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「天体戦士サンレッド ~血に染まる川崎!真紅の大決戦」(2010/02/04 (木) 22:35:44) の最新版変更点
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いつものようにいつもの如く、神奈川県川崎市。
「―――この世界には<幻想郷>と呼ばれる、夢想と空想を具現化し、具象化した楽園が存在します」
道端を歩きながら語るのは、真っ赤な帽子に真っ赤なスーツ、日傘を差した赤ずくめの男―――
彼の名は望月ジロー。黒髪黒瞳の端正な顔立ちだが、口元には鋭い牙が覗く。
彼こそは望月コタロウの兄にして<銀刀>と恐れられる、既に百年以上の時を生きた力ある吸血鬼だ。
「へー」
気のない相槌を打ったのは赤いマスクだけど格好はいつものTシャツな我らのヒーロー・サンレッド。今日の文字は
<東方赤太陽>である。彼はジローに呼び出され、むさ苦しくも男二人で歩いているのだ。
「其処は<神隠しの主犯><遊惰なる賢者>と称される伝説の大妖怪<八雲紫(やくも・ゆかり)>が創り上げし、
人間もそれ以外も、全てを受け入れる理想郷―――鬼に天狗に河童に妖精、果ては神々に至るまで、何でもござれ
の百鬼夜行にして百花繚乱」
「ほー。えらく詳しいじゃねえか。行った事でもあんのか?」
「いえ…私を吸血鬼へ転化させた<闇の母(ナイト・マム)>から聞いた話です。彼女は八雲紫とも面識があったそう
ですし、幻想郷をその目で見た事もあると言ってましたが、残念ながら私自身は幻想郷やその住人と関わった事は
ありません」
「あっそ。しかしそんな妙な奴と知り合いだったとか、お前の吸血鬼的な意味での母親ってすげえ大物とか?」
「…そうですね。大物なのは勿論ですが、素晴らしい女性でした…」
過去形だった。口調もやたら暗い。地雷を踏んだか、とレッドさんは顔を曇らせるが、ジローは微笑んだ。
「気にしないでください。彼女の残した尊き血は私の中で生き続けている…コタロウの中でも…」
「そうか…その、何だ。いい女だったんだろな、さぞや。俺も会ってみたかったもんだ」
「ははは。ではコタロウを女の子にして、あの性格のままで10年ほど成長した姿を想像してください。それで大体の所は
合ってますよ」
想像してみた。レッドさんはうわー、とばかりに両手を上げる。
「とんでもねえトラブルメーカーだったんだろうな、そいつは…」
「彼女の名誉のために否定したい所ですが、残念な事に正解です…おっと、話が逸れましたね。幻想郷の事ですが…
何でもござれというからには、当然ながら吸血鬼も存在するのです」
「ふーん。けどよ、そんな話されても俺には関係ねーだろ。俺は<神奈川県川崎市>のヒーローだぞ?幻想なんたら
の事なんざ知らねーっての。何かあるならそこの御当地ヒーローに解決してもらえばいいじゃねーか」
「確かに幻想郷には<博麗の巫女>と呼ばれる異変の解決屋がいるそうですが、今回はここ川崎市に関わる事なの
です―――だから、あなたにも御足労願いました」
「あん?」
「いざという時には―――どうか、力を貸していただきたい」
ジローは深々と頭を下げる。その神妙な面持ちにレッドさんも態度を引き締めた。
「…ヤベー事が起きるのか。川崎市に」
「ヤバい、どころの話ではありません。下手をすれば―――神奈川県が、地図から消えます」
大げさだとは思わないでください。ジローはそう言った。
その身体は小刻みに震えている。根源的なまでの恐怖―――そして、少なからぬ畏敬に。
「幻想郷に存在する吸血鬼の中でも最強と謳われる紅き月下の女帝…レミリア・スカーレット。<紅き悪魔の館>
―――紅魔館(こうまかん)に住まう彼女は、齢こそは五百年と、吸血鬼として見れば驚くほど時を重ねたというわけ
