最終話 子守唄
 
翌朝はきもちよく目覚める事が出来た。死刑にもならない時間だ。
そこは宿泊棟の自分の部屋で、自分は布団の中。何もおかしな所はない。
さっきの閉鎖空間の事は鮮明に覚えている。後半はやや記憶が薄らいでいるが、ハルヒに叫んだ内容は忘れてはいない。
 
俺も今回は二回目なんだ、ついでに非常事態には慣れている。
それにあれは自分の意思で言ったんだ。だから、そうだな、もし今俺の手元にピストルがあったら迷わずゴミ箱に放り込むね。
 
……ハルヒは閉鎖空間での事をどう捉えているんだ?
ただの夢だと思っているのか?あの『俺』の言葉を信じているのか?
 
例えば、分数の割算が出来ない時どうしたか。
まぁ一通り悩んだ後は先生なり親なりに聞いたりして、後で少しずつ理解していく、というのが王道だろう。
……つまり古泉に聞いてみる訳だが。
 
電話をかけるといつでもすぐに出る。全く便利な奴だ。
「おう、古泉か」
『はい。どうしました?』
「昨日の閉鎖空間についてなんだが」
『閉鎖空間?』
「ああ。北校に発生した奴だ」
『昨日は閉鎖空間は一度も発生していませんよ』
「何?」
そんなバカな……
「いや、だが確かに……」
俺は昨夜の閉鎖空間について所々端折りつつ話した。
 
 
『成る程。それは大変興味深いですね……』
 
「俺はあれが閉鎖空間だと思ったんだが」
世界が灰色一色だったからな。俺とハルヒを除いて。
 
『涼宮さんがあなたを呼んだ、というのは?』
「あいつが言っていたんだ。聞きたい事がある、とか言っていた」
 
『それでは涼宮さんがあなたに質問するために超能力者にも感知されない特殊な閉鎖空間を作った、という事でしょうか?』
「……そうなるか」
 
『しかし、今回はそれとは別の考え方もありますよ』「何?」
 
『全てあなたの夢だった、とする説です』
 
「そんなはずは無い、俺は確かに…北校に……」
段々不安になって来た。それが本当ならさっきゴミ箱に捨てたピストルを拾って来る必要がある。
 
『いえ、涼宮さんがあなたに質問する場としてあなたの夢の中を選択した、という事です。』
 
……つまり?
 
『涼宮さんが去年のあの閉鎖空間を夢だと思っていたから、閉鎖空間によく似た空間を作り出しそこを夢の中と定義したのです』
 
「済まないが、もう少し分かりやすく言ってくれ。とても分かりにくい。その空間は閉鎖空間とはどう違うんだ?」
 
『通常のとの違いは数多くありますよ。まず涼宮さんが自覚して発生させた事、超能力者が感知出来ない事、何より神人が現れない事。第一、あなたと涼宮さんを連れ込んだ時点で普通ではないでしょう。』
 
「それじゃ、『機関』はどう動くんだ?」
『おそらく何もしません。神人が出ないなら放置しても問題無いでしょうから』
「おいおい、今回は出なかったが次はどうなるか判らないだろ」
『ご心配無く。我々の超能力はおそらく閉鎖空間ではなく神人を探知するものだと推測されます。何しろ今まで神人を見逃した事は一度もありませんからね』
「それならいいが」
 
『ああ、それと実は涼宮さんの精神は午前1時頃に急激に安定しましてね』
 
「午前1時頃?まさか…」
俺に夢の中で会ってからか?
 
『おそらくその通りかと』
「そうか……」
 
その後、俺は古泉に適当な受け答えをして電話を切った。
 
時刻はまだ7時位。広間集合は8時だからまだ余裕だ。
俺はこの3日間について思い出していた。
……本当に色々な事があった。SOS団他皆の色々な面を見ることが出来た。
 
それから、ハルヒの事。
俺に結構一方的に告白し、俺も結構一方的に告白した深夜のイベント。
今からその話をする予定だ。俺はハルヒの部屋の前にいる。
 
……実はさっき部屋を出てすぐに朝比奈さんに会った。といっても、ただ未来からの荷物を渡されただけだったが。
一応解説しておくと、白い無地の大きな封筒で、中には半紙が一枚。
『男らしく、行け  朝比奈 みくる』
等とえらく達筆な字で書いてあった。そういえば朝比奈さんは元書道部だった。
──これは未来からのメッセージで良いんですよね、朝比奈さん?
 
 
……とまぁこんな事があった訳だ。
 
俺は息を吸って、吐いてからドアをノックした。
言う事も既に決めてある。
「キョン?どうしたの?」
「あー、ハルヒ、実は話したい事があるんだ──」
 
 
 
 
 
 
この話はここで打ち切りだ。
ええと、これ以上は俺もネタが出て来ないんだよ。
うーむ、ああ、その日古泉が集合時間に遅れたな。
ん?実話っぽく聞こえたか?……そりゃあ小説家として嬉しいな。
……いや、俺とママの間にそんな照れ臭い気恥ずかしい逸話は無いぞ。あっても絶対話さないしな。
ん?……ハルヒに確認するのはやめてくれ!また悪夢に魘される事になる!
 
良いから今日はもう寝なさい。ちゃんと寝てたらまた夢の中で俺とママに会えるからな。
 
分かったよ。明日は別の話を聞かせてやる。
……お休み。 

 
  

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最終更新:2007年11月10日 14:52