「天体戦士サンレッド外伝・東方望月抄 ~惑いて来たれ、遊惰の宴~ 太陽の戦士・出陣」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「天体戦士サンレッド外伝・東方望月抄 ~惑いて来たれ、遊惰の宴~ 太陽の戦士・出陣」(2011/01/18 (火) 22:05:27) の最新版変更点
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総勢32名の全選手入場を終え、選手達が一旦引き揚げてからも、闘技場を包む興奮は一向に収まる気配がない。
誰もがこれから始まる凄まじい激闘の予感に高揚し、酔い痴れる。
「いやあー。賑やかで、まるでお祭りみたいですね」
「幻想郷の奴らなんて皆、理由を付けては騒ぐのが大好きだからな。一種のお祭りみたいなもんだろ」
と、魔理沙。
「お祭りというより、これもある種の異変じゃないの?」
「そうね。これだけの連中が一同に介して闘うなんて、普通じゃないわ」
そう言ったのはアリスとパチュリーだ。
「でも、優勝は絶対レッドさんだよ」
「あーら、このガキったら何言ってんのかしら。勝つのは幽香に決まってるでしょ」
「ふーんだ、君はレッドさんの強さを知らないからそんな事言えるんだよ!」
「あんただって、幽香がどれだけヤバいか知らないでしょ!」
「何だい、へちゃむくれ!」
「何さ、間抜け面!」
そしてどんどん会話の知的レベルを下げていくコタロウとメディスン。
十人十色の面々を尻目にしながら、ヴァンプ様は不安げに呟く。
「それにしてもレッドさん…大丈夫でしょうか?」
「心配いりませんよ、ヴァンプ将軍」
ジローは全幅の信頼を置いて、頷く。
「彼の強さは本物だ。それは、あなたもよく分かっているでしょう?」
「あ、いえ。そういう心配じゃなくて」
手をヒラヒラさせるヴァンプ様である。
「明らかにレッドさん一人だけ、浮いちゃってるじゃないですか」
「え…」
「他の選手はみんな綺麗なお嬢さんばかりなのに、レッドさんだけムサ苦しい男って…正直、ないですよね」
「うわあ…それは言っちゃダメだよ、ヴァンプさん。みんな薄々気付いてるけど黙ってるのに」
「でもね、コタロウくん。魔界の神様とか何とか凄い肩書きばっかの中で、あの人ったらアレだよ?チンピラでヒモ
でヤカラのヒーローだよ?場違いというか、何というか…」
「むー、確かに」
「―――なあ。私はそのサンレッドだかレッドサンだかの事はよく知らないけどさ。アレだろ?さっきの入場で最後
に出てきた、あの赤いのだろ?」
「ええ、そうですよ。それがどうかしたんですか?」
「いや、あのさ…言いにくいんだけど」
魔理沙はそう前置きして、後方を指差す。
「さっきからその赤いのが、後ろにいるんだけど」
「え!?」
「え!?」
異口同音である。二人が恐る恐る振り向くと、そこにはいました、赤い奴。
その能面のような顔からは、如何なる感情も読み取れない(マスクなので当然だが)。
「あ、あの、レッドさん、ど、どうしてここに…」
「自分の出番が来るまでは控え室でも客席でもどこにいてもいいって言われたからよー。とりあえずお前らの様子
を見に来てみたら、お前らって奴は…」
「レ…レッドさん!悪いのは私なんです!コタロウくんは何も言ってません!」
「そ、そんな…違うよ、レッドさん!ヴァンプさんじゃない、ぼくが悪いんだよ!」
お互いを庇い合う悪の将軍と吸血鬼少年。美しい友情だった。
「うるせー!」
しかし、それで感動してくれるような相手ではないのが誤算であった。レッドさんのゲンコツを喰らい、大きなコブを
