呉越同舟と人理演算天球図
「天宮あやめ。」
「・・・なんだい。」
「私は、君が嫌いだ。」
昼の光に照らされた理科室というのは、あるいはこの二人にとって全くそぐわない場所であるのかもしれなかった。
彼女らが語り合うべきはもっと暗い場所で、もっと狭い場所で、もっと殺伐とあるべきなのだろう。
今回あやめが喪乃死離を頼りに来たのは、ハルマゲドン新参のリーダーである彼女に参戦したい旨を伝えるためである。
「申し訳ない。知っていて頼みに来たんだ。」
あやめが答えるも、喪乃死離は退屈そうにビーカーを揺らしている。
「君が私に頼りに来た理由を当ててやろうか」
「・・・」
「誉明依が攫われた」
「・・・どうしてそれを・・・!」
よもや貴様が、と身構えたあやめであるが、どうやら事実は違うようで、喪乃死離は軽くあやめを手で制すとため息をひとつついて言った。
「こちらも同じだよ。菅野隻像が拉致されてしまってね。」
菅野隻像と喪乃死離藻乃美は恋仲であった。
そもそも天宮あやめと喪乃死離藻乃美が不仲なのは、喪乃死離と菅野が開いたとあるパーティーでの揉め事が原因なのだが、ここでは割愛する。
喪乃死離はもう一度、ため息をつくと言った。
「私の毒薬を使ってしまうと私はハルマゲドンに生き残れない。私は菅野の命はもう奴らに奪われてないものだと思っているのだが」
あやめは目を見開いた。何よりもこのプライドの高い女が自分の能力の弱点を晒したことが信じがたかったのだ。
「生きているかもしれない、という思いが捨てきれなくてね。・・・私が古参の豚どもを道連れにした後、できればせめて、菅野隻像の・・・死体だけでもアジトから探してほしい。」
喪乃死離は頭を下げて言った。普段の彼女からは考えられない行為である。
「力を貸してくれ。」
「・・・・是非もない。」
こうして天宮あやめはハルマゲドンに参戦する運びとなった。
・・・この15時間後、あやめは召喚された二人の「転校生」と単身戦い、見事に報酬であった誉明依、菅野隻像を救出するのだが、それはまた別の話。
最終更新:2016年01月24日 14:43