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「天体戦士サンレッド バレンタイン編」(2010/02/21 (日) 09:33:46) の最新版変更点
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パターン①悪の皆様方
「バレンタインだなあ…」
「ああ、バレンタインだよ」
「だからって、なあ…」
「所詮、俺らにゃ関係ない行事っすよ…」
―――言うまでもなく、神奈川県川崎市。
道を往くのは世界を狙う恐るべき悪党四人。
フロシャイム川崎支部所属のメダリオ&カーメンマン。一匹狼のヒム。悪の吸血鬼ヤフリー。
世界を狙ってるくせに、話題はセコいにも程がある。
しかし―――しかし、だ。男子たるもの、バレンタインは試練の時なのだ!
「そういや思い出すなあ、メダリオ。お前、いつかのバレンタインで高級チョコを自分で買って、女の子から貰ったとか
虚しい演技してたっけ(笑)」
「なっ…おいカーメン!その事は言うなよ!」
「うっわー…そんなハズカシー真似してたのかよ」
「メダリオさん、そりゃ悲しすぎますよ…(苦笑)」
「うっうるせー!お前らだって精々母親からしか貰ったことねーくせに!」
ぐうの音も出ず、三人は黙り込むしかないと思われた。だが…そこに名乗りを挙げる勇者が一人。
「俺は…貰ったっすよ」
「ヤ…ヤフリー…お前…」
どよめく面々を睥睨し、彼は告げる。それは、まさに勝利の雄叫びだった。
「母親以外の女から、チョコを…しかも、二人!」
ババーン!そんな効果音が聴こえてきそうな程、今の彼からは<オーラ>が感じられた。
しかし。
「…どうせ<姉貴>とか<妹>とか、そんなオチだろ」
「…………」
無言で意気消沈していくヤフリー。その姿は図星と言っているも同然である。
結局、モテない同盟四人である事は揺るぎない事実だった。
というより、読者の皆様も考えてほしい。本当にバレンタインで男にチョコを贈る女なんているのだろうか?
実はただの都市伝説ではないのか?そうは思わないのか、皆さん!少なくとも筆者は見た事無いぞ、そんなん!
「…オレ、決めたぜ」
「何をだよ、ヒム」
「オレが世界征服した暁には、バレンタインを廃止する。こんな…こんな悲しみと憎しみの連鎖は―――誰かが断ち
切らなくちゃならねえんだ!今までに散っていった、多くの戦士達(おとこたち)のためにも…!」
その横顔は、眩しいくらいに気高く、そして悲しかった…。
そんな切なすぎる漢達は、揃って肩を落とす。その時だった。
「あ、いたいた!みんな、探したんだよ」
四人に駆け寄ってきたのは、悪の軍団を女手一つで統べるロリ美少女・エニシア。
重たそうな袋を抱えた彼女は、ムサいヤロー共に輝くような笑顔を向ける。そして。
「はいっ!バレンタインおめでとう!」
綺麗にラッピングされた箱が四つ、メダリオ達に手渡される。
「お、おお…!」
「これは、まさか…!」
「あの、伝説の…!」
「女の子のちょ、ちょ、ちょ…!」
恐る恐るラッピングを外して、中身を確認する―――神々しい輝きと共に(※イメージです)現れたのは、小ぶりで
形も歪な、手造り感溢れるハート型のチョコレート。
えへへ、とはにかむエニシア。
「お世話になった皆に配ろうと思ったんだけどね…たくさん作ろうと思ったら、材料が足り苦しくて、こんなに小さく
なっちゃった。形もよくないし、そんなのでごめんね」
そう言いつつヤロー共を見たエニシアはぎょっとする。
四人はチョコを握り締め、まるで命を賭して闘った好敵手の最期を見届けたかのような熱い涙を流していたのだ。
そして。
「うおおおおーーーーっ!バレンタインばんざーーーーい!」
「4000年生きててよかったーーーーっ!食わねえ!このチョコは食わねえ!ピラミッドの中まで持ってく!」
「チョコレートなんて…大好きだぁーーーーっ!魔界の皆…オレは…やったぞぉぉぉぉぉっ!」
「よっしゃあ!こうなったらエニシアちゃんを胴上げだぁ!」
「え?え?」
訳の分からない間に担ぎ上げられ、天高く舞うエニシア。何が起こっているのかイマイチ理解できないが、歓喜の
涙を流す漢達の笑顔を見た彼女は<ああ、皆喜んでくれてるみたいでよかった>と微笑むのだった。
さあ漢達よ、今回のサンレッドはバレンタイン。
僕らには一切関係のないこの菓子業界と歯医者の陰謀に、川崎市の皆はどう立ち向かうのか!?
