「天体戦士サンレッド外伝・東方望月抄 ~惑いて来たれ、遊惰の宴~ それぞれの思惑・中篇」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
「天体戦士サンレッド外伝・東方望月抄 ~惑いて来たれ、遊惰の宴~ それぞれの思惑・中篇」(2010/04/20 (火) 09:26:32) の最新版変更点
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幻想郷で最強の存在とは誰か?
こう尋ねれば、その答えは十人十色で異なるだろう。
ある者は境界の妖怪・八雲紫の名を挙げるかもしれない。
またある者は白玉楼の亡霊姫・西行寺幽々子と答えてもおかしくない。
紅魔館に巣食う吸血姫―――レミリア・スカーレットとフランドール・スカーレットも、上記の二人に劣らぬ力の持ち主
と目されている。
最強の種族と謳われる<鬼>。その中でも群を抜いた戦闘力の持ち主であり、共に妖怪の山の四天王に数えられる
伊吹萃香と星熊勇儀もこの類の議論では度々話題に上る。
守矢神社が祀る二柱の神性―――天を司る風の軍神<八坂神奈子(やさか・かなこ)>と大地を司る土着神の頂点
<洩矢諏訪子(もりや・すわこ)>も、数多の大妖怪と比して猶、その実力に遜色はなかろう。
上記の二柱神によって核融合の力を与えられた地獄の鴉―――霊烏路空(れいうじ・うつほ)も、頭脳はともかくとして
破壊力においては並ぶものなしと評価される実力者だ。
はたまた霊烏路空の飼い主であり、地底妖怪の総元締めである<地霊殿>の主―――古明地(こめいじ)さとり。
彼女もまた、先に挙げた人外共に劣らぬ不気味な存在感を放っている。
或いは幻想郷の死後の世界を統括する楽園の閻魔(ヤマザナドゥ)―――四季映姫(しき・えいき)もまた、遥か高み
の存在としてありとあらゆる者達から畏敬される。
知名度こそは彼女達に一歩劣るものの、魔界神である神綺(しんき)や怨念と妄念の悪霊・魅魔(みま)といった古強者
も、往々にして語り草となっている。
中には「あたいったら最強ね!」と答える者もいるやもしれない。
果たして本当に最強なのは誰なのか、議論の余地はありすぎて決めることなどできまい―――されど。
強豪犇(ひし)めく中において<最も恐れられる存在>ならば、十人いれば九人は彼女の名を口にするだろう。
単独で幻想郷のパワーバランスを左右しうる実力。同時に最悪と称される精神の持ち主である、彼女を―――
見渡す限り一面の花。
陽光を受けて咲き誇る、それは小さくも力強い命。
その中心で一人の少女が日傘を広げて佇んでいた。
緩くウェーブのかかった碧の髪はさっぱりとしたショートボブ。
赤いチェック柄の上着とスカート。
淑やかな美貌に浮かぶのは、春の陽だまりのように穏やかな微笑。
見た目には特に変わった所はない、ごく普通の可愛らしい女の子―――されど、幻想郷の住人ならば誰もが知って
いる。彼女の内面は<普通の女の子>からは遥か遠くにあるという事実を。
その名を<四季のフラワーマスター>風見幽香(かざみ・ゆうか)。
そしてある者はこうも呼んだ―――<究極加虐生物(アルティメットサディスティッククリーチャー)>と。
優しげな風貌からは想像もつかない攻撃性と残虐性を、幽香は秘めている。
故に彼女は幻想郷の上級妖怪の中でも、特に危険視されているのだ。
そんな幽香ではあるが、親しい友人がまるでいないわけでもない。
例えば、彼女。
「幽香ぁー!」
明るい声に顔を向けると、笑顔でこちらにかけてくる小さな人影を見つけた。
陽光に煌くブロンドの髪に、大きな赤いリボン。透き通った蒼い瞳。ゴシックロリータ風のドレス。
陶磁器のように白い肌に、滑らかな球体関節。
人形より変異した幼き妖怪―――メディスン・メランコリーである。
元々は単なる人形に過ぎなかった無機物であり、持ち主の身勝手で鈴蘭畑に打ち捨てられた。
そして彼女は長い時を経て魂を獲得し、鈴蘭の毒を取り込み、妖怪と化したのだ。
何の知識もなく危険な能力だけを持って生まれ、世界を教えてくれる親もなく、猛毒を宿す性質から人に避けられ、
自身も人に捨てられた人形である故に人間を嫌っていた。
