どこだ、ここは・・・・・・

俺は今、学校の校庭の真ん中に立っている。
ここは確か・・・そうだ、東中だ。ハルヒの母校。谷口もそうだったな。
てか、何故俺はこんな所にいるんだ?
俺は思わず辺りを見回す。
 
空は明るいのだが、靄がかかっている。そこには太陽も月も姿を見せていない。全くの『白』。何も書いていない画用紙のような人工的な白さだ。
周りからは何の音も聞こえてこない。木々のざわめきも、小鳥の囀りも。風すら吹いていない。ここは本当に地球なんだろうか。俺はどこか異次元空間に飛ばされたのではないのか、そう思えるくらい、周りからは生気のようなもの全くが感じ取れなかった。人も誰もいない。校舎の中にもだ。
どうなってんだ。
俺の思考が暴走を始めそうになった時、突然、後ろから人が近づいてくる気配を感じた。
 
「ジョン!!」
 
その声に振り返る。
そこにはハルヒが立っていた。光陽園学院の制服に身を包み、長い髪をポニーテールにまとめたハルヒが。
黒ブレザーの制服、長い髪にポニーテール、そして俺のこと『ジョン』と呼んでいる。このことから導き出される結論、つまりこのハルヒは・・・・・・
 
「ちょっと何!?大事な話があるから急いで来いって!?私、学校サボってきたんだからね!!」
 
ハルヒはこちらに駆け寄ってきて、瞬く間に俺の制服のネクタイに掴みかかった。そして締める。
おいおい苦しいって・・・ってか何だ?大事な話?そんなことより一体何でお前がここにいるんだ?
俺はこう考え、実際にそう言おうとした。しかし何故か言葉に出来なかった。思い通りに口が動かない。そればかりか、あろうことか俺の口は全く別の言葉を発していた。
 
「離せ!!」
 
俺は自分でもびっくりするくらいの大声で叫んでいた。おいおいどうした俺?何をそんなに怒っているんだ?
ハルヒもびくっとして慌てて俺のネクタイから手を離す。そして、一瞬呆気にとられたような顔を見せたが、すぐに目を三角に変形させた。
 
「何よその態度は!?あんたが私を呼び出したんでしょ!?」
 
「ああ、そうだ。俺はお前に話さないといけないことがある。だからお前をここに呼んだんだ。」
 
あいかわらず暴走を続ける俺の口。もう、自分が何を喋っているのかもよく分からない。まるで他の奴らの会話を聞いているような気分だ。
 
「だから、その話したい事っていうのは一体何なのよ!?」
 
挑みかかるような目つきで俺を見上げるハルヒ。さあ俺よ、話したいことは何なんだ?早くとここいつに教えてやってくれ。
 
「俺、引っ越すんだ。」
 
え?
これは心の中の俺の声でもあるし、おそらく目の前のハルヒも同じ気分だろう。三角だった目が見る見るうちに大きな円形へと形を変えていく。
 
「引っ越すって・・・あんた、昨日、北高に転入してきたばかりじゃない。何でまた・・・・・・。」
 
「親父の都合だ。こっちの世界に戻ってきたのはいいが、親父が急に会社で大きなプロジェクトを担当することになってな、転勤することになった。」
 
もはや第三者の観点で一連の会話を聞いている俺。もちろん俺の親父には転勤なんて話はさらさらない。
 
「・・・・・・ふ~ん。でも、そんなに遠くには行かないんでしょ?だったら、たまに私達の活動に参加する事だって・・・・・・」
 
「出来ないんだ。俺が行くのは国内じゃない。海外なんだ。確かオーストラリアだったっけな。親父もすごい仕事を任されたもんだぜ。あそこはすごいらしいな、コアラとかカンガルーもいてよ・・・・・・・」
 
「何よ!!」
 
オーストラリアについての感想を語り出した俺を遮る様にして、ハルヒが叫んだ。
表情は怒り顔だ。しかし、さっきまでの怒り顔ではない。それよりも暗くて、元気のない、こいつには似合わない様な顔だ。
 
