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~プロローグ~

ハルヒ母「本当は式まで男の人を通しちゃいけないんだけどあなたなら問題ないわね」

ハルヒ母「言っときますけど花嫁に悪さしたらただじゃすみませんよ?」



キョン「綺麗だな……」
ハルヒ「キョン!よかった、来てくれたのね…」
キョン「当たり前だろ。オレ達の団長様の結婚式だぜ。」
ウェディングドレスを着たハルヒが儚げに笑う。
俺はそれを見て
俺はハルヒのことが好きだったんだな
と、今更ながらに気付いた……



朝比奈さんと長門が奥のほうから出てきた。新婦の身の回りの世話をしているのだろうか。
朝比奈さんは華やかな黄色のドレス、長門は落ち着いた紺のスーツを着ており、
その姿は純白のウエディングドレスを着た花嫁に花を添えているようだった。

みくる「あ、キョンくん!どう?涼宮さんのウエディングドレス姿は?」
長門「・・・少し赤くなっている」

長門の言葉にドキっとさせられたオレはなんとか平静を装った。

キョン「あ、ああ・・・二人とも久しぶり。朝比奈さんも長門も、よく似合ってますよ」
みくる「ふふ、ありがとね。もう新郎のところには顔出した?」

…そうだ。本日のもう一人の主役、このとびきりの花嫁の相手役は、
なんとあの古泉だったのだ。
オレは心中を駆け巡っている複雑な気持ちを、朝比奈さんに気取られないよう押し隠した。

朝比奈さんが含み笑いをしながらじっとオレを見つめてくる。
…ダメだ。このまま見つめあっていたら心の底まで見透かされそうな気がしたので、
オレはハルヒに視線をうつした。

ハルヒはどういうわけか、少し斜め上を見ながらボンヤリ考え事をしているようだった。

キョン「ハルヒ?一生に一度の晴れ舞台だってのに浮かない顔してるな。気分でも悪いのか?」

ハルヒはオレの言葉にハッとなってこちらを向いた。

ハルヒ「そ、そんなことないわよ。・・・そうそう、今日はなんたってSOS団団長であるこの私の
    結婚式なんだもの!ただの結婚式には終わらせないわよ。存分に楽しんでいきなさい!」
キョン「ははは、ハルヒらしいな」

長門「・・・・・鈍感なところはまったく変わっていない」
みくる「まったくですね」

キョン「そろそろ古泉のほうを見てくるよ」
みくる「わかりました。また後で」

ハルヒたちのひとしきり談笑してから、オレは新郎側の準備室へと向かった。
ドアをノックすると、数秒してからゆっくりと開かれた。

キョン「・・・!?新川さんじゃないですか!それに多丸さんたちも!」
多丸兄「やあキョン君、久しぶりだね」
多丸弟「去年のSOS団夏合宿以来・・・だったかな?」

相変わらず全然似ていない兄弟である。

新川「お久しぶりでございます。本日は古泉と涼宮様のためご足労頂きまことにありがとうございます。
   ・・・おっと、堅苦しい挨拶は野暮でしたかな」
キョン「お久しぶりです。・・・もしかして今日の結婚式は機関も関係しているんですか?」
新川「いえいえ、本日は我々、古泉の友人として招かれただけでございます」

新川さんは、とてもプライベートで招かれたとは思えないくらいに丁寧な物腰である。
それがまたイヤというほど似合っているのだから文句のつけどころもないが。
もしかして、機関のエージェントは辞めて本職の執事に転向したのかな?

新川「前にも言ったように、執事は世を忍ぶ仮の姿でございます」
新川さんはそういうと穏やかな笑顔で微笑んだ。
…この人、若い頃は古泉と負けず劣らずのハンサムだっただろうな。いや、今でも十分男前だ。

古泉「キョン君、今日は僕たちのために・・・その、ありがとうございます」
キョン「お前まで堅苦しいあいさつか?」

古泉が『僕たち』と言ったとき、オレの胸はズキリと痛んだ。

古泉「ははっ、そうでしたね。しかし、今ではこの性格がすっかり定着してしまいましたよ」

高校を卒業して以来閉鎖空間はほとんど発生することはなく、古泉はその力を使うことが
ないようである。未だ機関には所属しているようだが。

しかし、まさかコイツがハルヒと結婚することになるとは・・・
どうやら古泉は、高1の途中からハルヒのことが好きだったらしい。
SOS団にいるときはまったくそんなそぶりを見せなかったが。
おかげで卒業後数年たってから古泉とハルヒが付き合いだしたと聞いて、
オレは自分の耳を疑ったもんだ。・・・それが今から2ヶ月前のことである。
オレには古泉がトチ狂ったではないかとさえ思えた。

キョン「しかし、まさかお前がハルヒと結婚するとはなあ・・・」
古泉「おや、うかない顔をしていますね。少し後悔しているのですか?」
キョン「バカいえ!今は、一生ハルヒのワガママに付き合わされるお前に同情したい心境なんだ」
古泉「ふふっ、まあそういうことにしておきましょうか」

なぜか胸が猛烈に痛む。・・・だめだ。なぜか祝福の言葉が出てこない。
まさかオレは、古泉に嫉妬しているんじゃないか?・・・いや、そんなバカなことはない。
これからハルヒの旦那になろうとしている不幸な男には、祝福なんかよりも
追悼の意を伝えたほうがふさわしいってことだ。

キョン「披露宴では面白い趣向を用意してるらしいじゃないか。
   まさか招待客が殺されたりはしないだろうな?」
古泉「その案もあったのですが、さすがに却下されてしまいましたよ」

さも残念だという風に古泉が言った。冗談のつもりで言ったんだが、
まさか本気で考えていたのか・・・?