こさえた二人はうずくまって悶絶する。
それを見つめて、妖夢は真面目くさった顔で顎に手を当て重々しく呟いた。
「人を悪く言えば、それは己に返ってくる―――因果応報ということですね」
「そうですね。貴女にだけはそれを言われたくないものですが」
ジローが皮肉を返したその時。
「―――では、皆様。まずは日程から説明いたします!」
バイオレンスかつグダグダな空気を断ち切るように、幽々子の声が会場に響く。
「本日は二回戦まで行い、本戦出場者32名を更に8名にまで絞ります―――そして三日後、その8名によって決勝
トーナメントを行い、優勝者を決定します!」
「へえ。今日で全部終わらせちまうわけじゃないんだな」
「多分、三日の間に幕間劇とかいれてなるべく話数を稼ごうという大人の事情ですよ」
分かったような事を口にする妖夢である。
その間も幽々子による各種説明は続く。
「ルールは規則・反則一切なしのバーリ・トゥード方式!武器も道具もガンガン使用しちゃってOK!」
「ルール無用ですか…レッドさん有利ですよ、ねっ!」
「どういう意味だよ、ヴァンプ…」
しかめっ面のレッドさんだった。
「勝敗はギブアップか、もしくは審判である四季映姫・ヤマザナドゥの判定によって決まります!ちなみに、万一
相手を死に至らしめてしまった場合は失格となりますのでご注意願います!」
「ギブアップって…そんな簡単に負けを認めるような奴もいないだろうに」
「となると判定か、でなきゃ死か…いずれにしろ、血を見る事になりそうね」
「ちょ、そんな事言わないでくださいよ!怖いなあ、もう…」
物騒な事を口にする魔理沙とアリス。ヴァンプ様はおっかながって震えるばかりである。
「なお観客席には防御結界が張り巡らされています。ちょっとやそっとでは破れないので、どうか御安心を―――
しかし、選手の力がちょっとやそっとじゃなかったら破れるかもしれないのでその辺は御容赦を!」
「あ、フラグ立った」
と、パチュリー。ちなみに、破れるフラグである。
「―――では!早速ですが、開幕戦となる一回戦・第一試合の組み合わせを決めるとしましょうか!」
一際声を張り上げる幽々子。いつの間にやら、彼女の傍らには巨大な箱が置かれていた。
その背後には、32枠が用意されたトーナメント表。
『さあ、選手&観客の皆さん!ここからは私が説明しましょう!』
実況・射命丸文の声が会場を揺るがす。しかしこの鴉天狗、ノリノリである。
『もうお気付きの方も多いと存じ上げますが、あの箱の中には、選手の名が書かれた札が入っております!それを
今から、西行寺幽々子様が二枚引きます―――即ち、その二人が対戦相手!』
では、と文は幽々子を促す。
『幽々子様!それではよろしくお願いします!』
「はい!ではお待ちかね、最初の対戦カードは!?」
箱に手を突っ込み、勢いよく二枚のカードを引き抜き、天に翳す。
そこに記されていた名は。
「―――サンレッド!そして、星熊勇儀!」
『決定です!幻想郷最大トーナメント一回戦・第一試合は―――サンレッドVS星熊勇儀!』
おおー!と、会場中がどよめく。その中で、ヴァンプ様とコタロウはレッドさんの肩を掴んで揺する。
「ほら、レッドさん!いきなり出番ですよ!」
「頑張って、レッドさん!」
「何でお前らがはしゃぐんだよ、ったく…」
纏わりついてくる二人をあしらいつつ、レッドは思い出していた。
(星熊勇儀…あいつか)
予選終了後に、彼女とは少しばかり<挨拶>を交わしている―――その短い邂逅で、彼女は垣間見せた。
力。そして才気。
それも圧倒的容量を確信させる器。
