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「天体戦士サンレッド ~悪夢の遊戯!苛烈なる死闘(サマサさま)」(2009/10/13 (火) 21:20:35) の最新版変更点
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とある昼下がり。
正義のヒーロー・天体戦士サンレッドがフロシャイム川崎支部のアジトへ足を運んだ。
そう、彼は遂にフロシャイム殲滅のために動き出した―――はずもなく、単に昼メシをたかりに来ただけである。
そして今日のTシャツは<決闘王>だ。
「おーい、ヴァンプ~…あん?何だよ、いねーのかよ、おい」
サンダルを脱ぎ捨てて、ずかずかと廊下を進む。悪の巣窟へ潜入したヒーローとはもっと緊迫感溢れるものだとは
思うのだが、レッドさんはこういう御方である。御了承下さい。
そんな彼の耳に、居間から楽しそうな声が聞こえてきた。訝しげに覗き込むと、そこには。
「じゃ、私のターンいくよ!<伝説怪人ペリアル>を召喚して攻撃!」
「うわっ、また負けちゃった!」
「ヴァンプ様つえ~!三連勝じゃないっすか」
「いやー。まぐれだって、まぐれ」
何かのカードを手にして遊ぶ、我らが悪の将軍・現在バキスレで最も上司にしたい漢(おとこ)と噂のヴァンプ様と、
彼の配下の怪人達の姿があった。
「…何やってんだ、お前ら」
「あ、レッドさんじゃないですか。こんにちわー」
「挨拶はいいからよ。何だよ、それ」
「これですか?」
ヴァンプ様はニコニコしながらカードを手に取り、レッドに見せつけた。そして悪モードに入る。
「ククク…これこそは我らフロシャイムが開発した最新カードゲーム<バトルクリーチャーズ>!これを大々的に
売り出して、資金源にするつもりだ!恐れ入ったか、サンレッド!フハハハハハ!」
「モロにパクリじゃねーか、アレの」
レッドさんの反応は、いささか冷ややかであった。
天体戦士サンレッド ~悪夢の遊戯!苛烈なる死闘
「大体なあ」
レッドはヴァンプ様お手製のオムライスをパクつきながら、説教を開始する。
「お前ら悪の組織なんだろ?何を真っ当に商売なんかしてんだよ。悪なら悪らしく、金がいるんなら銀行強盗でも
すりゃいいじゃねーか」
「もう、レッドさんったら。いくら<悪の組織>だからって、そういう悪は許されませんよ。警察に捕まっちゃうじゃ
ないですか」
「逮捕されるのを心配する悪の権化なんざ聞いたことねーよ…それでこんなモン開発してりゃ世話ねーな」
「まあまあ、そんなこと言わずに。レッドさんもちょっとやってみませんか?自分で言うのもなんですが、面白い
ですよー、バトクリ。ちなみにパック一つに付き十枚入り、三百円です」
「もう略称付けてんのかよ…」
相変わらずニコニコしながらカードを差し出すヴァンプ様に、レッドはウンザリしつつもそれを受け取った。
「ったく、じゃあちょっとだけだぞ?つまんなかったらさっさと帰るからな」
邪険にしつつも付き合ってあげる辺り、レッドさんも立派なツンデレである。
「じゃ、ルールの説明しながらやりましょうか。カードは大まかに分けると、相手と直接バトルするキャラカードと、
その戦闘を補助するサポートカードがありましてですね…」
「ほーお。それで?」
ヴァンプ様の懇切丁寧な解説により、レッドはバトクリのルールを把握していく。そしてルールが分かれば実際に
やりたくなるのが人情というもので、素っ気なかったレッドも今では興味津々でカードを眺めていた。
「―――と、まあこんな感じですね。とりあえずカードは好きに使ってくださって結構ですんで、実際にデッキを
組んで一勝負してみましょうか」
「おう!…しかしこのカード、どっかで見たような絵柄ばっかだな」
「ええ。フロシャイムから売り出すゲームですから、大概はウチにちなんだ怪人やヒーローで作ってるんです」
