なんだ?どうして俺がそこにいる?
ハルヒと朝比奈さんはは・・・泣いている
長門は相変わらず無表情だな
古泉は・・あいつにしては珍しく、真剣な表情をしている
ここは・・・病院の中?
そしてそこにいるもう一人の俺は倒れていてピクリとも動かない


そうだった・・・
SOS団恒例の不思議探索中にあの信号無視の車からハルヒをかばって・・

俺は死んだんだ

「あたしのせいで・・・キョンが・・う・・えぐ・・・」
ハルヒの泣き顔をみるのはこれが初めてだ
こんな風に泣くんだなこいつ

「う・・う・・キョン君・・・」
朝比奈さんも相変わらずだ
しかし俺はこれからどうなるんだ?
天国へ行っちまうのか?
それとも霊体のままこの世界に留まるのか?

自分でも分からないが俺は不思議なほど落ち着いていた
まぁ、死んでから慌てたってどうにもなるもんじゃないからな
しかしあいつらに会えなくなると思うとやっぱ寂しいな

ハルヒ達が泣きじゃくってる中、両親がきた
古泉はハルヒを支え、長門は朝比奈さんを支え、病室から出ていった
長門はここで霊体の俺をちらりと見てきた
やっぱお前は気付いてたんだな
お前に頼るのは今回が最後だぜ長門

両親は死んでいる俺の姿を見るなり悲鳴をあげて泣きだした
妹もまたしかりだ
結構愛されてたんだな俺

両親を病室に残し、俺はハルヒ達の後を追う
体が壁を擦り抜けるので実に移動が楽だ

ハルヒ達は病院を出て、それぞれの自宅へ帰るようだった

古泉がハルヒと朝比奈さんをタクシーで送り、俺は長門と二人きりになった

小柄のショートカットの宇宙人は俺のがいる辺りを見ながら言った

「私は霊を気配で察知できる。でも霊の声を聞きとれる機能はついていない。しかし貴方には私の声が聞こえるはず」

あぁ、その通りだよ長門

「着いてきて」

そういうと長門はまた前を向き始め、坦々と歩きだした
ショートカットの髪が揺れるのを眺めつつ、俺は長門の後ろを着いていく

着いたのは長門の住んでいるマンションだった

長門の部屋に入り、俺の前に立つ宇宙人モドキは言った

「まずは貴方を具現化する。それで私とコミュニケートができるようになる」

恐ろしく速い口調で長門は何か呟きはじめた
この間、俺は窓を見てみる
写っているのは何かを坦々と呟き続ける長門だけだった
俺は映っていない

「具現化完了」

「あ・・・」
と俺は声を出す
どうやら喋れるようだ

「具現化は一時的なもの、現在時空に居られるのは二時間ばかり。時間が過ぎたら貴方はまた霊体になる」

長門は無表情のまま平然とした顔で喋る

「近日中に涼宮ハルヒは新世界を創造する」

それまたどうして?

「彼女は貴方の居ない世界を望まない。恐らく貴方はその世界でもう一度生き返る。しかしその世界を我々は望まない。だから・・」

長門は下を向いた
分かった。分かってるよ長門
これがお前への最後の恩返しになりそうだしな
俺は胸を張って言った
「俺に任しとけ。あのうるさい団長の目を俺が覚まさせてやる。俺は死んだはずの人間だからな。死者は甦ったりしない」

長門の推測では今日か明日に俺はまたあの灰色一色の世界へ行くらしい

そうこう話しているうちに二時間が立った
足元から俺の姿が消えていく
どうやらまた幽霊に戻るらしい
消えゆく俺は長門を見ながら言った

「ハルヒ達を頼む」
すると、

「了解した」

続けて長門が喋る

「ありがとう」

そこで俺の体は霊体に戻った
俺は長門の部屋を出る際にこう言った

「ありがとうを言いたいのはこっちのほうだぜ。だから俺も言わせてもらう」

聞こえてないと分かっていながらも俺は言った

「今までサンキューな」

返事はなかった

長門の部屋を出た瞬間、俺は急に立ちくらみに襲われた
死者が立ちくらみだなんて俺にも信じられない
始まったっていうのか?

ハルヒの新世界創造が
それにしても早すぎるだろ
まだ心の準備が―――
ここで俺の意識が途絶えた

はっ、と目を覚ましたとき、俺がいたのは学校だった
あの灰色一色の世界
まさかまたここにくるはめになるとは

俺の横で倒れている女がいた
そいつが誰なのかなんて言う必要はないだろ?