「あらら…気の毒に。いきなり星熊勇儀とは相手が悪かったな、レッドサン」
「サンレッドだ、白黒」
茶化すような物言いの魔理沙に対し、レッドは肩を竦めてみせる。
「ま、ここの連中にいっちょ見せてやんよ…俺のケンカをな」
そう言い残し、レッドは悠然と去っていく。その背には確かに、壮絶な闘いへ向かう漢の頼もしさが滲み出ていた
のだった。
そんな彼の後ろ姿を見つめ、妖夢はポツリと呟いた。
「…これが私達が、彼と言葉を交わした最後の瞬間でした」
「そこ。不謹慎且つ不吉な発言は控えなさい」
―――選手には控え室として、一人ずつ個室が用意されている。
星熊勇儀は彼女に与えられた一室で、ソファに身を横たえていた。
その姿はさながら昼食後の睡魔にまどろむ虎のように獰猛で、野性的な美しさに満ちている。
視線の先には、会場の様子が映し出されたモニター。
西行寺幽々子の手に握られた二枚のカード。その名を呼ばれると同時に、勇儀は身を起こした。
「…へえ。奇縁だね、こりゃ」
こと戦闘において、鬼より優れた種族は幻想郷にも存在しない。ましてや彼女は、現時点で実在が確認されている
鬼の中でも、伊吹萃香と並ぶ二強と称されている。
その研ぎ澄まされた戦闘感覚が告げていた。天体戦士サンレッドの秘める、膨大な力量を。
「景気づけに、やるかね」
愛用の巨大な杯を右手に取り、瓢箪からなみなみと酒を注ぐ。人間ならば酒豪を称する者でも一口で昏倒する、鬼
特製の酒。勇儀はそれを軽々と飲み干し、旨そうに息をつく。
「さて、いくか」
その時、控え室のドアが遠慮がちにノックされた。
「ん…?何だい。あたしなら」
「次に貴女は<今から出るところだよ>と言います」
「今から出るところだよ…はっ!」
くすくすと、ドア越しに忍び笑いの気配。
「貴女のノリのいい性格、私は大好きですよ?」
「…入ってきなよ、古明地(こめいじ)」
「では、失礼して」
ドアが開かれ、<古明地>と呼ばれた訪問者の姿が露わになる。
幼いながらも端正な顔立ちは、氷の如く表情がない。やや癖っけのある、薄い紫色の短髪。淡い空色の部屋着の
胸元では、ギョロリとした第三の瞳が勇儀を値踏みするように見つめている。
彼女こそは古明地さとり。旧灼熱地獄跡に建造された地霊殿に棲む、地上を追われた妖怪達の総元締め。
<心を読む程度の能力>を持つ妖怪・覚(さとり)。
誰からも忌まれ、誰からも嫌われ、誰からも呪われた、この世で最もおぞましい妖怪として知られる存在である。
そんな彼女だが、星熊勇儀とは不思議と仲が良かった。
捻くれ者で繊細な所のあるさとりと、豪放磊落で単純一途・姉御肌の勇儀。
対極だからこそ、互いに惹かれるものがあったのかもしれない。
「<よくここまで入ってこれたな>ですって?こう見えても隠れ忍ぶのは得意技です。無意識を操る我が愚妹ほど
ではありませんが、ね…おっと<この不法侵入者め>ときましたか。そんな固いことを仰らないでください」
「言ってないよ、思っただけさ」
「それはその通り。おや<どうしてここに来たんだ。あんたの可愛いお燐とお空の応援かい?>まあ、そういう事
ですよ」
「あのさあ、古明地」
げんなりした様子で、勇儀は大げさに溜息をつく。
「ちょっとは言葉のキャッチボールを楽しもうじゃないの。そうポンポンと頭を覗かれちゃたまったもんじゃない」
「そう申しましても、私の能力は自動的ですので」
「前にも聞いたよ、それ…」
「確かホワイトデーの時でしたよね」
「そうだよ。バレンタインを犠牲にした、アレだ」
「アレですね。で、勇儀さん。貴女への用件はそれに関する事でして」
