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「遊☆戯☆王 ~超古代決闘神話~ 第四十五話「鎖された心」」(2009/09/11 (金) 10:43:15) の最新版変更点
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―――止まない雨が降りしきる荒野。
「…はっ…はっ…ぜぇっ…」
<狗遣い>の名を与えられた少女は爪先から脳天までズタボロになりながらも、かろうじて立っていた。その足元に
小さな黒い犬。プルー(百八世)―――狗遣いとしての魔力はもはや枯渇し、全力を振り絞ってさえただの仔犬程度
の存在しか産み出せなくなっていた。
「フン…しぶとさだけは褒めてやるが、もう飽きた」
対して海馬は、傷一つ負っていない。彼に寄り添う三体の白龍もまた、疲れた様子も見せずに翼を広げている。
まさに完封―――海馬は完全に、狗遣いを圧倒した。
「オレも先を急ぐのでな。貴様はここで終わりだ」
海馬が一歩踏み出す―――その時、足首に痛みが走った。僅かに顔をしかめ、それを見下ろす。
「…駄犬が」
今や地獄の番犬どころか、ただの番犬の役目さえ務まりそうもない小さな体躯と弱々しい爪牙。そんな脆弱な武器で、
プルーは必死に、海馬に噛みついていた。
ただ、主たる少女を守るために。
「…プルー…もう…よしなさい…」
狗遣いは最後の力で、言葉を絞り出した。
「私が…死んだら…タナトス様の…いうことをよく…きいて…可愛がって…もらう…のよ…」
「…………ちっ」
海馬は鬱陶しげにプルーを蹴り飛ばし、苦々しい顔で少女の脇を通り過ぎる。
「後は勝手にしろ。馬鹿馬鹿しい」
「…わ…私を…殺さないの…?」
勘違いするな。海馬は無愛想にそう言った。
「よくよく考えれば、わざわざ止めを刺す理由もない…貴様らなど、オレが手を下す価値もないということだ」
「…この…嘘吐き」
「フン。ならば最後に大嘘を吐いてやる―――オレはこれでも女子供には優しい男だ。女の上に子供でよかったな。
そしてその駄犬の、主人を守ろうとした心意気に免じて、命だけは助けてやる―――こう言えば満足か?」
「はっ…キザったらしいこと…言ってんじゃねーですわ…惚れますわよ、この…児童愛好者…」
海馬は返事もせず、歩み続ける。その後姿を見送る少女と仔犬にも、もう目も向けない。
この荒野の出来事は彼にとって、今でもう過去の遺物(もの)。
彼の目指すは、未来に待ち受ける闘いと、その先にある勝利のみ。
それを手にする時まで―――その歩みは、止まらない。
海馬瀬人―――完全勝利。
―――そこはつい先程まで、木々が茂り、花が咲き乱れる一面の緑だった。
だが今は、草木一本生えない―――否。そんな次元でなく、全てが根こそぎ消え失せていた。
現存するのは、男と女が一人ずつ。
男は全身傷だらけで、肩で息をしながらも両の足で立ち。
女は刃の砕けた鎌を握り締めたまま、倒れ伏していた。
「…全く、我ながらよく勝てたもんだぜ。どうやって闘ったのか、如何にして勝ったのか、まるで記憶にねえ」
オリオンは嘆息しながら、懐から何かを取り出す。
「一つだけ覚えてるのは…こいつのおかげで助かったことだけだな」
それは遊戯から貰い受けた、一枚のカード。ビリビリに破れて原型を留めていない、単なる紙屑にしか見えないその
たった一枚のカードが、まさにオリオンの命を救ったのだ。