ではないのですが―――その力は、数千年を生きた古き者達にも決して劣るものではありません」
「でも、お前だって<銀刀>なんて呼ばれてる吸血鬼界の大物だろ。それでも勝てないくらい強えーのか?」
「無茶を言わないでください。私などレミリアの前では路傍の雑草にもなりませんよ。彼女が本気なら、一瞬で血液の
一滴すらも残さず消し飛ばされて終わりです。彼女に匹敵する吸血鬼となると、原初にして史上最も偉大なる吸血鬼
<真祖混沌>直系血族たる<四神>―――或いはかのヘルシング家に仕える究極の血統。彼の前では神ですらも
一山幾らの有象無象。世界が終れど、尚語り継がれるであろう闇夜の伝説。絶大にして絶対の吸血鬼・アーカード卿
くらいでしょうね」
「よく分かんねーけど、とにかくすげーんだな。で…ここまでの話の流れから、予想できるけどよ」
ふうーっと、レッドはタバコの煙を宙に漂わせる。
「…来るんだろ。その<幻想郷において最強の吸血鬼>とやらが、川崎に」
「正確には、既に来ています。己の忠実なる従者を一人だけ連れて…ね」
ジローは、ただでさえ鋭い目付きを更に尖らせ、宣告する。
「大吸血鬼レミリア・スカーレットは今―――神奈川県川崎市にいる」
都心でもない川崎に現れた、恐るべき吸血鬼レミリア・スカーレット。彼女は何故川崎に?その狙いは?
予告しよう―――川崎市に、血の雨が降る!
ついでに、可愛い女の子達が恥ずかしい液体を垂れ流すムフフな展開もあるので男性読者はお楽しみに!
天体戦士サンレッド ~血に染まる川崎!真紅の大決戦
「あ…それはそうと、レッド。申し訳ありませんが、私からもう少し離れていただけませんか?」
「あん?何でだよ。自分から呼び付けといて離れろとか、身勝手なヤローだな、おい」
「申し訳ない。けれど吸血鬼の私では、太陽の戦士であるあなたの傍にいるだけで体力が削られてしまうのです」
「え、そうなのか?コタロウとかは全然平気みてーだけど…」
「あのバカ弟はそうでも、私はそうではないのです」
それは、どこか含みを持たせた言い方だった。とにもかくにもレッドさんが言われた通りに距離を取ったのを見計らい、
ジローは話を続ける。
「吸血鬼と一口にいっても、属する血統によって性質や弱点はそれぞれなんですが…私の場合、吸血鬼が苦手そうな
ものは大体弱点なんです。今だって日光がきついから、日傘を差してるでしょう?」
「んな<悪そうな奴は大体友達>みてーに言うなよ…つーかお前、そんな弱点多くて大丈夫なのか?コタロウなんて
ニンニクたっぷりのラーメンもガツガツ食うし、クリスマスにはバンバン聖歌を唄いまくってたぞ。同じ兄弟だってのに、
何でそうも違うんだよ」
「…その辺は色々事情がありまして。出来れば、触れない方向で」
「事情、ね。お前やコタロウって随分と謎が多いよな。軽々しく話せねーってんなら訊かねーけどよ」
「申し訳ない。ただ…コタロウとは、そういった事は気にせずに仲良くして頂ければありがたい」
「何だよ、改まって。そんな事言ってるとフラグが立っちまって早死にすんぞー?ま…あのバカが懐いてくれるウチは、
俺も面倒くせーけど面倒見てやるよ。ヒーローは子供の味方だからな、ははは」
言い草はぶっきらぼうだが、レッドさんなりの優しさを感じたジローは微笑む。
「なら、どうか末永くよろしく。私も、いつまでもあいつの傍にいてやれるわけではないでしょうから」
「だから、そういうセリフ言うなって…それよか、今はレミリアだかれみりゃだかの事だろ?」
「おっと、そうでしたね…先に話した通り、彼女は本来<幻想郷>で暮らしている。其処は強力な結界によって外界から
完全に隔離されています。気軽に外界へ…とはいかない。その結界を越えて、彼女は何を目的としているのか?
人間達の世界で何をしようとしているのか?彼女の動向は現在、あらゆる吸血鬼の注目の的なのです」
遂に吸血鬼による世界征服に乗り出したか?人間達を億単位で家畜にするつもりか?
