「ふ・・・ふふふ・・・これで・・・・キョンは・・・・・あたしだけのもの・・・」
・・・身体に力が入らない・・・
・・・・頭の中が真っ白になる・・・
・・・・・もう・・・そんなに時間はのこされていないだろう・・・
俺はそんな事を考えつつ、ぼーっと自分の腹に突き刺さった包丁を見ている・・・
なんで、こんな事になっちまったんだろうな・・・・?
なぁ、ハルヒ・・・・


「誤解」


さて、展開がいきなり過ぎて何の事やらさっぱりだろうから少し時間を巻き戻そう。
・・・・・・
それは、いつもと同じ部活中の事だった。
俺は朝比奈さんの淹れてくれたお茶を飲みつつ、古泉といつもの様にボードゲームで暇を潰していた。
しかし、その日はずっとあるものを目で追っていたのである。

そのあるものとは、我等がSOS団団長涼宮ハルヒだ。
な、なんでハルヒなんかを俺はずっと目で追ってるんだ?
ふと、その事に気付いた俺は自分でもワケが分からず頭に?マークを浮かべていた。
「それは恋ではないでしょうか?」
疑問に思っていると向かいに座っていた古泉がいきなりそんな事を言ってきやがった!!
「そ、それは一体何の冗談だ?て、ってか、か、勝手に人の心を読むんじゃありません」
あぁ、動揺してんのバレバレだな・・・
「すいません、あまりに分かりやすいものでしたから、つい。しかし、あなたが涼宮さんに特別な感情を抱いているのは確かですよ」

「俺ってそんなにバレバレなのか?それは、まぁいい。ちなみに言っとくが俺は恋愛感情とか理解出来ないぞ」

「えぇ、それは見ていれば分かります。さて、どうしたものでしょうか?」
こいつ、楽しんでないか?
「知らん。もう放っておいてくれ。これは一瞬の気の迷いなんだ」
すまん、これは言い訳だな。
確かに、俺はハルヒの事が好きだ。
だが、俺はハルヒとの今の関係のを壊したくないのだ。

「そうはいきません。あなたと涼宮さんが一層仲良くなって頂けると僕としても良い事ばかりなので、今回は強引にお手伝いさせて頂きますよ」
あぁ、そういう魂胆か。
「そうかい、じゃあ好きにしてくれ」
俺がそう言った時「あぁ、つまんない!!今日はこれで解散!!」と言ってハルヒが部室から出て行った。
「さぁ、涼宮さんも帰った事ですし、告白の練習をしましょう」

「いきなり、何なんだ!まさかとは思うが、お前を相手に練習とか言うんじゃないだろうな?」
その事態だけはなんとしても避けたい!いや、避けなくちゃならない!!
「さっき、好きにしていいとおっしゃったじゃないですか。あなたが望むなら僕がお相手してもいいですよ♪」

「断固として断る!!」

「・・・そうですか・・・。非常に残念ですが、ここは朝比奈さんか長門さんに頼むとしましょう」
なんか、本気でがっかりしてるな・・・まさか、こいつは俺の事が・・・

いや、それ以上考えるのはやめよう。
「で、どちらがいいですか?」

「どっちって、告白する相手はあのハルヒだぞ!?どっちも参考にならないと思うが」
って、すっかり古泉にのせられてるな俺・・・
「ふぇ、キョン君、涼宮さんに告白するんですかぁ?」
声のした方に振り返るとSOS団専属のエンジェルが不思議そうな目を向けていた。
「あ、朝比奈さん、聞いてたんですか?」

「あれだけ大きな声だったら聞こえますよ。そうかぁ、やっと告白するんですねぇ」

「本当にやっとですよね。これで我々のモヤモヤもやっと解消されます」
なんか、ここぞとばかりに好き放題言ってるな。
「何だよ?俺はそんなに鈍感か?」
そう言うと3人の目がこっちに向けられた。
「ひょっとして、気付いてないんですかぁ?」

