妖怪>八雲紫。
相も変わらず、本当に面白がっているのかどうかすら判然としない、胡散臭い笑顔だった。
「中々に楽しいヤツでしょう?見ていて飽きないわ」
「ふむ…私にはどうも、単なるチンピラにしか思えないのですが」
そう言ったのは、紫の傍に控えていた少女。
怜悧な知性を宿す切れ長の瞳が、見る者の印象に強く残る。
抜群のスタイルを誇る肢体を包むのは、東国の導師を思わせる、奇妙な紋様が施されたローブ。
その腰辺りからは、ふさふさとした毛に覆われた九本の尾が飛び出していた。
彼女は<スキマ妖怪の式>八雲藍(やくも・らん)。
正体は金色の九尾狐である藍の、これが人間に変化した姿だ。
「確かに、あの戦闘力は目を瞠るものがありますが…何というか、少々、品がなさすぎるかと」
「藍は真面目ねえ。ああいう野性的な男は嫌いかしら?」
「野性的というか、野蛮なだけではないかと存じ上げます」
「まあ、随分な言い草だこと。霊夢、貴女はどう思うかしら?」
「どうもこうも、特に」
霊夢は肩を竦める。
「ま―――勝ち上がっていけば、いずれ当たる相手でしょ。負けるつもりはないとだけ言っとくわ」
―――しかし、その対決が実現する事はなかった。
博麗霊夢は準々決勝において、レミリア・スカーレットとの激闘の果て、壮絶に散る事となる。
「―――って、負けるの確定なの!?しかもレミリアのカマセ!?うわ、急激にやる気がなくなってきたわ…」
「はいはい、地の文を読まないの」
「な…納得いかない…私、東方の主人公なのに…」
「哀れだな、博麗の巫女よ…」
「心底同情した目で言うなー!」
「ありきたりなツッコミだな…」
「更に同情を深めるなー!」
「二人とも、そんなコントをやってないで。ほら、次の試合の組み合わせが決まるわよ」
紫の言葉に振り向けば、闘技場には西行寺幽々子が立ち、第二試合対戦者のカードを引く所であった。
『さあ、開幕戦の余韻も静まらぬ中、西行寺幽々子様が第二試合のカードを引く!果たして次は、どんな悪鬼悪霊
が壮絶な闘いを繰り広げるのか!?さあ幽々子様、引いちゃってください!』
「えいっ!」
まずは、一枚。そこに記されていた名は。
「―――風見幽香!」
観客達がどよめく。幻想郷で、風見幽香の名前と恐ろしさを知らぬ者など皆無だ。
どのような残虐な闘いとなるのか、想像すらも憚られる。
「幽香だ!みんな、次は幽香が出るよ!」
そんな空気を読まずに、メディスンがはしゃぎ声を上げる。
魔理沙はメディスンを呆れたように見つめ、溜息をつく。
「お前、ホント幽香が好きだなー…私は正直、あいつの闘いは好かん」
「私も、あんまり見たくないかな」
「確かに…心臓に悪いわね」
アリスとパチュリーも、魔理沙と似たような態度だ。
「えー、何で?」
「何でって…お前だって知ってるだろうが」
不満げに口を尖らせるメディスンに、魔理沙は答える。
「―――えげつなすぎるんだよ、あいつの闘争は」
「もー。それがいいんじゃない!」
「お前、趣味がおかしいよ…」
魔理沙はまたもや、嘆息するのだった。
「さーて…お次は誰かな!?」
そして幽々子が引いた、二枚目のカードは。
「―――蓬莱山輝夜!」
―――大勢の客でごった返す売店。
「…ふう。どうやら、出番のようね」
藤原妹紅の焼鳥屋台で砂肝を食べていた蓬莱山輝夜は、備え付けのモニターから響く声を合図に、顔をパンパン
と叩いて席を立つ。
ちなみに彼女の隣では、上白沢慧音が真っ赤な顔で酔い潰れている。
半端に酔わせるとセクハラ攻撃を行うきもけーねと化すので、妹紅が速攻で一升瓶を口に突っ込んだのだ。
「しかし…風見幽香かよ。大丈夫なのか、輝夜。あのドSが相手じゃ、お前の不死性も逆効果だ。最悪、死ぬ事も
出来ずに試合とは名ばかりの凄惨な拷問を…」
「心配しないで、もこたん」
輝夜は、決意を秘めた眼差しで語る。
「私…この闘いが終わったら、必ずここに戻って来て、またもこたんの焼鳥を食べるわ」
「輝夜…そんな事言うなよ…」
「ふふ…思えばもこたんは、私にとって唯一の対等な友達だったのかもね…」
「おい…急にいい奴っぽくなるなよ…」
後は過去を語り始めたりしたら完璧だった。
「そうね、湿っぽい話はよくないわ。さて…あら?やだ、いけない。靴紐が切れたわ」
「もうよせぇぇぇぇぇっ!」
「もう、何よそんなに大声出して。じゃ、行ってくるわ」
「ああ…なあ、輝夜」
「なあに、もこたん」
妹紅は唇を噛み締め、言った。
「勝たなくてもいい…どうか、無事に戻ってきてくれ…!」
果たして輝夜は、月光のように美しく、儚く微笑み、死闘の場へと旅立っていったのだった。
その後姿を見送りながら、妹紅は思った。
さらば、我が宿敵―――蓬莱山輝夜…と…。
―――風見幽香VS蓬莱山輝夜。
幻想郷最大トーナメントで行われた全31試合の中でも屈指の名勝負として語り継がれる熱闘の始まりであった。
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