世界を己の血族で埋め尽くそうというのか?憶測が更に憶測を呼び、月下の世界は混乱に陥っている。
「流石にこの段階でちょっかいをかけようという血族もいないでしょうが…レミリアの出方次第では、黙っていない連中も
必ず現れる。レミリアも、それを排除するために力を行使する事を厭わないでしょう」
吸血鬼にとって敵を殺すとは、当然の選択肢なのですから―――そう語るジローの瞳は、どこか自嘲めいていた。
「そして、川崎は吸血鬼が跳梁跋扈する戦場と化す。そうなればコタロウやミミコさん―――あるいは、あなたの恋人の
かよ子さんや、友人であるヴァンプ将軍にも危害が及ぶかもしれません」
「…そりゃあ、胸クソ悪い話だな…いや、勘違いすんな!ヴァンプは別に友達じゃねーんだからな!」
これが噂のツンデレッドである。
「そんな事にならぬよう、私とていざとなれば我が身を捨てて闘う覚悟はありますが、覚悟だけでどうにかなる相手では
ない―――必要なのは純然たる力です。彼女と闘えるだけの力です」
すっと襟を正して、ジローはレッドを真っすぐに見つめた。
「サンレッド―――あなたの力を貸して下さい。この川崎市においてレミリアと真正面からやり合えるのは、太陽の戦士
にして最強のヒーローであるあなたしかいません」
「へっ…頼りにされたもんだな、俺も」
そんな物騒な話を聞かされたというのに、レッドはどことなく嬉しそうでさえあった。
彼は―――余りにも強すぎる。故に―――彼は闘いに飢えている。
無比の力を持っていながら、それを振るうべき敵がいない。
無双のヒーローでありながら、それに匹敵する敵がいない。
無敵の存在だからこそ―――文字通りの意味で敵がいない。
その葛藤は、彼を常に蝕んでいる。だからこそ、強敵の出現は彼にとって喜びですらあるのだ。
川崎市が危機に晒されているという懸念もあるが、己の力を限界すら越えて引き出すような血沸き肉踊る闘いの予感
に、サンレッドは胸を焦がすような期待をも感じている。
それが、サンレッドの危うさであり―――頼もしさでもあった。
「任せとけ。そのレミリアが最強の吸血鬼だろうが何だろうが…悪巧みしてるってんならこの俺が、社会人の心得って
もんを教えてやるぜ!」←はい、そこのあなた!ヒモのくせにとか言わないで!
その時である。すぐそこにあったコンビニのドアが開いて、<ありがとうございましたー>という店員の声を背に、
ビニール袋を手にした一人の幼女が出てきた。
風に溶けそうな程に透き通った蒼い髪。豪奢ではないが品よく丁寧に仕立てられたピンクのドレス。
背中には、夜を具現化したような漆黒の羽根。
10歳になるかならないかという幼子だったが、発散する気配はそんな生易しいものではない。
誰もが見惚れるような愛らしい顔立ちだが、そこには幾星霜を経て研磨されたような絶対的なカリスマがあった。
サンレッドもジローも、瞬時に理解した。彼女の口元にあるはずの牙を見るまでもない。
彼女こそが月夜の女帝―――レミリア・スカーレット!
「…で。何でそいつがコンビニで買い物してんだ?」
「さあ…」
そう。大層に書いたけれど、彼女はただコンビニから出てきただけである。
コンビニでの買い物すらもカリスマ漂う吸血鬼・レミリア。果たして、何を買ったのか?
