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「遊☆戯☆王 ~超古代決闘神話~ 第四十二話「In The World Of Rain」」(2009/06/29 (月) 20:14:39) の最新版変更点
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荒涼とした大地に降りしきる、土砂降りの雨。歩く度にバシャバシャと水溜りが泥を跳ね上げる。
「あの仮面オヤジ、ここを真っすぐ突っ切ればタナトスの所に行けるっつってたな。しかし…」
城之内は苦い顔で天を仰ぎ、忌々しげに舌打ちする。
「ったくよぉ…何だって雨なんて降ってんだ。ここは地下だろ?おかしくね?」
「冥府は死神・タナトスが支配する神域。我々の常識が通用する世界ではないということだ」
「まあ、居心地の良さなんざ期待してなかったけど。何も雨を降らすことはなかろうに…」
オリオンも雨に濡れた髪を鬱陶しがり、顔をしかめる。ふと、横にいる遊戯を見た。
「なあ、遊戯…お前、その髪型さ」
「え、どうかした?」
「この雨の中でも全然形が崩れてねえけど…何か、秘訣でもあんのか?」
「うーん、別に何もしてないけど…言われてみれば、ボクは何でこの髪型なんだろ…?」
その大人しいキャラクターに似合わぬ、ロックを感じさせる髪型。オリオンは何となく指先でそれをつついてみた。
「いてっ!」
鋭い痛み。指先には血が滲む小さな傷。オリオンは身震いした。
「お前の髪は鋼鉄製か…!?」
愕然としたオリオンは、これ以降遊戯の髪型について詮索するのは止めにした。世の中知らない方が幸せな事だって
あるのだ。
「ねえ、あそこ!誰かいるみたいよ」
ミーシャが指差した先には、巨大な岩山があった。よく目を凝らすと、黒々と不気味に聳え立つその岩山を背にして
何者かが立っているのが分かった。背格好からして、まだ幼い少女のようだった。
「こんなとこにいるくらいなら、ただの女の子ってわけはねえな…」
「あの仮面の人が言ってた、冥府の番人ってやつかな?」
そうこう言っている間にも、少女との距離は縮まっていく。やがて、その姿まではっきり判別できるようになった。
激しい雨に打たれ、全身がずぶ濡れになっているのにもまるで頓着せず、少女は遊戯達を見ていた。蒼く澄んだ宝石
のように美麗な瞳が妖しく輝く。そして口元に浮かぶのは、少女らしからぬ不敵な笑み。
「うふ…まさかのまさか、ここまで堂々と冥府に乗り込んでくる方々がいるなんて。まじパネェですわね。トラブルと遊ぶ
ヤンチャ・ボーイにも程がありますわよ?」
人を喰ったような口調で、少女が服の裾を摘み上げて頭を下げた。
「こんにちは、はじめまして―――では早速ですが自己紹介といきましょうか?私は冥府の番人が一人<狗遣い>。
笑顔が可愛いオチャメ・ガールですわ」
にっこりと微笑む<狗遣い>と名乗る少女。確かにオチャメっぽかった。
「狗遣い?…狗って、どこにもそんなんいねーじゃん」
「え?いるじゃないですか、ほら…あなたの目の前に。うふふ…」
少女は手にした赤い革紐をひらひらさせるが、その先には岩山しかない。どうにも会話が噛み合わない感じだった。
コホン、とレオンティウスが咳払いして、少女に語りかける。
「我々は冥王タナトスに会いに来たのだ…どうか、通してはくれないか?」
「いいですわよ」
「いいのか!?」
但し、と少女は不遜に言い放つ。
「この私を倒せたらの話ですけれどね!」
「よかろう!ハァッ!」
「あべしっ!」
レオンティウス渾身の右ストレートが決まり、少女は世紀末のモヒカンの如き悲鳴を上げて倒れ伏した。これが一般
男性なら相手が可愛い女の子ということで躊躇する所だが、彼は特殊な性癖の持ち主なのでまるで頓着しなかった。
「さあ、敵は斃れた。行くぞ皆!」
「って、待ちなさい!いきなりこんないたいけな女の子の顔面をぶん殴る男がいますか!?」
飛び起きて鼻血を垂らしつつ抗議する少女に対し、レオンティウスは堂々とかました。
「このレオンティウス、女を貫く槍は持ってはおらんが、女を殴る拳なら持っている」
「ナチュラルにサイテーなヤローですわ!」
「いや、戦場に立つ以上は相手が少女だからと手加減する方が無礼かと思ったのだが…むしろ殴るだけで済ますとは
我ながらなんと紳士的なのかと感動すらしたのだが」
「私の名前を聞いていなかったんですの!?<狗遣い>というからには、本人じゃなくてしもべ的な何かが闘うんだと