そんなメディスンだが、幸運があったとすれば生まれて間もない時期に風見幽香に出会えた事だろう。
鈴蘭の毒をものともせぬ強大な力と、悠久の時を生きて培った知識と見識。
何より、目下の者に対する優しさと包容力。
性格に問題が多いとはいえ、幽香は全てを持ち合わせていた。
お互いが花に関連した妖怪であるというのも、気が合う要因だったのかもしれない。
メディスンは幽香を慕っていたし、幽香も疎ましがりつつ事あるごとにメディスンの世話を焼いた。
世俗を知らぬ無邪気な妹と、それを見守る厳しくも優しい姉。
いつしか、そんな関係が二人の間に出来上がっていた。
幽香はメディスンに向けて、微笑みを返す。
「ごきげんよう、メディ。私、今ちょうど貴女のことを考えてたのよ」
「え、ホント?ねえねえ、どんな事を考えてたの?」
「遥か遠い終末世界、荒廃した大地を貴女は身も心もボロボロになりながら彷徨い、混沌の都市に辿り着くの。そこで
出会った新しい仲間に馴染めず一人ぼっちでボロ雑巾のようになっていくメディの姿を想像していたのよ」
「んな不吉な想像してんじゃねーわよ!どんな平行宇宙の話よ、それ!?」
「ああ、可哀想なメディ。邪悪な敵に囚われ、今にも死にそうだわ。あ、今まさに死んだ」
「その妄想まだ続いてんの!?そして私は今まさに死んだの!?あ、でもあれでしょ!?死んだと思わせて間一髪で
幽香が助けてくれたんでしょ!?」
「いいえ、駆け付けた私は貴女の無残な死骸を胸に抱き、怒りに燃えて秘められた力に目覚めるの」
「あんたのパワーアップイベントだったのかよ!あ、でも闘いが終わった後で幽香の涙が私の顔に落ちたその瞬間に
奇跡的に息を吹き返すとかそういうありがちオチよね?」
「いいえ、私は泣きながら貴女を跡形も残らないように火葬するのよ」
「最悪だ!分かっちゃいたけどあんたやっぱり最悪だー!」
「とまあ、私とメディはこんな和やかな会話を交わせるくらいの仲良しということよ(黒い笑顔でニヤリ)」
「せめて(朗らかにニッコリ)にしてよ!」
「ふふ、冗談よ、冗談…あら?そういえばメディ、その服いつもと違うわね」
「あ、分かった?」
メディスンは誇らしげにくるりと回り、スカートを翻らせる。
「アリスが縫ってくれたの、この服」
「ああ。そう言えば貴女、あいつと仲が良かったたわね」
<虹色の人形遣い>アリス・マーガトロイド。
知っている人は知っているだろうが、百合の入った少女である。
彼女とメディスンは、割と交流が深い。
鈴蘭の毒を持つ人形の妖怪と百合属性の人形遣いというのも、関係しているのかもしれない(失礼だ)。
「中々似合ってるわよ。可愛いわ」
「ふふん、そうでしょう。魔理沙だって褒めてくれたのよ」
「へえ、あの性悪魔法使いが?珍しい事もあるわね」
「うん。<馬子にも衣装だな>だって」
それは貶されてるんだよ、と幽香は思ったが、口には出さなかった。折角いい気分でいるのに、真実を教える必要
もなかろう。
「いい言葉ね、馬子にも衣装。今度スキマ妖怪にでも会ったら言ってあげなさい。きっと喜ぶわ」
「うん!」
―――後日、メディスン・メランコリーは危うくスキマ送りにされかけたそうだが、それはまた別の話である。
閑話休題(それはともかく)。
「ところで、何か用があったのかしら?」
「あら、用がなければ来ちゃ悪い?」
「一般的には<用がなければ来ちゃ悪い>と思うわよ」
「冷たいわね、こんな可愛いお人形に…ま、いいわ。これよ」
メディスンが差し出した紙束を見て、幽香は眉を顰める。
「文々。新聞じゃない。それがどうかしたの?いつも通り学級新聞みたいな記事が載ってるだけでしょ」
「いつもはそうだけど、今回は幽香好みで面白そうよ」
「ふーん…どれどれ…はあ?幻想郷最大トーナメント…?なんじゃそりゃ」
「よく分かんないけど、優勝者はすっごい賞品が貰えるんだって」
「それには興味ないわね…だけど、出場者には興味があるわ」
幽香は、まるで向日葵を思わせる眩い笑顔を浮かべた。
それを目撃したメディスンは、顔色を蒼くして後ずさる。
経験から、知っている。幽香がこういう顔をする時は、間違いなく加虐的な事を考えているのだ。
「いい情報をありがとう、メディ」
たらたら汗を流すメディスンに対し、幽香は笑顔を全く崩す事無くのたまった。
「それじゃあ、久々にやろうかしら…強い者いじめ」
