Vol 4「カメラを塗装する」


今回の研究はカメラの塗装です。
私が参加させていただいている写真団体JFCでは、以前からカメラを塗装する技術を探していました。単に塗装すればいいというわけではなく、
  • 大掛かりな設備や作業を必要としないこと
  • 技術がいらないこと
  • 安価である程度の強度があること
  • (失敗してもやり直しが利けばなお良し)
という難しい条件です・笑

以前から何らかの理由でカメラを塗装したいという声は多くありましたが、一般的にはカメラを塗装するには銀メッキやブラックペイントを剥がす必要があるし、簡単に塗装する方法がなかなかありませんでした(ほとんどの塗料は、焼付塗装やクローム鍍金に塗ってもはがれてしまいます)。

そこへ、JFCのお仲間で塗装のお仕事をされているミナレリさんが、鍍金の上からでも出来る画期的な簡単塗装法を考案されました。
この方法については、ビュッカーさんのRange Finderの記事をご覧ください。



さて、私が塗装した2台のカメラの話になります。
ひとつは ミノルタSR-T101 、もうひとつは キヤノンP型
です。塗装にはそれぞれ違う手法を用いてみました。
いずれも塗装した理由は凹みをごまかすため(笑)です。大方たたき出しましたが、わずかに凹凸が残っただけでもシルバーメッキだと結構目立つのです。(むしろ大きな凹みのほうが目立たない)
一度へこんだものは、完全に元通りには絶対にならないので目立たないように塗装しようと考えたわけです。

事例1:SR-T 101(めっきをはがしてのラッカー焼付け塗装)


まずはジャンクカメラの軍艦にミナレリさん考案の方式でプライマー・サーフェイサー・ラッカーを吹いてみました。爪でこすってみると確かにしっかり密着して簡単にははがれません。

ところが、今度はSR-T101に塗装してカバンに入れ、使おうと思って取り出してみると無残にも塗装が剥がれ落ちてしまっているのです。
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どうやら鍍金や表面の具合によってはダメな場合もあるようです。
結局、たまたま手に入ったSR-T101の軍艦と交換し、へこんだものは予備にとっておきました。



ある日ひょんなことからSR-T101が2台に増えたので、2代目を塗装して区別しよう、オリジナルのものは綺麗なので外して保管し、へこんでいた軍艦を塗装して取り付ければ凹んでいる事は全く分からないだろう、と考えたのです。

以前失敗しているので、鍍金の上から塗装するのは断念し、どうせへこみがあるのだからこれも鍍金と一緒に削って平らにしてしまおう、と電気ドリルにダイヤモンドホイルを取り付け、鍍金もろとも削り落としました。本来鍍金を剥がすときは塩酸や硫酸を使用するのですが、危ないし手に入らないので切削してしまいます。




塗料の簡単な解説:


塗料は大きく分けて4種類に分かれます。


A,水性系塗料

顔料または顔料と合成樹脂の混合物を水で溶解したもので、水が蒸発すると塗料が固着するというものです。一般的に耐水性は無く、金属塗装には使えません。水彩絵の具、アクリル絵の具、水性アクリル塗料、水性インク、ポスターカラーなどがこれに当たります。多くは有機溶剤に不溶です。

B,溶剤系塗料

油性顔料を合成樹脂と混合し、有機溶剤で溶解したもので溶剤が蒸発すると塗料が残り塗膜になるものです。水には不溶ですが耐溶剤性はありません。
代表的なものがアクリル塗料やニトロセルロース塗料、いわゆるラッカーです。他にはエナメル塗料、ビニール塗料などがあります。(ほとんどはアクリルまたはアクリルとニトロセルロースの混合塗料です)
ラッカーは安価で色がきれい、表面が均一に仕上がる、光沢が美しいなどの特徴がありますが、あまり強度は高くありません。
エナメルは伸びがよくほかの塗料を侵しにくいのですが、ラッカーよりさらに強度が低いです。

C,化学反応系塗料

主剤と硬化剤に分かれており、塗る直前に混合して吹き付け終わった頃に硬化するというものです。水にも溶剤にも強い塗料ですが、1度反応させると塗料が残っても硬化してしまいますので、経済性は劣ります。
水分反応型のタイプもあり、こちらは空気中の水分と反応して硬化します。どちらのタイプもポリウレタン塗料が代表的です。
特殊なものとしては熱や紫外線で硬化するものも存在します。

D,その他

油彩絵の具、カシュー塗料、漆、ペンキ、ワックス、ワニスなどの油性ペイント、液ゴム塗料、半化学反応型塗料、無機塗料など上記に当てはまらないもの。


使った塗料:


1・アサヒペン 非鉄金属用メタルプライマー

100ml(塗料55ml ガス45ml 実売¥450程度)

アクリルラッカーの一種です。非鉄金属用と書いてありますが、鉄をはじめとするあらゆる金属にラッカーペイントを密着させる効果があります。無色透明です。
クローム鍍金・亜鉛鍍金以外の鍍金、金属以外には効果がありません。