想像がつくでしょうが!」
「あ、でもそういうタイプの敵と闘うには先に本体を叩くってのはセオリーだよね。だからレオンさんの行動もあながち
間違いじゃないんじゃ?」
「でも遊戯。それはしもべ的な何かが出てきてからの話だから、いきなり本体をぶっ飛ばすのは何か違うんじゃない
かしら?」
「そうだな。やっぱ今のはちょっと卑怯だぜ」
「だよな」
「いつまで馬鹿馬鹿しい議論してやがりますの!?私はあなた方と面白くもないコントをしに来たのではありません
―――侵入者であるあなた方をぶっ殺しに来たのですよ!」
「分かったよ…じゃあさっさとやろうぜ。冥府の番人っていっても仮面オヤジと同格だろ?なら大したことねーよ」
完全にやる気が氷点下にまで落ち込んだ城之内の言葉に対し、少女は小馬鹿にするように鼻を鳴らした。
「ふふ…甘いですわね。少年(ギャルソン)の体液よりも仄甘いですわ!私と彼とでは、ワニとネズミほどの力の差
があるのですわよ!」
「それ、最終決戦前の今の状況じゃ大して変わんねーだろ…」
某勇者の大冒険的に考えて。しかし少女はニヤリと口元を歪めた。
「そんな風に言ってられるのも今のうちですわ。さあ、おいでなさい。私の可愛い妹―――<プルー>!」
その声に応えるように、何処からか獰猛な唸り声が響く。だがそれは、一向に姿を見せない。
「な、何だよ…何も起こらねーじゃん」
「うふ…まだ分かりませんか?もうプルーは、皆様の前にいるじゃありませんか…」
「なに…?そんなの、何処にも」
と、言いかけて城之内は気付いた。続いて、遊戯達も思い至る。
<それ>は自分達の前に、最初から堂々と姿を現していた。ただ、気付かなかったのだ。
その途方もないスケール故に。
「ああ、やっと御理解頂けましたか?どうです、可愛いでしょう?」
少女が背にしているそれは―――岩山などではなかった。
何故なら、岩山にあんな手足は生えているわけがない。
あんな立派な黒銀の毛並みなんて、岩山には備わっているわけがない。
あんな凶悪な面構えをした三つの首なんて―――岩山どころか、この世のどんな生物にも当てはまらない!
少女はそれを妹と称したが、小さな姉と大きな妹―――そんな可愛らしいレベルではない!
それは妹と呼ぶには―――余りにも巨大すぎる!
黒銀の毛並みと三つの首―――そして戦艦級の巨体を持つ狗!
「<ケルベロス>か…!」
レオンティウスが戦慄を込めて、眼前の脅威を見据える。
「け、ケル…?なんだって?知ってるのかよ、レオン!」
「地獄の番犬と呼ばれている、伝説の怪物だ…三つの首を持つ、巨大な狗。冥府への侵入者を容赦なく喰い殺す
とされている。まさか、実在していたとはな…」
出典・冥王書房<冥府の不思議な生き物>より(大嘘)。
「よく知っておいでで。そう―――このプルーこそはケルベロス…即ち冥府のゆるキャラですわ!」
「そんな暴力の権化みてーなゆるキャラがいてたまるか!和み要素の欠片もねえよ!」
「あら、失礼ですわね。こんなに可愛いワンちゃんなのに…ほらほら、喉を鳴らして甘えんぼだこと」
超弩級の巨大狗はクンクン鼻を鳴らし、ベロベロと三本の舌で少女の顔面を舐め回す。サイズが普通であれば、
確かに微笑ましい光景ではあっただろう。
「でもそこの方が仰った通り、プルーは侵入者を見れば喰い殺すように躾けられていますの…さっさとお喰われに
なりやがってくださいませ!」
三つ並んだ口から迸る咆哮。足踏みだけで大地が揺らぎ、炎を纏う吐息が天を焦がす。
「教育して差し上げますわ…狗こそが歴史的・科学的・生物学的に見て最強の生命体であるという事実を!」
そんな事実は何処にもなかったが、少女が堂々と言い放ったその時だった。
何処からともなく放たれた三条の光線が、三つ首を木っ端微塵に破壊し、巨大狗は盛大な地響きを立てつつその
身を地に横たわらせる。顔面は当然ながら、跡形もなく吹き飛んでいた。
「ぷ、ぷ、ぷ…プルゥゥゥゥゥーーーーーっ!」
少女が絶叫し、死した狗の腹に顔を埋めて泣き叫ぶ。その背中に、冷徹な声が投げかけられた。
「フン!同じ三つ首ならば、狗が竜に敵うはずがなかろう…」
王者たる者としての絶対の自信と威厳に満ち溢れたその声。それが誰なのか、もはや振り向くまでもない。
豪雨の中でさえ全く形の崩れない白いコート。その背に寄り添う三体の龍もまた純白。
かつて<白龍皇帝>を名乗り、<紫眼の狼>と共にこの世界に戦乱を巻き起こした男―――海馬瀬人!
