忌々しいテストも昨日で終わり、特に授業が進むわけでも無いのに学校をサボる度胸もない俺は、
視界がボヤけて見える程の暑さの中、学校へ登校した。
テスト勉強に睡眠時間を削った日々が続いたせいもあり、疲労がたまっていた俺は、
早く教室に入って寝てしまいたかった。
果たして俺の後ろの奴が寝かせてくれるかはわからんがな…
 
まぁそんなことを考えてながら歩いていたわけだが、脚は無意識的に教室へと俺を運んでくれた。
 
俺はいつも通り遅刻の5分前についたのだが、いつも通りじゃない所が一つあった。
 
…ハルヒが来てなかった。
 
正直100%と言うわけではないんだが、大抵俺より早く来ているハルヒが来てないのは少し意外だったな。
まぁそのうち来るだろう…。
俺もこの時は思っていたんだ…。
 
…キーンコーンカーンコーン・・・
 
だが始業のチャイムが鳴ってもハルヒは来なかった。
俺はハルヒが来なかったことに少し不安を感じた…。
ガラガラッ
しばらくすると担任の岡部が教室に入ってきて、朝倉の代わりに委員長になった奴が朝のあいさつをした。
そして出席をとる前に岡部が言ったことに俺を含めクラスの奴らはざわついた。
 
「涼宮は今日は風邪で休みだそうだ」
 
……すまん。ちょっと大袈裟に言ってみただけなんだ。
なにか事件が起きると思った奴は是非SOS団に入ることをおすすめする。
ハルヒは喜んで受け入れてくれるはずだ。
 
朝のホームルームが終わり、俺はハルヒにメールした。
その……なんだ?
俺もハルヒと付き合ってるわけだから、彼氏として彼女が病気と聞いたら心配にはなるわけだ。
 
『大丈夫か?』
寝ているだろうから返信はあまり期待してなかったが、意外にも5分程で返ってきた。
 
『だめ』
短い返事だった。これ以上ないくらい…
そっけないのはきっと具合が悪いからだろう。
勝手にそう解釈して俺は返信した。
『今日はゆっくり休め』
 
そのメール以降はハルヒからメールは来なかった。
俺の言うことを素直に聞いてくれたのだろうか?
「言われなくても寝るわよ!!」
ぐらいは言ってそうだがな。
 
その後俺はいつも感じるハルヒの視線を背中に感じることなく、
教師達ですらあまりやる気のない半日授業を寝て過ごした。
 
帰りのホームルームを終えると、SOS団のアジト(文芸部部室)に向かった。
 
俺が部室に入ると既に全員が揃っていて、俺の顔を見るなり、朝比奈さんと古泉が口を揃えて言った。
「「なんでこんなところにいるんですか!?」」
 
……え?
俺がこう思うのは無理もないだろう。
ほぼ習慣となっている『部室に来る』という行為をあたり前のようにしただけなんだからな。
 
俺が入り口で立ちつくしていると
「……キョン君って涼宮さんと付き合ってるんだよね?」
と朝比奈さん。
「ええ、もちろんですとも」と言わんばかりに俺は頷く。
今更なにを言ってるんだろうか?という顔を俺はしていたのだろう。
古泉と朝比奈さんが溜め息をついた。
すると奥に座っていた長門が珍しく口を開いた。
「あなたは本来ここにいるべきではない。行くべきところがあるはず。その二人はそう言っている」
 
………あ!なるほど!
俺が理解した顔をすると古泉と朝比奈さんが再び深い溜め息をついた。
 
そう、つまり「お見舞いに行け」ということなのだった。
 
「僕たちも行きたいところですが、病人の部屋に大勢で行くのはどうかと思うので、あなたに任せます」
額に手を当てながら古泉が言った。
俺はSOS団の団員たちの哀れむような視線を浴びながら部室をあとにした。
 