<四季のフラワーマスター>風見幽香。
トーナメント、参戦決定。
―――さて。ここで、とある二人の少女の話をしよう。
昔々、ある所におじいさんとおばあさんが慎ましやかに暮らしていました。
ある日おじいさんが竹を取りに山に入ると、金色に輝く竹を見つけました。
竹の中にはなんとまあ、とても小さくて可愛らしい女の子がすやすや眠っていました。
おじいさんはその女の子を家へと連れて帰り、大切に育てました。
女の子はあっという間に大きくなり、とても美しい少女になりました。
―――そう。誰もが知る<かぐや姫>の物語。
かぐや姫は最後は皆に惜しまれながらも、月へと帰ってしまいます。
不老不死の秘薬<蓬莱の薬>だけを残して―――
そして、蓬莱の薬も最も月に近い山の頂にて焼かれ、灰となり、煙と消えました―――
御伽噺ならここでおしまい。けれど、現実はまるで違った。
かぐや姫は月になど帰らなかったし、蓬莱の薬も焼かれなかった。
その裏には、もう一人の少女の物語があった。
ひょんな事から蓬莱の薬を手に入れ、飲み干し、不老不死となった少女の物語。
たちまち、後悔した。
<死なない人間>を受け入れてくれる場所など、この世界の何処にもなかった。
畏れられ、忌まれ、疎まれ、嫌われ、呪われた。
そう―――誰もが夢見た不老不死など、叶ってしまえばただの呪いに過ぎなかった。
最初の三百年は全てから隠れるように生きた。
次の三百年は目に映る全てを敵と看做した。
その次の三百年は全てがどうでもよくなり、死んだように生きた。
更に三百年―――出会った。
同じ不死の肉体を持つ仇敵―――かぐや姫と。
憎み合い、殺し合って生きた三百年。最も血に塗れ、そして最も生命を実感した三百年。
そしてそれは、今も続いている。
どちらかが死ぬまで、その殺し合いは続く。
どちらも死なないから、永遠に殺し合いは続く。
かぐや姫―――蓬莱山輝夜(ほうらいさん・かぐや)。
不死となった少女―――藤原妹紅(ふじわらの・もこう)。
この世で最も血腥い絆で結ばれた二人は、今―――
「うわあああああん、もこたぁぁぁぁぁぁん!また面接ダメだったよぉぉぉぉぉ!」
「はいはい。元気出しなよ、輝夜」
―――月灯りに照らされた焼鳥の屋台。
泣きながら管を巻くお客さんと、苦笑いしながら酒とネギマを差し出す店主。
客は、リクルートスーツを着た女性だった。
足元まで伸びた艶やかな黒髪。
神々が心血を注いで創り上げたような壮絶なまでの美を体現した面立ちは、涙と鼻水でグシャグシャだ。
そう、彼女こそは我々がかぐや姫と呼ぶ高貴なる姫君。
<永遠と須臾(しゅゆ)の罪人>蓬莱山輝夜。
彼女は今、就職試験に落ちたばっかりである。
そんな輝夜に向けて焼鳥を焼いているのは白い上着と赤いモンペを着て、長い白髪のそこかしこにリボンを付けた
若い娘だ。
気の強そうな瞳は、眼前で飲んだくれる輝夜を複雑な気持ちで見つめている。
<不死の人間>藤原妹紅。
永遠を生きる彼女の愛称はもこたんである。
「しかし私達は憎み合い、殺し合ってる筈だろ…書いたばっかの設定をいきなりぶっ壊してどうするんだ」
「いいじゃん、別に。そんな設定、二次創作じゃ既に存在しないも同然でしょうが」
グビグビと酒を飲み干し、酒臭い息を吐く。
「おかわりー」
「もうやめとけよ…いくら不老不死でも、身体に障るぞ」
「うっさいわねー。こんな安モンの酒いくら飲んでも、ちっとも酔えないんだから仕方ないでしょー」
「全く…なら、これなんてどうだ」
妹紅は一本の酒瓶を取り出し、輝夜の前に置いた。
「秘蔵の酒だが、特別に飲ませてやるよ。<ロレーヌ>といって、歓びも哀しみも全てを包み込むような」
「もういいわよ、そのネタは…前回やったばっかじゃない」
※決闘神話も合わせれば三度目です。
「ほんとにもう…宇宙人でも雇ってくれる職場はないのかしら…」
「不景気だからなぁ。ちょっと厳しいかもしれんぞ」
「次回作はこれで決まりね…<当方就職難>」
「誰が買うんだよ、それ」
「登場人物はニート・ホームレス・ネカフェ難民etc。ラスボスは首切り寸前の派遣社員よ。EXボスは母親」
「絶対買わねー!」
「でも伝統通りに全員美少女よ」
「余計に嫌だよ!」
そうよねー、と輝夜は深く溜息をつく。
