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「ジョジョの奇妙な冒険第4部―平穏な生活は砕かせない― 第18話」(2010/05/15 (土) 16:19:35) の最新版変更点
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くるくると回るフォーク、だがタリアテッレは見慣れた細いパスタのようにうまく巻き付かない。
平たく弾力に富んだ麺は複雑に絡み合うことを拒否している。
ママが手こずっているうちにこの状況を打破しなければならない。
殺人鬼は相変わらず平気な顔をしたまま、器用にパスタを口に滑らせていく。
何故、奴だけが平気なのか………やはり店主は奴の仲間なのか。
どうすればいい、その言葉だけが頭の中を駆け巡り打開策は何も出てこない。
「鶏肉と豚肉を合わせたミンチか、淡白な鶏肉に豚肉の肉汁がよく行き届いてる」
「鶏肉……私どうにも鳥って好きになれないのよねぇ。この間も庭に羽の毟られた鳥の屍骸が……」
「しのぶ………食事中にそういう話は……」
二人がフォークを置いて話しだした、もう迷ってはいられない。
椅子を降り、厨房へと目を向ける。
明るく清潔な空間、今の僕には魔境にしか見えない。
「ママ! ちょっと僕トイレ!」
「アナタだって見たはずよ……私を気遣って言ってくれてるのは判るけど………」
「幽霊や呪いなんてあるはずないだろう? 君の見間違いだよ、あれ以来何も変わったことはないじゃないか」
ママも殺人鬼も僕のことなど気にかけず、この間庭に落ちていたスズメの死骸の話を続けている。
奴が話題を避けているということは多分、見えない力……奴の『能力』か屋根裏の『生物』が関係するのだろう。
だが、そんなことより今はこの異常な料理の正体を突き止めるのが先だ。
厨房へと近づく、真っ白な空間から漂う得体の知れない圧力。
物音を立てないよう注意しながら、そっと覗き込む。
目の前のテーブルには既に次の料理が置かれている。
右へ目を向けると流し台に調理台、そしてその奥に小部屋が見えた。
奥の小部屋は、少し薄暗く檻のような物が見える。
なぜこんな所に檻があるのだろう、鶏の飼育用だろうか?
だが室内で飼う意味はない、そもそも衛生面の問題から禁止されている筈だ。
より深く覗き込み、両目で暗がりを確かめてみる。
白い床に泡だった謎の液体が流れている。
少し粘性のあるその液体の先には、うつろな目をして床に寝そべっている子犬が居た。
子犬の前には、餌として出すには贅沢な調理された肉片が置かれていた。
そして、床に流れる液体は子犬の口へと続いていた。
子犬の横で、影が動いた。
「キサマァァァ――――ッ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁああ!」
今まで見せていた穏やかな笑顔を豹変させ怒号をあげる店主に驚き、つまづく。
僕が尻餅をつくのと同時に、立っていた所へ包丁が刺さる。
やはりこの店主は異常だ、そして料理も異常な物だ。
「キャアアアア――――!」
食卓からママの悲鳴が響く、料理を口にしてしまったのだろう。
あの子犬が食べたのは次に出される料理、きっとまだ間に合う。
店主に背を向けて駆け出す、後ろから刺されたって構わない……ママを助けなければ。
「ママ! この料理は食べちゃ――――」
「鶏肉が口の中で弾み、豚肉のジューシーな味わいがパスタの独特な歯応えと一緒に駆け巡る!」
「プリプリともちもちが織り成すタリアテッレのストーリー! 私は今、幸せな物語の中に居るのよォ―――ッッ!」
ママの叫びは悲鳴ではなく、歓声だった。
ママ達は陶酔しきっている、店主の料理は麻薬以上の誘惑を施しているのだろう。
僕がサラダを食べている間、怪しいから食べ残そう等と微塵も考えなかったように。
店主が僕の首根っこを掴み、天井に届く勢いで持ち上げる。
「ド―――ユーつもりデスか小僧ォォォ! ワタシのレシピを盗み見ようとデモいうのデスカァァァ!?」
「マ………ママ……」
額に青筋を浮かべながら僕を睨みつけ、プロレスラーのように太い腕が僕を締め上げる。
かすれる声でママを呼ぶ、ここから逃げなければあの子犬と同じ運命を辿ることになるだろう。
僕の声は聞こえている筈なのだがママも殺人鬼もサラダの時と同様、僕を見向きもせずパスタを食べ続けている。
「早人、トイレはどうしたの?」
「速くしないと早人の分も食べちゃうかもしれないな」
殺人鬼は冗談めかして言っているが、食べ終わっても居ないのに僕のパスタにチラチラと目を向けている。
店主の力は一向に弱まることは無い、このまま僕は命を落とすのだろう。
きっと彼等は僕の死体に気付くことなく料理を満悦す………。
そこまで考えると、視界が90度周り電車の中で見る風景のように店主の肉体が左方面に視界から流れていく。
店主の靴が視界に入るや否や、僕の肉体に強い衝撃が走る。
鬼のような形相で僕を睨み付けたまま、店主は外を指差した。
「トイレはここじゃアリマセンッッッ! 全く、仕方ないデスネ……案内致しマス」
店主は僕の手を取り、僕達が入店したドアへと突き進む。
半ば引きずられるように引っ張られる、再び店主の意図を見失う。
先ほどまでとは違い、怒りの形相は崩さないが殺意は感じられない。
僕を外に連れ出してから殺すのだろうか?
だが一々そんな事をするなら、両親の目の前で息子の首を絞めるような真似はしないはずだ。
ドアを開き闇夜へ飛び出す、僕の手を取る男は殺人鬼かもしれないのに不思議と恐怖は感じなくなっていた。
だが、この店に来てから浮かんだ疑問は何一つ解決されてはおらず不信感だけが募っていた。
一体この男はどういう目的であんな料理を作っているのだろうか。
「ドウしてこの町の少年は常識というモノが欠けているのデショウ……キミで二人目デスヨ!」
怒鳴りながらレストランの入り口から出て、すぐ左の扉へ案内される。
レストランは彼の自宅の一室、ということになるのだろうか。
外にある二つのドアはレストランと家屋に分かれており、中で繋がる扉は無いようだ。
一つの建物に家屋と店が独立している、料理に対する店主の二面性を表してるように見えた。
「調理場は神聖な場所デス! それなのに彼は洗ってもナイ手でアッチコッチ触るし、髪型はハンバーグだし……」
「ハンバーグ……そ、その人って仗助さんっ!?」
「ソウデス! アンナ頭だと相当な量の整髪料を使うでショウ……全く持って不潔極ま……」
そこまで言うと彼は憤怒に染まった鬼の形相を変え、僕を見つめた。
異常な料理が能力だとすれば、仗助さんと面識があるとすれば……。
「もしかしてキミは……」
「僕に質問するなァ―――!」
この人はきっと『能力』を持っている。
殺人鬼を倒す希望に繋がる、ここで間違いが起きてはならない。
会話は慎重に行わなければならない
「まずいんだ……僕への質問は! 言えないんだ!」
希望への興奮、そして絶望への恐怖に震える僕の様子を見て理解してくれたようだ。
「……判りまシタ。では、ワタシから話しても?」
「……はい!」
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