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秋の七草シリーズ『“処暑”萩プロローグ』


某世界長野県、某時間にて

 「(ハギ)の名は萩。姓は未だに持たぬ身なれど、いずれ次代を継ぐ探偵のため、この身を横たえる覚悟であります」
 「うふふ、若木が切り株にでもなったつもりなのかしら。花鶏(あとり)(ねえ)さまもこんな芋御(いもご)を持っては不仕合せね。(わたくし)にお鉢が回ってくるなんて……」
 さて、どうしてくれようかしら?
 秋の空を体現する御人、いいえ人ではない。彼女は探偵「工藤曼珠沙華(くどうまんじゅしゃげ)」、豪奢な電気椅子の肘掛に軽い体重を乗せ、頬杖を突きながらいう。
 「萩、木様(きさま)に今回の覇竜魔牙曇(ハルマゲドン)で命に代えても果たす勅命を与えます。心して聞くように」
 ここまで言葉を紡ぐ間にも電流は容赦なく流れ、紅葉の繻子に落ち葉の色取りを乗せているが「秋」の体現者はびくともしない。簡潔に言うと焦げてはいたが、彼女の肌も髪も少々赤みを帯びた程度だ。
 すべての修辞を略するところ、美しい探偵は心地よい音色をけして嬉しくはない歌詞に乗せて自分のお手伝いさん探偵(月曜日担当)に向けて言い放ったという。

 「(かに)ちゃんのサインをもらってきてちょうだい」
 それは衝撃的な発言であった。
 まず第一に今回未参戦の過去キャラのサインをもらってこいとSSの登場人物が言い放つという暴挙。
 第二に、翻訳者がならば新参じゃなくて古参に参戦しろと言うのに、エントリーシートに記入したのはこの探偵であった。
 第三に蟹ちゃんの生みの親であるほまりんさんがサブGKをやっていることに気付いたのは投稿後であった。
 「あ、姉様(あねさま)……、蟹ちゃんとは一体なんなのでありますか?」
 「蟹ちゃんを何とは失礼ね。wikiのURLを言うから――『司令官』二一、っと。ついでに彼女が参戦したキャンペーンでは『たたかえ蟹ちゃんシリーズ』っていう一大スぺクタルな連作短編が繰り広げられてるから心して読むようにね?」

 いささか懐古趣味な風体のセーラー服を着た女学生探偵“萩”はかくして電気椅子探偵にして新本格派探偵作家“曼珠沙華”先生の乙女心のように気まぐれな陽気に誘われて、希望崎学園に転入することになったのであった――!
 季節感ガン無視というツッコミは【検閲】されました。そもそも蟹ちゃんは希望崎に通っていないとのツッコミも【検閲】されました。
 彼女の住まう図書館の一室、日替わりでやってくる“秋の七草”も今はいない。
 微弱な電流を楽しみながら毛先を上機嫌になってくるくると巻いて弄んでいる。いえ、よく見るとそれは「ヒガンバナ」の花束だった。燃えるような赤毛の先端に咲くのは「人工探偵」の証にして、見目麗しき人外の探偵の魂の由来である。
 被害者、加害者に続く第三の類型(アーキタイプ)「探偵」がいち早く生み出した己の写し鏡である。
 そして、彼女は四季に分かたれた人工探偵の内、秋を統率する者であり此度は落命した【検閲】の犯人を【検閲】するよう命じてもいる。

 「無論、第一目標は蟹ちゃんのサインですけどね。『検閲』さん、お喋りな地の文を黙らせてくれてありがとうね。風露にあれやられると私なーんにもできなくなっちゃうものだから。うふふ……」
 男が電気椅子の横に立っていた。彼は【検閲】【検閲済】



某世界“煉獄街”、某年十月二十四日

 「こんなところで木君(きくん)と出くわすとは……」
 「それはこっちのセリフかもー? 萩ちゃんもその堅い喋り方、桔梗(キキョウ)ちゃんと交換したらどーよー?」
 「然るべきところでは改めているので大丈夫ですよ、それより尾花、木身は? いや、それよりここはどこでありますか? 姉様は説明を」
 放り出された先は一歩足を踏み出しただけで薄汚れたなにかとぶつかってしまう、そんな疲れ果てた街だった。
 ゴミ溜めの中かと姉様の悪意を一瞬ではあるが疑ったほどだ。スカートの裾を摘まんで、周囲との異彩を認識する。翻って、第一発見者の“尾花(オバナ)”を見ると、周囲に擬態すべく薄汚れた格好に着替えていた。
 汚しが入っていることもあって、その辺の街角の子供たちとぱっと見で見分けは付かないだろう。
 普段の活発な新人記者(ただし永遠の)と同一人物とは思えないだろう。何せ彼女の花は目立たない。