…勘違いしないで欲しい。俺はちゃんと行くつもりだったんだ。
部活が終わったら顔ぐらいは見せるつもりだったんだよ…。
俺はあの哀しい視線への返事を一人で呟いた…。
 
……
俺は今ハルヒの家を目指して歩いている。最近いつも隣にはハルヒがいたのだが、
どういうわけか今日は谷口が隣にいる。
 
校門を出る辺りでコイツとたまたま会って、「ハルヒの家に行く」と言ったら、「途中まで一緒に行ってやる」とか言ってついてきたのだ。
 
「言っておくがついてくるよう頼んだ覚えはないぞ?」
「そんなこと言うなよ?俺の家も同じ方向なんだからいいだろ?」
そういやコイツはハルヒと同じ中学だったな。
つまり俺の知らないハルヒを知ってるわけだ。
そう考えると少しイライラしてきた。
 
「まさかキョンがマジで涼宮と付き合うとは思わなかったぜ」
谷口が突然話しかけてきた。いや、ずっと話していたのに気付かなかったのかも知れん。
谷口のトークは止まることをしらないからな……
なんてしゃべり続ける谷口をずっと見てた。
 
俺の反応があまりにも薄い(ていうか無い)ので谷口の話のリミッターは外れてしまったらしく言ってはならない言葉を口にした。
「まったくあんな性格破定女のどこがいいんだ?」
 
…ブチッ
頭の中で何かが切れる音がした。
 
気がつけば俺は谷口を壁に押し付け首を絞めようとしていた…。
 
谷口は俺のただならぬ雰囲気と、殺気に満ちた眼に少し震えていた。
「…てめぇ、…もういっぺん言ってみろよ……」
とても俺の言葉とは思えない言葉だった。自分でも驚いたぐらいだ。
谷口の震えはさらに激しくなっていた。
 
「お前にアイツの何がわかるんだ…?」
手に力は入れてないが苦しそうな谷口。
「わ、悪かった!ゆ、許してくれ!」
谷口は本気で謝ってる様だった。いつものチャラけた感じは一切しない。
俺は手を離し谷口を解放した。
 
「まったく、いくらお前でも言っていいことと悪いことがあるぞ?」
 
「…もう二度と言いません……。」
少し落ち着いた俺は声のトーンをいつも通りに戻したが、谷口は敬語で謝ってきた。
「わかればいいんだ。早く行こうぜ?ハルヒが待ってるからな」
「お、おう!」
 

歩いてる間谷口は「キョンってもしかして中学の時不良ってやつだったのか?」
なんて訊いてきたが、もちろんそんなわけはないので、笑いながら否定してやった。
 
谷口の家に一番近いコンビニの前を通るとき谷口が「さっきのお詫びに涼宮への土産代は俺が出す」
と言った。
 
俺はお言葉に甘えて谷口の金で大量の飲み物とプリンを買った。
谷口は空になった財布を見て悲しそうな顔をしたが、知ったこっちゃない。俺のハルヒを侮辱した罰だ。
 
別れ際に谷口が俺に語った。
なにやら長い前置きがあったが、いらない部分が多いので要約して言うと、
実はハルヒに5分でフラれた男というのは谷口のことらしく(薄々感づいてたが)、それをまだ少し根に持ってるらしい、
俺とハルヒの関係が長続きしてるのが悔しかったらしい。
 
どんな理由があろうとさっきの発言は許せなかったが、コイツ含めた他の奴らは
ハルヒのかわいい一面を知らないんだと思うと少し優越感に浸れた。
かわいい一面というのは、まぁ男と女の情事の……
ダメだ!これ以上は教えられん!禁則事項だ!
 
「じゃあまた明日な!」
そう言った谷口と別れハルヒの家に向かった。
 
ハルヒの家の前に到着した俺はポケットから携帯を取り出した。
実は学校を出るときにハルヒに見舞いに行くとメールを入れておいたのだが、
ハルヒからのメールはなかった。
まぁいい。ちゃんと寝てるってことだろう。
 
俺はハルヒの家のインターホンを鳴らした。
 
しばらくするとハルヒの母親らしき人が出てくる。
何回かハルヒの家には来ていたが、ハルヒ母と出会うのは初めてだった。
あまり化粧はしてなさそうだが、えらい美人だ。
そこら辺のモデルなんかより遥かにスタイルもよかった。
そんな俺の考えをハルヒ母の声が遮断した。
 