「何で・・・何でよ!私の話を聞いたとき、あんなに楽しそうにしてたじゃない!!俺も仲間に入れてもらうぞって言ったじゃない!!それなのに何で突然・・・・・・ずっと・・・待ってたのに・・・・・・一体、あんたは何しにここに来たのよ!?」
 
「お前にお別れを言いにさ。」
 
「え・・・?」
 
「実は最初から俺はこっちの世界に来たら、オーストラリアに住むことになってたんだ。だけど、もう一回だけお前に会いたくてよ。無理を言って一日だけ北高に入学させてもらったんだ。昨日の内にこのことをお前に話そうと、何回も思ったんだが、楽しそうに話すお前を見てると、なかなか言い出せなくて・・・・・・」
 
「うるさい!!何!?最初から引っ越すって分かってて私の話を聞いていたの!?期待だけさせといて、バカみたい!!あんたなんか最低よ!!もう顔も見たくない!!オーストラリアでもどこでも行っちゃえ!!」
 
そう言って、俺を突き飛ばし走り去っていくハルヒ。その目には、涙が浮かんでいた。
 
おい何やってんだジョン?何でそんな嘘ついてまでこいつを泣かせるような真似をしたんだ?
普通は、ジョン=俺なわけでハルヒを泣かしたのも俺って事になるのだが、この場合は俺に責任はないはずだ。何せ俺は今しゃべることすら出来ないんだからな。
 
ポニーテールがどんどん遠ざかって行く。
待てよハルヒ!俺の親父は転勤なんかしない。だから俺はどこにも行きゃしない。
だからこっちに来いよ!一緒に学校行こうぜ。少しくらい遅刻したっていいさ。
なぁハルヒ!ハルヒ・・・ハルヒ・・・・・・
 
 
 
「・・・・・・ハルヒ!!・・・・・・・あれ?」
 
あれ、ハルヒは?どこ行ったんだ?てか何故俺の体は揺れてるんだ?
ゆら~ん、ゆろ~ん、ゆらゆよ~ん・・・ってあれ?ここは・・・電車の中?
 
俺の頭が目覚めていくにつれ、今の状況も徐々に分かってきた。
つまり俺は、人が大勢乗った電車の中で、『ハルヒ』という女の名前を突如叫びながら立ち上がり、その後は口を開けてぼーっとしているわけだ。
目の前に座っている3歳くらいの男の子がじーっと俺の顔を見つめ、その隣の母親らしき女性がその子の視線を無理やり俺から引き剥がす。
「見ちゃだめよ」って・・・・・・・あの~一応俺は怪しい人物ではないつもりなんですがね・・・・・・。
 
『次は光陽園前~光陽園前~』
 
おお、着いた着いた。さあ、降りよう。周りからの冷たい視線で刺し殺される前にね。
 
 
 
 
 
どうも~朝比奈みくるです。
祝、二回目の一人称担当です!
さあ、早速始めますよ、前回は前フリが長すぎるっていう苦情が来ましたしね。
 
今日は水曜日。一週間のど真ん中。いつもだったら、週明けで学校にくるのが面倒くさかったり、休日が近くてウキウキ気分だったり、なんてことのないふつーの日です。
でも、今日は違いますよ。今日は記念すべき機関誌の発行日なのです!私のファンタジー小説『魔法少女ミクルン』がついにみんなの目に届くんです!!楽しみだな・・・・・・今回は頑張りましたからね~。きっと、みんな楽しんでくれると思います。
 

『放課後よ早く来い』オーラを全身から発していたおかげか、一日の授業もあっという間に終わったような気がします。さあ、部室に行きましょう!

