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「天体戦士サンレッド ~召喚!異世界よりの使者(後編)(サマサさま)」(2009/12/02 (水) 19:44:35) の最新版変更点
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「―――はあ。なるほど…ヴァンプの野郎、ロクなことしねーな、全く」
ここはレッドさんの自宅―――正確に言えばレッドさんの彼女・かよ子さんの自宅で、ファラから今回の事の次第
を聞き、しかめっ面になったレッドさんという場面である。
「でもヴァンプさん、とっても優しくていい人だったよ?」
「だから世界征服できねーんだよ。悪の組織のくせして」
「そういう事を言わないの。全く、あんたって酷いんだから」
そう言ってレッドさんをたしなめたのが噂の彼女・もうすぐ三十路のかよ子さん。
全体的にスマートできりっとした容姿、可愛いというより凛々しい大人の女といった印象のしっかり者だ。
だらしないレッドさんを色んな意味で支える出来た女性で職業・保険の外交員。やり手である。
「―――ほら、二人とも終わったわよ」
コタロウは鼻に絆創膏を貼りつけられ、ディランは膝に包帯を巻かれていた。
「ありがとね、かよ子さん!」
「…あ、ありがとう」
元気のいいコタロウと、何故かはにかむディラン。かよ子さんはくすっと笑って、二人の頭をチョンとつつく。
「ケンカはよくないけど、女の子を守るために闘ったのよね。二人とも、かっこいいわよ」
「へへ…ぼくはレッドさんの愛弟子だからね!」
「愛しくねえし弟子にした覚えもねえよ」
レッドさんはすげなく言うが、勿論コタロウは聞いちゃいない。ディランはというと。
「…………」
顔を少し赤くして、膝に巻かれた包帯と、かよ子さんの顔を見つめていた…。
天体戦士サンレッド ~召喚!異世界よりの使者(後編)
かよ子さんは早速ヴァンプ様の携帯(高齢者向けのラクチンホン)に電話していた。
「―――ええ、そうなの。そういう訳でディランくんとファラちゃんはウチで預かってるから…え?いいのいいの、
お礼なんて。ウチの人、いつもヒマしてるだけなんだから。ちょっとはヒーローらしい事もしてくれないと…」
その様子を見ながら、ディランはレッドさんに問う。
「なあ。かよ子さんはレッドさんの…えっと、恋人なんだよな?」
「あ?そうだけど、何だよ。マセた事言ってんじゃねーよ」
「素敵な人だよね…やっぱり女の人って、レッドさんみたいな強い男が好きなのかな?」
「おいおい、急に何言いだすんだよ…ま、確かに弱いよりは強い男の方がいいだろうけどな」
レッドさんはにやりと笑って立派な力瘤を作る。グータラな彼だが、その肉体は非常に逞しいのだ。
「…………」
ディランは色んな意味で羨ましそうにレッドさんを見つめる。ファラは複雑な顔でディランに話しかけた。
「ディラン…もしかして、かよ子さんの事を好きになっちゃったの?」
「な!?何でそうなるんだよ!ただ、素敵だなーって言っただけじゃないか!」
「あー、ディラン!ファラちゃんがいるのに浮気なんて、いっけないんだー!」
コタロウも面白がって話に参加する。ディランはますます顔を真っ赤にした。
「ファラは関係ないだろ!別にボクはファラの事なんか何とも思ってないんだからな!」
「…何とも…思ってない…」
「う…一々泣きそうになるな、バカ!」
「こら、ディラン!またファラちゃんを泣かせたなー!何でキミはそう捻くれて…」
「―――静かにしろ、おいっ!」
ドンッ!とレッドさんがテーブルをぶっ叩く。お子様方はビクッと身を竦ませて黙り込む。
「おめーら、人んちでうるせーんだよ!…いてっ!」
「うるさいのはあんたでしょ。全くもう、そんなに怒鳴る事ないじゃないの」
容赦なくレッドさんのドタマを叩いたかよ子さんは、腕組みしながら説教する。
「いや、だってお前が電話中なのに、大騒ぎするから…」
「それでも正しい叱り方ってものがあるでしょ、全く…とりあえず、ヴァンプさんには連絡入れたから。すぐに迎え
に来てくれるわよ」
「うんうん。それまではウチでゆっくり休んでいってよ」
「コタロウ。お前んちじゃねーだろ、ここは俺んち…」
「あんたのウチでもないでしょ。私のウチよ」
「…………」
黙るしかないレッドさん。彼はかよ子さんには絶対に勝てないのである。