「ああ…こんな所でグチグチしてるのもうヤダ…言い寄る男共に無理難題を押し付けてブイブイ言わせてたあの頃に
戻りたい…」
「その<言い寄る男共>の中には私の父もいたと知った上での発言か?そんなに男達からお姫様扱いされたいなら
いい仕事があるぞ。寝てるだけで金が貰える夢のような職場さ。なに、ちょっと股の間の穴を使うだけだ」
「それもいいかも…」
「いいのかよ!そんなに切羽詰まってたの!?でもお前、生活には困ってないだろ?八意さんに養ってもらってん
だから、金の心配もないだろうし…」
<月の頭脳>の異名を持つ賢者・八意永琳(やごころ・えいりん)。
蓬莱山輝夜の従者であり、医者としても辣腕を振るう彼女の理知的な姿を、妹紅は思い出していた。
しかし輝夜はブンブンと首を振る。
「見てしまったのよ、私は…物凄く深刻な顔で家計簿を見つめる永琳の哀愁漂う姿を…」
「…そ、それはきついな…」
「もう姫という名の穀潰しではいられない…そう思って私は就活に精を出した」
「立派だ。数多の平行世界でグータラ生活送ってるお前に、今のお前を見習わせたい」
「でも、ダメなのよ!千年以上も姫という名のニートやってたような女に就職先なんてないの!」
うわぁぁぁぁん!と泣き叫び、カウンターに突っ伏す輝夜。
妹紅はその姿を静かに見つめ、ワイングラスを差し出した。
「飲みなよ、輝夜」
「もこたん…」
「酒は現実を変えてはくれないけれど…少しだけ、忘れさせてくれるさ」
「…ありがとう。でも、ロレーヌじゃなくて熱燗がいい」
「いい酒なのになー」
口を尖らすもこたんである。その時強い北風が吹き、飛んできた何かが輝夜の顔面に豪快に当たる。
どうも、何らかの紙束のようである。
「おいおい、大丈夫か?」
「キーッ!紙切れまで私をバカにして!」
「大丈夫そうだな。よかった」
「よかないわよ!もう、何よこの紙切れ!」
顔に引っ付いたそれを引っぺがし、三角にした目で睨み付ける輝夜。
「あ?文々。新聞?…トーナメント?ああ、そういえば永琳がその話してたわね。医療班として呼ばれたとか」
「へえ。あの人が診てくれるなら、大怪我しても安心だな」
「ロクにお金にもならないでしょうに、お人好しなんだから」
ふうっと息をつきながら記事を見つめる。
「なんだ?結構熱心に見ちゃって」
「いや…なんだろう。いい事を思いつきそうな気が…」
口元に手を当て、ブツブツと何かを呟く。
「トーナメント…観客…格闘家デビュー…!」
「え?」
「これよ!これだわ!」
がばっと勢いよく立ち上がり、輝夜は月に向かって吼えた。
「わたくし、蓬莱山輝夜は、アイドルレスラー路線を目指します!」
「はあ?」
また妙な事を、と妹紅は目を丸くして輝夜を見つめた。
「輝夜…酒の飲み過ぎか?何を言ってんのか分からないんだが」
「だーかーらーさー。美少女格闘家としてデビューしてやろうってことよ。このまま就活しててもラチがあかないしさ、
こういう方面は盲点だと思うしね」
「けど輝夜。トーナメントとなるといつもの弾幕ごっことは違うぞ。本気の闘いとなったら文字通りの化物ばかりの中
で優勝するってのは、きついんじゃないか?お前の<永遠と須臾を操る程度の能力>の凄さと反則ぶりは私だって
心得てはいるが、それだけで勝ち抜けるもんじゃないだろう」
「別に優勝までは狙ってないわ。アイドルレスラーなんだから、そこそこのとこまで勝てばいいのよ」
「そういうもんかね」
「そういうもんよ。この私の美貌さえあれば、強さはまずまず程度でいいの。五人の貴族と帝に求婚された実力を
舐めんじゃないわよ」
「あっそう…まあ、お前が美人なのは認めるよ。顔だけは本当に奇麗だもんな、顔だけは」
微妙に褒めていなかった。
「見ときなさいよ、もこたん。稼げるようになったらこの店のツケ、十倍にして払ってやるわよ」
「…ま、頑張りなよ。期待せずに待ってるから」
生返事をしつつも、妹紅は思った。
宇宙人の思考回路は理解できん、と。
そしてこうも思った。
こりゃ、ヤケ酒の回数とツケが増えるだけだな、と。
<永遠と須臾の罪人>蓬莱山輝夜。
トーナメント、参戦決定。
※アクセス規制で書き込めないので直接ここに投下しました。
規制解除後に本スレに報告に行って、この後書きも消しときます。
4月15日・作者
幻想郷で最強の存在とは誰か?