「待ってたわ。あなたがキョン君ね?」
あれ?なんで俺が来ること知ってるんだ?
疑問に思ったが挨拶はしないとまずいので挨拶をした。
「あ、ハルヒさんの友人の○○です。風邪だと伺ったので…」
言いかけてたのにハルヒ母は遮るように話してきた。
「ふふ、嘘つかないでいいのよ?キョン君。ハルヒがあなたと付き合ってるのは知ってるわ」
わざわざ本名を名乗ったのに『キョン君』か…。
ハルヒの人の話をあまり聞かない所は母親似なんだな。
と失礼ながら思ってしまった。
 
「お邪魔します」
ハルヒ母に案内されてハルヒの部屋に向かっている。途中冷蔵庫に買って来た物を入れさせてもらった。起きていきなり食べないだろうからな。
 
部屋の場所は知っていたが俺はついて行った。
その間ハルヒの母は
「いつから付き合ってるんだっけ?」
「どっちから告白したの?」
「どこまでいったの?」
などとまるで温泉でも湧き出たかのように質問を浴びせてきた。
俺はその度に
「確か3ヶ月前の…」
「どっちかはよくわからないんですよ」
「それはちょっと……」
などと返答していたのだが、
ハルヒの部屋の近くで立ち止まると急に真面目な顔で話してきた。
「ハルヒったらあなたと出会ってから毎日が楽しそうなのよ。
中学の時は本当につまらなそうだったんだけどね。
最近はあなたの話ばっかりなのよ?
『一緒に○○できてうれしかった!』とか『それでキョンったらね!』
なんて楽しそうに話すの。
あの子の本当の笑顔久しぶりに見たわ。
今日だって『キョンが来てくれるから部屋掃除して!』って言われてさっきまで掃除させられたのよ。」
…なるほど、だから『待ってた』って言ったのか。
ていうか家でも俺の話をしてくれているんだと思うと、うれしくて顔が赤くなるのを押さえられなかった。
「そうですか…」
俺は色々考えながら返事をした。
 
「私たちは共働きだからハルヒには悲しい思いさせてきちゃったから…。
だからハルヒがあなたと出会えて本当によかったと思ってる」
「俺もハルヒに出会えてうれしいですよ」
うわ…なに恥ずかしいこと言ってんだ俺は!!
「…ありがとうキョン君。ハルヒをよろしくね?
あの子あんまり素直じゃないけど、たぶんあなたのこと大好きだわ」
俺に悲しげな笑顔を見せハルヒ母はそう言うと歩きだし、ドアの前に行き、ハルヒの部屋のドアを開けた。
 
ハルヒの部屋に入ると、そこにはベッドの上に体を起こして座っているハルヒがいた。
「寝てたんじゃないのか?」
俺が訊くと
「誰か来た音がしたから起きちゃって、
怪しい人かと思ったから起きてたのよ!」
 
…嘘だな。
ハルヒの母を見ると苦笑いしながらいながら頷いた。
「じゃあ私はちょっと仕事で出かけるからね」
そう言い残しハルヒ母は何処かへ行ってしまった。
 
俺は部屋の奥にある椅子をハルヒの寝てるベッドの横に移動させて座った。
 
「いきなりなんで来たのよ」
いきなりじゃない。俺はメールしたはずだ。
「見てなきゃいきなりと同じよ!」
はぁ…なんでこう嘘をつくのかね?ずっと待っててくれたくせに…。
 
「まぁいい、いきなり来たのは悪かったよ。
でも『なんで』っていう質問はどうかと思うぜ?」
 
ハルヒは布団を口元まで上げて顔をうずめて聞いている。
「お前が心配だからに決まってんだろ?」
 
ハルヒの顔が心なしか赤くなったように見えた。
「…バカキョン」
 
それから俺は上半身を起こしたままのハルヒをベッドに寝かせて、
テストの話やらSOS団の夏休み予定の話をした。
 
30分くらい話していたのでハルヒは喉が乾いたらしく、
「冷蔵庫からお茶持ってきなさい!」
といつものように命令してきたが、さすがのハルヒもやはり具合が悪そうだった…。
 
俺は人様の家の冷蔵庫を勝手に開けるような教育を受けなかったので、
多少開けるのに抵抗があったが、お茶と冷蔵庫に入れさせてもらった谷口の金で買ったゼリーを取りだし、
ハルヒの部屋に戻った。
 