ヒーローの恋人・かよ子さん。ある意味で川崎市最強の女傑であった。
ちょっと気まずい空気の中、ディランが口を開いた。
「あ…あの、かよ子さん」
「どうしたの、ディランくん?」
「かよ子さんは、その…ヴァンプさん達と仲がいいの?」
「え?そうねー。よく料理のお裾分けを貰ったりするし、いいご近所さんよ」
「でも…」
ディランは口ごもりながら、言った。
「でもあいつらは、怪人で…化け物じゃないか…」
「化け物?どこが?」
かよ子さんは、特に糾弾するでもなく、静かに訊ねた。
「どこがって…どう見てもおかしいよ。あんな変な連中…人間じゃない。化け物だ」
「そうね。確かにあの人達は怪人であって、人間じゃないわね」
だけど。
「ヴァンプさん達は、確かに怪人だけど…心はどこにでもいる、お人好しの人間そのものよ」
「心…?」
「そう。心」
かよ子は、優しくそう言い聞かせた。
「だからディランくんも、人の見てくれよりも心をきちんと見れる人になってほしいって…そう思うな」
「かよ子さん…」
その時、玄関のチャイムが鳴り響く。ドアが遠慮がちに開くと、そこには汗びっしょりのヴァンプ将軍がいた。後ろ
にはカーメンマンとメダリオの姿も見える。二人も相当走り回ったのか、息を切らしていた。
「ご…ごめんね、かよ子さん。二人の面倒見てもらっちゃって」
「あら、いいのよヴァンプさん。ディランくんもファラちゃんもお行儀よくしてくれて…」
「あ、そうですか!それはそれは…あれ?もう一人子供がいるけど、もしかしてレッドさんの子じゃあ…」
「んなわけねーだろ!近所に住んでる吸血鬼のコタロウだよ」
「へー。はじめまして、コタロウくん。私、レッドさんと敵対してる悪の組織フロシャイムのヴァンプ将軍だよ」
「うわー、おじさんが悪の将軍!?それじゃあレッドさんとはいつも血で血を洗う死闘を繰り広げてるんだね!」
「いやあ、ははは。それほどでもあるかな、うふふ…」
「ガキ相手に見栄張ってんじゃねえよ!いいから早く小僧とお嬢ちゃんを連れて帰れ!」
「は、はい!それじゃあ帰ろうか、ディランくん、ファラちゃん」
レッドさんの剣幕に、ヴァンプ様は慌てて二人を促す。
「うん。来てくれてありがとうね、ヴァンプさん。レッドさんにかよ子さん、お世話になりました!」
「あの…さよなら。それと、かよ子さん」
元気一杯のファラに対して、ディランは少し口ごもった。
「なあに?ディランくん」
「また…遊びに来てもいいかな?」
かよ子さんはクスっと笑って、ディランの頭を撫でた。ディランは恥ずかしそうにしつつも、されるがままだ。
「いいわよ。いつでもいらっしゃい」
「…うん」
そしてアジトへと帰っていく一行を見送り、かよ子さんはレッドさんとコタロウに目を向ける。
「ほら。あんたはコタロウくんを送っていきなさい」
「え…コタロウをか?俺が?」
「あんた以外に誰がいるの。もうすぐ暗くなっちゃうし、こんな小さな子を一人で帰らす訳にいかないじゃない。以前
も送っていってあげた事あるんでしょ?」
「いや、そうだけど今日はこれから見たい番組あるしよ…それにこいつ吸血鬼だし、夜は平気だと」
そんな抗議を黙殺し、かよ子さんはコタロウに笑顔を向ける。
「コタロウくんはこの人に送ってってもらいたいわよね。ねー?」
「うん!ぼく、レッドさんとまだまだ一緒にお話ししたいなー!」
「んなっ…コタロウ、お前なあ…」
「いいじゃないの。あんたを慕ってくれる子供なんて他にいないんだから、優しくしてあげなさい」
「…………」
結局レッドさんはコタロウの手を引いて、彼の兄と雇い主の待つマンションへと向かう事になるのだった。
「―――それでね。公園でディランとコタロウくんと一緒に遊んで、二人がファラのために悪い人達と闘ってくれて、
レッドさんがとっても強くて、かよ子さんは優しくて素敵だったの」
「へー。そんな事があったんだ」
ファラの手を引き、相槌を打ちながらヴァンプ様は家路を辿る。そのすぐ後ろを歩きながら、ディランは思う。
(この人達は…人間じゃない)
だけど。
(だけど…ボクの知ってる、どんな人間よりも優しい)
―――ディランくんも、人の見てくれよりも心をきちんと見れる人になってほしいって…そう思うな
「ん?どうしたの、ディランくん。あ!もしかして傷が痛むの!?大丈夫?ちょっと休んでいこうか?」
「い、いえ…そうじゃありません。あの…皆さん」
ディランは俯いて、ようやく言葉を紡ぎ出す。
「…迎えに来てくれて、ありがとう」