こう尋ねれば、その答えは十人十色で異なるだろう。
ある者は境界の妖怪・八雲紫の名を挙げるかもしれない。
またある者は白玉楼の亡霊姫・西行寺幽々子と答えてもおかしくない。
紅魔館に巣食う吸血姫―――レミリア・スカーレットとフランドール・スカーレットも、上記の二人に劣らぬ力の持ち主
と目されている。
最強の種族と謳われる<鬼>。その中でも群を抜いた戦闘力の持ち主であり、共に妖怪の山の四天王に数えられる
伊吹萃香と星熊勇儀もこの類の議論では度々話題に上る。
守矢神社が祀る二柱の神性―――天を司る風の軍神<八坂神奈子(やさか・かなこ)>と大地を司る土着神の頂点
<洩矢諏訪子(もりや・すわこ)>も、数多の大妖怪と比して猶、その実力に遜色はなかろう。
上記の二柱神によって核融合の力を与えられた地獄の鴉―――霊烏路空(れいうじ・うつほ)も、頭脳はともかくとして
破壊力においては並ぶものなしと評価される実力者だ。
はたまた霊烏路空の飼い主であり、地底妖怪の総元締めである<地霊殿>の主―――古明地(こめいじ)さとり。
彼女もまた、先に挙げた人外共に劣らぬ不気味な存在感を放っている。
或いは幻想郷の死後の世界を統括する楽園の閻魔(ヤマザナドゥ)―――四季映姫(しき・えいき)もまた、遥か高み
の存在としてありとあらゆる者達から畏敬される。
知名度こそは彼女達に一歩劣るものの、魔界神である神綺(しんき)や怨念と妄念の悪霊・魅魔(みま)といった古強者
も、往々にして語り草となっている。
中には「あたいったら最強ね!」と答える者もいるやもしれない。
果たして本当に最強なのは誰なのか、議論の余地はありすぎて決めることなどできまい―――されど。
強豪犇(ひし)めく中において<最も恐れられる存在>ならば、十人いれば九人は彼女の名を口にするだろう。
単独で幻想郷のパワーバランスを左右しうる実力。同時に最悪と称される精神の持ち主である、彼女を―――
見渡す限り一面の花。
陽光を受けて咲き誇る、それは小さくも力強い命。
その中心で一人の少女が日傘を広げて佇んでいた。
緩くウェーブのかかった碧の髪はさっぱりとしたショートボブ。
赤いチェック柄の上着とスカート。
淑やかな美貌に浮かぶのは、春の陽だまりのように穏やかな微笑。
見た目には特に変わった所はない、ごく普通の可愛らしい女の子―――されど、幻想郷の住人ならば誰もが知って
いる。彼女の内面は<普通の女の子>からは遥か遠くにあるという事実を。
その名を<四季のフラワーマスター>風見幽香(かざみ・ゆうか)。
そしてある者はこうも呼んだ―――<究極加虐生物(アルティメットサディスティッククリーチャー)>と。
優しげな風貌からは想像もつかない攻撃性と残虐性を、幽香は秘めている。
故に彼女は幻想郷の上級妖怪の中でも、特に危険視されているのだ。
そんな幽香ではあるが、親しい友人がまるでいないわけでもない。
例えば、彼女。
「幽香ぁー!」
明るい声に顔を向けると、笑顔でこちらにかけてくる小さな人影を見つけた。
陽光に煌くブロンドの髪に、大きな赤いリボン。透き通った蒼い瞳。ゴシックロリータ風のドレス。
陶磁器のように白い肌に、滑らかな球体関節。
人形より変異した幼き妖怪―――メディスン・メランコリーである。
元々は単なる人形に過ぎなかった無機物であり、持ち主の身勝手で鈴蘭畑に打ち捨てられた。
そして彼女は長い時を経て魂を獲得し、鈴蘭の毒を取り込み、妖怪と化したのだ。
何の知識もなく危険な能力だけを持って生まれ、世界を教えてくれる親もなく、猛毒を宿す性質から人に避けられ、
自身も人に捨てられた人形である故に人間を嫌っていた。
そんなメディスンだが、幸運があったとすれば生まれて間もない時期に風見幽香に出会えた事だろう。
鈴蘭の毒をものともせぬ強大な力と、悠久の時を生きて培った知識と見識。
何より、目下の者に対する優しさと包容力。
性格に問題が多いとはいえ、幽香は全てを持ち合わせていた。
お互いが花に関連した妖怪であるというのも、気が合う要因だったのかもしれない。
メディスンは幽香を慕っていたし、幽香も疎ましがりつつ事あるごとにメディスンの世話を焼いた。