「遅いわよキョン」
そう言いながら上半身をまた起こした。
「はいはい」
俺は椅子に座るとペットボトルのお茶を渡しながら
「なぁハルヒ、なんで風邪ひいたんだ?」
風邪だと知ったときから気になってたことを訊いた。
「ど、どうだっていいでしょ?あたしだって風邪ぐらいひくのよ!悪い!?」
明らかに動揺してるのがわかった。
気になりはしたがハルヒは教えてくれないだろうから、
「あ、そういえば土産にプリン買って来たから食べるだろ?」
話題を変えてやった。
 
「プリンがあるの!?」
ハルヒは本当に病気なのかと疑いたくなるような反応をした。
お前ってプリンそんなに好きだったっけ?
「何言ってんのよ!あたしと言ったらプリン、プリンと言ったらあたしよ?」
…初耳だ。
「知らなかったぜ」
 
「そりゃそうよ!キョンには知らないあたしがまだまだいるんだから!
早くプリンを渡しなさい」
 
だいぶお前のことは知ってるつもりだったんだがな。
俺はまだまだ『涼宮ハルヒ博士』にはなれないらしい。
なんてアホな事を考えながら、目を輝かせるハルヒにプリンを手渡した。
 
ハルヒはなかなかプリンを食べない。
「どうした?食べないのか?」
「…力が入らなくてフタが開かないのよ!あたしは病人なんだから開けなさいよ!!」
ちょっとだけ怒ってハルヒが言った。
そうか、ハルヒは風邪をひいてたんだっけ。
 
……!
…これはチャンスじゃないのか?
俺はそう思い、ハルヒに交換条件を出し、交渉することにした。
 
……「開けてもいいが、風邪をひいた理由を教えてくれ」実は俺はさっき訊いたときのハルヒの反応が気になっていたからな。
あの動揺の仕方はなにかあるはずだ…。
 
「うぅ………」
ハルヒが追い込まれた様な声を出す。
「言わないならプリンはおあずけだな」
追い討ちをかける俺。
 
「わ、わかったわよ!言えばいいんでしょ!?」
ハルヒは意を決したように言って来た。
それほど言いたくないのだから、さぞかし大きな秘密なのだろう。
俺はハルヒの秘密を聞けるのに少し心を踊らせていた。
 
「…テスト勉強で全然寝てなかったの…。それで体調崩したのよ」
 
…え?
 
ハルヒがあれだけ言うのをためらったのわりに、あまりにも普通の理由だった。
嘘か?いや、嘘をついてるようには見えない。俺にはわかる。
 
でもハルヒってそんな夜中まで勉強するようなキャラだったか?
 
……!俺は試験中後ろで寝息をたてるハルヒを思い出した。
 
なるほど、あの睡眠は余裕だから寝てたんじゃないのか…。
 
俺はこの間ずっと言葉を発していなかった口を開いた。
「なんでそんな体調崩すまでやったんだ?」
俺だったらきっと何かと言い訳をして妥協してしまうだろう。
いや、実際そうだった。
冒頭では勉強していたなんて言ったが、実際は2時間程寝るのが遅かっただけだしな。
 
俺の質問にものすごく答えたくなさそうな顔をしたがハルヒは言った。
「…あんたにカッコ悪いとこ見せたくなかったの」
 
ん?俺は意味を理解しようとしていた途中だったがハルヒは続けた。
 
「…駄目な点数取ってあんたにカッコ悪いとこ見られたくなかったから勉強してたのよ!
ほんとは授業終わってからすぐ帰って家でやればいいんだろうけど、
その……ほ、放課後はあんたと一緒にいたかったから…///」
ハルヒは顔を隠すようにうつ向いていた。
 
俺はどうしようもなくハルヒが愛しくなった…
「バカだなハルヒ…」
自分でも驚くほどやわらかい声が出た。
「ば、バカってなによ!」
ハルヒは顔を上げて怒りだした。顔は赤いままだが。
俺は持ってたプリンを机に置き、ハルヒの文句を無視してハルヒを抱き締めた。
 