キョン「とにかく今日はおめでとう。そろそろチャペルのほうへ移動するよ」

オレはそういうと新郎の準備室から出た。本当のことをいうと、一刻もはやく
あの部屋から出たかった。


開始時刻まではまだ時間がある。オレは式場の外に出て、ぼんやりしながら
その辺をブラついていた。

あれからまだ2ヶ月しか経ってないのか・・・



2ヶ月前、オレはハルヒに呼び出されて近くの公園まで行った。
3月の暖かい日差しの中、公園の桜の花がそろそろ開こうとしていた頃だ。

キョン「どうしたハルヒ?今日はオレ一人だけか?」

オレたちは卒業後もしばしば集まって、高校の頃と同じようにSOS団的な活動を行っていた。
さすがにロコツな不思議探しをすることはなかったが、友達以上恋人未満の
微妙な男女の関係がしばらく続けられた。

しかし去年の夏合宿以来ばったりと集合回数が減り、今年に入ってからは
初詣以来のことである。

ハルヒ「キョン・・・今日はアンタに話があるのよ」

いつになく真剣な表情でハルヒは言った。

キョン「どうした?今年の夏の合宿の相談か?ちょっと気がはやいんじゃないか?」
ハルヒ「バカ、違うわよ」

ハルヒ「昨日のことだけどね。私、古泉君に告白されたの」
キョン「!?」
ハルヒ「高校のときから私のことが好きだったって・・・私、全然知らなかった・・・」

オレもハルヒと同感だ。古泉がハルヒに告白だって!?これはなんの冗談なんだ?

ハルヒ「私、彼のこと全然そんな目で見てなかったから・・・なんて答えたらいいのか・・・
    ねえキョン、どうしたらいいと思う?」

いきなり話をふられてオレはとまどった。なんだって古泉はハルヒなんかに告白したのか?
そしてなぜハルヒはオレの意見を求めているのか?
…ハルヒはじっとオレの顔を見つめている。オレがなにか言わなきゃ
このにらめっこが終わりそうにないので、なんとか言葉をひねり出す。

キョン「ア、アイツがお前のこと好きだったなんて、意外だったな・・・」

ハルヒは話をはぐらかされたと思ったのか、少し眉の角度を変えてオレをにらんできた。
コイツは一体オレになにを言ってほしいんだ?オレだって、
いきなりそんな話を聞かされて戸惑ってるんだよ。そんなににらむな。

キョン「付き合ってみるのもいいんじゃないか?お前、ちゃんと男と付き合ったことないんだったよな。
   いい経験になるんじゃないか?アイツは男前だし、相手に不足はないだろ?」

ハルヒの眼力に圧倒されたオレは、テキトーに無難なことを口走った。

ハルヒ「それ、本気で言ってんの・・・?」

ハルヒはかなり声のトーンを落としてそう言った。今思えば、ハルヒはこのとき
止めてほしかったのかもしれない。しかし内心動揺しまくっていたそのときのオレには、
ハルヒの気持ちになど気づきようもなかった。

キョン「ああ、いいと思うぜ。なにしろアイツは・・」
ハルヒ「キョンのバカッ!!死んじゃえ!!!!!」

500ホーンはあるかと思えるくらいの大声で叫んだハルヒは
全速力で走りだした。
回りの視線が痛い。オレはわけがわからずにハルヒを追いかけたが、
アイツの全速力に追いつくはずもなく、途中で追いつくことをあきらめたオレは、むなしくため息をついた。

…そういやあのときのアイツ、少し泣いてたな。




それが2ヶ月前の話である。実はというと、それ以来今日までハルヒと会ってさえいなかったのだが。
古泉は強引にハルヒを口説いて結婚までこぎつけたらしい。
聞くところによると、プロポーズはなんと2週間前だという。
…まさかアイツがそこまで情熱的だったとはな。

オレは噴水の前のベンチに腰かけ、意味もなくため息をついた。

谷口「よ!キョン。どうした?元気ないな」
国木田「久しぶりだね、キョン。僕らも涼宮さんに呼ばれたんだ。
    いやあ、びっくりしたよ。まさか彼女がこんなに早く結婚するとは
    思ってなかったからね」
キョン「お前らも呼ばれてたのか」

この2人と会うのも久しぶりだ。まさかハルヒが結婚式に招待していたとは思わなかったが。

谷口「いや、それにしても残念だったな。涼宮のダンナになれるのはキョンぐらいと
   思ってたんだけどな」
国木田「谷口!よけいな事言うなよ!」

なぜか国木田が谷口をたしなめる。

国木田「キョン、気にするなよ。今日は2次会あたりで抜け出して飲みにいこうよ。
    オレたち朝までだって付き合うよ」

ふぅ~。なんだってコイツはいらぬ気遣いをするんだ。
オレのどこが落ち込んでるように見えるんだよ。さっきだって朝比奈さんの
お美しいドレス姿を拝んできたんだ。むしろ今日はいい日なんだよ、うん。
長門のスーツ姿もかわいかったしな。それに・・・

ウエディングドレスを着たハルヒは、それはもう綺麗だったんだぜ。
あんなに綺麗な花嫁は、一生で一度拝めるかどうかってところだ。
それはオレが保証しよう。お前らもせいぜいまぶたの裏に焼き付けておくんだな。

谷口「ま、泣くのはオレたちの前だけにしろよ。なんたって今日はめでたい日だからな」
キョン「バカじゃねーか。いいか、オレが泣くとしたら、それはハルヒの旦那となる新郎の
   これからの苦難を思っての涙だろうよ」
谷口「ま、そういうことにしとくか。・・・そろそろ時間だな。行こうぜ!」

谷口はニヤニヤしながらオレにそう言った。コイツのバカは高1のときから
まったく変わっていないようだ。

国木田(キョンだって谷口に負けず劣らずのバカのくせに・・・・・)

3人でチャペルまでくると、すでに席は一杯だった。
オレたちが空いている席を探していると、少し離れた場所から声をかけられた。

「キョンくんたちー!こっちこっち!」

声の主を見ると・・・深緑色のドレスを着た鶴屋さんがいた。

鶴屋「アタシの隣空いてるよ~!」

オレたちは彼女に促されるまま、その席に座った。

鶴屋「いやぁ、キョンくん。久しぶりだねぇ」

なぜか鶴屋さんまでニヤニヤしながらオレを見てくる。
…そんなに今日のオレの顔は面白いのか?