世俗を知らぬ無邪気な妹と、それを見守る厳しくも優しい姉。
いつしか、そんな関係が二人の間に出来上がっていた。
幽香はメディスンに向けて、微笑みを返す。
「ごきげんよう、メディ。私、今ちょうど貴女のことを考えてたのよ」
「え、ホント?ねえねえ、どんな事を考えてたの?」
「遥か遠い終末世界、荒廃した大地を貴女は身も心もボロボロになりながら彷徨い、混沌の都市に辿り着くの。そこで
出会った新しい仲間に馴染めず一人ぼっちでボロ雑巾のようになっていくメディの姿を想像していたのよ」
「んな不吉な想像してんじゃねーわよ!どんな平行宇宙の話よ、それ!?」
「ああ、可哀想なメディ。邪悪な敵に囚われ、今にも死にそうだわ。あ、今まさに死んだ」
「その妄想まだ続いてんの!?そして私は今まさに死んだの!?あ、でもあれでしょ!?死んだと思わせて間一髪で
幽香が助けてくれたんでしょ!?」
「いいえ、駆け付けた私は貴女の無残な死骸を胸に抱き、怒りに燃えて秘められた力に目覚めるの」
「あんたのパワーアップイベントだったのかよ!あ、でも闘いが終わった後で幽香の涙が私の顔に落ちたその瞬間に
奇跡的に息を吹き返すとかそういうありがちオチよね?」
「いいえ、私は泣きながら貴女を跡形も残らないように火葬するのよ」
「最悪だ!分かっちゃいたけどあんたやっぱり最悪だー!」
「とまあ、私とメディはこんな和やかな会話を交わせるくらいの仲良しということよ(黒い笑顔でニヤリ)」
「せめて(朗らかにニッコリ)にしてよ!」
「ふふ、冗談よ、冗談…あら?そういえばメディ、その服いつもと違うわね」
「あ、分かった?」
メディスンは誇らしげにくるりと回り、スカートを翻らせる。
「アリスが縫ってくれたの、この服」
「ああ。そう言えば貴女、あいつと仲が良かったたわね」
<虹色の人形遣い>アリス・マーガトロイド。
知っている人は知っているだろうが、百合の入った少女である。
彼女とメディスンは、割と交流が深い。
鈴蘭の毒を持つ人形の妖怪と百合属性の人形遣いというのも、関係しているのかもしれない(失礼だ)。
「中々似合ってるわよ。可愛いわ」
「ふふん、そうでしょう。魔理沙だって褒めてくれたのよ」
「へえ、あの性悪魔法使いが?珍しい事もあるわね」
「うん。<馬子にも衣装だな>だって」
それは貶されてるんだよ、と幽香は思ったが、口には出さなかった。折角いい気分でいるのに、真実を教える必要
もなかろう。
「いい言葉ね、馬子にも衣装。今度スキマ妖怪にでも会ったら言ってあげなさい。きっと喜ぶわ」
「うん!」
―――後日、メディスン・メランコリーは危うくスキマ送りにされかけたそうだが、それはまた別の話である。
閑話休題(それはともかく)。
「ところで、何か用があったのかしら?」
「あら、用がなければ来ちゃ悪い?」
「一般的には<用がなければ来ちゃ悪い>と思うわよ」
「冷たいわね、こんな可愛いお人形に…ま、いいわ。これよ」
メディスンが差し出した紙束を見て、幽香は眉を顰める。
「文々。新聞じゃない。それがどうかしたの?いつも通り学級新聞みたいな記事が載ってるだけでしょ」
「いつもはそうだけど、今回は幽香好みで面白そうよ」
「ふーん…どれどれ…はあ?幻想郷最大トーナメント…?なんじゃそりゃ」
「よく分かんないけど、優勝者はすっごい賞品が貰えるんだって」
「それには興味ないわね…だけど、出場者には興味があるわ」
幽香は、まるで向日葵を思わせる眩い笑顔を浮かべた。
それを目撃したメディスンは、顔色を蒼くして後ずさる。
経験から、知っている。幽香がこういう顔をする時は、間違いなく加虐的な事を考えているのだ。
「いい情報をありがとう、メディ」
たらたら汗を流すメディスンに対し、幽香は笑顔を全く崩す事無くのたまった。
「それじゃあ、久々にやろうかしら…強い者いじめ」
<四季のフラワーマスター>風見幽香。
トーナメント、参戦決定。
―――さて。ここで、とある二人の少女の話をしよう。
昔々、ある所におじいさんとおばあさんが慎ましやかに暮らしていました。