「ふーん。おっ?俺のカードもあるじゃねーか。よし、コイツは入れとかねーとな…おっしゃ、早速やろうぜ!」
「はい、それじゃあ始めますよ…<死闘(バトル)>!」
号令と同時に互いにカードを引き、闘いが始まった。激しい攻防が幾度となく繰り返されたが、最後はヴァンプ様
が一日の長を見せて、見事勝利をもぎ取ったのだった。
「あー、チクショウ!もう一回だ、もう一回!」
負けたものの、どこか楽しそうなレッドさん。覚え立てのゲームというのは、勝敗抜きに楽しいものである。
「ははは、いいですとも。何回でもやりましょう」
ヴァンプ様も気軽に答えて、デッキをシャッフルする。こうして何の変哲もない、和やかな時間が流れていった。
―――だが、それもレッドが五連敗を喫した辺りから、風向きが怪しくなってきた。
「え…えーと…私のターン…<カーメンマン>と<メダリオ>で連携攻撃<ツイン・デスアタック>を発動して、
レッドさんのフィールドにいる<天体戦士サンレッド>を攻撃…レッドさんのライフは0で、私の勝ちです…」
勝利宣言しながら血の気が引きまくりのヴァンプ様。対して、青筋をこれでもかと浮かべたレッドさん。
「ちょ、ちょっとヴァンプ様!まずいですよ、ここら辺でレッドを勝たせてあげないと…」
戦闘員1号がヒソヒソと耳打ちするが、ヴァンプ様は青い顔で首を振るばかりだ。
「しょうがないでしょ。さっきわざと負けようとしたら<何手抜きしてんだコラァ!>って怒鳴られたじゃん!」
ドンッ!と机をぶっ叩く音に、フロシャイム一同は身を縮ませる。レッドは幽鬼の如く陰鬱なオーラを出しながら
立ち上がり、ボソっと呟く。
「…帰るわ」
「あ、そ、そうですか!いやー、何のお構いもせずに…」
「いやいや、いいってことよ。それでヴァンプ、次の対決だけどよー、是非そこの二匹で頼むわ」
「お、俺らっすか?」
カーメンマンとメダリオは、冷汗をダラダラ流しながら自分の顔を指差す。
「おう。お前らのツイン・デスアタックっての、どーしても見たくなってなー。俺を問答無用でブチ殺せるすげえ
必殺技なんだろ?楽しみにしてっからな。じゃ、また今度」
ドスドスと威圧感たっぷりの足音を響かせ、レッドさんは帰っていった。残されたフロシャイムの皆様は、異様
に気まずい空気の中、茫然と顔を見合わせる他なかった…。
―――後日の対決において、カーメンマンとメダリオのコンビは、レッドさんにいつもより念入りにボコられたと
いうのは、また別の話である。合掌。
それはさておき、一ヶ月後。バトルクリーチャーズは若者を中心に大流行していた。
その一例として、とあるごく普通の高校の、朝礼前の一幕をお見せしよう。
「へへー。見て見て、カナちゃん」
「どれどれ…うっそー!これ、百パックに一枚の封入率と噂の<ウサコッツ>ラメ入りキラカードじゃん!」
「なに!?おい、ちょっと触らせてくれよ!」
「ダーメ。見るだけだよー」
珍しいカードを手に入れた者は羨望の的となり、ちょっとした英雄気分が味わえる。
「風間、俺と勝負しようぜ!今日はギョウ先輩を中心に<ウザい先輩デッキ>を組んだんだ」
「うん、いいよ。今日の僕は飛行系の怪人を集めた<フロシャイム翼の会デッキ>さ」
実に数千種類と言われるカードの中から、日々新たなデッキを組み、勝負に勤しむ者もいる。
そんな教室の中央で、歓声が上がった。どうやら相当にレベルの高いゲームが繰り広げられているようだ。
「あそこ、盛り上がってるねー」
「ホント。そんなにいい勝負なのかしら…って、アレ、ソースケじゃん!」
<カナちゃん>と呼ばれた女子―――本名・千鳥かなめは、中心にいる鋭い眼光の男子生徒を見て目を丸くした。
彼の名は相良宗介。この学校である意味最も面白い男であり、ぶっちゃけボン太くんの中の人である。
「あいつもバトクリやるんだ…にしても、そんなに上手なの?」
「相良くんはどうか知らないけど、相手の人は隣のクラスの貝馬(かいま)くんだよ。ゲームが物凄く上手くて、
