「王様だーれだっ!?」
 
無言で色のついた割り箸を置く長門。王様は長門か。
 
一体何を命令するんだ?などと考えていると、なぜか古泉が長門に向かってウインクをした。
 
すると長門はほんの数ミリだけ首を動かして頷いた。こいつら何を企んでやがる……。
 
「……2番と3番がポッキーゲーム」
 
2番?俺じゃねーか!長門からポッキーゲームなんて単語が出てくるとはな。
 
ところで3番は誰だ?……まさかイカサマハンサム野郎じゃねえだろうな。
 
「2番は俺だ。3番は誰だ?」
 
正直に名乗り出よう。3番が古泉だったら俺は今日限りでSOS団を退団させてもらう!
 
「……む」
 
不機嫌そうな顔をして名乗り出たのはハルヒだった。
 
あぁ、そうか。古泉は何かにつけて俺とハルヒをくっつけようとしてたからな。
 
それよりハルヒよ、そんな顔するのは構わんが、顔が真っ赤だぞ。ちくしょう、可愛いじゃねーか。
 
ハルヒは何度も何度も俺とポッキーを交互に見ていた。そして
 
「あ~!今日はもう解散っ!!みんな、早く帰ってちょうだい!」
 
逃げやがった。
 
「……王様の命令は絶対遵守」
 
「団長の命令は王様なんかよりはるかに強いのよっ!!」
 
長門のつっこみもむなしく、今日は解散になるらしい。安心したような残念なような、そんな気分だな。
 
「ちゃ、ちゃんと王様の命令は聞くわよ。キョン、あんたはここに残りなさい。」
 
結局やるのかよ!?しかも二人きりでする方が恥ずかしさ倍増だろうが!!
 
「そういうことでしたら仕方ありませんね。では帰りましょうか」
 
「そ、そうですね~」
 
「………」
 
古泉はそう言うと、なぜか顔を赤くさせている朝比奈さんと無表情の長門に帰りを促した。
 
「………2番は3番を押し倒した後に○□△×する」
 
帰り際、長門は俺の耳元に信じられない言葉を残した。
 
古泉、お前は長門に何を吹き込んだ?
 
部室には俺とハルヒだけになった。俺は緊張して落ち着かなかったが
ハルヒもそわそわしている。
 
「さ、キョン。……はい、ポッキー」
 
「おいハルヒ、本当にするのか?みんな帰ったことだしバレやしないぞ。」
 
「ダメよそんなのっ!!」
 
いきなり怒鳴られて俺はかなり驚いた。ハルヒ自身も自分が何を言ったか理解してあわあわしている。
 
「べ、別にポッキーゲームがしたいわけじゃなくて…、王様ゲームに負けたから…
そ、そうよ!これはゲームなんだから、罰ゲームはしっかり実行しないとあたしのポリシーに反するわっ!!」
 
「ならみんなを帰すことはなかったんじゃないのか?」
 
「う、うるさいわね!このバカキョンっ!!」
 
そう言ってハルヒはポッキーを箱ごと俺の口に突っ込みやがった。
 
そりゃ痛いですよ団長さん。
 
良かった、血は出てないようだな。
 
二人になってからも色々言い争いをしたが、とうとう始まるようだ。
 
「いい?あんまり急いで食べちゃダメよ?」
 
「なんだ?そんなに俺とポッキーゲームを堪能したいのか?」
 
「っ!違うわよバカっ!!あたしはあんたが、勢い任せであたしに変なことしようとしないように
って釘を刺してるだけなんだからっ!」
 
「ならこんなことやめりゃあいいだろうに」
 
ハルヒに聞こえないようにボソっとつぶやくのと同時に
 
「…んっ」
 
ハルヒがポッキーを咥えて顔を俺のほうに突き出していた。
 
目は閉じていて、顔は真っ赤だ。これはかなりいい。カメラカメラ。
 
まぁ、この顔をカメラに収めようとしたら鉄拳制裁が待っているだろうな。
 
俺はおとなしくポッキーの反対側に食いついた。
 
ポリポリ
 
ハルヒの息が俺の顔にかかる度に気がおかしくなりそうだった。
 
…このまま押し倒してやろうか?なんて度胸は俺には無いがな。
 
ん?
 
チラっと窓から外を見ると長門がこちらを向いて立っていた。
 
何してんだ?しかも手をこっちに突き出して、口をものすごい速さでパクパクさせている。
 
これはもしかして呪文ってやつか?
 
