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ある村里近い山に一人の鬼が暮らしていました。
その鬼はたいそうひねくれ物でいつも人の邪魔をしては困らせていました。
村人が、明日はたけのこを掘りに行こうと話すのを聞くとその日のうちに竹やぶのたけの
こを全部掘り起こしては皮だけ埋め戻し、明日は久しぶりに雨が降りそうだと言うのを聞
くと雨雲を吹き飛ばして日照りを続かせてしまいました。
けれど、鬼がいつもやることを先回りしてやってしまったり、起こるはずだったものを追
い払ってなくしてしまうことがわかってからは村人達は鬼を利用するようになってしまい
ました。 
明日は雪かきしないといけないな、畑を耕さないと言っては鬼に雪かきをさせたり、畑を耕せたりしました。
たまには、明日は畑で草刈をしないといけないなといって鬼に草刈をしてもらおうとして作物まで刈られることもあったけれど、村人達は鬼を利用してはお供えを捧げ、祀るようになりました。
けれど鬼はそれが嫌でした。
褒められるのが嫌だったわけじゃないけれど、人間の思い通りに動かされるのが嫌だったのです。
だから鬼は人に騙されないように言葉ではなく心を読めるようになろうと修行をしました。
そうして人の心を読めるようになった鬼は、人がやろうとしていること、そうなると確信していることを覆すようになりました。

けれどそれは鬼にとっても辛いことでした
「これだけ日照りが続いたんだ明日こそ雨が降るだろう。」
「ちょっと風邪をこじらせただけだよ。ゆっくり休めばすぐ治る。」
「大丈夫、少し切り詰めたらこの冬を越すくらいの食べ物は残っているよ。」
そんな風に口では明るく言っていても心の底では
「どうせ明日も日照りが続くさ。」
「私より長生きして欲しかった。」
「私がいなくなったら食料を持たせる事ができる。」
そんな風に諦めている人が多すぎたのです

だけど鬼はそんなことで諦めません。
雨を降らせるためには遠くの山まで雨雲を引っ張ってきます。
一人の病を治すため世界中を走り回って薬を探します。
真冬に食料を探すために冷たい川の中で魚を捕まえます。

そんな日々が続いたある日、さすがに無理がたたったのか、とうとう鬼は倒れてしまいました。
村の大人達は鬼に感謝はしていましたが、恐ろしくて近寄ろうとしません。
けれど子ども達はそんな事に気にも留めずただただ鬼を心配して声をかけます。
「大丈夫?」「しっかりしてよ」「お腹空いたの?」
子ども達の心からの呼びかけにこのまま眠りにつくところだった鬼も目を覚まして言いました。
「子どもに心配されるとはな。だが俺の事を心配してくれたお前達に最期に一度だけ願いを叶えてやる。何でも言うがいい。」
子ども達は鬼が願いを叶えてくれるといったのはわかったけれど、辛そうにしている人に無理をさせようなんてことはできませんでした。
「鬼さん、今は僕たちの事を忘れてゆっくり休んでください、そしてまた元気になったらここに遊びに来てください。」
子ども達がそういうと鬼は目を丸くして驚いて、それは大変だなぁと呟くと山へ帰っていきました。
それから今までその地で鬼を見た者はいません。
けれどその時鬼と約束を交わした子ども達は今でも鬼を忘れぬよう、いつか鬼が帰ってきたとき迷わぬように社を建て守っています。
鬼が約束を言葉通り叶えようとしてくれたのか、反対にして叶えようとしたのかはわかりません。
けれどいつか帰ってくる日が来る事を信じて今でも社は静かに建っています。
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最終更新:2008年04月21日 23:12