 「“煉獄街(れんごくがい)”っていうらしーよー。こんなネーミングライツ、付けた人間の知識を疑っちまうねー。まー、サイコな連中も多いから狩場には困らないけどさー」
 「ここで言う狩りの意味は紅葉狩りでありますがな。お子様のおてても、然るべきところではぐくみ育てば将来我らの頭の上に置かれることでありましょう。先日のコシヒカリ……! 菖蒲(アヤメ)殿が関わった一件においてもスラム出身の夜魔口が大きな力を発揮したと聞き及んでおりますし……」
 「萩ちゃんはベイカー街遊撃隊を期待しちゃうクチ? 確かに、馬鹿にしちゃおけないのはわかるケド。風露さまに付き合わされる探偵の殿方にも同情しちゃうわー」

 二人がいたガラクタ置き場のその位置は丁度“彼女”から死角になるところであった。
 少なくとも、彼女がやってきた当初は。
 作為を感じなかった。その時はまだ。
 だから、少女が呟いた小さな言葉もその辺の落ち葉程度にしか思わなかったのである。

 もし、ここで二人のどちらかが声をかけていれば未来は変わったのだろうか?
 いいや、後付けである以上それは元来変わりのしない大前提。二人の動きを見て曼珠沙華、天上の花はにこりと笑う。二人の未熟さとその初々しさに微笑み笑う。本来、年齢一桁はこうでなければならないのだと思い、だけど少々頼りなく思う。
 新本格派であるなら物語はいつだって劇的であることに気付かなければならない。伏線が張られる現場に探偵が居合わせたことに何か感じるものがなければならない。
 さて、私の遊び心にお付き合い願えるかな? スズキの謎を知りたいのは私も同じなのですよ。

 結論だけ言えば、黒餅(くろもち)と言う名の少女はゴミ山から“それ”を見つけ出し、“それ”に『スズキ』と名付けた。黒餅もスズキもごく直近の二人に気がつくことはなかった。
 尾花はもちろん萩にせよ、服が汚れることも気にせずに汚水の上に身を伏せていたから。ちなみにスズキ云々については聞いていない。

 「尾花殿、あれはもしや――ピーッでは?」
 「萩ちゃん、確かにアレは――ピーッだね!」
 そして、二人はハモらせる。
 「「姉様に報告しなければ!!」」
 そして、二人は見合わせる。
 「あれ、なんて言いましたっけ?」

 その間にも少女黒餅はスズキを背負って、ゴミ山をを下山していった。来た道を辿っての帰り道であったので助かったと言える。
 二人の心理と立場を考えれば【検閲】を見つけたことを気取らせては危ういのだ。二重の意味で。
 小さな背中が萩の長い視界から消えたところを見計らって彼女たちは言った。極めて真剣な口上だ。
 「尾花殿、萩はあの少女の付け馬になります。曲がりなりにも行き倒れなどしてもらっては困りますから」
 「了解。この現場に居合わせたってことはそういうことだもんね。こっちが抱えてる案件を考えると、各々で対応しろってことだね。姉様は安易な解決は望まれないらしい」

 先のピー音はすなわち口をふさがれたということだ。
 真実はあの少女の手で見つけ出さねばならない、真まことを実らせる探偵としては他者に果実をもぎ取らせるその作業は横取りのようであった。つまりは甘美とは程遠い味である。
 「こっちは桔梗の方に行くよ。本来なら姉様に集めるべき情報だけど、今回は尾花ちゃんに報告しとくね」
 「了解。桔梗の担当は――?」
 「確か、あや――と言っ――」
 雷音(ライオン)に打ち砕かれる言葉に天上花の介入を疑ったのは二度めだったが、月が猛獣に食われるようにして雲海に呑み込まれていく。月も火も、水の前には無力だった。
 「これ以上は望まれてないみたいだねー。付け火は十分だからあの娘のことは心配しないで?」

 無言のままに掌で右目をかばいながら萩は立ち上がる。
 太陽に続く月の探偵の仕草は縮こまる花の姿によく似ていた。