「…そんな…」
収穫者の名を持つ彼女は、愕然と呟く。
「そんな紙切れで…私の鎌を防いだというの…?どうやって…」
「いや、どうやったのかは俺も覚えちゃいないから説明できねえけど…ま、あれだ。俺の勝因はただ一つ―――」
親指を立てて、不敵に笑う。
「友情パワーさ、お姉さん」
「ゆう…じょう…」
「陳腐だけどな―――だからこそ、悪かねえ」
「そんなもの…これが小説なら…最低の精神論だと酷評されるわよ…」
「だって、勝たなきゃ仲間を助けられねえんだからな」
オリオンは、最高に明るい笑顔で答える。
「最低呼ばわり、それも結構だ―――じゃあな」
颯爽と、オリオンは歩き出す。
数々の死亡フラグをへし折り、未来へと続く道を見出した彼に、もはや畏れはない。
彼もまた、最後の闘いが待ち受ける場所へと―――
オリオン―――勝利。
―――冥王神殿入口前。
二人の男が大の字になって寝そべっていた。全裸で。
「ふっ…レオンティウス。貴様の雷槍、凄まじい一撃だった」
「ああ。二度と血便以外のものが出ないようにしてやるくらいのつもりだったよ」
大の男が二人、全裸で何の話をしているのか、分からない人は分からないままの方が幸せである。
「惜しむらくは、俺の奥義<緋色の風車>を貴様に味わわせてやれなかったことだな…」
「ほう…ならそれは次の楽しみとして取っておこう」
「言ってくれる。その時には入れようと思えば大根でも入るのだという事実を教えてやろう」
「残念だったな。もう試したことがある」
「そうか…流石だな、レオンティウス。感想は?」
「もう二度と便秘に悩まされることはないだろうな、と思った」
二人は顔を見合わせ、にっと太い笑みを浮かべた。そしてレオンティウスは立ち上がる。全裸で。
「行くのか」
「ああ…友と、弟が待っている」
「そうか」
寝転がったまま、緋色の騎士は親指を立てる。
「またいつか、や ら な い か」
レオンティウスもまた、親指を立てる。
「ああ、や ろ う」
こうして、二人の漢(おとこ)の闘いはくそみそな結果に終わったのだった。
―――冥王神殿・内部。
「なんつーか…その…なんつったらいいのかな…」
城之内は、なんとも微妙な顔だった。ちなみに、無傷である。
眼前には、倒れ伏す黒の双子。二人とも涙目で、グズグズと啜り泣きの声だけが響く。
「なんなんだ…勝ったってのに、この肩透かしというか、ガッカリ感は…」
結論から言うと、この二人、とんでもなく弱かった。可哀想になるくらい、弱かったのである。最後の方はカードを使う
ことすら申し訳なくなって素手でやってみたが、それでもこの有様だ。
敵と闘っているというより、児童虐待をしている気分ですらあった。
「し…仕方ないだろうが。我々は闘いよりも、タナトス様の身の回りの世話の方が専門なんだ…」
「し…仕方ないだろうが。我々は闘いよりも、タナトス様の身の回りの世話の方が専門なんだ…」
「具体的には料理とか掃除とか、あと、タナトス様が退屈なされた時には骸骨と一緒に踊ったりとか」
「具体的には料理とか掃除とか、あと、タナトス様が退屈なされた時には骸骨と一緒に踊ったりとか」
「骸骨Aなんて、物凄いノリノリなんだぞ…」
「骸骨Bだって、物凄いノリノリなんだぞ…」
「見たくねえな、それ。しかし、だったら番人まで兼任すんなよ…」
「貴様に何が分かる」
「貴様に何が分かる」
黒い兄妹は、涙目のまま城之内を睨み付けた。
