ニ 部活での事故  --- 県立高校ラグビー部事故

 昭和46年、県立A高校のラグビー部は、試合および見学のために、競技場を訪れた。その競技場では、高校の試合の前に、社会人のチームの試合が予定されていたが、人数がそろわず、中止になった。そこで、社会人チームは、見学にきていた県立B高校のN教諭に、練習試合を一緒にやることを提案、N教諭はその事態を事前に予想して、生徒たちに準備をさせていたが、合わせて、A高校にも練習試合をすることを提案し、希望によってA高校のMその他が出場したが、Mがボールをとって突進したとき、スマザータックルをされ、転倒、脊髄損傷の結果、翌日死亡した。

  • M側の主張
1 N教諭が指導していたのであるから、保護監督をする立場にあり、国家賠償法が適用されるべきである。
2 高校生が社会人チームと試合することは危険であり、細心の注意が必要であったのに、それを怠った。
  • 県の主張
1 Mの練習試合出場は部活動は無縁である。
2 N教諭はB校の教諭であって、A校の生徒であるMを監督する立場にない。
3 社会人チームは、高校チームとたいした力量の差はなかった。
4 Mは県下でも有数の選手であり、こうした怪我は予想できなかった。
5 Mは自分の意思で出場したものであり、当時18歳であり、危険性を認識・判断でき
る能力があった。

Q どちらの立場が正しいと思うか。なお、判決は、地裁と高裁で逆転している。

ホ 部活での事故(2) ---プール取水口事故

 市立高校の水泳部の練習の後、プール内で遊んでいたときに、取水口に興味をもち、足を太股まで挿入したところ、吸引力がまして足を引き抜くことができなくなり、溺死した。同取水口は、閉塞率が70%までは足が吸い込まれることはてぽが、75%を超えると急速に吸引力が高まり、完全に閉塞状態になると自力で足を引き抜くことは困難である。
 そうした状況を、校長が説明をしていなかったとして提訴した。
 判決は、防護柵をもうけなかったことが、建築上瑕疵があったと認定したが、好奇心で行った軽率な行為であるとして、7割の過失相殺を認めた。
 施設の瑕疵としては、昭和57年の中学校で、採光のため大きくとった窓から、ふざけていた男子二人が転落した事故がある。窓は床から61センチのところにあった。
 この事件の場合、ふざけてはいけないことを、朝礼等で何度も注意はしていたが、中学生が相手であれば、いくら注意しても、ふざけることはありうるので、ふざけても、なおかつ安全であるような設計にしなければならないという判断を下した。

ヘ 部活での事故(3) -- 顧問不在の事故

 公立中学校の2年生のXが、運動会予行演習終了後、友人ら10人と体育館にいったところ、部活のバレーとバスケットが練習をしていたが、通常指導監督しているバレー部顧問が運動会の設営等で、その場にいなかったので、トランポリンを持ち出して遊んでいたので、バレー部のAが注意したところ、反発したので、体育館内の倉庫に連れ込み、AがXを殴打した。その結果目を強く打ち、1ヶ月後失明した。
 バレー部顧問がその場にいなかったために、指導が行き届かなかったとして、町に賠償を求めたもの。

Q 部活は本来自主的な活動であるから、顧問の責任は問われないのだろうか。
  それとも、学校における教育活動の一環であるから、問われるのだろうか。

ト 部活での事故(4)顧問の指導に関わる事故

 顧問が指導をしているときの事故は、少なくとも問題になった事例としては少ない。スポーツは本来危険なものであり、顧問がいて、適切な指導の下において行われた状態でのけがについては、責任を問うことはできにくいからであろう。その点で、次の事例は比較的めずらしいと思われる。