「やっぱ生きてやがったか、あいつ…」
城之内が複雑な顔で呟く。その表情は厄介な時に厄介な奴が来やがったと雄弁に物語っていた。海馬は海馬で、
遊戯の首に千年パズルがないのを見て取り、おおよその事情は察したようだ。
<あの間抜けめ>と言いたげに鼻を鳴らしていた。
「あの男が、海馬か…」
海馬の素顔を見るのはこれが初めてのレオンティウスは、彼の姿をまじまじと見つめる。
「な、なんていい男なんだ…」
「そのネタはもう勘弁してくれ…で、お前さんは何だってまたこんなとこに来たんだよ?まさか今さら俺達の仲間に
なりますとか、寝惚けたこと言うつもりじゃねーだろうな?」
明らかに不信感丸出しのオリオンに対し、海馬は嘲るように口の端を吊り上げた。
「フン…まさに寝言だな。確かにオレはタナトスを倒しに来たが、貴様らと馴れ合うつもりなどない。このオレを侮辱
してくれたタナトスとやらをこの手でブチのめさなければオレの気がすまんだけだ!」
そして海馬は、断固とした決意と共に言い放つ。
「貴様らの力など借りん―――奪われた魂(プライド)は、我が手で取り戻す!」
「うふ…うふふ…くすくす…いきなり出てきて、随分と勝手なことをほざいてくれやがるじゃないですの…」
少女がゆらりと顔を上げる。激しい怒りが、蒼い瞳を満たしていた。
「私の可愛いプルーをこんな目に遭わせやがって…絶対に赦しませんわよこのチ○ポ頭が!じわじわ嬲り殺しに
してくれやがりますわ!」
そして少女は冷たくなった狗の腹を、自らの手でぶち抜いた。そしてその胎内から取り出したのは、仔犬。三つ首と
黒銀の毛並みを持つそれを、少女は小さな掌に乗せた。そして、返り血がこびり付いた顔で笑う。
「さあ。繰り返される朝と夜のように、再び巡り来るのよ…プルー!」
少女から放たれる魔力が仔犬を包む。合計六つの瞳が大きく見開かれた。次の瞬間、仔犬は少女の手を離れて
大地に降り立つ。同時にその小さな身体が膨張を始めた。牙が一瞬にして生え揃い、四肢は逞しく発達する。少女
の掌に乗るほど小さかった身体は、既に母親と同じく山のような巨体と化していた。
「うふ…プルーは不死身。私の魔力が枯渇しない限り、何度でも黄泉返ることができるのですわ!」
「くそっ!やっぱあのまま終わりとはいかなかったか!」
城之内は舌打ちして海馬に向き直る。
「おい海馬!ここはテメエと揉めてる場合じゃねえ…一緒に切り抜けるぞ!」
対して海馬は何も答えない。ただ悠然と前へ歩み出るだけだ。
「お、おい…」
「フン…貴様らと今さら肩を並べて冥府観光などゴメンだ。さっさと先に進むんだな」
「海馬くん…」
「勘違いするな、遊戯。もう一人の遊戯がいない今、貴様らなど足手纏いなだけだからな…役立たず共は精々オレ
の往く栄光のロードの露払いでもしてくるがいい」
海馬はそう言い捨てて、狗遣いの少女に向き直る。
「オレはそれまでこの小娘と、遊んでやるとしよう」
「言ってくれますわね、この―――ノーテンピーカンヤローがぁっ!」
怒号と共に襲いかかるプルー(二世)。三体のブルーアイズはそれぞれバラバラに動き、撹乱する。
「ちっ…捻くれモンが!あいつの言い草は気に入らねえけど、ここは任せて俺達は先に進もうぜ!」
「うん。表現は最悪だったけど<ここはオレに任せて先に行け>って言ってくれてるんだしね」
遊戯達はその場に海馬を残し、駆け出す―――その時、ミーシャと海馬の目が合った。
海馬の鋭い眼光から、ミーシャは目を逸らさない。ただ、真っすぐに見つめ返した。
「フッ…あの島で泣き喚いていた頃に比べれば、そこそこいい目になったな」
海馬は小さく笑った。そこにはほんの少しだけ、ミーシャを認める響きがあったのかもしれない。
「この闘いを生き延びたならば、仔ネズミからモルモットに昇格させてやる!」
「…………」
釈然としないながらも、ミーシャは再び走り出した。
「お友達とのお別れは済ませましたの?だったら今度は…この世とさよならしやがれですわ!」
「違うな。奴らは友などではない。奴らは―――オレが認めた強敵(ライバル)だ」
少女の罵声に対し、海馬は事もなげに答えた。
「そして貴様は、ただの踏み台にすぎん」
同時に、爆音。ブルーアイズ三体による一斉攻撃が、プルー(二世)を木っ端微塵にした音だった。
「まーたやってくれちゃいまして…あなただけは絶対に確実に迅速に的確に必然に天地開闢以来誰も経験したこと
がないほど惨めったらしい最期を迎えさせてあげますわ!」
魔力の暴発と同時に肉片が集まり、瞬時に再生。プルー(三世)が牙を剥き出し、襲いかかる―――
永く激しい闘いはまだ、始まったばかりだった。
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