キョン「去年の夏合宿以来ですね」
鶴屋「そっかー、あれからもう1年近くになるわけかい?
   あんときはキミタチとってもいい雰囲気だったのにねぇ・・・」
キョン「な、なんのことですか?」

鶴屋「・・・まあいいっさ。今日はめでたい日だから素直に祝福するにょろ~」

鶴屋さん・・・その口調変わってませんね。
ひょっとして流行語大賞でも狙っているんですか?

ざわつくチャペルの中で、オレたちは鶴屋さんとひとしきり談笑していた。

国木田「ねえキョン、式の開始時間って何時だったっけ?」
キョン「ん?プログラム持ってないのか?たしか2時開始だったような・・・」

そういいながらなにげなく腕時計に目をやると、開始時間よりも15分過ぎていた。

キョン「あれ?おかしいな・・・もう15分も過ぎてるってのに、一向に式が始まる気配がないぞ」
谷口「準備に時間がかかってるのかもしれねえな」

そのとき、オレの携帯に着信が入った。
かけてきたのは・・・長門か。

キョン「もしもし、どうしたんだ?遅れてるようだが」
長門「緊急事態。花嫁がいなくなった。急いで準備室まできてほしい」

な、なんだってー!!

オレはチャペルの外に移動すると、小声で長門に言った。

キョン「いなくなった・・・ってどういうことだ?トイレにでも行ったのか?」
長門「ドレスを着たままトイレに行くことはできない。
  それに施設内すべてを調べてみたけれど見つからなかった」
キョン「・・・わかった。とりあえず準備室に向かう」

花嫁側の準備室に入ると、朝比奈さんや長門、それに古泉が深刻な面持ちで立っていた。

みくる「ごめんなさい・・・こんなことになってしまって」
キョン「一体どういうことなんだ?・・・ハルヒのご両親は?」
長門「今、この施設内を探し回っている」
キョン「ハルヒがいなくなったとき、誰も気づかなかったのか?」

朝比奈さんがうつむきながら首をふった。

みくる「私たちがほんの少し目を離したときにいなくなった・・・としかいいようがありません」
長門「ドレスを着たまま部屋を出ようとすれば誰かが気づくはず・・・
   涼宮ハルヒはこの場から消えてしまった可能性が大」
キョン「そんなバカな・・・!?」

言いながらオレはハルヒの力を思い出した。
そうだった。最近はまったく発動していなかったから忘れていた。
アイツは望んだことを実現化させる力を持っていたんだったな。

キョン「まさか、またハルヒの力か?」
古泉「可能性としてはそれしか考えられません。だとすれば、これは彼女が望んだことなのでしょうか・・・」

めずらしく古泉まで落ち込んでいるようだ。それはそうか。結婚式直前になって
花嫁に逃げられたかもしれないって状況になれば誰だって落ち込むだろう。

キョン「まさか、また閉鎖空間じゃ・・」
古泉「今のところ閉鎖空間の発生は感じられません・・・僕の力が失われていなければ、の話ですが」

しばらくの間、沈黙が続いた。一体どうしてこんなことに・・・

長門「あなたは涼宮ハルヒと2ヶ月前に会っているはず。そのときのことを教えてほしい」

沈黙を破ったのは長門だった。

キョン「な、なんでそのことを知ってるんだ長門?」
長門の神通力の前には隠し事は不可能ってことか。そのするどさは
高校時代と変わらないようだ。

長門「それは違う。現在の私の能力は大きく制限されている。普段はあまり力を使用することができない」

え?じゃ、なんでわかったんだ?もしかして見てたとか・・・

戸惑うオレの顔を見て、みくるは大きくため息をついた。
みくる「2ヶ月前っていったら古泉くんが涼宮さんに告白した頃でしょう?告白を受けた涼宮さんは
   間違いなくキョンくんに相談しに行ったはずよ。そんなこと、女の子だったら誰でもわかりますよ。」
古泉「・・・・・」

その確信はどこからきているのか不明であるが、朝比奈さんは少し怒ったような顔でオレに言った。

キョン「・・・たしかに、オレはハルヒから相談されましたよ」

古泉は黙って部屋から出ていった。まあ、あまり聞きたくない話だろう。

みくる「相談を受けたキョンくんは、なんて答えたんですか?」
キョン「それは・・・」

長門や朝比奈さんの前で真実を告げることはためらわれたが、2人の眼光からは逃れられなかった。

キョン「あのときオレはハルヒに・・・そう、付き合ってもいいんじゃないかって言ったんですよ」

みくるはさっきよりも一回り大きいため息をついて、呆れたようにオレに言った。

みくる「それを聞いた涼宮さん、泣いてたんじゃないですか」
キョン「いや、そんな・・・アイツは怒って帰っていきまし・・た・・」

そこまで言って、オレははっきりと思い出した。
あのときは動揺していてハルヒの様子に気づくことができなかったが、
彼女の表情はオレのまぶたにしっかりと焼き付いていた。

キョン「いや、ハルヒは・・・泣いてた、たしかに泣いてました」

そういうと朝比奈さんはオレに詰め寄ってきた。

みくる「じゃ、彼女が今どんな気持ちでいるか、わかるでしょ?
   キョンくんが今がやるべきこともね」

キョン「え、い、いや、オレは・・えーと、ハルヒが消えて・・・どうしたらいいんですか?」

我ながら情けないことに、さっぱり答えが見えてこない。
とまどっているオレの様子を見て、朝比奈さんは本日最大級のため息をついた。

そして彼女はオレの両肩を掴み、一気にまくし立ててきた。

みくる「まだわかんないんですかッ!涼宮さんはキョンくんのことが好きなのよ!
   2ヶ月前のそのときだって、きっと彼女はあなたに止めてもらいたかったのよ!
   あなたなら、きっと告白を受けないように言ってくれると信じてた。なのにあなたは
   いつまでも優柔不断で・・・」