 事件は私立高校の野球部の練習中に起こった。監督がノックしたボ-ルを3塁にいた1年生部員(加害者)が受け1塁へ送球したが、このボ-ルが1塁手とは別に監督の次のノックを受けようと身構えていた部員(被害者)の顔面を直撃して右眼を失明させた。被害者の損害は4836万円に達したが、高校は治療費や見舞金として126万円と示談金として1118万円を支払っている。さらに高野連の保険金147万円や日本体育・学校健康センタ-の給付金431万円、第一火災海上の保険金80万円、野球部後援会からの見舞金100万円が支払われ、加害者も100万円の見舞金を出している。しかし被害者の受けた損害は弁護士料273万円を加えればなお3000万円を超えている。加害者が支払いを拒んだため訴訟になった。訴えたのは平成10年であるから不法行為の消滅時効期間の3年が過ぎるのを阻止しようとしたのであろう。判決が出たのは1年たってからであり、当時16歳の加害者も20歳になっている。これから社会に乗り出そうという者にこの足かせ(負債)は重い。*32)スポーツ事故における損害賠償責任  佐藤 千春 http://members.tripod.co.jp/cs120705/index-3.html

 この事例では判決の内容は書かれていない。
 佐藤氏は、加害者の責任を認める立場である。

チ 部活での事故(5) 顧問の指導中の事故

 スポーツ系の部活では、顧問や監督がいても事故が起きる可能性もある。スポーツ自体が危険を含むものであるし、また指導者の注意・認識が不足している場合もある。

〈事実の概要〉

 Aは学校法人Y1が経営する高校のサッカ-部員(1年生)として昭和59年8月26日から31日まで校内で行なわれた合宿に参加した。練習は(い) 午前6時半から7時まで、(ろ) 9時半から12時まで、(は) 午後2時半から6時までであったが、26日は午後から、27日は午前中のみ、28日は早朝と練習試合後の一時間半ほどの軽い練習、29日は午後の練習に参加したものの靴擦れがひどく見学を命じられていた。30日朝、顧問のB教諭がAのふらつきと発熱に気づき、朝食後、保健室のベッドで休ませ、養護教員と相談の上、午前9時半頃救急車を呼び、53分にY2病院に到着した。Aは歩いて病院に入り、頭部のレントゲン検査や神経学的・理学的検査では異常はなく、尿がでないと言うので尿検査は省いたが、血液検査では白血球が少し多く軽度の血液凝縮があり、顔面紅潮、咽頭発赤、疲労以外に特段の病的な変調が認められなかった。そこで日射病による軽い脱水症、疲労、急性上気道炎と診断され、点滴を受け、気道炎のため3日分の内服薬(消炎剤、抗生物質)をもらい、学校のク-ラ-のきいた保健室で休ませた。5時過ぎ連絡を受け、迎えに来た母とともに午後6時頃帰宅した。31日、Z病院で高度な腎障害の疑いにより、即日入院、夕方には急性乏尿性腎不全と診断され、9月1日には血液生化学検査の結果重篤な急性腎不全であることが判明した。1・3・4・6・7・8・9日の血液透析は血中尿素窒素値を100mg/dl以下に維持できず、9日11時に全身痙攣発作が起き、意識がなくなり、瞳孔が散大したため抗痙攣剤を、続いて血圧が220~110mmHgだったので降圧剤を投与したところ意識が戻り、痙攣も収まった。この時点で脳圧亢進状態にあると判断され、脳出血が疑われている。午後1時10分に再び全身に痙攣が起き始め、抗痙攣剤を投与したが、脳圧低下剤の投与は午後5時10分以降になり、尿毒症による高血圧のため脳浮腫が生じ、10日午後7時13分に死亡した。父母(X1、X2)はY1に対して履行補助者にあたる顧問教諭・コ-チの安全配慮義務違反を前提とした使用者責任(715条)を、Y2にも医師の治療ミスによる使用者責任を追求した。

