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「ジョジョの奇妙な冒険第4部―平穏な生活は砕かせない― 第11話」(2009/12/27 (日) 08:41:34) の最新版変更点
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落としていた速度を急いで60キロ以上に戻し、『ハイウェイ・スター』を振り切る。
攻撃射程圏内から離脱すると素早く冷静さを取り戻す。
「爆破が浅かったか……こうなると同じ手は通じないだろうが大した問題ではない。
こうなることも予想して私はこの道を選んだのだ。
ガソリン残量も気にせず高速へ突っ込むほど私は愚かではない」
先程の爆破で仕留めるつもりだったが、墳上がしぶとく生き残った時の対処も考えていた。
墳上の行動を掴むべく携帯を手に取る。
「奴との距離は? ……よし、次は私の進路に対向車がいないか見ていてくれ」
親父から伝えられた墳上との距離を考えると頃合いでもある。
高速道路へは向かわない、ガソリンが切れるまでのその場凌ぎにしかならないのだから。
どこまでも追跡し獲物を追い詰め、逃走しながら致命傷を与えるのは困難。
岸辺露伴に弱点のないスタンドと称されるのも頷ける。
「確かに無敵のスタンドだ……相手の接近を許さず決して追跡を止めない。
この吉良吉影でさえ弱点を見つけることは出来なかった」
コンクリートを駆け抜ける追跡者の足音。
体重0の人間が60キロでコンクリートの上を裸足で走るという現実に有り得ない音。
忌々しく耳障りなそれを振り切るようにスピードを上げる。
「だが『弱点のない無敵のスタンド』が相手でも……私に敗北は有り得ないッ!」
聞きなれた愛車のエンジン音が、いつもに増して耳によく響く。
恐怖に拍動していた心臓の鼓動はもう聞こえない。
いつも感じている風は、いつもに増して冷たい。
奴……吉良吉影は自分の数キロ先を走っている。
「俺は逃げねぇ……そして奴を逃がしはしねぇ。
まだビビってんのはテメーにだって判ってる……平気なツラしようにも冷や汗が止まらねぇ」
風を冷たく感じるのは、噴き出す冷や汗がそうさせていたのだ。
汗を拭うと自然とアゴを指でいじっていた、それは彼の無意識な恐怖のサインだった。
「だがもう『迷い』は無い」
アゴをいじるのを止め、もう一度汗を拭うと両の手でハンドルを握る。
恐怖しながらも迷いを捨て、怒りの矛先を吉良吉影へ向けて愛車を走らせる。
「……! 高速に入るルートから抜けやがった、どうするつもりだ?」
『ハイウェイ・スター』を通じて吉良吉影の匂いを感じ取る。
右へ……また右へ……また右に……?
三度右に曲がった瞬間、殺人鬼の次の進路に気付く。
「ひっ……左だッッ! 真っ直ぐこっちに突っ込んでくる!」
前方にバイクに乗ったサラリーマンの姿をハッキリとその目で捉えた。
そして自分のスタンドがその男を追跡している姿も。
再び手が震え出し、拭ったばかりの額に汗が滲み出る。
恐怖、怒り、今すぐ逃げ出したいという気持ちと大切な人を守るという使命感が交錯する。
その中に、『迷い』はなかった。
「うおおお―――っ! くたばりやがれぇ―――っっ!」
恐怖を克服できずとも、それに立ち向かう強い意志。彼の心の成長はスタンドにも現れていた。
精密操作は不可能な筈の『ハイウェイ・スター』の右腕を本体、墳上裕也の下へ待機。
残った部位で全方位から吉良吉影を襲撃する。
例え『ハイウェイ・スター』の包囲を掻い潜って接近戦に持ち込まれても、養分を吸っていれば勝機はある。
「やはりな……確かに『キラー・クィーン』だけではこの状況を打破するのは難しい。
だが『運命』は常に私の味方なのだッッ! 『コイツ』が私の手にある事がその証拠ッッ!」
殺人鬼の次なる逃走経路は地面だった。
恐らく爆弾となっているであろう奴のバイクをこちらへ向け、ダメージ覚悟で飛び降りたのだ。
急いで飛び降りながらも吉良吉影へと『ハイウェイ・スター』を差し向ける。
養分を吸いながらなら同じ地面への激突という状況化で優位になれる。
「バイクから身投げしたくらいで逃げれると思うんじゃねーぜっ!吉良吉影―――っ!」
地面を無様に転がる殺人鬼へと『ハイウェイ・スター』の向きを変える。
60キロ以上の車体から飛び降りたからといって60キロ以上の速度で地面を転がる訳が無い。
すぐに追いつき、養分を奪い取る寸前『ハイウェイ・スター』の動きが止まる。
地面に激突した筈の吉良吉影は無傷でこちらを見つめていた、奴は『透明な壁』に包まれていた。
「逃げる……か、どうやって逃げるか考えるのは君の方だと思うがな」
逃げるのは……俺の方?
殺人鬼からの忠告に素直に従い自分の置かれている状況を見渡す。
この直後、彼は自分の窮地に気付くのだがそれを知らせるのは彼の『目』ではなく『耳』だった。
「コッチヲミロォォ……」
激突するバイクに隠れるピンク色の爆弾戦車、吉良吉影の罠はこれだったのだ。
だが進路は墳上とは別の方向へと向かっている。
それも当然である、高温の物を目標に突進し続ける『シアーハートアタック』
彼よりバイクのタイヤやエンジンを標的にするのは至極当然であった。
「い、急いで奴を仕留めねぇとバイクの次は俺が……」
「いや……君は死ぬね。バイクと一緒に」
『シアーハートアタック』が爆発し、バイクが吹き飛ぶ。
バイクの陰で見えなかった、つまり『シアーハートアタック』の位置は自分から見てバイクと反対側。
そこで爆発すると、当然バイクはこちらへ向かって吹き飛んでくる。
自分の愛車も、『キラー・クィーン』で爆弾にされたバイクも……。
「案外、呆気なかったな。そしてスーツの修理費だが……この程度なら裁縫でなんとかなりそうだよ」
バイクの残骸、その下に埋もれる墳上裕也の遺体へと冷たく言い放つ。
親父に前方車両の確認をさせたのは『シアーハートアタック』の標的を自分のバイクに絞るためだった。
飛び降りる際には『ストレイ・キャット』の防御本能を利用した。
天候という不安要素はあったが日が落ちる前に決行したのは正解だった。
「フゥ、山岸由花子の時みたいにヒドい目に遭わずに済んだな…」
スーツの修理費の次はどうやって帰るかを心配する。
だが、彼の悩みはまた増えるだろう。
ペタリ……
この足音が消えない限り。
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