エンペラーって呼ばれてるんだって。バトクリも相当にやってるそうだけど…」
「へえー。あ、ソースケのカードがやられちゃった。こりゃ負けたわねー」
クラス中の注目が集まる中、貝馬は勝ち誇った笑みを浮かべる。
「ワハハハハハ!オレのフィールドには<アントキラー><モギラ><モゲラ>が揃っている!対して貴様の
場にいるのは役立たずの<セミンガ>のみ!貴様はもう終わりだぁぁぁぁぁっ!」
「うわ、テンション高っ!何あれ…」
かなめがドン引きするほどハイテンションの貝馬に対して、宗介は静かに言い放った。
「獲物を前に舌舐めずり…三流のやることだな」
「なに!?」
宗介はデッキからカードを引き、悠然とそのカードを示した。
「俺の引いたカードはサポートカード<脱皮>!これを発動し、<セミンガ>を墓地へ送る!そして俺の手札から
<完全体セミンガ>を召喚!」
「な…<完全体セミンガ>だとぉっ!条件こそ厳しいが、召喚に成功さえすれば他を寄せ付けぬ圧倒的な力を誇る
飛行系怪人最強のレアカード!そんなカードを持っていたのか!」
「このカードにより<セミンガ>はパワーを大幅に上げ、更に飛行能力を得た!対して貴様のフィールドには砂系
怪人のみ!よって<完全体セミンガ>は一方的に貴様を攻撃できる!」
「バカな…!バカなぁぁぁぁぁっ!」
<セミンガ>の直接攻撃により、貝馬くんのライフは0になった。宗介の勝利である。
「―――更に俺は場に伏せておいたサポートカード<サンレッドの説教>を発動!これは相手プレイヤーへの
直接攻撃に成功した時に発動可能で<完全体セミンガ>はもう一度攻撃の権利を得る!」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!」
「更に手札から…」
「いい加減にせんかぁっ!」
スパーン!と後頭部をハリセンで叩かれた。
「もうやめなさい!貝馬くんのライフはもう0よ!」
「痛いぞ、千鳥。戦場において敵の生死の確認を怠れば、後々非常に面倒な事に…」
「あんたが言うと説得力ありすぎだけど、ここは学校であって戦場じゃないっつーの!」
ちなみに貝馬くんは魂を抜かれたように真っ白になっていた。よっぽど敗戦がショックだったらしい。
「全く、あんたってば…それにしても、随分バトクリやり込んでるみたいじゃない。こんなのに興味あったなんて
意外ねー。あんたもそれなりに現代社会に馴染んできたってトコ?」
何気なく宗介のデッキを手に取り、パラパラと眺めるかなめ。次第にその顔が強張ってくる。
「ちょ…これ、レアカードばっかじゃん!各種キラカードに…うわっ!<ムキエビ先輩・天ぷらバージョン>!?
未だ誰も見たことがない、実在すら疑われているという伝説にして幻の!あんた、どんだけハマってんの!?」
「いや…俺も最初はあくまで任務の為に、調査をしているだけのつもりだったんだ。それがいつの間にか、全ての
カードを集めなければ気が済まなくなってきて…気付けば、五百万円ほど浪費してしまった」
「ごひゃくまん!?あ、あんたねえ…」
かなめは呆れ果てていたが、その事実に戦慄したのは当の宗介自身である。
(何という恐ろしい発明をしたんだ、フロシャイムめ…!自らの広報活動と資金の調達、更には敵となり得る者に
対しての、資金面からの攻撃…これら全てを同時に行うとは!俺は…そしてミスリルは、とてつもない相手を敵に
回してしまったのかもしれん…!)
その一方で、彼はこうも思うのだった。
(しかし、それは別として面白いな、これは…今度クルツとマオにも勧めてみよう)
<ミスリル>でバトクリが大流行する日は、そう遠くはなかったという。
―――天体戦士サンレッド。
これは神奈川県川崎市で繰り広げられる、善と悪の壮絶な闘いの物語である!
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