そこまで言うと朝比奈さんは言葉を詰まらせた。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。

長門「あなたはもう自分の気持ちに気づいているはず。いや、
  ずっと前から気づいていた。・・・ただ気づかないふりをしていただけ」

長門の言葉に、オレはなにも言い返すことができない。
      • オレはアイツに惹かれていた。それはたしかだ。たぶん出合った瞬間から。
アイツへの思いはそれから少しずつ大きくなっていった。

本来ならある程度の時期にオレから告白して、付き合うなりなんなりするのが自然だったんだろう。
しかし、オレはSOS団の輪を崩したくなかった。
もうしばらくだけこの居心地のいい空間で過ごしたいと考え続けてきて、
オレは答えをどんどん先延ばしにしていったんだ。

長門「高1のとき、あなたと涼宮ハルヒが閉鎖空間で2人きりになったこと、覚えてる?」
キョン「・・・ああ」
長門「あのとき涼宮ハルヒは、あなたと二人きりで新しい世界を創造したいと願った。
   だからあなたは涼宮ハルヒのそばにいた。・・・今回はどう?」
キョン「・・・ハルヒは、一人で消えちまったな・・・」

長門「彼女は決して世界に絶望したわけじゃない。でも、この結婚に乗り気じゃないことは明らか。
   だから一人で消えてしまった。なぜ今回はあなたが一緒に消えなかったかわかる?」
キョン「・・・ハルヒは、オレの心を疑っているんだ。オレがずっと答えを先延ばしにして、
   土壇場になったってのにまだ気づこうとしなかったから・・・」
長門「そう」

オレは、今の今になってはじめてわかった。オレはハルヒを必要としている。
今オレが必要としているのは、SOS団ではなくて涼宮ハルヒそのものなんだ。
…まったく、ここまで追い詰められないと気づかなかったなんて、オレはどうやら
谷口以上の大バカだったらしい。

キョン「長門・・・どうしたらハルヒは戻ってくるのかな」
長門「・・・願って。あなたが涼宮ハルヒに抱いている思いをすべて込めて。
   たぶん、それが彼女の願いでもあるはず」
キョン「・・・わかった」

古泉「話は終わりましたか?」
気がつくと、古泉が横に立っていた。いつの間に入ってきたんだ?

古泉「どうやら腹が決まったようですね」
キョン「古泉!」
古泉「あなたは今、涼宮さんに会いたいのでしょう?彼女の行き先は閉鎖空間です。
   ・・・前のときみたいにね。となれば僕の出番でしょう。あなたをそこまで連れて行きます」
キョン「いやしかし、お前・・」

古泉は少し目を伏せながらオレに言った。

古泉「涼宮さんの気持ちは、一度だって僕に向いたことはありません。・・・大切なのは彼女の気持ちです。
   あなたが彼女の気持ちに答える決意ができたのなら、僕は黙って見守るだけです」
キョン「・・・古泉」

古泉「ただね」

古泉はひときわ大きなトーンで言い放つと、オレの頬を殴りつけた。
バランスを失ったオレは盛大に倒れた。朝比奈さんが驚いてオレに駆け寄ってくる。
みくる「こ、古泉くん・・・」

古泉「もしあなたが彼女を不幸にするようなことがあったら、
   今のぐらいじゃ済みませんよ。僕はあなたを許しません。」
キョン「古泉・・・すまん」
古泉「さあ、ぐずぐずしてられません。行きますよ!」

朝比奈さんの手を借りて立ち上がると、古泉の手をとった。

古泉「前回ほどではないですが、今回の閉鎖空間もなかなかやっかいなモノです。
   あなたの願いが涼宮さんに届けばいいのですが・・・」

オレは古泉の手をとったままゆっくりと目を閉じ、そして願った。

キョン(ハルヒ・・・オレは今ほどお前に会いたいと思ったことはない。
   お前は今、どこにいるんだ?)

古泉「行きます!」

その瞬間、違和感が皮膚を駆け抜けていった。目をゆっくりと開けると、
オレの回りにはいつぞやきた灰色空間が広がっていた。
古泉のほうを見ると・・・今にも消えそうな赤い光の球がまたたいていた。

古泉「やはり、涼宮さんにはあなたしか受け入れられないようですね・・・
   彼女はこの空間のどこかにいます。・・・でも気をつけて下さい。
   もしこの空間であなたが彼女に拒絶されてしまった場合、二度と
   現実世界には戻ってこれなくなってしまいます」
キョン「・・・わかった」
古泉「僕の力はここが限界のようです。くれぐれも気をつけて・・・」

そこまで言うと、赤い球は電池の切れた懐中電灯のように光を失っていき、
やがて消滅した。

キョン「・・・ここからが本番だな」

オレは回りを見渡した。今いる場所は式場の前だ。
さっきまでの喧噪がウソのように静まり返っている。

オレの足は自然とチャペルのほうに向かっていた。
オレの身長の倍はあるかと思われるほど大きな戸を開くと・・・いた。ハルヒだ。

宣誓する台の前に立って、じっと奥を見つめていた。

キョン「ハルヒ!」

オレが呼びかけても、ハルヒは黙って立っている。

キョン「返事はしてくれなくていい・・・ただ、黙って聞いてくれるだけでいい」

ハルヒはこの閉鎖空間でもウエディングドレスを着たままであった。
その後ろ姿は、この灰色の世界の中でも神々しい光を放っているように見えた。

キョン「お前には、あやまらなくちゃいけないことがたくさんあったな」

オレの言葉に、ハルヒの後ろ姿がピクっと動く。

キョン「オレは今の今まで自分の気持ちをごまかし続けていた。
   そのせいでお前を傷つけていたことにすら気づかなかったんだ」

そういうとハルヒは急に振り向いた。少し目に涙をため、肩が小刻みに震えている。

ハルヒ「・・によ・・・なによ!いまさらになって!私もう結婚するのよ!
    なんで今になってあんたが出てくるのよ!」
キョン「・・・すまないハルヒ。本当にすまなかった」