天体戦士サンレッド ~バレンタイン!それぞれの波乱
パターン②アニマルソルジャー
「いやあ、エニシアちゃんのおかげで、今年はいいバレンタインになったなー」
「ほんとっすよ。この思い出だけで、俺は強く生きていけるっす」
先程までとは打って変わってほくほく顔の漢達。現金なものである。
「えへ…そこまで喜んでもらえるなんて、嬉しいよ」
照れてほっぺを赤くしながらはにかむエニシア。心温まる光景である。
(※一応言っときますが、この連中は悪サイドです)
「ははは。で、今から他の連中のとこにも幸せの配達に?」
「うん。バイト先の人や、レッドさんとか…あ、でもレッドさんはかよ子さんがいるからどうかな…迷惑かも」
「あー、そうだなあ…レッドとかよ子さんかあ…」
「あの二人、バレンタインだからってすっげーいいことしてたりして!」
「おいおい、そういう話はよせよー」
「そうっすよー。女の子がいるってのに」
ちょっぴり下世話に盛り上がるヤロー共。そんな四人に対して。
「え?レッドさんとかよ子さんがなにするの?」
エニシアはきょとんとして訊き返した。赤ちゃんはコウノトリが運んでくるものと信じている純粋な瞳である。
ゲホンゲホンと、わざとらしく咳込んで誤魔化した所に、新たな登場人物達が現れた。
「あれ?皆して集まって、何してるの」
フロシャイムのアイドル・アニマルソルジャーのウサコッツ・デビルねこ・Pちゃん・ヘルウルフである。
ボン太くんは、今日はお休みの模様。
キュートな四匹は、当り前のように大量のチョコを抱えていた。
「おう、アニソル…って、お前ら、すっげー貰ってんのな…」
「うん。女の子達に追いかけ回されて、困っちゃったよー」
そこらのイケメンのセリフならしばきたくなるが、ウサコッツの言う事ならば許せる。だって可愛いは正義だもの。
「あはは…それじゃあ、私も追いかけ回しちゃおっかな。はい、ウサ先輩達にもチョコレート」
「あ!ありがとうね、エニシアちゃん」
「でも、そんなにたくさん貰ってたら、迷惑じゃない?」
「そんな事ないよ。嬉しいよ。そうだよねっ、ねこくん、Pちゃん、ヘルウルフ」
耳をピョコピョコさせてチョコを受け取るウサコッツ。Pちゃんは早速包みを開けてパクパクしている。
「チョコレート スキ」
ヘルウルフもご機嫌だ。しかし、デビルねこだけはどうも浮かない顔である。
「あれ…?おい、ねこ。お前、チョコ苦手だったっけか?」
メダリオの問いに、デビルねこは首を振った。
「ううん。チョコは大好きだよ。でも…」
「でも?何だよ、おい」
デビルねこは、深く、ふかーーーーーーく溜息をつく。
「食べたらダメなんだ。糖尿が…酷くなってね…」
「と…糖尿…」
「…そ…そうなんだ…」
「うん…食事制限をもっと徹底しろってお医者さんに言われてるの…」
何つーか、非常に重い話だった。何故ファンシーなぬいぐるみから、こんなトークを聞かされなければならないのか。
「そう言えば血圧もちょっとヤバかったし…四十肩も全然治らないし…歩くとすぐ息切れするし…加齢臭もますます
キツくなるし…コレステロールもアレだし…痔の疑いも…あと、肝臓の数値を見たお医者さんが深刻な顔してた…」
「…ねこ。それ以上はやめとこうぜ…こっちも悲しくなるから…」
「そだね。ぼくが言えるのは一つだけだよ…健康には気を付けてね!」
―――それは、シャレにならないほどの説得力だったという。
パターン③レッドさん
かよ子さんのマンション。
すまし顔でお茶を啜るかよ子さん。