俺は倒れているハルヒを抱き起こした

「おいハルヒ」

俺は寝ている団長に呼び掛けた
「ん・・・」
と寝呆けながらも大きい瞳がうっすらと開く

「え!?あんた・・・どうして・・・」

人の顔を見るなりそれはないだろう
するとハルヒの目から涙があふれ出てきた
「バカ!なんであたしなんかのために死んだりしたのよ!う・・キョンのくせに・・」
ハルヒは俺の胸に顔をうずめた
だが今はそんな場合ではない
一刻も早くこの空間から脱出しなければならないのだ

「なぁ、ハルヒ、この世界に前もきたことなかったか?」
俺の胸に顔を埋めているハルヒをなだめながら問い掛けた
俺はハルヒの顔を胸からそっと離してやる

泣き弱った目のままハルヒは灰色の空を見渡した
「ここ、前に夢で・・」

「元の世界に帰らなきゃな」
俺がそう発言すると、ハルヒは横を向いた
思ったとおりの反応だ

「あんたはこの世界で生きてられんだから戻る必要はないじゃない」

だがハルヒ、俺は本来死んだ人間なんだぞ

「分かってるわよ!でもあんたは現にここに居て、ちゃんと生きてるじゃない!あたし・・・あんたがいないと・・」

俺はハルヒを抱き寄せた
そして抱きしめながら俺は喋る

「いいか、ハルヒ。確かに俺は元の世界には居ないかもしれない。
だがな、俺がいなくても朝比奈さんや、長門、古泉もいる。お前がいなくなったらあの3人はどうなる?」
「雑用なんて谷口や国木田にやらせればいい。そうだな、鶴屋さんなんて笑いながら快くOKしてくれるかもしれないぜ」

今分かった気がする
俺がまだ霊体のまま地上に残っているわけが

「俺のことなら心配するな。いつだって俺はお前の傍にいる。ずっとな」
ハルヒは黙ったまま下を向いてる
涙が地面にしたたり落ちているのが分かる

「だから悪口とか言ったって俺に丸聞こえだからな?注意しろよ」
ハルヒの顔は以前、下を向いたままだ
こんなこと言っても駄目だな


俺が一番伝えたかったこと、それは―――


「涼宮ハルヒ」

フルネームで呼ばれたのにびっくりしたらしく、ハルヒははっと顔をあげた
目からはまだ涙が滴り落ちたままだ

「お前を愛してる」
この瞬間、俺の体は足元から少しずつ、消えていく
そうなんだ
俺が言いたかったのはこれだけだったのだ

「キョン!やだ・・だめ・・・!」
ハルヒは消えゆく俺の体に抱きついた

「あたしも・・・あんたのこと大好きだった・・!だから・・行かないで!」

分かってたさ
お前の気持ちは

「ハルヒ、お前は元の世界で生きるんだ。惚れた男の頼みくらい聞いてくれたって罰はあたらないと思うぜ?」

ハルヒ一瞬は顔をうつむかせた
だが次の瞬間、見せたのは俺が今まで見た中で最高の満面の笑みだった
部室で見せる笑顔より何倍も輝いてみえた

その笑顔を見ただけで俺は心底安堵した
さて、ここからがラストスパートだ
俺の体はもう首から上しかないからな
ハルヒの目を覚ませるなら今だ

「あたし達のこと忘れたら許さないからね!」
笑顔のまま涙を流し、ハルヒは言った
どうやらようやく、俺の死を受けとめたくれたようだ

そして自分の唇をそのまま俺の口に重ねてきた
この瞬間、俺の目の前からハルヒが消えた
元の世界へ戻ったということだろう
あの宇宙人と未来人と超能力者がいる世界へ

SOS団を頼んだぜ、ハルヒ

午前3時、突然あたしは目を覚ました
さっきまでいたあの灰色の世界ではなく、ベッドの上で

あれは夢?あのキョンも?
違う。夢じゃない
だってまだあいつの唇の感触がはっきり残ってるもの

いつでもあたしの傍にいると言ってくれた
そうよね?キョン?
分かってるわよ。あんたに言われなくたってSOS団を解散するつもりはないわ

あんたと一緒に結成したんだもの
つぶすわけにはいかないでしょ?
あんたがいない世界で、あたしは生きていく
みくるちゃんも有希も古泉君もあたしに任せなさい

だから・・・あたしはまだそっちへ行けないけど・・・
ずっと見守っててね?
キョン


~キョンの死、そしてその後~


FIN

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最終更新:2007年12月19日 02:31