「まさか、それ本気で言ってますか?だとしたらあなたは鈍感を極めたと言っても過言ではありませんよ」

「・・・・超鈍感・・・・」
3人の言葉が俺の心にクリーンヒットする。
見事に心を砕かれた俺は部屋の隅で体育座りをしてヘコんだ。
いやぁ、その姿は滑稽だったなぁ・・・はっはっは・・・はぁ。
「それは置いておくとして、では、そろそろ練習を始めましょうか」
古泉の一言により遂に「ハルヒに告白」する練習が始まっちまった。
俺の練習相手は無事朝比奈さんに決まった。
「さぁ、どうぞ」

「テイク1」
クソッ、いい気なもんだなお前ら!!
こうなりゃヤケだ。
「ハルヒ、好きだ」

・・・・・・
「まさか、それだけですか?」
なんだ、その心外っていう顔は?
「あぁ、そうだが」

「これじゃあ無理ですね」

「キョン君は女心が分かってないです!!」

「・・・無知・・・」
揃ってダメ出ししなくてもいいじゃないか・・・
「じゃあ、どうすりゃいいんだよ!」

「「「はぁ・・・」」」
今度は3人揃って溜息ついてるし・・・
「ここまでダメだとは・・・分かりました、一肌脱ぎましょう。じゃあ、まず肩を持ってじっと相手を見つめて下さい」
と言って古泉がシチュエーションをつくる。

「テイク2」
長門のその合図で2回目の練習が始まった。
えーい、こうなりゃ勢いのまま行くしかない!!
「俺、ハルヒの事が」
バーッン!!
その時、ドアが開いたのには気がついたが勢いが止まらなかった。
「ごっめーん!!忘れ物しちゃってー!!」

「始めて会った時からずっと好きだったんだ!!これからもずっと傍にいてくれ!!」
そう言い終わってドアの方を向くと表情を失ったハルヒが立っていた。
とりあえず今の状況を整理しよう。
俺は、ドアの前で朝比奈さんの肩を持って愛の告白をしていて、古泉と長門はちょうどドアに隠れて見えてない。
つまり、ハルヒから見れば放課後の部室で2人っきりで告白をしているように見える訳だ。
ははは、もう言い逃れできねぇなこりゃ・・・・
「何・・・・やってるの?」
ハルヒの肩が震えている。

「い、いや、これは・・・・そのな・・・」
あぁ、なんでちゃんと説明できないんだ俺!流石にテンパリ過ぎだろ!!
「みくるちゃん、説明して」

「あの、その、えーっとぉ」

「もう!さっさと説明しなさいって言ってんでしょ!!」
ハルヒは朝比奈さんの胸倉を掴んで怒鳴った。
こいつは何をそんなに怒ってるんだ?
「ひぅ!!」

「おい、ハルヒやめろ!!朝比奈さんは何も悪くないんだ!!」
そう言って朝比奈さんを庇う形で2人の間に入った。
「ふーん、お熱い事で。何よ、見せ付けてくれんじゃない!!」」
今度は俺に掴みかかってきた。

「俺はな、ただ朝比奈さんに告白「嫌!!そんなの聞きたくない!!」

「いいから最後まで聞けって言ってるだろ!!」

「聞きたくないって言ってんでしょ!!バカッ!!もう知らない!!あんたなんかみくるちゃんとヨロシクやってなさいよ!!」
ハルヒは俺の手を払い除けて部室を勢い良く飛びだしていった。
「もう、何やってるんですか?しっかり説明してくれなきゃダメじゃないですか」

「そうは言ったって、あいつ何も聞かなかったじゃないか」

「そこを何とかするのがあなたの仕事ですよ。しっかりして下さい」

「・・・超ヘタレ・・・」
どうでもいいが、今日は長門の一言が厳しいな。

「まぁ、我々も少し調子に乗ってしまいましたね、すいませんでした」

「いや、それはもういい。それより、またあのヘンテコ空間が発生して大変なんじゃないか?」

「えぇ、恐らく発生するでしょうね」

「また、迷惑掛けるな」

「いえいえ。それより、明日にはちゃんと涼宮さんの誤解を解いて下さいね。よろしくお願いします」

「キョン君、ごめんなさい。私がしっかり説明出来ていればこんな事にはならなかったのに・・・」

「朝比奈さん、それはお互い様ですから気にしないで下さい」

「分かりました。では、また明日会いましょうね」

「はい。また明日」
そこで俺たちは解散し、それぞれの帰路に着いた。
家に帰った俺はハルヒになんて言って謝ろうか、そればかりを考えていた。
はぁ、前途多難だな、まったくよぉ。
そして、ハルヒの事が頭から消えないまま俺は眠りに落ちていった・・・
・・・・・・・・・・
何か違和感を感じ目を覚ますとそこはいつかの灰色の空間だった。
また、ここか・・・・
という事はあいつもここに居るんだろうな。
さて、ハルヒを捜しに行きますか。
俺は、立ち上がり部室を目指した。
あいつが居るとしたらあそこしかないからな。