 

SOS団に入ったばかりのころは、正直言ってあまり部室は行きたい場所ではありませんでした。無理やりメイドさんとか、バニーさんにされたりしましたしね。

でも、今は違いますよ?今は部室に行くのが大好きです。部室に行かないと1日が終わったような気がしません。いろんな服を着るのにも慣れましたし。これはこれで楽しいですもんね。今度はチャイナドレスを着たいな・・・・・・涼宮さんに借りてみよっと。

 

なんて事を考えていたら、いつの間にか部室の前です。これもいつものことです。ノックをしても返事がないのを確認してドアを開けました。
 
「!・・・・・・。」
 
あれ、涼宮さんはまだ来てませんね。長門さんだけです。今日は学校、来てたんですね。良かった。
 
「・・・こんにちは・・・もうお体は大丈夫なんですかぁ?」
 
ふう、この長門さんはいつもの長門さんとは違うんだって分かっていても、やっぱり緊張してしまいます。昨日、長門さんのマンションから出るときは大分マシだったんだけどなあ・・・・・・。
 
「・・・・・・もう大丈夫。」
 
「・・・そ、そうですかぁ。良かった。」
 
「・・・・・・」
 
「・・・・・・」
 
また沈黙です・・・。だめです、こんなじゃあ!この長門さんとはもっとお話しておかないと。
 
「・・・え、えっと、今日は機関誌の発行をするみたいですよぉ。」
 
「・・・そう。」
 
「今日は忙しくなるって、涼宮さんが言ってました。が、頑張りましょうねぇ?」
 
「・・・うん。」
 
うんって答えるあたり、普段の長門さんらしくない所が表れてますけど・・・・・・えっと・・・次は・・・・・・・
 
「な、長門さんの小説、見ましたよ。あの、その、何というか、すごく良く出来ていて・・・・・・。」
 
「・・・・・・・。」
 
長門さんは返事をしてくれませんでした。でも、その顔が悲しそうにな顔になっていくのを私は見逃しませんでした。やっぱりそうなんですね・・・あの、話は・・・。
 
私は、長門さんがキョン君に好意を抱いているのをうすうす感付いていました。もちろん涼宮さんもです。私は・・・いいんです。いつか未来に帰らないといけないから。その時が来たら悲しいでしょう?
だから、その分まで2人のことを応援してあげようと思っています。キョン君は1人しかいないから、どうしても2人とも幸せにすることは出来ないけど・・・・・・。せめて、悔いが残らないようにしてあげたいです。いつか他の男の人といいお付き合いが出来るように。
 
この長門さんもキョン君のことが好きなんですね。きっと、そうです。見てれば分かります。こう見えてもそういうことには鋭いんですよ、私。
この小説にもその思いを込めていたはずです。『美樹』を長門さん、『恭平』をキョン君として。でも、この小説では最後に2人は結ばれませんでした。『恭平』は『晴美』と結ばれてました。『晴美』はきっと涼宮さんのことでしょう。
 
この長門さんは・・・諦めたんでしょうね、キョン君のこと。
何で長門さんが入れ替わっちゃったのかは分かりませんけど、きっと、この長門さんにもいつか元の世界に戻らないといけない時が来るはずです。
私と一緒ですね・・・・・・。その気持ち、よく分かります。
でも・・・・・・
 
「長門さん。」
 
「・・・・・・何?」
 
急に話しかけられたからか、長門さんは少し驚いているような顔でこっちを見ています。私はその顔に一言一言、言い聞かせるように、ゆっくりと話しかけました。
 
「あの小説は・・・分かります、その気持ち。でも・・・そのままにしちゃダメ、絶対に・・・・・・。悔いを残しちゃいけないんです。じゃないと、一生そのまま後悔するかもしれないんです。」
 
無表情のまま、少し肩を震わしているのでしょうか?長門さんはじっとこちらを向いたままです。
 
「私も思いを伝えてから別れるつもりです。だから、長門さんも・・・・・・・。」
 
長門さんには私が何を言っているかよく分かっていないでしょうね。「お前なんかに私の気持ちが分かってたまるか!」って思っているはすです。
 
「す、すみません。気にしないでください。ただのうわごとです。」
 
そう言って、メイド服に着替えようとした私は長門さんの顔を見てびっくりしました。
長門さんが、泣いていたのです。静かに、振り絞るようにして涙を流していました。
ど、どうしよう・・・私、酷いこと言っちゃったのかな・・・・・・。
 