ハルヒ「うるさい!私の気持ちに気づいてたクセに・・・ずっと知らないフリして・・・
    私のことなんてなんとも思ってなかったんでしょ!だからアンタは」
キョン「それは違う!」

オレはまっすぐにハルヒを見据えて言った。

キョン「オレはずっとお前に・・・お前に惹かれてたんだ。高1の春、お前に出合った瞬間から」
ハルヒ「・・・・・」

ハルヒはオレの顔をにらんでいる。・・・本当かどうかを疑っているのだろうか。
かまわずオレは続けた。

キョン「そうだ、ずっとお前のことが気になってた。だからSOS団の設立のときも、
   その、お前のすることが気になって、ついていったんだ。
   ・・・そんときゃ無理矢理連れていかれたと思いこんでいたがな」
ハルヒ「・・・ウソ」
キョン「ウソじゃない。だってそうだろ?イヤだったらあんなに毎日部室に顔出すわけないもんな。
   SOS団ではお前が妙な思いつきをするたびに付き合わされて苦労したが、
   なんだかんだいって楽しかった。ずっとこんな時間が続けばいいって思ってた」
ハルヒ「・・・・・」
キョン「お前の気持ちには、・・・途中からうすうす気づいてはいたよ。だけど、オレはずっと
   気づかないフリをしていた。もしかしたら、自分でそう思い込もうとしてたのかもしれない」

ハルヒ「サイテーよ!アンタって」
キョン「わかってるよ。オレはバカで鈍感でどうしようもないヤツなんだ。
   だからこんな土壇場にならないと本当の気持ちにさえ気づけないんだ」

キョン「でもな、オレはSOS団にいる時間が心地よかった。卒業のときは今後どうなるか心配したけど、
   その後もお前が定期的に集合をかけてくれて安心してたんだ。
   これでまだ当分みんなと一緒にいられるな、てさ。
   ・・・いつまでもこうはしていられないってわかってはいたけど、まだしばらくは
   あの時間を過ごしていたかったんだ。だからオレは、答えを先延ばしにしていた。
   お前に言わなきゃならない言葉を後回しにしていたんだ」

ハルヒ「キョン・・・ホントに?ホントにそう思ってたの?」

キョン「本当だ。だから2ヶ月前のあのときだって、お前が真剣に悩んでたってのに
   それに気づかなかった。気づこうとしなかったんだ!」

キョン「古泉の告白だって半信半疑だった。いや、オレは認めようとしなかった。
   まさかアイツがお前のこと好きだったなんてな。・・・オレはその事実を認めたくなかった。
   認めちまったら、もう今までのオレたちじゃいられなくなる。もう今までのSOS団の活動は
   できなくなってしまうからな・・・」
ハルヒ「・・・・・」
キョン「だから、オレはお前の真剣な相談をテキトーにごまかそうとして
   あんな心にもないことを言ってしまったんだ。・・・この2ヶ月間、お前と古泉が
   付き合ってるってことを考えるだけで胸が苦しかった。オレはその苦しみすら
   気づかないフリをしようとしてたが。まったく、自分のバカさ加減がイヤになってくるよ」

オレはハルヒのところまで走っていき、彼女の目の前に立った。
ハルヒは、今はよわよわしくオレを見上げるだけである。
オレはハルヒの両肩をつかみ、まっすぐ彼女の目を見つめた。

キョン「もう手遅れかもしれないけどさ、今になってはっきりと気づいたんだ。自分の本当の気持ちに」

キョン「オレはお前が好きだ。お前がいないこれからなんて考えられない。
   そんなことは考えたくもない。オレにはお前が必要なんだ!」

いつのまにか、ハルヒの瞳から大粒の涙が流れ落ちていた。
……はじめて見るハルヒの泣き顔だった。

ハルヒ「ホントに・・・ホントに信じてもいいの・・・?」
キョン「ああ、今まで待たせてすまなかった。もうオレは自分をごまかしたりしない。
   お前が・・・好きだ」

言い終えるや否や、ハルヒがオレの胸に飛び込んでくる。

ハルヒ「バカ・・・どんだけ待ったと思ってるのよ・・・グスッ・・・バカキョン」
キョン「ハルヒ・・・」
ハルヒ「団長を・・・泣かした罰は・・・重いんだからね・・・」

オレはしばらく胸の中で泣き続けるハルヒをやさしく撫で続けた。

キョン「さーて、これからどうすっかな・・・現実世界じゃ今頃大慌てだろうな
   なんたって結婚式に新婦が行方不明になってるんだ」
ハルヒ「待たせておけばいいわ。どうせ式は中止よ。ドッキリってことにして
    披露宴は即興のディナーショーにすればいいのよ。
    なんなら文化祭のときみたいに私が歌ってもいいわよ」

ひとしきり泣いた後、はやくも笑顔を見せながらハルヒはそういった。

キョン「そういうトコはあいわらず変わんねえな、お前は」

少し呆れながらオレはそういった。

ハルヒ「誰のせいだと思ってんの?」
キョン「そうだな、今回はオレが全面的に悪い」
ハルヒ「あら、めずらしく物分りがいいじゃない・・・って、そんなことより、
    どうやって元に戻れるワケ?これ」