さとりはスカートのポケットから、小さな布切れを取り出す。
「ん?それは…」
布切れに見えたのは、御守りだった。どうやら手作りのようで、市販のものに比べると不格好な長方形だ。
御世辞にも丁寧とは言い難い刺繍で、糸が所々ほつれてしまっている。
「<彼女>が勇儀さんのためにと作ったんですよ」
「…………」
勇儀は御守りを受け取り、胸元に仕舞い込む。その顔は、何やら深く考え込んでいるようだった。
「ふむ…<何て可愛い事をしてくれるんだあいつはああもう可愛過ぎる今すぐ帰ってイチャイチャしたい>」
「読むんじゃねーよ」
「自動的です」
「ちぇっ…」
「…<嬉しいけど、本当はここに来て応援してほしかった>それはまだ、無理ですよ」
さとりは不意に、表情を曇らせる。
「彼女にかけられた<呪い>は―――まだまだ、解けてはいないのですから」
「…分かってるよ」
だったら、と勇儀は笑う。
彼女らしい、明け透けで、豪快で、裏表のない、地底さえも照らす太陽のような笑顔だった。
「優勝を手土産に、あたしの方からあいつに会いにいくさ」
「そして18禁レベルのイチャイチャを繰り広げるのですね。ああやだやだ。小五ロリで乙女の私にはそんな猥雑
な思考は心に毒です」
「うるさいね。お前、あたしより年上だろうが」
「…頑張ってくださいね、勇儀さん」
忌み嫌われし妖怪・覚は、その悪名に似つかわしくない、まるでただの少女のように微笑んだ。
「私も地底の仲間として、貴女を応援していますから」
―――星熊勇儀が去った後、さとりは<こちら側>に向き直った。
「…え?<さっきの会話がさっぱり意味分からん>ですって?ではハシさんが書かれたこちらのお話をどうぞ」
つ http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/1112.html
「これを見れば星熊勇儀さんと私、そして<彼女>の事を理解していただけるかと。ではでは」
―――そして。
闘技場に今、両雄が降り立つ。
『さあ、まずは天体戦士サンレッドが東の入場門より姿を見せました!』
真っ赤なバトルスーツに身を包み、太陽の戦士が大地を踏み締める。
『外の世界より来たる正義のヒーロー…その実力は全くの未知数!トーナメントの台風の目となるか!?それとも
力及ばず果てるか!?答えはその鋼の拳に訊け!』
期せずして、大歓声が巻き起こる。闘技場の中央に立ったレッドは、それに応えるように両手を高々と上げる。
『おっと、続いて星熊勇儀が西の入場門から登場だぁっ!』
その姿、まさしく威風堂々。地に足を付けて歩む仕草が、ただそれだけで苛烈にして華麗だ。
『妖怪の頂点に君臨する戦闘種族―――即ち鬼!その中でも最強と名高い星熊勇儀!<語られる怪力乱神>と
異名を取る彼女の力には疑う余地なし!このトーナメントにおいても文句なしの優勝候補です!』
ポキポキと拳を鳴らしながら、勇儀はサンレッドへと向かう。
勇壮なる両者は、闘技場中央で睨み合った。
「―――あんたも理解しているだろう、サンレッド」
「あん?何をだよ」
「強い者を見ると力比べせずにいられない、我々の習性さ」
分かっているはずさ―――と、勇儀は繰り返す。
「同類のあんたなら、分かるはずだ…あんたも、強い奴との闘いを求めてる」
「…かもしれねえな」
「あたしはさあ、サンレッド。あんたを強い男と見込んで期待してるんだ…」
だから。
「落胆させんじゃないよ」
「誰に向かってくっちゃべってんだ、メスゴリラ」
レッドは中指を立て、不敵に言い返す。
「そっちこそ、一撃二撃で沈むんじゃねーぞ」
「―――さあ。二人とも、一度離れて」