「我々はタナトス様の僕(しもべ)だ…主のために死ぬ覚悟で敵と闘うことの、何が悪い」
「我々はタナトス様の僕(しもべ)だ…主のために死ぬ覚悟で敵と闘うことの、何が悪い」
「…あー、その、なんだ。オレが言うこっちゃねーだろうけどよ…」
城之内は頭をポリポリしながら苦笑する。
「そこまでして、忠義を尽くしてくれる相手がいるってのはよ…タナトスの野郎にしても、幸せだとは思うぜ」
「…本当に、そう思うか?」
「…本当に、そう思うか?」
「ああ。だから、まあ…気を落とすなよ」
「…………」
「…………」
「あばよ。オレは行くぜ」
「…待て。最後に一つだけ、言いたいことがある」
「…待て。最後に一つだけ、言いたいことがある」
「何だよ」
「お前達にしてみれば、タナトス様は只の敵なんだろう…あの方はそれだけのことをしたんだろう。それでも」
「お前達にしてみれば、タナトス様は只の敵なんだろう…あの方はそれだけのことをしたんだろう。それでも」
「あの方を、好きになれとまでは言わない。でも、どうか嫌わないでくれ。憎まないでくれ」
「あの方を、好きになれとまでは言わない。でも、どうか嫌わないでくれ。憎まないでくれ」
「…………」
「タナトス様は、人間を本当に愛しておられる…その愛する対象に憎まれるということが、どれだけ辛いか」
「タナトス様は、人間を本当に愛しておられる…その愛する対象に憎まれるということが、どれだけ辛いか」
「どうか、分かってくれ…人間」
「どうか、分かってくれ…人間」
「…ったく。てめーらみたいなガキに、ここまで気を遣わせやがって」
城之内は二人に背を向け、歩き出す。
「あいつには、落とし前はきっちりつけさせる。オレの態度はその時に決めさせてもらうぜ」
城之内克也―――彼も今、最終決戦へ。
―――そして。冥王・タナトス。
荒れ果て、腐り落ちた大地と真っ赤に染まった空の元で、永遠たる神と死すべき運命を背負う人間は向い合う。
「用件ハ…訊クマデモナィネ」
タナトスは指を一つ立てる。
「エレフヲ取リ戻ス事―――先モ言ッタ通リ、其レハ出来ナィ」
もう一つ、指を立てた。
「二ツ目。遊戯…キミノ片割レ」
タナトスが空いた方の手で宙に手を翳すと、ドス黒い光が渦巻きながら世界を暗く照らし出す。やがて黒き光は集束
し、球体を成した。人の頭ほどの大きさの、黒く輝く水晶―――その中に、それは存在していた。
千年パズル―――闇より産まれし禁断の祭器にして、もう一人の遊戯が宿る墓標。
黒水晶はふわふわ漂いながら、ゆっくりと遊戯の元へやって来る。反射的に手を伸ばした遊戯はそれに触れた瞬間、
全身に無数の針を突き立てられたかのような苦痛に苛まれ、呻きながら手を離してしまう。
「其レハ我ガ封印サセテモラッタ…最早触レル事モ叶ワナィ」
「くっ…!」
「三ツ目」
指を、もう一つ―――
「地上ノ人間達ヲ殺メル事ヲ、止メニ来タ…シカシ、其レモ却下ダ」
どこまでも穏やかな声で、死神は全てを否定した。
「どうして…」
ミーシャは、声を震わせてタナトスを見つめる。
「どうしてこんなことをするの…タナトス!あなたは…そんなにも人間が憎いの!?」
その言葉に、タナトスは目を大きく開いた。何を言われているのか分からない―――そんな様子だった。
「女神ガ人間ヲ愛デルヨゥニ、我モ人間ヲ愛シティル。憎ムナド、トンデモナィ」
「なら、何故…人間の命を奪うの!?」
「其レコソガ我ノ愛ダヨ、星女神ノ巫女・アルテミシア」
