「数字で見るSOS団~!」
部室でそう古泉は言った。
一体なんだっていうんだ。某番組のパロディをいきなりやるとは。連中にとっちゃぁハルヒを退屈させないためのもんだろうが、生憎、そのハルヒは居ない。
珍しく風邪で休んでいるからだ。
あいつが風邪で休むなんて事、この世には無いと思っていたが、その想いは打ち破られた。
まあいいだろう。後で見舞いに行ってやれば総てが済む事だ。
見舞いに行きゃあ後日口煩く言うことも無いだろうしな。
そんなこんなで、今部室に居るのは、俺、朝比奈さん、古泉、長門、だ(サウンドアラウンド風に)。
朝比奈さんはパイプ椅子に腰掛けて此方を見ている。少し傾げた首が、また可愛らしい。
長門は、何時ものように部屋の隅で本を読んでいる。どうでもいいけど、それ、人を簡単に殺しそうだな。
古泉は置いとこう。古泉だし。
で、俺は何処に居るかというと……………。
「で、だ。何で俺は此処なんだ?」
俺がそう言うと、横の古泉は言った。
「いいじゃないですか。司会者だからそうイジられることもないですよ?」
顔が近い、気色悪い。
俺は何故か古泉の隣で立っていた。
場所?ああ、団長机の近くに、新たに机を持ってきて、狭い幅に少しの間を空けて二人で立っている。ええい、近い、近すぎる。近すぎて気色悪さが倍増だ。
「それでは、本題に入りましょう」
此処で話を進めるのか。
「長門さんの30!」
視線を長門の方へと向ける。
「えー………と、『団活が始まってから別れるまでの間、彼が朝比奈みくるに微笑みかけた回数』が、30で……、宜しいんですよね?長門さん?」
「そう」
一瞬の沈黙も与えずに、長門が返事を返した。
微笑みかけた回数だと?数えてたのか?
「数えていたわけではない。報告の資料から所々抜き出した結果。
私も少し興味があったから、整理しただけ」
あのー、長門さん?それは世間一般では数えていることになるのではないでしょうか………?
なんて、俺が敬語のモノローグを形成するくらいだ。
きっとあの時の、あのゲーム対決の時位に俺の脳漿が恐怖を通り越して感心しているのだろう。ああ。きっとそうに違いない。
しかし、微笑みかけた回数?俺はそんなにも朝比奈さんに対して微笑みかけたのか?大した数だな。
「その回数の少しを、涼宮さんに分けてくれるとよいのですがね」
ホワイ、何故?
何で俺があいつに朝比奈さんにしている分を分けにゃならんのだ。
説明を要求する。
「はぁー…………これだからあなたって人は………」
古泉が俯いているが、無視する。
次行こうぜ、次。
「朝比奈さんの4!」
朝比奈さんが我に返ったようだ。何をしていたのだろう。
「え、と『先週の活動で、キョンくんが古泉君より先に来ていた回数』で……いいですか?」
「あ………は、はいっ!」
少し慌てた様に答える朝比奈さん。誰かこのお方に賞賛の言葉をあげてくれ。
「え、と………私が部室のドアを開けたとき、キョンくんが一人でボードゲームをやっていた回数が4回で、古泉君がやっていたのが、3回です……」
そんなとこまで見ていたのか。
そしてそんな事を覚えていた朝比奈さんは、何だろう?
探偵か?
「これ」
ん?
「これ、古泉一樹に」
唐突に長門が紙を差し出してきた。お前何時の間に!
思いながらその紙を受け取り、古泉に渡す。
「これはこれは」
如何した?古泉。
「いえ何も」
何だ。
古泉は受け取った紙を見ながら、
「長門さんの15491!」
いっ、15491!?終わらない夏のような数だな。
「ふふ、『15491回目の夏休み。彼が涼宮ハルヒに告白を受けた時』だ、そうです」
は?
「その時の彼は、気持ちの整理がつかずその告白の返事に出来ず、そのままで夏休みを終わらせてしまった。その結果、涼宮ハルヒは15492回目の夏休みをスタートさせた。その時の彼が、彼女の気持ちに答えてあげられれば、夏休みを終わらせられたかもしれない」
ちょっと待てよ。俺の既視感にはそんな事は無かったはずだ。
「それもその筈。彼女は15492回目の夏休みをスタートさせる直前、自分の気持ちと共にあなたの記憶を封印したから」
封印て………。
「それなら、彼女の気持ちは戻ることは無いのですか?」
「そうではない。自分の気持ちを封印したのは一時的。15498回目の夏休みを終わらせた時、掛かっていたプロテクトが開放された。
よって、今の彼女の気持ちは、15491回目の時と同じ。彼の記憶が戻ることは無い。それが、涼宮ハルヒの無意識の審判」
で?俺はどうすりゃいいんだ?
「涼宮ハルヒに告白する事。それが一番の方法」
分ったよ。見舞いがてら行って来る。古泉、地図くれ。
「はい」
用意してたのか?
「これにて『数字で見るSOS団』第一回目は終了です」
あぁそう………一回目!?
「そうですよ。涼宮さんが居ないのですから」
ああ、もう。
勝手にしてくれ。俺には知ったこっちゃねーや。
終