そして、やるせなさそうに頬杖をつくレッドさん。
「なあ…かよ子…言うもんじゃねえ。男の方から言うもんじゃねえのは分かってんだけどよ…」
「何よ」
「バレンタインなのに、チョコくれねーとか!去年も一昨年もその前も!つーか去年、俺アピールしたじゃん!恥を
忍んでチョコ欲しいって、すっげーアピールしてたじゃん!ヴァンプには用意してたのに俺にはねーって、やっぱり
傷つくっつーの!」
「あー、やっぱそれでヘコんでたの?あんたも可愛いとこあるわねー(はあと)」
「う、うるせー!」
「ふふ、そんなに拗ねないの」
かよ子さんはレッドさんに向けて、艶っぽくウインクする。
「あんたにはチョコレートより、もっといいものあげるから。ね?」
「な…!お、おま…そういうこと、言うんじゃねーよ…」
レッドさんは顔を真っ赤にして(元から真っ赤だが)そっぽを向く。そんなちょっぴりアダルティな雰囲気の中。
ピンポ~ン
と、玄関のチャイムが鳴った。邪魔されたようなほっとしたような微妙な気分で、レッドさんが立ち上がる。
「あーもう、誰だよ…ヴァンプか?またチョコレートのお裾分けに来たんじゃねーだろな…」
そうぼやきながらドアを開けると、そこにいたのは意外な顔。
「ヤア、レッド。久シブリーッテ程ジャナイネ、コナイダ赤色戦隊ゴッコシタバッカダシ。ハハハ」
「お前…シャイタンじゃねーか!」
そう。イベリア在住の悪魔シャイタンだった。
「どーしたんだよ、また鎌仲のコンサートに出演か?ハードスケジュールだな、おい(笑)」
「イヤイヤ、今日ハレッドニ用事ガアッテネ…ホラ」
シャイタンが懐から取り出したのは、ラッピングされた四角い箱だ。
「あん?まさかこれ、チョコか?」
「ア、勘違イシナイデヨ。マサカノBL展開トカジャナイカラ(ポッ)」
「ポッじゃねーよ、気色悪りー。何だよ、たくさん貰ったからお裾分けか?」
「違ウ違ウ。ホラ、ライラノ事ハ話シタヨネ?」
「ライラ…?」
考え込むレッドさんだったが、直に得心して手を叩く。
「あーあー、思い出した!ライラって確かホラ、お前のコレだろ?」
へらへらしながら小指を立てるレッドさんである。
「モー、ソウイウ言イ方ハヨシテヨ。マア、間違ッテハナイケドサ…フフ。デ、ライラガ世話ニナッテル人ニッテ、チョコ
ヲ作ッタンダヨ。コレハレッドノ分ッテワケサ」
「ほー…随分気立てがいいんだな。俺とは直接面識もねーのに、何か悪りーなー」
「ハハハ、ソンナニ褒メルナッテ。イイ女ナノハ確カダケドサー(笑)」
「おいおい、日本まで来て<嫁自慢>?このこの」
冷やかすレッドさんと照れ照れなシャイタン。そんな和やかムードは、背後からの冷たい言葉で凍り付いた。
「あらあら…あんたったら、私にチョコをねだらなくても貰えてるじゃない」
すっかり蚊帳の外にされていたかよ子さんは、完璧に左右対称の笑みを作った。そう、まさに<作った>としか表現
できない、凄絶な表情である。
「へえ~…あんたも他の人からチョコを貰える甲斐性があったんだあ~…ふ~ん…」
その笑顔の、なんと恐ろしかったことか。
かつてイベリアを震撼させた悪魔と、現在進行形で川崎を震撼させているヒーローが、揃って脂汗に塗れていた。
お前のせいだぞ、何とかしろよ。そんな想いを込めてシャイタンを肘で突っつくレッドさん。
シャイタンは頬をヒクヒクさせつつ、自信なさそうな愛想笑いをするばかりだった。そして。
「ア…アノサ…我、チョット急用思イ出シチャッタ!アステカデ<唯一神(クロニカ)>ト昼飯食ウ約束シテタンダッタ!