タナトスは物思いに耽るように、そっと目を閉じた。
「儚キ命ヲ紡グ仔等―――聖女モ娼婦モ賢者モ愚者モ勇者モ弱者モ、生ケトシ生ケル全テ、我ハ愛スル。ケレド、
生キルトハ、辛ク悲シキコト…」
タナトスは、切なげに表情を曇らせる。
「何ガキミノ幸セ?何ヲシテ喜ブ?何ノ為ニ産マレタ?何ヲシテ生キルノカ?何モ分カラズ、何モ答ェラレズニ、唯
キミ達ハ運命ニ弄バレル。夢ヲ忘レ、涙ヲ零スバカリデ何処ニモ往ケナィ。時ハ無慈悲ニモ早ク過ギ去リ、光ル星
モ消ェ逝クガ運命(サダメ)。ソンナノハ嫌ダロ?」
遊戯とミーシャは、言葉もない。タナトスの語るそれは極論ではあったものの、確かに真実を言い当てていたのだ。
逃れようのない、残酷な真実を。
「サレド女神ハ奪ィ続ケル。例ェバ母カラ赤子ヲ。騎士カラ片腕ヲ。妹カラ兄ヲ。少女カラ光ヲ。少年カラ初恋ヲ。
彫刻家カラ妻ヲ。姉カラ弟ヲ。令嬢カラ愛ヲ―――
其ノ悲劇ハ、如何ナル賢者モ止メラレナィ。母ガドレダケ仔ノ幸セヲ願ォゥトモ、女神ハ其レヲ叶ェハシナィ―――
嗚呼、ナラバ生マレテ来ル前ニ死ンデ逝ク仔等ハ、ドンナニ幸セナ事ダロゥネ…」
「…………」
死の神は語り続ける。血に塗れ、死に塗れ、それでいて救いに塗れた幸福論を。
「嗚呼、悲シキ哉、人生。死シタ方ガ救ィトナル者達ノ、ナント多キコトカ。ナラバコソ我ハ、其ノ苦シミカラ救ゥタメニ
仔等ヲ殺メ続ケヨゥ…」
「そうか…つまり、死にたがっている人間を、あなたが自ら殺すことで救う…そういうことか」
カストルの話では、変死した者達は皆、何故か安らかな死に顔だったという。
その理由が、これで分かった。
彼らは望む通りに死ねたから、救われたから―――
「其ノタメニハ、我ノ器トナル者ガ必要ダッタ。器ナクテハ、我ハ現世ニ直接干渉シテ人ヲ殺メルコトハ出来ヌ。
ダガ肉ノ器ヲ得レバ、我ガ直接現世ニ顕現シ、多クノ苦シム仔等ヲ救ェルノダ」
「其レダケガ、我ガ―――<冥王>タナトスガ人間ニ与ェル事ガ出来ル、唯一ツノ救ィ」
「違う…」
遊戯はタナトスを睨み付けた。
「そんな救いなんて―――本当の救いじゃない!辛くとも…人は、生きていくべきなんだ!」
「遊戯。キミノ意見ハ否定シナィヨ―――ダガ、其レヲ参考ニスル心算(ツモリ)ハナィ」
ソシテ。
「キミ達ノ力デハ、我ヲ止メル事ハ出来ナィ。其レモ解ッティル筈ダヨ」
「…………」
「敢ェテ可能性ヲ挙ゲルナラ、キミノ片割レデァル古ノ王(ファラオ)ダロゥガ…彼ハ今ヤ我ガ封印ニヨリ、永劫ノ
眠リニ付ィタ。我ヲ倒ス事ハ、最早誰ニモ出来ナィ」
「…今…もう一人のボクなら可能性はあるって…そう、言ったね」
「零デハナィヨ。其レハ認メヨゥ。ソゥ高ィ可能性デモナィダロゥケドネ」
「そうか。だったら―――やっぱりここは、もう一人のボクに頼るしかないか」
遊戯はそう言うが早いか、黒水晶に再び手を触れる。今度の苦痛は、全身を焼かれるような熱さだった。遊戯は
悲鳴を上げて、弾かれるように倒れ込む。
「…っ!」
咳込みながら立ち上がり、更に手を伸ばした。
「うあああああっ!」
巨大な万力で全身を押し潰されるような感覚が襲いかかり、その場に崩れ落ちる。
「遊戯!もうやめて…このままじゃ、あなたが…」
「…大丈夫、だよ。このくらい…まるで、痛くない」
駆け寄ろうとするミーシャを手で制して、遊戯は再び立ち上がった。そして、また繰り返される地獄の苦痛。
「…無駄ナ事ダ。止メハシナィガ、其レ以上ヤレバ、本当ニ死ヌゾ」