ある日おじいさんが竹を取りに山に入ると、金色に輝く竹を見つけました。
竹の中にはなんとまあ、とても小さくて可愛らしい女の子がすやすや眠っていました。
おじいさんはその女の子を家へと連れて帰り、大切に育てました。
女の子はあっという間に大きくなり、とても美しい少女になりました。
―――そう。誰もが知る<かぐや姫>の物語。
かぐや姫は最後は皆に惜しまれながらも、月へと帰ってしまいます。
不老不死の秘薬<蓬莱の薬>だけを残して―――
そして、蓬莱の薬も最も月に近い山の頂にて焼かれ、灰となり、煙と消えました―――
御伽噺ならここでおしまい。けれど、現実はまるで違った。
かぐや姫は月になど帰らなかったし、蓬莱の薬も焼かれなかった。
その裏には、もう一人の少女の物語があった。
ひょんな事から蓬莱の薬を手に入れ、飲み干し、不老不死となった少女の物語。
たちまち、後悔した。
<死なない人間>を受け入れてくれる場所など、この世界の何処にもなかった。
畏れられ、忌まれ、疎まれ、嫌われ、呪われた。
そう―――誰もが夢見た不老不死など、叶ってしまえばただの呪いに過ぎなかった。
最初の三百年は全てから隠れるように生きた。
次の三百年は目に映る全てを敵と看做した。
その次の三百年は全てがどうでもよくなり、死んだように生きた。
更に三百年―――出会った。
同じ不死の肉体を持つ仇敵―――かぐや姫と。
憎み合い、殺し合って生きた三百年。最も血に塗れ、そして最も生命を実感した三百年。
そしてそれは、今も続いている。
どちらかが死ぬまで、その殺し合いは続く。
どちらも死なないから、永遠に殺し合いは続く。
かぐや姫―――蓬莱山輝夜(ほうらいさん・かぐや)。
不死となった少女―――藤原妹紅(ふじわらの・もこう)。
この世で最も血腥い絆で結ばれた二人は、今―――
「うわあああああん、もこたぁぁぁぁぁぁん!また面接ダメだったよぉぉぉぉぉ!」
「はいはい。元気出しなよ、輝夜」
―――月灯りに照らされた焼鳥の屋台。
泣きながら管を巻くお客さんと、苦笑いしながら酒とネギマを差し出す店主。
客は、リクルートスーツを着た女性だった。
足元まで伸びた艶やかな黒髪。
神々が心血を注いで創り上げたような壮絶なまでの美を体現した面立ちは、涙と鼻水でグシャグシャだ。
そう、彼女こそは我々がかぐや姫と呼ぶ高貴なる姫君。
<永遠と須臾(しゅゆ)の罪人>蓬莱山輝夜。
彼女は今、就職試験に落ちたばっかりである。
そんな輝夜に向けて焼鳥を焼いているのは白い上着と赤いモンペを着て、長い白髪のそこかしこにリボンを付けた
若い娘だ。
気の強そうな瞳は、眼前で飲んだくれる輝夜を複雑な気持ちで見つめている。
<不死の人間>藤原妹紅。
永遠を生きる彼女の愛称はもこたんである。
「しかし私達は憎み合い、殺し合ってる筈だろ…書いたばっかの設定をいきなりぶっ壊してどうするんだ」
「いいじゃん、別に。そんな設定、二次創作じゃ既に存在しないも同然でしょうが」
グビグビと酒を飲み干し、酒臭い息を吐く。
「おかわりー」
「もうやめとけよ…いくら不老不死でも、身体に障るぞ」
「うっさいわねー。こんな安モンの酒いくら飲んでも、ちっとも酔えないんだから仕方ないでしょー」
「全く…なら、これなんてどうだ」
妹紅は一本の酒瓶を取り出し、輝夜の前に置いた。
「秘蔵の酒だが、特別に飲ませてやるよ。<ロレーヌ>といって、歓びも哀しみも全てを包み込むような」
「もういいわよ、そのネタは…前回やったばっかじゃない」
※決闘神話も合わせれば三度目です。
「ほんとにもう…宇宙人でも雇ってくれる職場はないのかしら…」
「不景気だからなぁ。ちょっと厳しいかもしれんぞ」
「次回作はこれで決まりね…<当方就職難>」
「誰が買うんだよ、それ」
「登場人物はニート・ホームレス・ネカフェ難民etc。ラスボスは首切り寸前の派遣社員よ。EXボスは母親」
「絶対買わねー!」
「でも伝統通りに全員美少女よ」
「余計に嫌だよ!」
そうよねー、と輝夜は深く溜息をつく。
「ああ…こんな所でグチグチしてるのもうヤダ…言い寄る男共に無理難題を押し付けてブイブイ言わせてたあの頃に