審判の四季映姫・ヤマザナドゥが一触即発の二人を制して、距離を取らせる。
「それでは存分に、白黒はっきり付けなさい―――」
「幻想郷最大トーナメント一回戦・第一試合―――始め!」
総勢32名の全選手入場を終え、選手達が一旦引き揚げてからも、闘技場を包む興奮は一向に収まる気配がない。
誰もがこれから始まる凄まじい激闘の予感に高揚し、酔い痴れる。
「いやあー。賑やかで、まるでお祭りみたいですね」
「幻想郷の奴らなんて皆、理由を付けては騒ぐのが大好きだからな。一種のお祭りみたいなもんだろ」
と、魔理沙。
「お祭りというより、これもある種の異変じゃないの?」
「そうね。これだけの連中が一同に介して闘うなんて、普通じゃないわ」
そう言ったのはアリスとパチュリーだ。
「でも、優勝は絶対レッドさんだよ」
「あーら、このガキったら何言ってんのかしら。勝つのは幽香に決まってるでしょ」
「ふーんだ、君はレッドさんの強さを知らないからそんな事言えるんだよ!」
「あんただって、幽香がどれだけヤバいか知らないでしょ!」
「何だい、へちゃむくれ!」
「何さ、間抜け面!」
そしてどんどん会話の知的レベルを下げていくコタロウとメディスン。
十人十色の面々を尻目にしながら、ヴァンプ様は不安げに呟く。
「それにしてもレッドさん…大丈夫でしょうか?」
「心配いりませんよ、ヴァンプ将軍」
ジローは全幅の信頼を置いて、頷く。
「彼の強さは本物だ。それは、あなたもよく分かっているでしょう?」
「あ、いえ。そういう心配じゃなくて」
手をヒラヒラさせるヴァンプ様である。
「明らかにレッドさん一人だけ、浮いちゃってるじゃないですか」
「え…」
「他の選手はみんな綺麗なお嬢さんばかりなのに、レッドさんだけムサ苦しい男って…正直、ないですよね」
「うわあ…それは言っちゃダメだよ、ヴァンプさん。みんな薄々気付いてるけど黙ってるのに」
「でもね、コタロウくん。魔界の神様とか何とか凄い肩書きばっかの中で、あの人ったらアレだよ?チンピラでヒモ
でヤカラのヒーローだよ?場違いというか、何というか…」
「むー、確かに」
「―――なあ。私はそのサンレッドだかレッドサンだかの事はよく知らないけどさ。アレだろ?さっきの入場で最後
に出てきた、あの赤いのだろ?」
「ええ、そうですよ。それがどうかしたんですか?」
「いや、あのさ…言いにくいんだけど」
魔理沙はそう前置きして、後方を指差す。
「さっきからその赤いのが、後ろにいるんだけど」
「え!?」
「え!?」
異口同音である。二人が恐る恐る振り向くと、そこにはいました、赤い奴。
その能面のような顔からは、如何なる感情も読み取れない(マスクなので当然だが)。
「あ、あの、レッドさん、ど、どうしてここに…」
「自分の出番が来るまでは控え室でも客席でもどこにいてもいいって言われたからよー。とりあえずお前らの様子
を見に来てみたら、お前らって奴は…」
「レ…レッドさん!悪いのは私なんです!コタロウくんは何も言ってません!」
「そ、そんな…違うよ、レッドさん!ヴァンプさんじゃない、ぼくが悪いんだよ!」
お互いを庇い合う悪の将軍と吸血鬼少年。美しい友情だった。
「うるせー!」
しかし、それで感動してくれるような相手ではないのが誤算であった。レッドさんのゲンコツを喰らい、大きなコブを
こさえた二人はうずくまって悶絶する。
それを見つめて、妖夢は真面目くさった顔で顎に手を当て重々しく呟いた。
「人を悪く言えば、それは己に返ってくる―――因果応報ということですね」
「そうですね。貴女にだけはそれを言われたくないものですが」