「うふふふ…高貴なる私に相応しきは、やはりこれしかないわね…」
唇から洩れるは、威厳に満ちた言葉。何処までもカリスマ吸血鬼な彼女が袋から取り出したのは。
「女性が選ぶコンビニスイーツ・五週連続ナンバー1!ウルトラ・スーパー・デラックスプリン!(税込398円)」
すぐそこで成人男性二人がずっこけているのにも構わず、レミリアは高々とUSDプリンを天に掲げる。
遂にはこれ以上ない程の笑顔でミュージカルよろしく、歌って踊り出す。
~Song For The PURIN 素敵で無敵なぷるるんプリン~ 作詞:スエルテ沙魔沙 作曲:スエニョ沙魔沙
う~☆う~☆おやつだど~☆プリンだど~☆
プ・プ・プリン♪素敵なプリン♪ププププ・プリン♪無敵なプリン♪
あたしのプリン♪スペシャルプリン♪甘くて美味しい♪ぷるるんプリン♪
人肉よりも♪生き血よりも♪アマアマ♪ウマウマ♪ぽよよんプリン♪
敬え♪平伏せ♪愚民共♪あたしと♪プリンに♪跪(ひざまず)け~♪
此処におわすは♪レミリア様の♪プリンだど~♪
(間奏・セリフ)
「俺…この戦争が終わったら、プリンと結婚するんだ…」←この直後に撃たれる
「お前らと一緒になんていられるか!俺はプリンと二人で部屋に戻るからな!」←犯人はプリン
「不吉だ…プッチンプリンのプッチンするとこが、勝手に折れやがった…」←交通事故に遭う
「遂にここまで来たか、我が息子よ…いや、勇者プリン!」←激闘の果てに改心するが黒幕にやられる
がお~☆がお~☆食べちゃうど~☆プリンだど~☆
プ・プ・プリン♪偉大なプリン♪パパピピ・プリン♪パピプペ・プリン♪
あたしのプリン♪ミラクルプリン♪嬉しい楽しい♪さいきょープリン♪
大人も子供も♪硬派な番長も♪みんなで♪ウマウマ♪ぷりぷりプリン♪
崇めろ♪讃えろ♪愚民共♪あたしと♪プリンを♪奉(たてまつ)れ~♪
畏れ多くも♪レミリア様の♪プリンだど~♪
目指せ、オリコン78位!(発売日:未定 定価:限定盤100万円・通常盤100円)
※限定盤には原寸大レミリア様フィギュアが付いてきます。
「…おい、ジロー。プリン持って歌ってるぞ、最強の吸血鬼が」
「…ええ、レッド。プリン持って踊ってますね、最強の吸血鬼が」
陽光を浴びて、全身からプスプス煙が噴き上がっているのも気にしないくらいノリノリで。
しかも、すっげーいい笑顔で。
そんな事やってるもんだから、足を滑らせて盛大にコケた。
「あっ」という暇もない。
レミリアの手からUSDプリンがするりと離れ―――べちゃん、と地に落下。
哀れ、USDプリンは地面の染みと化した。
「あ…ああ…」
レミリアはさっきまでUSDプリンだった物体を愕然と見つめる。ああ、何ということだろう。
泣く子も笑う、人類が生み出せし至高のグルメ―――それこそはプリン。
世界最後の硬派と名高いあの番長も認める究極のスイーツ―――そう、プリン。
素敵なプリン。無敵なプリン。スペシャルプリン。ぷるるんプリン。ぽよよんプリン。
口の中で溶けていくきめ細やかな食感を、舌を蕩かすその甘美な味わいを、彼女はもう楽しめないのだ。
「あた…あた…あたちの…プリン…」
その大きな瞳から、滝のような涙が流れる。それだけならまだしも、鼻水まで滝のように流れる。
「あああああああ、あだぢのぷっでぃんがぁぁぁぁぁぁぁ!」
天地に響き渡る大絶叫。この音波によって半径10kmに存在するガラスというガラスが割れたという。
「どぼぢでぇぇぇぇ!どぼぢであだぢのぷっでぃんがこんなすがたにぃぃぃぃぃ!」
涙と鼻水塗れで地面に転がり、じたばた駄々を捏ねる。絶対の威厳が一瞬にして崩壊した。カリスマブレイクだ。
正直言って関わりたくないが、一応正義の味方としては、このまま放置するのも居た堪れない。
「…レッド。どうにかしてあげなさい。あなた、正義のヒーローでしょ?」
「お前こそ何とかしろよ…あいつと同じ吸血鬼で、正義側だろ?」
「コタロウがどう言っていたのか知りませんが、私は吸血鬼ではあっても別に正義ではないっ」
「なっ…ここに来て開き直りか!?ずりーぞ、テメー!」
責任を押し付け合う野郎二人。されどこいつらがどうにかする前に、レミリアに駆け寄る人影があった。
それは、メイドさんだった。紛れもなく、メイドさんだった。何を隠そう、メイドさんだった。
しかも只のメイドさんではない。<美少女の>メイドさんだった!
