ここは文芸部部室こと我らがSOS団の溜まり場だ
朝比奈さんは今日もあられもない姿で奉仕活動に励み、長門は窓際の特等席で人を殺せそうな厚さのハードカバーを読んでいる。
俺はというと古泉と最近お気に入りのMTGを楽しんでいた――ちなみに俺のデッキは緑単の煙突主軸のコントロール、古泉は青単のリシャーダの海賊を主軸にしたコントロールだ――ここ最近は特に目立った動きもなく静かな毎日を送っていた。
……少なくとも表面上は。だがな。

何故こんな言い回しをするかって?正直に言おう。オレ達は疲れていたんだ。ハルヒの我が侭に振り回される毎日に。
そりゃ最初のうちは楽しかったさ。宇宙人、未来人、超能力者と一緒になって事件を解決する。そんな夢物語のような日常になんだかんだ言いながらも俺は胸を踊らせたりもした。
だって、そうだろ?宇宙人と友達になれるだけでもすごいのに未来人や超能力者までもが現実に目の前に現れて俺を非現実な世界に連れていってくれるのだ。まさに子供の頃の夢を一辺に叶えたようなものだ。
これをつまらないと言う奴はよほど覚めた奴か本当の意味での大人くらいなものだろう。
そして俺は本当の意味での大人ではなかった。だからなんだかんだと文句を言いながらも心の底から楽しむことができたのだ。

では何故冒頭で否定的とも取れる意見述べたか?理由は単純、ハルヒの我が侭がオレ達のキャパシティを大きく上回ったことにある。
例えば閉鎖空間。SOS団を結成してからというものその発生回数は減ったもののその規模が通常のそれより遥かに大きくなったのだそうだ。
しかもその原因のほとんどが俺にあるというから責任を感じずにはいられないね。
そして俺に最も精神的苦痛を負わせた事件がある。それはこんな内容だった。

それは些細なことで始まったケンカだった。あの時は俺が折れるべきだったのだ。
悪いのはハルヒだからハルヒが謝るべき。
なんてつまらない意地を張らずにハルヒに土下座をして許しを請うべきだった。
しかしあの時の俺は強気だったしバカだった。
あろうことか俺はハルヒにお前が長門や朝比奈さんを少しは見習って女らしさというもをうんたらかんたらと説教を始めてしまった。
それがいけなかった。
前々から俺と長門の関係を怪しんでいたハルヒは激昂し、「なんでそこで有希が出てくるのよ!!」と怒鳴ると怒って帰ってしまったのである。
朝比奈さんはおろおろと怯え、長門は無表情だがどこか責めるような目線を送ってきた。
そしてこの件について一番の被害者になるであろう古泉はいつもの0円スマイルではなくまっこと珍しいことに真顔だった。
真顔の古泉が怖くて仕方なかった俺は古泉に平謝りしその日は解散となった。

明日ハルヒに謝ろう。そうすればまたいつも通りのSOS団が帰ってくるさ。俺はそんなことを考えていた。
だから翌日昼休みに消耗しきった古泉に呼び出されたことに少なからずも俺は動揺していた。古泉のあんな顔を見るのは始めてだった
「昨夜閉鎖空間が発生しました」
「そうだろうなあ…いや本当にお前には迷惑をかけた。すまんこの通りだ許しくれ!」
古泉は気にしてないと言わんばかりに微笑し淡々と話しを続けた。
「僕よりも涼宮さんに謝ってあげてください。なんせ昨夜の閉鎖空間の規模は今までの比ではなく我々《機関》だけでは対処できずに長門さんの勢力に協力してもらいやっとのことで鎮めることができたのですから」
古泉は淡々と話す――本当にすまん
「そして我々《機関》の中から始めての犠牲者もでました。あなたもご存知の新川さんが森さんをかばいが殉職しました。その森さんも背骨を折られ車椅子生活を余儀なくされました」
俺は絶句した。そりゃ人はいつか死ぬのだ。その事実は受け止めなければならない。
しかしこんなかたちで知人の不幸を知らされるとは夢にも思っていなかったからである。
真夏だというのに小刻みに震え、冗談だよなと言う俺を見て古泉は首を左右に振り否定。
また微笑し淡々と話し始める――なんでそんなにあっけらかんとしているんだよ…いっそのこと罵利雑言を浴びせ思いっきり殴ってくれ…
「僕は、僕達は別に貴方を責めているわけではありません。貴方はただ巻き込まれただけの一般人ですからね。ですが貴方の軽率な行動が簡単に僕達の命を刈り取ってしまう…この事実を忘れないでください。
では、後ほど」
そういって古泉は教室に戻っていった。
俺はというと食堂で昼食をとっていたハルヒに詰め寄り恥じも外聞も捨て泣きながら土下座した。
この時ばかりは周りの視線が気にならなかった。それくらい俺は焦っていたんだ。