俺の読み通り、ハルヒは部室に居た。
「おい、ハルヒ」

「・・・キョン・・・」

「また、こんな所に来る夢を見たのか?」

「あはは、ここは夢じゃないわよ」
ハルヒは何を言ってるんだ?
どうしてそれを知ってるんだよ?
「どういう意味だ?」

「あたしね、前にここに来た時に1人で探検したでしょ?その時に転んで膝を擦り剥いたのよ。で、戻った時にその傷が残ってたの。だからあれは夢じゃないってすぐに気付いたわ」
なんて事だ・・・
つまりハルヒはあの時からここが夢じゃないって気付いてたってのか。

「そう分かってるなら、なんでまたここに来たんだよ?」

「あんたのせいよ。あんたがあの時あたしにキスしたからあんたの中にはあたししか居ないって信じてたのに!!
あんたはあたしじゃなくてみくるちゃんを選んだ!!あたしはそれが許せない!!だからあんたをここに閉じ込める事にしたの。
そうすればあたし以外の奴があんたに触れる事は出来ない。最高よね!!あははははははははは」

「そんなことしてなんの意味があるんだ?お前だってここから出られないんだぞ」

「あたしはあんただけが居ればいいわ。他にはなにもいらない」
ダメだ、今のハルヒは歪んでしまっている。
今、告白すればハルヒは受け入れてくれるだろう。
だが、俺が好きなのはいつものハルヒだ!!
目の前に居るこいつじゃない!!
「お前は誤解しているぞ!!俺は朝比奈さんに告白した訳じゃ「もう、その話はどうでもいいわ」
ハルヒはゆっくりとこっちに近づいてくる。

「さぁ、キョン。あたしだけを見て。あたしだけを愛して。あたしだけを求めて」
っく、俺の言葉はハルヒの心まで届かない!!
なんて無力なんだよ、俺は!!
どうすればいいんだ!?
もう、ハルヒは俺の目の前まで来ていた。
「ねぇ、早くあたしに触って」
ここで諦めてどうすんだ!!
ハルヒをこうしちまったのが俺なら、元に戻すのも俺の役目だ!!
「・・・それは・・・・出来ない」

「え?」

「俺には今のお前を求める事も愛する事も出来ないって言ったんだよ!!」
頼む、もう元に戻ってくれ・・・
こんなお前を見てるのは辛いよ・・・

「・・・そう・・・だったら」
どうやら俺の願いは届かなかったみたいだな・・・
「・・・死んで・・・・」
ハルヒがそう言った瞬間、何かが俺の腹に突き刺さった。
な、何がどうなってんだよ!?
俺は、状況を理解する前にその場に倒れこんでいた。
ここでやっと冒頭に戻る。
「ふ・・・ふふふ・・・これで・・・・キョンは・・・・・あたしだけのもの・・・」
・・・身体に力が入らない・・・
・・・・頭の中が真っ白になる・・・
・・・・・もう・・・そんなに時間は残されていないだろう・・・
俺はそんな事を考えつつ、ぼーっと自分の腹に突き刺さった包丁を見ている・・・
なんで、こんな事になっちまったんだろうな・・・・?
なぁ、ハルヒ・・・・

「あははっ、あははははははははははははははははは」
くそっ、もうどうにもならないのかよ!!
そう思った時、ハルヒの異変に気が付いた。
ハルヒはその大きな瞳から大粒の涙を流している。
そうか、ハルヒもコイツと戦っているんだな!!
だったら、俺に出来る事はたった一つだ!!
それはハルヒが目の前のコイツに勝てるようにしてやる事だけだ!!
「ハ・・ルヒ、ごめん・・・な・・げほっ・・・俺・・・・お前の事・・・・・傷つけちまった・・・な」