物語の中にしか存在を赦されぬ<ものごっつい美少女の>メイドさんだった!
通常のメイドさんの3倍どころか10倍の賃金を払ってでも雇いたくなるような、美少女メイドさんだった!
この母なる大地(ガイア)に住まう全ての漢達の憧れ―――美少女メイドさんだった!
雪のように煌く白銀の髪。端麗な顔立ちはやや冷たさを感じさせるが、それは彼女の魅力をまるで損なう事は無く、
むしろその白皙の美貌を引き立てていた。
<お願いだから踏んでください!>と思わず土下座したくなる、すらりと長く白い脚も素晴らしい。
どこをどう見てもケチの付けようがない、完璧にして完全なまでの<美少女メイドさん>。
それはまさしく穢れた地上に舞い降りた天使にして神秘―――<美少女メイドさん>!
はてさて、そんな美少女メイドさんはレミリアを優しく抱き起こす。
「ほら、お嬢様。そんなに泣かれて、どうなされたんです?」
「うわぁぁぁぁん、さくやぁぁぁぁぁ!あだぢのぷっでぃんがぁぁぁぁぁ!」
「ぷっでぃん?…ああ、プリンを地面に落としてしまわれたのですね」
しょうがないなあ、とばかりに肩を竦め、<さくや>というらしいメイドさんはレミリアの頭をナデナデする。
「はいはい、お嬢様。プリンぐらい、また買ってあげますから」
「ヤダぁぁぁぁ、あのぷっでぃんじゃなきゃヤなのぉぉぉぉぉ!」
「もう、我儘ばかり仰らないでください…」
ツー…と。
美少女メイドさんの鼻の穴から、紅い液体が漏れ出してくる。
「そんなお嬢様も可愛くて、可愛くて…咲夜は…」
ブバッ!
蛇口を思いっきり捻ったような勢いで、鼻血が噴き出す。
「興奮してしまうじゃないですかぁぁぁぁぁ~~~っ!」
恍惚としか表現しようのない笑顔で、グッと両手の親指を突き立て、メイドさんは天を仰いだ。
鼻血が見事なアーチを川崎の空に架けて、虹を描く。
そう―――今まさに、川崎市に血の雨が降り注いでいた!予告は間違っていなかったのだ!
「…………」
そんな地獄絵図を見守るレッドさんとジローさん。
もはや彼らの中の<恐るべき吸血鬼レミリアとその忠実なる従者>像は完膚なきまでに粉々になっていた。
このまま二人にコロナアタックをかまして何事もなかったような顔で立ち去ろうかなとレッドさんは一瞬思ったが、
流石にそれは正義の味方的に憚られる。何せ見た目は絶世の美幼女と奇跡の美少女なので。
「レッド、どうします…」
「どうするもクソも…仕方ねーだろ。とにかく、川崎まで来て何を企んでんのかだけ確かめとかねーと」
レッドさんは勇敢にも、絶対にお近づきになりたくない二人に対して声をかけるという英雄的行動に打って出た。
もうヤケクソになってるのかもしれない。
「…なあ。そこのメイドさん。ちょっといいか?」
「はい?」
脱脂綿を鼻に詰めて、メイドさんはこちらに向き直った。メイド服の胸元が真っ赤なのがもう、何というか怖い。
傍若無人なレッドさんでさえドン引きである。それでもレッドさんは勇気を振り絞り尋ねた。
「あのー…あんたら、本当に吸血鬼レミリアと、その従者なんだよな?」
「イグザクトリィ(その通りでございます)…ふふ。川崎にまで偉大なるお嬢様の名は轟いているのですね。従者として
実に誇りに思います」
優雅にお辞儀するメイドさん。しかしその鼻の穴には脱脂綿が詰められている。
「いかにも、この御方こそが我が主たる<永遠に紅い幼き月>レミリア・スカーレット―――そして、私はその忠実なる
下僕―――<完全で瀟洒な従者>十六夜咲夜(いざよい・さくや)と申します」
二つ名は凄かったが、レッドさん達の目の前にいるのは。