何のためにしているのかを考える間もなく、俺は知ることになった。
 
「うおぁっ!」
 
俺の体は勝手にハルヒを押し倒していた。
 
ちょっと待て!一体なにがどうなって!?…っ!長門か。ってか古泉の仕業か。
 
とにかくなんとかしないと。このままじゃ俺の命が……。
 
ん?ハルヒの奴やけに静かだな。てっきり玉を握りつぶされるかと思ったが。
 
そう思いながらハルヒを見ると、ハルヒは目を閉じたままで、さらに顔を紅潮させておとなしくしていた。
 
はぁはぁ、と呼吸も荒くなっている。
 
おいおい、そんな姿見せられたら自制がきかなくなるぞ。
 
と言っても今は俺の意思で動くことが出来んのだがな。
 
それより俺はこのまま長門のエスコート?に身を委ねるしかないのか?
 
俺の体よ、動け!動くのだ!


 
ダメでした。
 
俺はハルヒを押し倒したままそっとキスをした。
 
約一年ぶりのハルヒの唇は、そりゃ反則的なまでに柔らかかった。
 
「ん……んっ…んぅ」
 
そして俺の手はハルヒの胸を触り始めた。
 
初めて触るハルヒの胸は、そりゃ反則的なまでに柔らかかった。
 
「ふぁっ!?」
 
そんな声を出すな。今だって理性を保つのに必死なんだ。
 
俺はあきらめていなかった。こんな形でハルヒとこういうことはしたくなかったからだ。
 
突然体の自由が戻ってきた。
 
俺は瞬時にハルヒから離れ、5歩下がった。
 
「その……、スマンかった」
 
「………」
 
無言のままハルヒは体を起こし、乱れた制服を整え始めた。
 
「あ、ハルヒ……。本当に悪かった」
 
俺はもう許してもらえないかとかなり気が滅入っていたが、ハルヒはいつもの調子になっていった。
 
「バカキョン!いきなり押し倒して何なのよ!?しかも……あんなことまで。」
 
「本当にスマン」
 
「……エロキョン」
 
俺はスマン以外の謝罪の言葉を考えていたが、結局いい言葉は出てこなかった。
 
「ま、まぁいいわ!キョン、今のことは全部忘れなさい!」
 
こいつがこんな性格で助かったな。
 
次の日古泉を問い詰めたところ、機関のお偉方と情報統合思念体のお偉方が
 
俺とハルヒを恋人にしてしまおうという考えに至ったのだそうだ。
 
理由はさっぱり分からんが。
 
「いやぁ、それにしてもよく理性を保てましたね。賞賛に値しますよ。
僕の予想ではあなたはすぐに涼宮さんを……、おっと
これ以上はあなたの気分を害してしまいそうなので、やめておきましょう」
 
もう十分害しているけどな。
 
「しかし、なぜ長門さんは途中でやめてしまったのでしょうか?
これはもしや……あなたをめぐる三角関係に発展するのではないですか!?
ふんもっふぅ!そうなったらぜひ僕も混ぜてもらいたいですね!」
 
誰かこいつをヘンテコな空間に閉じ込めておいてくれないか?



 
エピローグ
 
「王様だーれだっ!?」
あれから数日後、団長様は懲りずに王様ゲームをしようと言い出した。
さてと、俺はまた2番か。じゃあ王様は……
 
「じゃーん!!あたしが王様よぉっ!ふふ~」
ニヤリと不気味な笑顔の王様がそこには立っていた。
いやな予感がする、激しくいやな予感がする!
ハルヒは俺の顔をチラ見すると、命令を言った。
「キョ、キョン!放課後あたしの家に来なさいっ!以上!」
「は?」
「だ、だから!今日の放課後にあたしの家に来なさいって言ったのよっ!!」
待て待て、なんだその命令は?っていうかそれ番号とか付いてる意味がないだろうが!
「分かったわね!?じゃあ今日はこれで解散!キョン!早くついて来なさい!帰るわよ!」
ハルヒは俺の手を優しく握って部室を出た。俺もハルヒの手を優しく握り返す。
夕暮れ、俺とハルヒはまるで恋人同士のように並んで帰った。
今はまだ違うだろうが、すぐにそういう関係になるんだろうなと、俺は考えていた。
実際それを望んでいるわけだが。
沈黙が続いていたが、ハルヒは驚くべき言葉でそれをぶち破った。
「………今日、…家に誰もいないし、帰ってこないから」
 
おしまい

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最終更新:2020年07月09日 00:30