キョン「忘れたのか?前にもこんな状況に陥ったときがあったろ?」

そういうとハルヒの顔はみるみる赤くなった。

ハルヒ「な、そ、あ、あれって・・私の夢・・・でしょ?なんで・・・あ!?」
キョン「残念ながら夢じゃないんだよなあ。あんときゃ苦労したぞ」

すでにハルヒの顔は真っ赤になっている。そんな反応を見せてくれるなんて、
うれしくなるじゃないか。

ハルヒ「バ、バカぁ!アンタずっとだまってたのね!」
キョン「す、すまんハルヒ・・・あんときゃオレにも事情があってだなあ・・・
   長門や古泉にも口をすべらせないようクギを刺されてたし・・・」

ふと疑問に思ったんだが、ハルヒは今、自分の能力についてどのくらい知っているのだろうか。
さっきからの様子をみるに、まったく気づいていないということはなさそうだが・・・
もしかしたら古泉あたりがネタバレしている可能性もある。
ま、この騒ぎが収まってからゆっくりと聞いてみるか。

キョン「じゃ、いくぞ。ハルヒ」

ハルヒ「い、いくってなにが?」

とぼけているのか本当にわからないのか、ハルヒは戸惑った顔を見せる。

キョン「決まってるだろ?・・・うーん、お前もオレに負けず劣らず
   鈍い性格してんのかもしれないな」

ニヤケ笑いを含みながらオレが言うと、ハルヒは怒って反論した。

ハルヒ「バカじゃないの!・・・だってあのときはアンタがいきなり・・・って、
    アレをしたら戻れるってワケ?」
キョン「そういうことだ」
ハルヒ「はぁ~?どんな理屈よそれ!聞いたことないわ」

ムキになって食ってかかるハルヒだが、オレだって詳しい事情はしらん。

キョン「理由はよくわからんが、とにかくそういうことなんだ。
   詳しいことは後で長門にでも聞いてみてくれ」

ハルヒ「だって、いきなりそんなこと言われても・・・その、心の準備ってものが」

ウエディングドレスを着たまま恥じらいを見せるハルヒ。・・・はっきりいってムチャクチャかわいい。
オレの理性が今の半分くらいの防御力だったら、このまま押し倒していたことだろう。
オレはしばし気を落ち着けると、ハルヒの手をとった。

ハルヒ「ま、待ってキョン」
キョン「ハルヒ、真面目な話だ。聞いてくれ」

そういうとハルヒは素直にオレの顔を見た。

キョン「オレはなんのとりえもない普通の男だ。お前が望むようなことをかなえる力はほとんどない。
   オレにできることといえば、ヘンな事態が起きたときに、そばでお前のフォローすることだけだ。
   超能力もなければ宇宙的な力も使えないし、未来の道具だって持ってない」
ハルヒ「・・・・・」

ハルヒはだまってオレの目を見ている。

キョン「だけどな、お前のそばにいることはできる。約束するよ。これから先、
   どんなことが起きたってずっとお前のそばにいる」
ハルヒ「キョン・・・やっぱりあんた、鈍感ね。だってそうじゃない?私の一番の願いは、
    アンタと出会ったあのときからずっと変わってないんだもの」
キョン「・・・・・」
ハルヒ「そうよ。私の願いはね、ずっとアンタと一緒にいることだったのよ」
キョン「ハルヒ・・・」
ハルヒ「約束、破ったら死刑だからね」
キョン「ああ、もちろんだ」

そう言うとオレはハルヒの左手をとった。

キョン「どうせなら、ここで誓いをしないか」
ハルヒ「ふふっ、そうね。異空間のチャペルで二人の愛を誓うなんて、
    まさにSOS団団長と団員にふさわしい結婚式だわ」
キョン「じゃあ、誓いのリングだ・・・今は間に合わせだけど」

そういうと、オレはハルヒの左手薬指にこよりで作ったリングをはめた。
ハルヒにも同じこよりを渡し、オレの指にはめてもらう。

キョン「誓いの言葉は・・・さっき言ったな。オレは一生お前のそばを離れない」
ハルヒ「私もよ、キョン」

ゆっくりとハルヒが目をとじ、斜め上を向いた。ハルヒの唇に自分の唇を重ねると、オレもゆっくりと目を閉じた。

そのとき、再び違和感が肌の上を通り過ぎた。

古泉「二人とも、いつまで続ける気ですか?」

突然古泉に声をかけられて、オレとハルヒは奇声を上げながら離れた。

みくる「よかった・・・ちゃんと仲直りできたんですね」
長門「あなたは20分14秒、この時空から消えていた」

みんなにキスシーンを目撃されたせいか、ハルヒは真っ赤な顔をしてうつむいている。
ん、なにか引っかかるな。オレが閉鎖空間に行く前とくらべて、
やけにみんな落ち着いてる気がする。それになぜ古泉が普段のニヤケ顔でいられるんだ?

古泉「まずお二人にはあやまらなければならないことがあります。
   ・・・特に涼宮さん、あなたには」

落ち着いて回りをよく見れば、閉鎖空間に入る前の新婦側の準備室にいた。
古泉はオレとハルヒを見ながら話を続けた。

古泉「涼宮さん、この前少しお話しましたよね?・・・あなたの持っている力について」
ハルヒ「わ、私が願ったことが実現するってアレ?ゴメン、そのときはまったく信じてなかったの。
    正直言って今だってまだ半信半疑で・・・」

古泉「それで十分です。とにかく我々の機関は最近になって涼宮さんとキョンくんの関係を
   危険視してきました」
みくる「キョンくんがいつになっても涼宮さんとの関係をハッキリさせなかったから?」

朝比奈さんの容赦ない言葉がオレに突き刺さる。・・・うーむ、なんだかオレ
彼女に頭が上がらなくなりそうだ。

古泉「そうです。涼宮さんの精神の安定は世界の安定につながる。しかし肝心のキョン君は
   いつになっても煮え切らない態度のままでいた・・・そこで僕が動いたわけです」

くり返さんでいい。って、それじゃまさか2ヶ月前の告白は・・・?