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2・GSIクレオス(旧グンゼ産業)Mr.サーフェイサー1000

100ml(塗料65ml ガス35ml 実売¥500程度)

アクリル系ラッカー(溶きパテ)です。表面の小さな凹凸や気泡をなくす目止め塗料です。ここではミガキ目を消すために塗っています。ただし吹き付けすぎると刻印などが埋まってしまいますから控えめに。
(大きな凹凸には粘度が高いMr.サーフェイサー500を使います。)

3・アサヒペン クリエイティブカラー #29 ディープオリーブ

100ml(塗料70ml ガス30ml 実売400円程度)

普通のアクリルラッカースプレーです。

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4・GSIクレオス Mr.スーパークリヤーつや消し

170ml(塗料103ml ガス67ml 実売700円程度)

表面保護用の透明ラッカー塗料で、光沢・半光沢・つや消しの3種があります。

5・テロソン 染めQベースコート・染めQライトタン

70ml(塗料・ガス各35ml 実売ベースコート450円程度/カラー650円程度)
皮(本皮・人工皮)専用のスプレー特殊塗料です。ベースコートは下塗り用です。



メタルプライマー・サーフェイサー・ラッカー・表面コートの順に吹きつけました。1層吹きつけるごとにファンヒーターで強制乾燥させます。
貼り革は染めQという本皮・合成皮革用スプレーで塗装しました。

セ氏50度前後の低温乾燥ですが金属部の塗膜は結構硬く、鍍金を取る前とは大違いの強度になりました。

この方法だと、そこそこの塗膜強度も得られ素人作業としては十分すぎる結果になるのですが、いくつか問題点があります。
  • 表面を削り落とすのが大変
  • やはり、若干強度に不安がある
  • めっきを落とすので結果が気に入らなくても元には戻せない
  • 多くの塗料を吹き付けるため細かい刻印が簡単に埋まってしまう
  • 乾燥に時間がかかる
というわけで簡易塗装法としてはやや課題が残る結果となりました。

事例2:めっきを剥がさないでできる強力焼付け塗装(シリコーン塗料+グラファイト粉末)


前回のやり方ではあまりに大変なので、キヤノンPの塗装には別の方法を使おうと思います。
インターネットを見てみても、ラッカーかウレタンの塗装例はあるもののいろいろと不安定な部分があり、これは自分でやり方を探すしかないなと思ったわけです。
とりあえず、「金属に塗装することを前提に作られた塗料ならいけるかもしれない」と考えて探し回ると、自動車ペイントの棚でなかなかよさそうな塗料が見つかりました。

それがこの二つです。

1・呉工業 耐熱ペイントコートつや消しブラック

300ml(塗料・ガス各150ml 実売¥1100程度)

シリコーン系の塗料で、セ氏600度までの耐熱性があります。あらゆる金属に非常に強く密着します。
最初は液状で、溶剤が揮発するとゴム状になり、熱を加えると硬化します。
色は黒のほかにシルバーもあります。

2・ファインケミカルジャパン スプレーブラッセン

420ml(塗料252ml ガス168ml 実売¥1800程度)

いわゆる合成樹脂塗料ではなく、グラファイト(焼成黒鉛・・・つまり鉛筆の芯の原料)の微粒子を吹き付ける無機質塗料で鋼鉄が赤熱する約セ氏1500度でもはがれないという驚異の耐熱性を持ちます。数秒で表面乾燥し1日で完全硬化する速乾塗料です。


鍍金の上からペイントコートを塗り、乾燥後にスプレーブラッセンを吹き付け、オーブントースター(800W)で5分間加熱するだけです。ペイントコートは1時間くらい乾燥させてから焼きましょう。十分に乾燥させずに焼くと大変なことになります(汗)
当然ながらプラ部品は外しておきましょう、これも外し忘れると取り返しの付かないことになります。(キヤノンPのフィルムカウンターなどの窓は接着されています。私はこの部分は削り取って塗装後、自作した新しい窓に交換しました)
仕上げにMr.スーパークリヤーを吹いておしまいです。

塗装後の表面は、ラッカー塗装に比べ明らかに硬く、若干グレーがかっています。触った感じがラッカーとは全く違い、素焼きの陶器かライカのネオブラックのような非常に硬質な感触です。これはすばらしい仕上がりですよ!

※ちなみにスプレーブラッセンをかけなければ普通の黒仕上げになり、バフをかければ光沢仕上げになります。

色が選べないのが難点ではありますが、鍍金の上からプライマーなしで塗ったにもかかわらず、爪で思い切りこすっても全くはがれず、非常に高い耐熱性もあり(焼付け時の温度調節が要らない)、それでいて気に入らなかったら溶剤塗料ですからベンジンやシンナーで拭けば取れます。黒塗りするなら最高の方法ではないかと感じました。


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最終更新:2008年04月23日 01:19