ジローが皮肉を返したその時。
「―――では、皆様。まずは日程から説明いたします!」
バイオレンスかつグダグダな空気を断ち切るように、幽々子の声が会場に響く。
「本日は二回戦まで行い、本戦出場者32名を更に8名にまで絞ります―――そして五日後、その8名によって決勝
トーナメントを行い、優勝者を決定します!」
「へえ。今日で全部終わらせちまうわけじゃないんだな」
「多分、五日の間に幕間劇とかいれてなるべく話数を稼ごうという大人の事情ですよ」
分かったような事を口にする妖夢である。
その間も幽々子による各種説明は続く。
「ルールは規則・反則一切なしのバーリ・トゥード方式!武器も道具もガンガン使用しちゃってOK!」
「ルール無用ですか…レッドさん有利ですよ、ねっ!」
「どういう意味だよ、ヴァンプ…」
しかめっ面のレッドさんだった。
「勝敗はギブアップか、もしくは審判である四季映姫・ヤマザナドゥの判定によって決まります!ちなみに、万一
相手を死に至らしめてしまった場合は失格となりますのでご注意願います!」
「ギブアップって…そんな簡単に負けを認めるような奴もいないだろうに」
「となると判定か、でなきゃ死か…いずれにしろ、血を見る事になりそうね」
「ちょ、そんな事言わないでくださいよ!怖いなあ、もう…」
物騒な事を口にする魔理沙とアリス。ヴァンプ様はおっかながって震えるばかりである。
「なお観客席には防御結界が張り巡らされています。ちょっとやそっとでは破れないので、どうか御安心を―――
しかし、選手の力がちょっとやそっとじゃなかったら破れるかもしれないのでその辺は御容赦を!」
「あ、フラグ立った」
と、パチュリー。ちなみに、破れるフラグである。
「―――では!早速ですが、開幕戦となる一回戦・第一試合の組み合わせを決めるとしましょうか!」
一際声を張り上げる幽々子。いつの間にやら、彼女の傍らには巨大な箱が置かれていた。
その背後には、32枠が用意されたトーナメント表。
『さあ、選手&観客の皆さん!ここからは私が説明しましょう!』
実況・射命丸文の声が会場を揺るがす。しかしこの鴉天狗、ノリノリである。
『もうお気付きの方も多いと存じ上げますが、あの箱の中には、選手の名が書かれた札が入っております!それを
今から、西行寺幽々子様が二枚引きます―――即ち、その二人が対戦相手!』
では、と文は幽々子を促す。
『幽々子様!それではよろしくお願いします!』
「はい!ではお待ちかね、最初の対戦カードは!?」
箱に手を突っ込み、勢いよく二枚のカードを引き抜き、天に翳す。
そこに記されていた名は。
「―――サンレッド!そして、星熊勇儀!」
『決定です!幻想郷最大トーナメント一回戦・第一試合は―――サンレッドVS星熊勇儀!』
おおー!と、会場中がどよめく。その中で、ヴァンプ様とコタロウはレッドさんの肩を掴んで揺する。
「ほら、レッドさん!いきなり出番ですよ!」
「頑張って、レッドさん!」
「何でお前らがはしゃぐんだよ、ったく…」
纏わりついてくる二人をあしらいつつ、レッドは思い出していた。
(星熊勇儀…あいつか)
予選終了後に、彼女とは少しばかり<挨拶>を交わしている―――その短い邂逅で、彼女は垣間見せた。
力。そして才気。
それも圧倒的容量を確信させる器。
「あらら…気の毒に。いきなり星熊勇儀とは相手が悪かったな、レッドサン」
「サンレッドだ、白黒」
茶化すような物言いの魔理沙に対し、レッドは肩を竦めてみせる。
「ま、ここの連中にいっちょ見せてやんよ…俺のケンカをな」