「…キョ、キョン?」
ハルヒの動揺する声がすぐ近くから聞こえる。
 
「俺にはカッコ悪いとことか、弱いとことか、かわいいとことか、いろんなハルヒを見せて欲しい…」
 
俺は谷口でも恥ずかしくて言うかわなそうな言葉を口にした。
だが不思議と恥ずかしくなかった。
だってこれは俺の真剣な気持ちだから…
 
「な、なに言ってんのよ。バカキョン!」
ハルヒの体は焼けそうなほど熱かった。
 
「これからはテスト前の放課後は一緒に勉強しよう。
たぶん俺は教わってばかりだろうがな…」
「…うん///」
ハルヒがどこか嬉しそうに頷いたのを確認して。
「あんまり無茶するなよ?」
俺は体を離した。
抱き締めたときにも感じたがハルヒはかなり暑そうだった。
 
枕もとに体温計があるのを見付けたので
「熱上がったんじゃないのか?これで測れよ」
体温計を渡しながら言った。
 
「…誰のせいよ……///」
ハルヒは文句を言いながらも体温計を脇に挟んだ。
 
…話がなかったので俺はプリンを机からとりハルヒに言った。
「プリン食べるか?」
するとハルヒはムッとして言い返してきた
「今、体温計挟んでるから食べにくいの。見て分かんないの?」
そういえばそうだったな。
……!いいことを思い付いた。今日の俺は最高に冴えてるぜ!
 
「食べさせてやるから口開けてみろよ」
そう、恋人がよくやるあれをやることにしたのだ!
普段のハルヒは「そんなの恥ずかしくてできない!」
とか言ってやらせてくれないんですよね。
 
「い、嫌よ!そんなの!」ハルヒは声を荒げた。
 
こんなに嫌がられると流石にショックだ…
 
「…ハルヒ?そんなに嫌なのか?」
トーンを落とし、うつ向き加減で。
 
するとハルヒはそんな俺の様子になにか感じたようで、
腕を組みながら偉そうな態度で言った。
 
「ど、どうしてもって言うなら食べてあげてもいいわよ!」
「どうしてもハルヒに食べさせたい」
俺は即答した。
ハルヒは俺の素早い反応に一瞬怯んだあと、
体温が上がってるのが目でわかるほど赤くなった。
 
「わかったわよ!ほら!早く食べさせなさいよ!」
とハルヒは口を開いた。
 
俺は前からやりたかったことだったからうれしくなって少し興奮してしまった。
「はい、あーん…」
俺がプリンをすくってハルヒの口元に運ぶと、
ものすごい小さな声でだが、『あーん』って言ってくれた。
なんだかんだでハルヒも喜んでやってくれてる…。
かわいい奴だ…。
 
『次は教室でお願いしてみよう』。
密かな作戦を心の中で立てた。
 
「うまいか?」
俺は特に何も考えずに訊いたんだが、
ハルヒの予想外の返事に赤面を余儀なくされた。
 
「なんかいつもよりおいしい気がする…。
…キョンが食べさせてくれてるからかな……」
 
終わりの方は声が小さくてよく聞こえなかったが、
たしかにそういったんだ。
…俺の理性という名のリミッターは大きな音をたててぶっ壊れた。
 
俺はプリンを机に置き、ハルヒに近付く。
「ど、どうしたのよ、キョン!?」
ハルヒは動揺を隠せていないようだった。
 
「もう無理…」
「な、なに言ってるのキョ……!?」
俺は肩を掴みハルヒにキスをした。
「……ふ、…んぅ……」
重ねた唇からハルヒの息が漏れる。
ピピピピ……
体温計がなっても……
ドンドンと体温計の挟まってないほうの手でハルヒが俺の胸を力無く叩いても…
俺は唇を離さなかった。
 
…1分ぐらいしていただろうか、ハルヒが叩くのをやめたころに俺はようやく唇を離した。
 
「ハァ…ハァ…ハァ…」
ハルヒは肩で息をしている。
「なに……やってんのよ……バカキョ……」
ハルヒは叫びたいのだろうが、体がそれを許さないらしい。
「お前がかわいすぎるのがいけないんだ…」
「…え!?」
 
「もうガマンできない…」
俺はハルヒのパジャマの下から手をつっこみ、脇腹を這うようにゆっくり手を上へとのぼらせた…。
 
「や、だめ……キョ…ン、んぅ……」
 
俺は手を進めるのをやめない。
 
「ほんとに、……やだ…っていって……あん……」
 
「キョ…ンって…ば、風邪…うつっ…ちゃうから…あっ…」
ハルヒの声に悩ましげな声が混ざり始めた。
 
…そろそろか?
 
