「キョン君、おきてーーー」
「ぐはっ」
いつもどおりの起き方。なんだかんだいってこれになれてしまっている自分が怖い。
今日は日曜日。今日は奇跡的にSОS団の活動も無く、かといって特にやることも無い。まあ今日はだらっ~と過ごすか、とそんなことを考えていた矢先だった。
携帯がなる。嫌な予感がする。メールだ。
[ハルヒ]
これを見たとき、ああ、俺には休みというものが無いんだとつくづく思った。
内容は「キョン、今日暇?」
それだけ。
前にも書いたとおり、まあとりたててやることもないので暇、と送り返す。
こんなときにその場で嘘を言って休めない自分が嫌だ。
まあハルヒのことだ。どうせ用事があってもSOS団がなんたら・・・で無理やりこさせるだろうが。
俺が「暇」の一文字を送ってから5分くらいして、メールが来た。ハルヒからだ。
どうせミーティングか不思議探しなんかだろうと予想していた。
しかしその予想はあっけなく外れ、メールを見た俺は呆気にとられた。
キョン、今日SOS団の活動ないし、もしよければ一緒に散歩しない?
もし来れるなら駅前に10時ね
この文を見たとき、俺の思考回路は完全に停止した。
どんだけ長く固まっていたのだろう。いつの間にか妹がやってきて不思議そうに俺を眺めている。
しかし俺にはそんなもの目に映らない。いや、映らないというより映っててもそれが脳で処理されないのだろう。俺の脳はその小さな要領と能力でその超衝撃的なメールによって与えられた衝撃を抑え、平常に戻すためにフル稼働している。
しばらくしてだいぶ安定してきたとき、俺は妹の声ではっと我にかえる。
妹にどうしたの?ときかれたが、大丈夫、と答えてその場をやり過ごした。
俺はその後行くか行かないか散々迷った挙句、行くことにした。
いわれた場所に着くとそこにはもうハルヒがいた。
しかし「遅いっ!!罰金!!」とは言われなかった。まあこんな呼び出し方だ。怒れないのも無理は無い、か。
ハルヒが何か言いたそうだが、いっこうに言わないので先に俺が聞きたいことを聞く。
「なあハルヒ、これってどういうことだ?」
まあ半分分かっているようなものだが。
するとハルヒは顔を赤くしながら
「どっどういうことって・・・そっそのままの意味よ」
とだけ答える。
まあある意味予想通りの答えだな、と思いつつ次に出てくる言葉が見つからない。
……
沈黙が続く。
知らないうちに俺もハルヒも顔が真っ赤だ。
……
まだ沈黙が続く。
気が付くと俺はこんなことを言っていた。全く、何を言っているんだろうなあ。俺は。
「ハルヒ、こ、これってその・・・・・・デートの誘いって受け取っていいのか?」
「えっ・・・・・・」
ハルヒの声が裏返る。
ハルヒは真っ赤な顔をさらに赤くする。
たぶんデートって意味なんだろうが、じかにその言葉を聞くといった俺でさえ恥ずかしい。
言われたハルヒはもっと恥ずかしいだろう。
また沈黙が続くと思われたが、それは無意識のうちに自分から出たとんでもない一言でさえぎられた。
「なあハルヒ・・・・そっそのデート、してみないか」
うん。明らかに直球だ。
どう見てもいつもの自分じゃない。
ハルヒ。悪いのは俺の本能だ。本能がこんなこと言わせたんだ。責任なら俺じゃなくて俺の本能にある。
っと自分でわけの分からない責任転換をしたところで、後悔する気が・・・なぜか起きない。
それどころかなんとなく気持ちがすっきりする。なんかすべて言い切った感じだ。
あとはハルヒの反応待ち、といったところだろうか。
で、当の本人は完熟トマトよりも真っ赤になっていたが、どうにか気持ちを落ち着かせたようでこう俺に向かっていった。
「そ、そうね・・・SOS団の大切な団員だものねえ、あ、あんたが望むならしてやらないことわないわよ」
お前から呼んだのにこれじゃまるで俺から呼んだみたいじゃないか、と突っ込もうとも思ったが、今の俺にそんなことをいえる勇気など無い。
こうして今日、俺とハルヒはデートをしている。
そ、そこ、驚いていいぞ。
しかしデートといいながらも、手も触れずにただ並んで町を歩いているだけだ。
まあ自分たちで作ったとはいえ、二人とも朝の急な展開についていけないのだろう。
なんせあの急展開だ。ハルヒがついてこれないのだ。俺がついていけるだろうか。
中途半端な時間は続いた。昼食は一緒に食べたが、その味やそのときはなしたことなんてほとんど忘れていた。
いや、ほとんど話していなかっただろう。その後歩いているときにもお互いに一言もしゃべることは無かった。
どれだけ時間が経っただろう。太陽は傾き、夕日が町を染める頃、俺とハルヒはとある公園に入った。
公園の歩道で何も言わずにただ並んで歩いている俺とハルヒ。
その公園を歩いていくとちょっと大きい池があった。なんとなく二人はその近くのベンチに腰を下ろす。
ベンチに座る二人を残し、時だけが刻一刻と過ぎていく。
あまり知られていない場所なのだろうか、人通りもほとんど無い。
ただただ二人は目の前にある池に綺麗に映る夕日を見ていた。日が傾くに連れ二人の影が池に映る。
それは俺とハルヒのそれぞれの思いを硬く確実なものにしていった。
「!!」
ふと、ハルヒが俺に寄りかかっていた。
池に映った二人もくっつく。
くっついたままの二人を池に映しながら、日は沈んでいく。
ふと、ハルヒが言った。
「キョン、言いたいことがあるんだけど」
「ん、何だ?」
ハルヒの問いかけに答える。
「今日のデートってキョンから誘ってきたんでしょ?だったら誘ってきたほうとして少しは相手を楽しませなさいよ。
こんなつまんないデート、初めてだわ。今まで見てきたろくでもない奴らもこれよりはやったわよ」
こんなときにいうのもなんだが、これはお前から誘ってきたんだろ?楽しませるのはお前なんじゃないのか?