そう言い残し、レッドは悠然と去っていく。その背には確かに、壮絶な闘いへ向かう漢の頼もしさが滲み出ていた
のだった。
そんな彼の後ろ姿を見つめ、妖夢はポツリと呟いた。
「…これが私達が、彼と言葉を交わした最後の瞬間でした」
「そこ。不謹慎且つ不吉な発言は控えなさい」
―――選手には控え室として、一人ずつ個室が用意されている。
星熊勇儀は彼女に与えられた一室で、ソファに身を横たえていた。
その姿はさながら昼食後の睡魔にまどろむ虎のように獰猛で、野性的な美しさに満ちている。
視線の先には、会場の様子が映し出されたモニター。
西行寺幽々子の手に握られた二枚のカード。その名を呼ばれると同時に、勇儀は身を起こした。
「…へえ。奇縁だね、こりゃ」
こと戦闘において、鬼より優れた種族は幻想郷にも存在しない。ましてや彼女は、現時点で実在が確認されている
鬼の中でも、伊吹萃香と並ぶ二強と称されている。
その研ぎ澄まされた戦闘感覚が告げていた。天体戦士サンレッドの秘める、膨大な力量を。
「景気づけに、やるかね」
愛用の巨大な杯を右手に取り、瓢箪からなみなみと酒を注ぐ。人間ならば酒豪を称する者でも一口で昏倒する、鬼
特製の酒。勇儀はそれを軽々と飲み干し、旨そうに息をつく。
「さて、いくか」
その時、控え室のドアが遠慮がちにノックされた。
「ん…?何だい。あたしなら」
「次に貴女は<今から出るところだよ>と言います」
「今から出るところだよ…はっ!」
くすくすと、ドア越しに忍び笑いの気配。
「貴女のノリのいい性格、私は大好きですよ?」
「…入ってきなよ、古明地(こめいじ)」
「では、失礼して」
ドアが開かれ、<古明地>と呼ばれた訪問者の姿が露わになる。
幼いながらも端正な顔立ちは、氷の如く表情がない。やや癖っけのある、薄い紫色の短髪。淡い空色の部屋着の
胸元では、ギョロリとした第三の瞳が勇儀を値踏みするように見つめている。
彼女こそは古明地さとり。旧灼熱地獄跡に建造された地霊殿に棲む、地上を追われた妖怪達の総元締め。
<心を読む程度の能力>を持つ妖怪・覚(さとり)。
誰からも忌まれ、誰からも嫌われ、誰からも呪われた、この世で最もおぞましい妖怪として知られる存在である。
そんな彼女だが、星熊勇儀とは不思議と仲が良かった。
捻くれ者で繊細な所のあるさとりと、豪放磊落で単純一途・姉御肌の勇儀。
対極だからこそ、互いに惹かれるものがあったのかもしれない。
「<よくここまで入ってこれたな>ですって?こう見えても隠れ忍ぶのは得意技です。無意識を操る我が愚妹ほど
ではありませんが、ね…おっと<この不法侵入者め>ときましたか。そんな固いことを仰らないでください」
「言ってないよ、思っただけさ」
「それはその通り。おや<どうしてここに来たんだ。あんたの可愛いお燐とお空の応援かい?>まあ、そういう事
ですよ」
「あのさあ、古明地」
げんなりした様子で、勇儀は大げさに溜息をつく。
「ちょっとは言葉のキャッチボールを楽しもうじゃないの。そうポンポンと頭を覗かれちゃたまったもんじゃない」
「そう申しましても、私の能力は自動的ですので」
「前にも聞いたよ、それ…」
「確かホワイトデーの時でしたよね」
「そうだよ。バレンタインを犠牲にした、アレだ」
「アレですね。で、勇儀さん。貴女への用件はそれに関する事でして」
さとりはスカートのポケットから、小さな布切れを取り出す。
「ん?それは…」
布切れに見えたのは、御守りだった。どうやら手作りのようで、市販のものに比べると不格好な長方形だ。
御世辞にも丁寧とは言い難い刺繍で、糸が所々ほつれてしまっている。
「<彼女>が勇儀さんのためにと作ったんですよ」