俺はハルヒの脇に挟んであった体温計をスッと抜き取った。
 
「へ?」
ハルヒは拍子抜けした顔をしている。
 
そんな顔もかわいくて俺はニヤケながら言った。
「どうしたんだハルヒ?俺は体温計が鳴ったからとっただけだぞ?」
ハルヒはなにも言わない。
「風邪うつっちゃうって、なにするつもりだったんだ?ハルヒ……」
……ってえぇ!?
驚いた理由を教えて差し上げましょう……。
 
…ハルヒが泣いてたんだ……。
 
え、ちょっと、えぇ!?
俺のハルヒが怒ってくるという予想に反してハルヒが泣いていたことに混乱する俺をよそに、
「…ヒック…ヒドイよ……」
ハルヒが話し始めた。
 
「……キョンのこと心配したのに……。……キョンにうつしたくないから嫌だって言ったのに……。冗談ってなによ……」
ハルヒは布団が濡れるほど涙をこぼしていた…。
「もうヤダ……。キョンなんかキライだ……。うぅ……」
 
「……ごめん」
俺はハルヒを抱き締めた…。
いや、抱き締めるこてしかできなかった。
自分がしてしまったことに対する罪悪感を感じていた…。
 
「離してよ……。顔もみたくない……!もう帰ってよ……。」
 
俺は壊れそうなハルヒを強く抱き締めた…。自分の冒した罪の重さの分だけ強く……。
 
「本当にごめん…。俺かなり舞い上がってたんだ…。
ハルヒがお母さんに俺の話してくれてたり、
プリン食べてくれたりして一人で調子乗ってたんだ…。
それで変なことしてハルヒの優しさ踏みにじって…。
こんなにハルヒを泣かせるなんて彼氏失格だな…」
 
ハルヒはまだ泣いている。
「許してくれないのはわかってる。でも…ハルヒが好きなんだ…。
もう二度とこんなことしないから…、たがらもう一回だけチャンスを俺にくれないか!」
 
俺は心の内を言葉という形でハルヒに伝えた…。
 
しばらく沈黙が続いたあとハルヒが口を開いた
「………………なさい」
 
聞えなかったため俺が黙っているとハルヒが涙の混じった声で叫んだ。
 
「あたしが寝るまで抱き締めて、好きって言い続けなさい!」
 
「…ゆ、許してくれるのか?」
俺はハルヒに尋ねた。
それで許してくれるならいくらでもやるさ!
 
「まだわかんないわよ!」
そりゃそうだよな…。
俺はあんなに泣かせたのに簡単に許しもらえると思ってたのかよ…。
つくづく自分の愚かな考えに嫌気が差した。
 
「あたしが寝るまでできたらなんだからね!?
たぶんあたしはドキドキしてなかなか寝れないから大変よ!!」
ハルヒの顔は赤かった。
 
俺はハルヒの優しさに心の底から感動した…。
谷口のアホにも教えてやりたいぐらいに……。
 
確かに大変そうだな…。
でもたぶんドキドキして眠れないのはハルヒだけじゃないぜ?
 
「命令なんだから!風邪がうつってももう知らないんだからね!?」
「ハルヒの風邪ならうつってもかまわないさ」
「……バカキョン///」
 
…今、俺はハルヒを抱き締めながらベッドで寝ている。
大好きなハルヒと一緒に寝てるという、
今にも襲っちまいそうな状況だがそれはできない。
 
なぜならこれはハルヒが俺下した罰なんだから…。
だが、こんなうれしい罰があっていいものなのだろうか?
 
「さっきは本当にごめんなハルヒ…。」
 
「もういいって言ってるでしょ?
それよりあたしが寝るまでやらなきゃダメなんだからね!?」
 
「わかってる…」
俺はハルヒと一緒にいられてなんて幸せなんだろう…。
…俺はそんなハルヒへの愛を一つ一つ言葉にした……。
 
「好きだよハルヒ…。
愛してる…………」


 
終わり




 
~おまけ~
 
…俺は案の定次の日風邪をひいた。
でも今俺はすごくうれしい気持ちでいっぱいだ。


 
なぜなら
 
『今からお見舞い行くね。 ハルヒ』

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最終更新:2007年01月14日 01:53