とまあ、こんなことがありしばらく俺は古泉よろしくハルヒのイエスマンに成り下がっていたのだがこれにもちょっとしたエピソードがある。
なんでもかんでもはいはい肯定する俺にハルヒが不満を持ったのである。本当に難儀なあ、奴だこいつは…
古泉曰く俺は否定的立場を取りつつも最後にはハルヒを受け入れる性格でないといけないらしい。つまり新川事変(朝比奈さん命名)以前の俺だな。

新川事変以来ハルヒにビビっていた俺には無茶な注文だったがまた下手に刺激して閉鎖空間を発生されても困るので努めて俺は昔の俺を演じることにした。
おかげで自分を欺く術に異様にたけてしまった。全く嬉しくないネガティブな特技である。

ついでなので俺の肉体に最も苦痛を与えたエピソードもお話ししよう。

その日はいつものように文芸部部室で暇を持て余していた俺は古泉指導のもと演技力に磨きをかけていた。
そこに無遠慮なまでにバッスィィィィィン!!とドアを蹴破り現れたのは我らが団長涼宮ハルヒその人である。
ハルヒは何か悪巧みを思いついた時に見せる向日葵の様な笑顔――俺にはラフレシアの様な笑顔に見えたのは秘密だ――で開口一番
「アメフト大会に出るわよ!」
と、宣った。せめてビーチフットにしていただきたかったぜ。

大会はいつなんだ?という問いに満面の笑みで
「明後日よ!!」
と答えるハルヒ。まったくこいつは……
「無理だ。アメフトのルールは野球とは違って複雑だぜ?」最初は否定的立場にいながら――
「大丈夫よ!図書室でルールブック借りてきたしいざとなったらあんたの友達の中川くんに助っ人になってもらえばいいわ!!」
俺はハルヒの持ってきたルールブックにいちべつし、軽いため息を吐くと
「“中河”だ。わかった…中河には俺から連絡しておくさ」
――最終的にハルヒの我が侭を受け入れる。どうだ?完璧な演技だろ?アハハハハっ、よし、今日も古泉にレキソタンわけてもらおう。
以外と効くんだ。アレ。

中河にアポを取り、快く承諾してくれた中河に感謝しつつ決戦当日である。
ちなみにハルヒが借りてきたルールブックとはアイシールド●1である。
いっそ事故かなんかで死んでくんないかなあ、あいつ。

試合内容は散々たるものだった。
相手チームが原因不明の腹痛を訴え棄権したり交通事故で棄権したり実家が燃えて人数が足りないチームと戦い、とうとう決勝戦である。
彼らには悪いがこちとら世界の命運がかかっている。多少の犠牲はつきものと割り切って試合に挑もと思う。

ここでとりあえず我がチームの選手とポジションを紹介する。
まずはラインの谷口、国木田、コンピ研部長、ランの俺とハルヒ、クォーターバックの長門、なんでも屋の古泉、その他雑用の鶴屋さん、朝比奈さんに妹
そしてリードバッグ(ボール持った奴を守るポジションらしい)の経験者中河だ。
これで優勝を狙ってるんだから正気の沙汰じゃない。本当に志しなかばで散っていった方々のご冥福を祈る。
いい加減まともに試合が出来ていないことにハルヒがイライラしてきたのでこの試合は小細工無しの真っ向勝負だ。
オレ達は経験者中河の指示にしたがい順調に点差を広げられていった。
ちなみに中河の提出した作戦は「いのちをだいじに」だ。
さすがの中河もまさか女子供と混じってアメフトをするとは夢にも思わなかったのであろう。
いろんな意味でアップアップだ。
そんな時に限って古泉の携帯が鳴り、長門は空を睨み、朝比奈さんは耳を澄ましてやがる。あぁ、忌々しい…

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最終更新:2020年12月20日 00:56