 第1審判決(京都地判平成4・6・26判時1463号127頁)は、合宿中の8月28日には急性腎不全の症状が発現したと考え、(1)高温多湿な環境下で過重な運動を行なえば急性腎不全が発症することは一般スポ-ツ関係者の常識であり、(2)顧問教諭が運動内容や量、休憩の取り方や仕方に充分配慮せず、(3)Aの動態を注視し、本人や他の生徒から能動的に体調を聞き出し、腎疾患を発見し、高温多湿な環境から隔離して安静を取らせるなど速やかな救急措置をとらなかったため、腎不全を発症させ、死亡させたとしてY1の責任を認め、Y2に対しても問診が充分でなく、簡単な理学的検査などで腎疾患の発症を確認できたとし、急性腎不全に対する早期治療を施さなかった医師の過失を前提に責任を負わせた。Y1とY2が控訴し、X1・X2も賠償金額と遅延利息の起算点を訴状の送達の翌日ではなく、死亡時とすべきといい付帯控訴した。

〈判旨〉控訴及び付帯控訴とも棄却。

 Y1に対しては、「顧問教諭らが、Aの体調の不良を予見することも、それによってAに急性腎不全が発症することを予見することも不可能であったと言うべきであるから、控訴人Y1には安全配慮義務違反があったものとは認められない。」とする。(1)について「昭和59年8月の時点においては、過激な運動などから急性腎不全が発症することは高校の体育関係者の間に知られていなかった」とし、(2)について、休憩の申出が拒否されたことはなく、給水も運動場に敷設された水飲み場で自由にとらせており、練習メニュ-はコ-チが高校で体験した7・8割程度のもので、部員の疲れ具合や睡眠不足も考慮してより軽いものに変えていたから、顧問教諭らはAを長い時間激しい練習に参加させたと認識していなかったし、体調が不良である旨の申出もなかったからこれを予見することは不可能であったとする。(3)についても「高校1年生であったのであるから、自分自身の健康状態が医師の診察を要するか否かの判断ができる年令であり、合宿に参加していた他の部員らの中にも顧問教諭に申出て医師のもとに連れていってもらい診察を受けていた者があり、Aもそのことを知っていたとみられるから、申出をためらう事情もなかったもので、このような状況にあるAに対して、顧問教諭らにおいてAの申出を待つことなく能動的にその容体を知るための方策を施すべきであったとまではいうことができない」という。

 Y2に対しては「C医師は、脳神経学的には著変を認めない旨のD医師の所見を経た上で、Aから発熱と咽頭痛という主訴を聞き、理学的検査及び血液検査の結果に基づき、サッカ-の合宿中の発症であることから考え、日射病による軽い脱水症、疲労および急性上気道炎との診断を下したものであるが〈証拠略〉によれば、これら状況下における右診断は極めて常識的であり、尿検査のための尿が出ない原因としては脱水によるものと考えるのが一般的であって、当時の状況のもとで、急性腎不全を疑って是が非でも尿検査を実施する必要があるとまではいえない」として医師の過失を否定したが、仮にあってもZ病院の治療が適切なら救命できたとして、死亡との間の相当因果関係がないと判断し、病院の責任を否定した。*33)この事例は、いずれも、「サッカ-部合宿中の急性腎不全(熱射病)事件 」佐藤 千春 (大阪高裁平成6年6月29日判決、平成4年(ネ)1519号・1591号、5年(ネ)89号 損害賠償請求控訴事件(判例時報1517号62頁))よりhttp://members.tripod.co.jp/cs120705/index-3.html}

 次のような事例もある。

胸に打球受け、野球部員死亡 福島県立湯本高
 福島県いわき市の県立湯本高校で7日にあった野球部の練習試合で、投手をしていた1年生の成田知樹君(15)が左胸に打球を受け、約8時間半後に死亡した。死因は胸部強打による心室頻拍。同校は9日、全校生徒と保護者に事故を説明した。
 同校によると、対戦相手は別の県立高。先発した成田君は3回裏、打者のライナーを左胸で受け、打球の転がった方向へ数歩歩いたところで倒れた。
 成田君は、中学3年生の時にはいわき市の選抜野球チームで投手兼野手をつとめ、全国大会で3位に入賞していた。*34)朝日新聞 08/09 20:56


最終更新:2008年09月18日 10:56