そして、頭をペコリと下げた。
「それと…化け物だなんて言って、ごめんなさい」
「いいんだよ、もう。ほら、今日は鶏ダンゴ鍋を作るから、早くウチに帰ろう」
ヴァンプ様は照れたように笑って、ディランの小さな手を包むように握る。
ディランもその大きな手を、しっかりと握り返した。
カーメンマンとメダリオも、まあしょうがねーから許してやるか、と言いたげに苦笑するのだった。
―――それからの一週間、二人は神奈川県川崎市・溝ノ口にてたくさんの思い出を作った。
川崎支部の怪人達は、ディランとファラをまるで本当の弟妹のように扱い、二人もそれに素直に甘えた。
公園でコタロウと遊び、そしてその三人でレッドさんとフロシャイムの対決を見学させてもらった。
(※なお、この時のレッドさんは子供達が見ているという事もあって珍しくサービス精神を発揮し、バトルスーツを
着用して対決に臨んだ。そしていつもの十倍はエンターテイメント性溢れる闘い振りを見せて、子供達を大いに
興奮させたのだった。ただし、対決に駆り出された怪人はいつもの十倍ボコボコにされました)
時にはレッドさんの家…もとい、かよ子さんの家でかよ子さんの手料理も御馳走になったりした。味については…
言わぬが花というものだろう。
ファラは彼らとの時間を存分に楽しみ、そしてディランもいつしか、何処にでもいるごく普通の子供のように、屈託
なく笑うようになった。
皆の優しさに触れて、強さに触れて、笑顔に触れて、捻くれた子供だったディランは少しだけ、けれど確かに何か
が変わった。この街に来て、よかった―――彼はそう思った。
けれど。
そんな魔法のような時間も、もうすぐ終わる。
二人には、二人の帰るべき世界があるのだから―――
―――装置の充電も無事に終了し、ついに二人が元の世界<ルーンハイム>へと帰る時がやって来た。
川崎支部アジトにはそれを見送るために大勢の怪人や、すっかり仲良くなったコタロウ、そしてレッドさんとかよ子
さんの姿もあった。
「ファラ、寂しいな…これで皆とお別れなんて…」
「ほらほら、ファラちゃん。やっとおうちに帰れるっていうのに、泣いてどうするの…グスッ…」
ヴァンプ様は泣きそうになっているファラを慰めつつ、自分も貰い泣きしていた。
「お前の顔も見納めかと思うと、ちょっと名残惜しいなー」
「ま、お前も来た時に比べりゃ随分マシになったな。あん時はもう呪ったろかこのガキって思ったもん」
「う、うるさいな!もう謝ったんだから蒸し返すなよ!」
何だかんだですっかり仲良くなったらしいメダリオとカーメンマン、そしてディラン。
「ぼくの事も、忘れないでね!」
別れの悲しさを我慢して、精一杯の笑顔でコタロウが手を振る。ディランとファラも、笑顔で手を振り返した。
「ま、俺もお前らみたいなこまっしゃくれたガキがいたって事は、精々覚えといてやるよ」
レッドさんも憎まれ口を叩きながら、その横顔はどこか寂しげだった。
そして、かよ子さん。
「ディランくん、ファラちゃん。二人とも、いつまでも仲良くね」
「かよ子さん…うん!ファラ、ディランとずっと仲良くする!」
かよ子さんはそれを聞いてにっこり笑い、ファラの頭をそっと撫でる。
「―――かよ子さん!」
そしてディランは、胸の内全てを吐き出すように叫んだ。
「ボク…レッドさんみたいに、誰よりも強い男になるよ!それで…それでかよ子さんみたいな素敵な人を見つけて、
その人と結婚するんだ!」
かよ子さんはその告白に目を丸くしたが、すぐに優しく微笑んだ。
「ありがとう、ディランくん。でもあなたには、探さなくてももういるじゃない」
ファラを指差し、かよ子さんはいたずらっぽくディランに囁く。
「ほら、こんなに素敵なお姫様が」
「う…ち、違う!あいつとは、そんなんじゃ…」
「あら、じゃあファラちゃんの事は嫌いなのかしら?」
「そ、それは…そういう言い方は、ずるいよ…」
「そうね。ごめんね、意地悪な事言って。けど、ディランくん」
ディランの手をそっと握り、かよ子さんは言った。
「あなたが私の事を素敵だって言ってくれたのは、本当に嬉しいわ。ありがとう」
「…かよ子さん」
「元気でね、ディランくん」
「…うん!」
「―――よーし、装置の準備は出来たよ!二人とも、用意はいいかい?」
ヴァンプ様の声に、ディランとファラは顔を見合わせて頷く。名残は尽きないけれど、もう帰らなければならない。
「皆…さよなら!ずっと覚えてるから…絶対、忘れないから!」