「それでも…構わない」
遊戯は崩れ落ちかけた身体に鞭打ち、歯を食いしばる。
「その人のために死ねないのなら―――ボクはそれを、友達なんて呼ばない」
「美シィネ。ダケド正シクハナィ。ソンナ乱暴ナ意見ヲ受ケ入レテクレル者ナド、数ェル程モィナィト思ゥヨ」
「正しくなんてなくていい…美しくすらなくてもいい。だけどボクは…それが友達なんだって、思うんだ」
「…分カラナィ。何故キミハ其処マデ出来ルンダ?モゥ一人ノ自分トハ言ゥガ、彼ハキミトハ違ゥ存在ダ」
現代に生きる少年―――武藤遊戯。そして、古き世界に生きていた王―――
「彼モマタ、我ト違ワナィ。我ハエレフノ肉体ヲ借リテ、古ノ王ハキミノ肉体ヲ借リティル。本来、其レダケノ関係デハ
ナィノカ?彼ニ対シテ、其処マデノ義理ハナィト思ゥガ」
「同じじゃない…もう一人のボクと、あなたは…まるで違うよ」
「…?」
「彼がいたから…一人ぼっちのボクに、たくさんの友達が出来た。彼がいてくれたから―――どうしようもない弱虫
だったボクは、少しだけ強くなれたんだ。彼がいなかったら…今のボクは、何処にもいない」
「…ケレド、彼ノ居場所ハ現世ニハナィ。彼ハ本来、既ニ失ワレタ存在ダ。其ノ魂ガ眠ルベキハ、冥府ニシカナィ」
「居場所なら、あるさ」
千年パズルを鎖す黒水晶を、遊戯は両手でしっかりと掴んだ。先程までに倍する痛みと苦しみに、正直な話死ぬ
かと思った。しかし、遊戯は手を離さない。
「…呑気に寝てる場合じゃ、ないだろ…もう一人のボク…」
遊戯は息も絶え絶えに語りかける。
「今ここで<待ってましたっ!>って登場するなら…どう考えたってキミ以外いないじゃないか…!」
言葉に出来ないほどの闘いを共に駆け抜けてきた、誰でもない、もう一人の自分。
どんなピンチも、どんな窮地も、彼は鮮やかに切り抜けてみせた。
自分なんかより―――もっと、ずっと、主人公気質を備えた男だ。
「そのキミが…最後の最後で出てこないなんて、誰だって…ボクだって納得しない…!だから…」
「―――いつまでそんな所にいるんだ!キミの居場所なら、ちゃんとあるじゃないか!城之内くんや杏子、本田
くんや獏良くんに御伽くんにジイちゃんや…そうだ、舞さんや静香ちゃんだっている!海馬くんだって!それに、
オリオンやミーシャさんやレオンさんも!そして…ボクがいる!皆の隣が―――今、キミがいるべき場所だ!」
ピシッ―――
「何…!?」
タナトスが、彼に珍しく狼狽する。その眼前で、黒水晶に亀裂が走っていく。
「バカナ…我ノ封印ヲ破ロゥトシティルノカ!」
パキッ―――パキッ―――
「ソンナ、奇跡ガ…!」
「奇跡じゃない」
ミーシャは、タナトスの言葉を一蹴した。
「奇跡じゃないわ…友情よ」
「リ…理屈ニモ答ェニモナッティナィジャナィカ…!」
パリン―――
黒水晶が砕け散り、欠片が煌きながら風に流されていく。そして遊戯は両の手で、しっかりと握り締めていた。
千年パズルを。掛け替えのない友を。取り零すことなく、その手に。
「理屈も答えもいらないさ、タナトス。ただ、あいつの声が、オレを覚醒(めざ)めさせてくれたんだ」
「…………!」
偉大なる神々の一柱に相対するには余りにも不敵な笑みで。
死そのものたる存在に相対するには余りにも不遜な態度で。
彼はその鋭い眼光でタナトスを射抜いた。
―――闇遊戯、復活。
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