戻りたい…」
「その<言い寄る男共>の中には私の父もいたと知った上での発言か?そんなに男達からお姫様扱いされたいなら
いい仕事があるぞ。寝てるだけで金が貰える夢のような職場さ。なに、ちょっと股の間の穴を使うだけだ」
「それもいいかも…」
「いいのかよ!そんなに切羽詰まってたの!?でもお前、生活には困ってないだろ?八意さんに養ってもらってん
だから、金の心配もないだろうし…」
<月の頭脳>の異名を持つ賢者・八意永琳(やごころ・えいりん)。
蓬莱山輝夜の従者であり、医者としても辣腕を振るう彼女の理知的な姿を、妹紅は思い出していた。
しかし輝夜はブンブンと首を振る。
「見てしまったのよ、私は…物凄く深刻な顔で家計簿を見つめる永琳の哀愁漂う姿を…」
「…そ、それはきついな…」
「もう姫という名の穀潰しではいられない…そう思って私は就活に精を出した」
「立派だ。数多の平行世界でグータラ生活送ってるお前に、今のお前を見習わせたい」
「でも、ダメなのよ!千年以上も姫という名のニートやってたような女に就職先なんてないの!」
うわぁぁぁぁん!と泣き叫び、カウンターに突っ伏す輝夜。
妹紅はその姿を静かに見つめ、ワイングラスを差し出した。
「飲みなよ、輝夜」
「もこたん…」
「酒は現実を変えてはくれないけれど…少しだけ、忘れさせてくれるさ」
「…ありがとう。でも、ロレーヌじゃなくて熱燗がいい」
「いい酒なのになー」
口を尖らすもこたんである。その時強い北風が吹き、飛んできた何かが輝夜の顔面に豪快に当たる。
どうも、何らかの紙束のようである。
「おいおい、大丈夫か?」
「キーッ!紙切れまで私をバカにして!」
「大丈夫そうだな。よかった」
「よかないわよ!もう、何よこの紙切れ!」
顔に引っ付いたそれを引っぺがし、三角にした目で睨み付ける輝夜。
「あ?文々。新聞?…トーナメント?ああ、そういえば永琳がその話してたわね。医療班として呼ばれたとか」
「へえ。あの人が診てくれるなら、大怪我しても安心だな」
「ロクにお金にもならないでしょうに、お人好しなんだから」
ふうっと息をつきながら記事を見つめる。
「なんだ?結構熱心に見ちゃって」
「いや…なんだろう。いい事を思いつきそうな気が…」
口元に手を当て、ブツブツと何かを呟く。
「トーナメント…観客…格闘家デビュー…!」
「え?」
「これよ!これだわ!」
がばっと勢いよく立ち上がり、輝夜は月に向かって吼えた。
「わたくし、蓬莱山輝夜は、アイドルレスラー路線を目指します!」
「はあ?」
また妙な事を、と妹紅は目を丸くして輝夜を見つめた。
「輝夜…酒の飲み過ぎか?何を言ってんのか分からないんだが」
「だーかーらーさー。美少女格闘家としてデビューしてやろうってことよ。このまま就活しててもラチがあかないしさ、
こういう方面は盲点だと思うしね」
「けど輝夜。トーナメントとなるといつもの弾幕ごっことは違うぞ。本気の闘いとなったら文字通りの化物ばかりの中
で優勝するってのは、きついんじゃないか?お前の<永遠と須臾を操る程度の能力>の凄さと反則ぶりは私だって
心得てはいるが、それだけで勝ち抜けるもんじゃないだろう」
「別に優勝までは狙ってないわ。アイドルレスラーなんだから、そこそこのとこまで勝てばいいのよ」
「そういうもんかね」
「そういうもんよ。この私の美貌さえあれば、強さはまずまず程度でいいの。五人の貴族と帝に求婚された実力を
舐めんじゃないわよ」
「あっそう…まあ、お前が美人なのは認めるよ。顔だけは本当に奇麗だもんな、顔だけは」
微妙に褒めていなかった。
「見ときなさいよ、もこたん。稼げるようになったらこの店のツケ、十倍にして払ってやるわよ」
「…ま、頑張りなよ。期待せずに待ってるから」
生返事をしつつも、妹紅は思った。
宇宙人の思考回路は理解できん、と。
そしてこうも思った。
こりゃ、ヤケ酒の回数とツケが増えるだけだな、と。
<永遠と須臾の罪人>蓬莱山輝夜。
トーナメント、参戦決定。
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