<レコンキスタ>ト<コンキスタドーレス>ニツイテ熱ク議論ヲ交ワスンダッタ!ジャアネ、レッド!」
シャイタンは愛想笑いを浮かべたまま翼を広げ、大空へと飛び立ち、あっという間に見えなくなった。
恐らく、マッハ10は出ていただろう。流石は伝説の悪魔だ、とレッドさんは妙な所で感心するのだった。
「って感心してる場合じゃねーよ!テメー、おい、待て!」
待て、と言った所でシャイタンは既に空の彼方。
後には立ち尽くすレッドさんと、張り付いた様な笑顔のかよ子さんだけが残されたのであった。
―――なお一時間後、ようやくかよ子さんが機嫌を直した所でエニシアがチョコを持って来て、更に修羅場な空気に
なってしまったそうだが、それは全く別のお話である。
パターン④軍曹
とあるマンションの一室。
高校生と思しき男女がチョコレートケーキを挟んで向かい合っていた。
サクッ。パクッ。
「どうよ、宗介。感想は?我ながらよく出来てると思うんだけど」
「肯定だ、千鳥。とても立派な菓子に仕上がっている」
相良宗介は、無愛想な顔をほんの少しだけ緩めて(普通の人間ではまず気付かない変化であるが)頷く。
「カカオの香りが食欲を程良く刺激し、味覚に対する期待を否が応にも高める。口内に入った瞬間にチョコクリーム
がふわりと溶ける食感も中々だ。チョコの甘みと苦みが染み込んだスポンジも相まって(以下省略)」
「何でアンタはそんな堅苦しい感想になるんだか…」
呆れた風を装いながらも、千鳥かなめは嬉しそうに笑っていた。
「ま、いいわ。褒めてるんだから、よしにしたげる」
そう言って、美味しそうにチョコケーキをぱくつく宗介を、彼女には珍しい事に優しく見守るのだった。
日本一(世界一か?)非常識な高校生も、今日ばかりは常識的にバレンタインを謳歌していたとさ。
―――ちなみに、とある潜水艦の中では。
「…はあ」
テレサ・テスタロッサは、デスクの上の物体を涙目で眺め眇める。
仔細にその形状と色彩を表現するのは難しい。例えて言うなら、前衛芸術だった。
一応言っておくが、これはチョコレートケーキである。
少なくとも、彼女はそうなるように作ったはずだった。
「こんなの渡したら、絶対嫌がらせだって思われちゃう…」
黒焦げの前衛芸術をゴミ箱に突っ込み、テッサは不貞寝するしかなかった。
「結局当て馬扱いなのね、私って…いいのよ、分かってるから。原作からしてそうだもの…」
―――悲しいバレンタインを過ごすのは、何もモテない漢ばかりではないというお話だったとさ。
パターン⑤望月ジロー
「…ごめん、ジローさん。まさかこんな事になるとは思わなくて…」
愛嬌たっぷりのアヒル口少女・ミミコさん。
彼女は望月ジローと望月コタロウの吸血鬼兄弟を女手一つで養っています。
さて、そんな彼女の眼前では、ジローさんが口から煙を吐いていた。
「ミミコさんの…せいでは…ありません…私も…迂闊でした…」
青息吐息で、ようやっと言葉を発する。
「バレンタイン、とは…そもそも…聖人ヴァレンティヌスが死した日…云わば、聖なる日です…そんな日に贈られる
チョコにも…神聖な力が宿ったとしても…おかしくは…ない…」
「いや、その理屈はおかしいよ、兄者…」
コタロウはツッコミを入れたが、ミミコさんから貰ったチョコを食った瞬間に彼の兄はこの有様である。
彼の中に流れる血が、神聖な存在であるバレンタインチョコを拒絶したとしか考えられない。
「ふ…この身に宿す黒き血は…どうやら、バレンタインを楽しむ事すら赦してはくれないようです…それもまた、私
の宿命なのでしょう…」
「いや、いくらカッコつけてもカッコよくないから」
―――望月ジロー。彼もまたバレンタインに苦悩する漢の一人であった。
通常とは、かなり違う意味で。
パターン⑥ヴァンプ様
川崎支部の居間には、山と積まれたチョコレート。
何故か大量の味噌やら醤油やら砂糖やら塩やらまで置いてある。
そこからヒョイっと顔を出したのは、我等が将軍ヴァンプ様だ。
「いやー。こんなにたくさん貰っちゃった、私。バレンタインって、いいなあ」
女子高生から御近所の若い女性、婦人会のおば様まで、幅広い支持を得たヴァンプ様。
何を隠そう、川崎一のモテ男とは彼の事である。
こうして、バレンタインは十人十色に過ぎていくのだった。
―――天体戦士サンレッド。
これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、漢達の壮絶な―――
大事なことなのでもう一度言おう、壮絶な闘いの物語である!
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