「こんにちは。」
 
ドアの方から爽やかな声が聞こえてきました。古泉君です。良かったぁ、これで気まずい空気は・・・・・・。
 
「・・・僕はお邪魔のようですね。しばらく失礼させてもらいます。」
 
って、おい!!古泉君は、長門さんと私の顔を交互に見渡した後、優雅な笑みと礼を残して帰っていきました。くそ!肝心な所で役に立たないんだから、こいつは・・・・・・。
 
 
 
 
 
「さあ、今日はいよいよ発行日ね!!誰かさんのせいで、ここまでかなりの時間を要したけど、この際もう忘れてあげるわ。今日という日を思う存分楽しみましょう!」
 
隣でハルヒが実に楽しそうに騒いでいる。現在、放課後。部室へのお馴染みのルートを2人で歩いている途中だ。
 
今朝、かなり苦しい言い訳を理由に遅刻してきた俺を、クラスメイトは微妙な雰囲気で迎えてくれた。まぁ、谷口と国木田からは「災難だったな。」とか、「いい事をしたね、キョン。」などとありがたい言葉をいただいたが。俺をからかっているのか、それとも正真正銘の馬鹿なのか。俺としては後者の方を望むがね。
 

俺は今日の授業中、ずっと電車の中での夢の事を考えていた。まあ大体、夢というものは自分の記憶の中にある情報がランダムに表れるそうだから、そのほとんどがよく意味の分からないものだ。今回のも、ずっと異世界のことばかりを考えていた俺の思考の一部が映像化されただけなのかもしれない。そう考えればすぐに済む話だった。

 

しかし、何故かそれではいけないと感じていた。どうやら、俺の今までの経験がそう言っているようだ。何せ、あれほどはっきりとした夢だ。未だにあれは本当に夢だったのかと疑わしくなる。絶対に何かある。まあ、その『何か』が何であるのかは全く見当がつかなかったが。
 
「ちょっとキョン!?」
 
不意に俺の目の前にハルヒの顔が出現した。
 
「どうしたの?最近、よくぼーっとしてるけど。」
 
「いや、何でもねえよ。」
 
そう、お前にとっては何でもない話だよ。長門と古泉にはとてつもなく大きな話だがな。
 
「ふ~ん、ならいいけど・・・・・・。あれ、古泉君じゃない。どうしたのこんな所で。」
 
「何!?」
 
古泉、という言葉に俺は激しく反応した。なるほど、確かに俺達の前には古泉がつっ立っている。いつの間に帰ってきたんだ?ってか、よく無事に帰ってこれたな。
 
「ど、どうしたのよ?古泉君がここにいるのがそんなにおかしなことなの?」
 
「古泉、話がある。ちょっとこっちに来い。」
 
ハルヒを完璧無視し俺は古泉に詰め寄った。何があったのかきっちり説明してもらわないとな。
 
「ち、ちょっと!今日は機関誌の発行日なのよ!どこ行くつもりよ!?」
 
後ろでわめきたてるハルヒに向かって俺はとっておきの言葉を放った。
 
「明日のことだ。明日のことでこいつと打ち合わせがあってな。」
 
「・・・そ、そういうことならいいわ。明日は大いに楽しませてもらう予定だからね。中途半端なものだったら一ヵ月後にもう1回やらせるわよ。さあ、早く行って、早く終わらして、早く帰ってきなさい。あんた達にも仕事はあるんだからね。」
 
そう言い残し、ハルヒは大またで歩き去った。
やっぱりな。どうやらあいつにとって機関誌発行はホワイトデーの足元にも及ばないらしい。さあ、厄介者は去った。じっくり聞かせてもらおうか。
 
「分かりました。では行きましょうか。」
 

俺達はいつもの食堂の屋外テーブルへと向かった。

 

    ~Different World's Inhabitants YUKI~スイヨウビ(その四)~へ続く~

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最終更新:2020年03月13日 01:26