―――こうして、神奈川県川崎市での少年と少女の物語は終わりを告げた。
ここからは、彼らの世界でのお話―――
ルーンハイム・セレスティア王国。その城下町では、子供達が和気藹々と遊んでいた。
人間の子供もいれば、翼を持つ民―――<ランカスタ>の子供もいる。
姿かたちの違いなど気にせず、彼等はただ幼い日々を謳歌する。
そんな時、こちらに近づいてくる小さな人影を見つけて、皆一様に眉を顰める。
「…あ。おい、あれ…」
「帝国のディラン皇子じゃないか…」
「何しに来たんだ?」
はっきり言ってあまり印象のいい相手ではない。帝国といえば反ランカスタ思想の象徴であり、その皇子という時点
で普通の子供にとっては取っ付き辛い。向こうの方も、自分達と仲良くする気など毛頭ないような態度を見せていた
ため、これまで同年代の子供達との交流などなかったのだ。
「…あの、さ」
ディランは彼等の前で立ち止まり、やや遠慮がちに口を開いた。
「ボクも…一緒に遊んでもいいかな…」
意外な申し出に、子供達は呆気に取られたように顔を見合わせたが、すぐに笑顔になった。
「いいよ、一緒に遊ぼう!」
それを聞いて、ディランも照れくさそうにしながら子供達の輪の中に入っていった。
「じゃあ、何して遊ぶ?」
「鬼ごっこ?」
「かくれんぼは?」
「うーん。どれもありきたりだよなあ…」
「あ…じゃあボク、やってみたい事があるんだけど」
手を上げてそう言ったディランに、皆の視線が集中する。彼ははたして、この遊びを提案したのだった。
「―――天体戦士サンレッドごっこ!」
―――後日、王国の子供達の間では、この遊びが大流行する事になるのだった。
なお、一番人気はヴァンプ様役であったそうだが、ディランはレッドさん役にこだわりを持っていたという。
時にはその中にファラも加わり、その場合はレッドさん役のディランと一セットでかよ子さん役を演じたそうな。
―――それから、月日は流れ。
ファラは、立派な美少女に成長していた。
「ふふ…ディランったら、まだやってる」
王宮のテラスから、中庭を見下ろす。
「なんというか、その…昔からは信じられないほど変わったな、ディランは…」
ファラの父であるセレスティア国王が、冷汗をかきつつ答えた。
「そうね。でも…」
ファラは、にこやかに笑う。
「ディランは、誰にも恥じることのない―――ルーンハイムのヒーローよ」
「そうか…そうだな。ディランがいなければ、我々はどうなっていたことか」
国王は、それでも何だかなあ、といった顔で、ただ一言、率直に今の心情を語った。
「どうしてこうなった」
そして、当のディランはというと。彼もある意味で立派に成長していた。
「おいテメエ!誰が足を崩していいっつったんだオラァ!膝の皿抜き取るぞコラァ!」
彼は今、王宮の中庭に色んな奴を集めて正座させ、説教をかましていた。
具体的に言うと色々企んでた父親である皇帝やら、どっからどう見ても怪しい宰相やら、一目見ただけで怪しすぎる
三博士やら、色々あってディランを憎んでいた双子の弟やら、洗脳されていたファラの兄貴やら、帝国が誇る二人
の将軍やら、魔界の支配者級魔人三体やら、しまいには世界の破壊を目論んでいた黒き女神やら、原作ゲーム
知らん人でも<よー分からんけどスゲー連中なんだろうなあ>と想像がつくであろうそうそうたるメンツである。
簡単に説明すると帝国は王国への侵略を画策していたり、黒幕は宰相だったり、もうとにかく色々あったんだけれど、
ディランはこいつら全員かるーくワンパンKOして皆まとめて正座させて説教しているのだ。
これもレッドさんの強さに憧れ、それを目指して日々鍛錬していた賜物である。ディランの戦闘力は、もはや本家の
天体戦士サンレッドにも匹敵するほどになっていた。
そう、彼はまさしくルーンハイムを照らす太陽となったのだ。
そして彼の傍には、子供の頃と同じようにファラがいる。何よりも強く自分を支えてくれる、大切な絆が―――
ルーンハイムの平和は、これからも揺らぐことはないだろう。
ディランの胸に、神奈川県川崎市で出会った人々の想いがある限り―――
―――天体戦士サンレッド。
これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語であり、その正義の光は遠い異世界の少年
の心で、今なお輝き続けている。
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