と思いつつ、これはなんだか伏せておきたい気がして伏せる。
「ごめんな」
いつの間にか謝っている。
「ふ、ふん、謝ったってつまらないものはつまらないのよ」
まっとうな答えだ。
「それはもっともだ。ごめん」
再び沈黙。
俺はそれが嫌で、なんとなくこんな話を振る。
「ひとつ聞きたいのだが、ハルヒは面白くして欲しいのか?」
少しの空白の後、
「え?…ま、まー面白くしてほしくないといえば嘘になるわね」
というハルヒの戸惑い気味の答えが返ってくる。まあいきなりこんな話題を振られたのだから、無理も無いだろう。
すると俺はいつの間にかこんなことを言っていた。
「ハルヒ、ひとつ言いたいことがあるのだが、いっていいか?」
「・・・いいわ。言いなさいよ」
「今から俺はハルヒにあることを言う。それはハルヒと俺の今までの関係を壊してしまうかもしれない。
俺はハルヒを楽しませられなかったが、今日こうやって二人でいられるのだからこれだけはいっておきたいんだ」
「へ?何いってんのキョン?」
そういってハルヒを見つめる。ハルヒの肩に手を置く。いつか夢でやったときのように。
「ちょ・・・なにやってのよ」
そういって戸惑うハルヒに向かい、俺は出来るだけやさしく、でもしっかりと残るようハルヒに声を掛けた。
―――俺は、ハルヒのことが好きだ―――――
「え・・・・・・」
そういってびっくりしているハルヒは今日一番赤かった。
沈黙。
次に口を開いたのはハルヒだった。
ハルヒは動揺していたが、やがて何かが切れたように俺の肩に手を乗せ、
「わたし、キョンのことが大好き」
といって顔を近づけてきた。
ハルヒとの距離が縮まる。
15cm。
ハルヒの唇が近づく。
10cm。
目の前にはハルヒの吸い込まれそうな瞳。
5cm。
1cm。
ハルヒから暖かさが伝わってくる。
いいにおいが伝わってくる。
ハルヒが俺を包む。
俺もハルヒを包む。
1mm。
二人とも目を閉じる。
抱きしめあう。
0mm。
池には今にも沈みそうな夕日が懸命に二人を映している。
ひとつになった二人を。
しばらくして、夕日が完全に沈んだこと、どちらとも無く唇を離した。
すべてが満たされた感じだ。
「ありがとう」
ふと、ハルヒが言う。
俺はハルヒを見つめ、抱きしめてから
「ハルヒ、大好きだ」
とやさしく言う。
ハルヒはそれに答えるように
「私もキョンのこと、大好き」
と、そういった。
そして、再び口付けをする。
2度目の口付けが終わった頃、ハルヒが公園の時計を見て驚く。
「ちょっと!!キョン!!もう8時じゃないの!!」
「うそっ!!!」
やばい。時間が経っているとは思ったが、こんな時間になっていたとは。
急ごうとする俺にハルヒが声を掛ける。
「ねえ、キョン。今日ぐらいゆっくり帰らない?」
……まあいいか。俺には世界一の彼女が出来たのだから。今日ぐらい、とことん付き合うさ。
帰り道を二人で歩く。もちろん手は繋いで。
ちょっと恥ずかしいが、もう気にしない。
理由は簡単。
ハルヒは
俺の
何よりも
宝物
なのだから。
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最終更新:2020年03月12日 11:10