古泉が突然地面に手をつくと、そのままハルヒに向かって頭を下げた。

古泉「機関の意向とはいえ、僕はあなたの心をもてあそんでしまった。
   これはとうてい許されることではありませんが・・・申し訳ありませんでした」
ハルヒ「そ、そんな・・・古泉君ばっかりが悪いんじゃ・・・」

古泉はオレのほうに向きなおし、再び頭を下げた。
古泉「キョン君にも、大変申し訳ないことをしてしまった。・・・どうか許して下さい」

あらためて言われるとすごく居心地が悪い。・・・まさか朝比奈さんや長門も?

みくる「ごめんねキョンくん、私たちも実はホントのこと知ってたの・・・」
朝比奈さんも申し訳なさそうに頭を下げ、長門は黙って頭を下げていた。

オレがどうしていいかわからず困惑していると、ハルヒがひときわ大きな声で言った。

ハルヒ「もういいわ!元はといえばキョンがはっきりしなかったのが悪いんだし、
    みんなそれぞれ罰ゲーム20回ずつで許してあげる!」

罰ゲーム20回という言葉に古泉は少し顔を引きつらせたが、とりあえずみんなホッとした顔をみせた。

ハルヒ「そうそう、すべての元凶であるキョンは罰ゲーム50回だからね!」

…今度はオレが顔を引きつらせる番となった。

みくる「ところで古泉君・・・この後はどう収集つけるんですか・・・?」
朝比奈さんが恐る恐る古泉にたずねる。うむ、そこはオレも
気になっていたところだ。

古泉「それはご安心下さい。実は涼宮さんの家族や親族のかたには、あらかじめ
   この式が狂言であることを伝えてあります。・・・今頃は我々の準備した部屋で
   くつろいでいることでしょう。僕のほうは、もちろん機関の仕込みです」

いつものニヤケ顔に戻った古泉は、やけにうれしそうに解説する。
しかし親族総出でこんなドッキリに付き合うとは、涼宮家はどこまでノリのいい一族なんだ?
オレはハルヒの母親のやさしそうな笑顔を思い出した。

キョン「じゃ、一般招待客はどうなんだ?見たところなにも知らないようだが」

さっきの谷口や国木田は、間違いなくなにも知らない様子だった。こんな面白いことを知りながら
知らないフリをするなんてマネは、あいつらにできるとは思えん。
鶴屋さんは・・・もしかして知っていたのかもしれないが。

古泉「それが今回の趣向ってことですよ。これから僕と涼宮さんがチャペルに向かい、
   ニセの結婚式を始めます。そこからがあなたの出番ってわけです」

ハルヒ「めちゃくちゃ面白いじゃない!それ!!」

古泉の説明の途中で、ハルヒが口を挟んできた。

ハルヒ「どうしてもっと早く言わなかったの・・・って、私に言ったら意味なかったのよね。
    まあいいわ!この私がニセの結婚式を見事に演じてあげようじゃないの!」
古泉「ありがとうございます、涼宮さん。・・・えーと、キョン君の出番の話でしたね。
   キョン君は誓いを交わす直前、突然チャペルに飛び込んできて
   新婦を奪い去る役というわけです」
みくる「ステキです!それ」
長門「ろまんちっく・・・」

なぜか朝比奈さんと長門までが賛同の声を上げる。

キョン「ちょっと待ってくれよ。いきなりそんなこと言われてもオレ・・・」
みくる「キョンくん、往生際が悪いですよ。これも長いこと涼宮さんを待たせた罰です」
長門「覚悟を決めて」

二人にそういわれてオレは言葉がつまった。

古泉「それじゃ決まりですね。その前に涼宮さんは化粧直しが必要のようなので、
   我々男性陣は一旦退散するとしますか」

古泉はハルヒの涙のあとをみてそういった。

みくる「もう女の子を泣かせたりしたらダメですよ、キョンくん」

そういって朝比奈さんはオレに極上のウインクを飛ばした。・・・なんだか無理矢理押し切られたな。
しかし、やはり朝比奈さんには今後も頭が上がらない気がするな。

とりあえず古泉とオレは部屋の外に出ることにした。

古泉「・・・さきほどは殴ってしまい、申し訳ありませんでした」

外に出ると、古泉が再び謝ってきた。

キョン「もういいさ。お前のおかげでオレは本当の自分の気持ちに気づけたんだからな」
古泉「しかし、それでは僕の気持ちが済みません・・・涼宮さんをだましていた分も含めて、
   僕を殴ってくれませんか?」

妙に青臭いことを言い出したな。熱血青春ドラマの見すぎじゃないのか。

キョン「じゃ、貸しにしとくってことでどうだ?そうだな・・・オレとハルヒの新婚旅行を
   火星旅行にするってことで手を打とうか」

古泉は若干たじろいだが、すぐに元のニヤケ顔を取り戻した。

古泉「それはカンベンしてもらいたいですね。もし涼宮さんが火星人を発見してしまったら、
   後の処理が大変でしょう」
キョン「たしかに、それはオレもカンベンだな」

古泉の顔をみながらオレも少し微笑んだ。

古泉「正直なところを申しますと、僕は20%くらいは本気でしたよ。
   だからこそあなたたち・・・特にあなたには申し訳ないと思っているのですが。
   特にあなたを殴ったときに言ったセリフ、あれは僕の本心です」
キョン「お前の本心ほどアテになることはないが、そういうことにしとくか」

古泉「もちろん、涼宮さんの心の中に僕が入り込む余地のないことはよくわかっていました。
   なんたって、僕は中学生の頃からずっと彼女の精神に関わってきてますからね」

そうだったな。コイツはハルヒ専門の精神分析家でもあった。

それからしばらくして多丸(弟)さんがやってきてオレを別の部屋に連れていき、
花嫁強奪の段取りを詳細に説明した。

…演技はオレの苦手科目なんだが、もう幕は下ろされたようだ。覚悟を決めるしかない。

しばらく部屋でボーッとしていると、再び多丸(弟)さんが呼びにきた。

オレは頭の中で段取りを思い返していた。

新婦が誓いの言葉を言う寸前にチャペルのドアを開け放ち、そこで愛の告白
招待客や花婿があっけにとられているスキに花嫁を連れ出し、外に止めてある車に乗って逃亡
しばらくしたら式場に戻り、タネ明かしの終わった招待客の前に姿を見せる
その後はオレとハルヒの婚約披露パーティー