「…………」
勇儀は御守りを受け取り、胸元に仕舞い込む。その顔は、何やら深く考え込んでいるようだった。
「ふむ…<何て可愛い事をしてくれるんだあいつはああもう可愛過ぎる今すぐ帰ってイチャイチャしたい>」
「読むんじゃねーよ」
「自動的です」
「ちぇっ…」
「…<嬉しいけど、本当はここに来て応援してほしかった>それはまだ、無理ですよ」
さとりは不意に、表情を曇らせる。
「彼女にかけられた<呪い>は―――まだまだ、解けてはいないのですから」
「…分かってるよ」
だったら、と勇儀は笑う。
彼女らしい、明け透けで、豪快で、裏表のない、地底さえも照らす太陽のような笑顔だった。
「優勝を手土産に、あたしの方からあいつに会いにいくさ」
「そして18禁レベルのイチャイチャを繰り広げるのですね。ああやだやだ。小五ロリで乙女の私にはそんな猥雑
な思考は心に毒です」
「うるさいね。お前、あたしより年上だろうが」
「…頑張ってくださいね、勇儀さん」
忌み嫌われし妖怪・覚は、その悪名に似つかわしくない、まるでただの少女のように微笑んだ。
「私も地底の仲間として、貴女を応援していますから」
―――星熊勇儀が去った後、さとりは<こちら側>に向き直った。
「…え?<さっきの会話がさっぱり意味分からん>ですって?ではハシさんが書かれたこちらのお話をどうぞ」
つ http://www25.atwiki.jp/bakiss/pages/1112.html
「これを見れば星熊勇儀さんと私、そして<彼女>の事を理解していただけるかと。ではでは」
―――そして。
闘技場に今、両雄が降り立つ。
『さあ、まずは天体戦士サンレッドが東の入場門より姿を見せました!』
真っ赤なバトルスーツに身を包み、太陽の戦士が大地を踏み締める。
『外の世界より来たる正義のヒーロー…その実力は全くの未知数!トーナメントの台風の目となるか!?それとも
力及ばず果てるか!?答えはその鋼の拳に訊け!』
期せずして、大歓声が巻き起こる。闘技場の中央に立ったレッドは、それに応えるように両手を高々と上げる。
『おっと、続いて星熊勇儀が西の入場門から登場だぁっ!』
その姿、まさしく威風堂々。地に足を付けて歩む仕草が、ただそれだけで苛烈にして華麗だ。
『妖怪の頂点に君臨する戦闘種族―――即ち鬼!その中でも最強と名高い星熊勇儀!<語られる怪力乱神>と
異名を取る彼女の力には疑う余地なし!このトーナメントにおいても文句なしの優勝候補です!』
ポキポキと拳を鳴らしながら、勇儀はサンレッドへと向かう。
勇壮なる両者は、闘技場中央で睨み合った。
「―――あんたも理解しているだろう、サンレッド」
「あん?何をだよ」
「強い者を見ると力比べせずにいられない、我々の習性さ」
分かっているはずさ―――と、勇儀は繰り返す。
「同類のあんたなら、分かるはずだ…あんたも、強い奴との闘いを求めてる」
「…かもしれねえな」
「あたしはさあ、サンレッド。あんたを強い男と見込んで期待してるんだ…」
だから。
「落胆させんじゃないよ」
「誰に向かってくっちゃべってんだ、メスゴリラ」
レッドは中指を立て、不敵に言い返す。
「そっちこそ、一撃二撃で沈むんじゃねーぞ」
「―――さあ。二人とも、一度離れて」
審判の四季映姫・ヤマザナドゥが一触即発の二人を制して、距離を取らせる。
「それでは存分に、白黒はっきり付けなさい―――」
「幻想郷最大トーナメント一回戦・第一試合―――始め!」
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