「びぇぇぇぇ、ぷっでぃん、あだぢのぷっでぃんがぁ、ぶぇぇぇぇん」
潰れたプリンを前に未だに泣き喚く幼女と。
「ふふ…本当に可愛らしいのですから…そんな姿を見ていると、咲夜は、咲夜はまた…ブバァァァッ!」
脱脂綿を鼻からロケットのように噴出させ、再び川崎に鼻血の雨を降らすメイドさん。
その無駄に放出される血を、某アカギさんに分けてやりたいものである。
人生最大級の頭痛を堪えつつ、それでもレッドさんは咲夜に問う。
「あんた…まさか、ロリコンなのか?」
「ロリコン?それは心外ですね。物事の表現は的確にすべきです」
脱脂綿を詰め直しつつも、咲夜さんは傲然と言い放つ。
「私は<ペドフィリア>です。ロリコンと一緒にしないで下さい!」
「…ごめんなさい」
どう違うんだよ、と心の中だけでツッコミを入れつつ、レッドさんは謝るしかなかった。
「分かればよろしい。これからはペドの人をロリコンなどと呼ばないように」
「…………コホン。一つ、訊いてよろしいか?何故レミリア・スカーレット程の吸血鬼が川崎に?」
埒があかないと見て、ジローが尋ねる。
そう、そもそもそれが全ての始まりである。レミリアはどうして、川崎まで来たのか?
「余程の理由があるのでしょうが…差し支えなければ、お教え願えませんか」
「え?ああ…そんな大した理由ではありません。これです」
川崎市のガイドブックを取り出す咲夜さん。その表紙にはバカでっかく、こんな文字が躍っていた。
<芸術はバクハツだ!世界の岡本太○が待っている!入場者歓迎!>
「お嬢様が是非とも<岡○太郎美術館>に行きたいとのことでしたので」
「…………岡本○郎」
「そ…そのために、わざわざ結界を越えて…?」
ひゅるるるるぅ~…と寒い風が吹き抜けていく。
「確かに呆れる理由ですよね…結界の管理者である八雲紫様と博霊の巫女―――霊夢(れいむ)さんを説得するのも
大変だったんですよ?そんな事のために結界を解いて外に出すわけにはいかない、と仰られて」
「そりゃそうだろ」
そうも簡単に結界解除を大安売りされては、こっちだって困る。
「でも、御二人とも最終的には折れてくださいましたよ。紫様には御土産に<ミニチュア太陽の塔>を白と銀のセットで
買って来るという事で…霊夢さんの方は賽銭箱に諭吉を突撃させたら、今まで人類が目撃した事のないような笑顔で
見送ってくださいました」
「「安っ!結界、安っ!」」
異口同音に二人の漢は叫ぶしかなかった。二人合わせても税込13150円也!それでいいのか、幻想郷!?
完全に固まったレッドさんとジローを放置して、咲夜さんは日傘をレミリアの頭上に翳し、その手を取った。
「さ、お嬢様。プリンはもう諦めて、○本太郎美術館へ行きましょう。紅魔館の皆に御土産買って帰りましょうね」
「うう…さよなら、あだぢのぷっでぃん…」
咲夜さんに手を引かれ、レミリアは鼻を啜りながら去っていく。
そんな二人の姿を、レッドさんとジローさんはただぼんやりと見つめていた。
「…俺、パチンコ屋に寄ってから帰るわ。お前はどうする?」
「…天気がいいので、帰って寝ます。吸血鬼ですから、私」
「そっか」
「そうです」
二人はただ疲れ切ったように、乾いた笑いを洩らすのだった…。
―――天体戦士サンレッド。
これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語であり、そして可愛い女の子達が、恥ずかしい
液体(主に鼻水と鼻血)を惜しげもなく垂れ流したムフフな物語である!
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