…ということらしい。こんなベタベタなストーリーは古泉が考えやがったのか。
いや、朝比奈さんかもしれないな。まさか長門ではないだろう。
…まさかね。

なぜかオレの親戚一同にも話がつけられており、知らぬはオレ一人だけだったらしい。
まったく、異様に手回しのいい機関だな。おかけで、
最近妹がオレの顔を見るたびニヤニヤしていた理由がわかったよ。
中学生になっても妹は相変わらず無邪気だ。未だにオレになついてくる姿はかわいい限りだが、
そろそろ将来が心配にもなってくる。もうちょっと大人になってもいいと思うんだが、
かといってオレにまったくなつかなくなったらそれはそれで寂しい。

そんなことをぼんやりと考えていたら、ついにオレの出番がきたようだ。
多丸(弟)さんに促され、オレはチャペルの扉に手をかけた。

ダンッ! オレは勢いよく式場の扉を開け放った。

谷口「お、おい、あれキョンじゃねえか?」
国木田「こんなときになにやってんだろ?」

新郎の誓いの言葉が終わり、式はまさにクライマックスに入ろうとしていた時だ。
オレは段取り通りチャペルの中央付近まで歩いていき、新婦に愛の告白をする。

…内容は割愛させてもらおう。一応ちゃんとした台本が用意されていたのだが、
オレが短時間で覚えられるわけもないので、アドリブでやることになったのだ。
閉鎖空間ではすらすらと言えた愛の告白だが、演技となるとなかなかスムーズに出てこなかった。
告白ってのはどうやら真剣にやらないとできないものらしい。

しかしそれなりに劇的な場面を演出できてたみたいで、朝比奈さんなどはかなり感激していたようだ。

オレはハルヒの下にかけより、感極まったハルヒがオレに抱きつく。
古泉はというと、見事に狼狽した新郎役をこなしていた。
完全に役になりきっている。たいしたもんだな。

オレはハルヒの手をとり、宣誓台から駆け出した。

「キョンくん、もうハルにゃんを離しちゃだめだぞー!」

真ん中の通路を二人で走りだすと、鶴屋さんが声をかけてくる。
やっぱりこの人は今回の仕掛けを知っていたんだろうな。

しかしウエディングドレスを着たまま走るというのはなかなかコツがいるらしく、
ハルヒは苦心しながらなんとかオレについてきていた。

新川「いやあ、若いとはすばらしいですな。私などもあと20年若ければ・・・」
なにやら新川さんがとなりに座っている田丸(兄)さんに話しかけているのが目に写ったが、
そんなに落ち着いて話してたら他の招待客に気づかれるんじゃないだろうか・・・

と、いろいろあったがなんとかチャペルの外に出ることができた。
外に停めてあったオープンカーにハルヒを乗せ、オレは車を発進させた。


ふーやれやれ、なんとか終わったかな。


ハルヒ「ま、アンタにしちゃ上出来じゃない?」

今は適当にそのあたりをオープンカーで流している。
しかし、ウエディングドレス姿の花嫁がオープンカーに乗っている姿は
異様に目立つ。さっきから通行人の視線を痛いほど感じるが、ハルヒは気にならないのだろうか。

ハルヒ「どうやら鶴屋さんは事情を知ってたみたいね・・・もしかしたら企画段階から参加してたのかも。
    くぅ~!きっと面白かったんだろなぁ。次は私も絶対参加するわよ!」

こんなことはもう一回こっきりで十分であるが、どうやらハルヒはやる気満々らしい。
一体次は誰の結婚式を潰すつもりだ?

ハルヒ「決まってるじゃない!次はみくるちゃんか有希の結婚式よ。古泉君にはまた
    哀れな新郎役をやってもらうわ!でもその前にみくるちゃんと有希の花婿を見つけないといけないわね・・・」

それは聞き捨てならんな。そんじょそこらの男じゃオレは納得せんぞ。

ハルヒ「なんでアンタがそこで出てくんのよ」

ハルヒは口を尖らせながらそういった。

キョン「さっそく妬いてくれてるのか?」
ハルヒ「フン、バカねアンタは。ま、たしかにSOS団の誇るみくるちゃんと有希だもの。
    相手も相応の男じゃないと釣りあいがとれないわよね。・・・この件は私がちゃんと考えておくわ」

などと冗談を言い合いながら車を走らせていた。

ハルヒ「ねえキョン、そろそろ戻る時間じゃない?」

そういわれて時計を見ると、約束の時間まで20分を切っていた。

キョン「もうこんな時間か・・・そうだハルヒ、このままちょっと遠出してみないか?」
ハルヒ「うーん・・・そうね、それも面白そうね!」
キョン「古泉にメール入れときゃなんとか場をつないでくれるさ。・・・どこ行きたい?」
ハルヒ「そうねえ、あ、久しぶりに海岸のある海が見たいわ!」

この近くの海は護岸工事が完備された港湾地区のため、海岸線のある場所となると
少し遠出をしなければならない。まあちょっとぐらい大丈夫か。

キョン「決まりだな。じゃ行くぞ!」
ハルヒ「よーし!全速力で向かいなさい!」



こうしてオレとハルヒの時間は再び動き出した。
この先またいろいろとヘンな事態が起きるのは間違いないだろうが、
まあなんとかうまくやっていけるだろう。今までがそうだったように。
見上げると空は晴れ渡り、まるでオレたちの前途を祝福しているように見えた。
…いつまでも一緒だぞ、ハルヒ。



花嫁消失 -fin-
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