「何を今更、そんな事しても無駄よ!!あははははははははは」
てめえは黙ってろ!!
俺は、目の前の奴を思いっきり睨み付けた。

「今日の・・・あれな・・・・お前に・・告白する練・・習をしてた・・・んだ・・・・っく」
俺は意識が遠くなるのを必死に堪えた。
「・・・1度しか・・言わないから・・・ちゃんと・・・・聞いて・・・おけよ」
もう少しなんだ!!だからもう少しだけもってくれよ!!
「む、無駄だって言ってんでしょ!!往生際が悪いわよ!!」
いい加減、黙ってくれ。気が散る。
「俺は・・・涼宮ハルヒが・・・・・大好きだ!!だから・・・・・俺の所に戻ってこい!!ずっと俺の傍に居てくれぇ!!」
っく、俺に出来るのはここまでみたいだ・・・・
お前が戻ってくるのを迎えられなくてごめんな・・・
そこでとうとう限界を迎えた俺は意識を失った・・・・

・・・・・・・・
「・・・・ョン・・・ン・・・・・・」
誰かが俺を呼んでいる・・・・・
疲れてんだから少し休ませてくれよ・・・・・
なんか、さっきから顔にポタポタと垂れてくるな。
なんだこりゃ?
「キョン・・・・キョン・・・・・キョン~」
声がさっきよりはっきり聞こえる。
あぁ、分かったよ!!起きればいいんだろ!?
目を開けるとそこには涙とかその他の液体で顔をめちゃくちゃにしているハルヒの顔があった。
「・・・よぉ、何泣いてんだよ?」

「だって、キョンが死んじゃったと思ったんだもん!!」
「お前が刺したんだろうが」と出かけたがそれは飲み込んだ。
どうやら、俺の大好きなハルヒが戻ってきたみたいだからな。

「無事・・・戻ってきたみたいだな」

「うん。キョン、ごめんね・・・ホントにごめんなさい」

「もう、いい。お前はよくやったさ。そんな事より、もっと聞きたい事があるんだけどな」

「えっ?あ、うん。あたしもキョンが世界で一番大好き!!だから、これからよろしくお願いします!!」
あぁ、良かった。
これからが楽しみだな。って、俺は死に掛けてるんじゃなかったっけ?
腹の辺りを摩って見るとべったり血が付いていた。
痛てて、思い出したら急に痛み出した。
「キョン!?大丈夫なの?死んじゃやだよ!!」
もちろん、そのつもりはない。

「なぁ、ハルヒ。元の世界に帰ろう。その際、俺の怪我が治りますようにって願ってくれると嬉しい」

「そんな事で治るの?擦り剥いたとかじゃないんだよ?」
どうやら、元のハルヒは自分に変な力がある事は知らないみたいだな。
まぁ、そっちの方がいいか。
「治るさ。なんたって俺の女神様の願いなんだからな!そして、ずっとハルヒの傍に居るよ」

「分かったわ。キョンがそう言うなら信じる。約束だからね!!ずっと傍に居なさいよ!!」

「あぁ、約束だ。」
そう言ってハルヒの頭を引き寄せ・・・キスをした。
あの時とは違う。
それは愛おしいキスだった。
あの時も離したくないと思ったが、今はそれ以上に離したくない・・・・
そう思えるキスだった・・・

翌朝、すっかり傷が消えている事を確認した俺は学校へと登校した。
教室に入るとハルヒが勢い良く抱きついてきた。
「お、おい、ハルヒ!朝っぱらから何してんだ!?」

「キョン、ちゃんと生きてた!!生きててくれた!!約束守ってくれた!!」

「そんなの当たり前だろ?なんたって、これからずっと傍に居るんだからな!!」

「うん!!よろしくね!!大好きだよ、キョン!!」
どうやら、一生離れる事はできないみたいだ。
無論、離れるつもりもない。
俺には眩し過ぎるハルヒのこの笑顔を1番近くでずっと見ていたいからな・・・



THE END

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最終更新:2020年12月20日 00:22