温室効果か何かは知らないが、季節はずれの記録的な暑さとなったその日、学食て買っ
てきたジュースを片手に自分の席でぐんにゃりしていると、真夏の動物園で氷の差し入れ
を心待ちにしている北極熊みたいな表情でハルヒがやってきた。
「暑いわ」
珍しく、その声にやつれた雰囲気が漂っている。が、そんなのを気にしてやる余裕もな
いほど、オレだってこの天気には参ってるんだ。
「ねぇ、扇いでくんない?」
「恥ずかしそうに上目遣いでチラチラ盗み見ながらお願いすれば、扇いでやろうって気持
ちが1ミクロンくらい芽生えるかもな」
「成層圏までぶっ飛ばすわよ?」
おまえならマジでぶっ飛ばしそうだから勘弁してくれ。
「ほんっと暑いわねぇ。ちょっとキョン」
「なんだ?」
「それちょーだい」
なんでオレが飲んでるものまで欲しがるかね。子供かおまえは?
「なによ、ムカツクわねぇ。……ねぇ、キョンくん。ハルヒ、喉が渇いちゃったんだけど、
それちょうだ~い」
…………。
「隙ありぃ~っ!」
うあっ! くそぅ、ひっぱくした財政からなんとか捻出して買ったジュースが……。
「ふっふーん、ごちそうさま~」
さんざん土曜日にオレの財布から徴収しといてこの仕打ちは、復讐するに値する行動だ
と思うんだが……さて、どうしてくれようか。
「なぁ、ハルヒ」
「何よ。あんたの言うとおりにスペシャルサービスでしてやったのよ? 返せって言われ
ても返さないからね」
そんな睨まれてもだ、もうほとんど残ってないものを「返せ」なんて言うわけがない。
ここで言うべきセリフは、これしかないだろう。
「間接キスだな」
うあっ、いきなり吹き出しやがった。
「げほっ、ごほっ……。あ、あんた何言い出すのよ!」
その完熟トマトより赤い顔は気温のせいだけじゃないよな。それが見られたんなら、ジ
ュース1本くらい安いもんだ。
「あーもー、中身なくなっちゃったじゃない。もう一本買ってきて」
「なんでだよ?」
「はぁ~やぁ~くぅ~、とっとと行きなさいよ!」
「はぁ……わかったよ」
おかしいな、復讐したつもりがオレの財布にダメージが……まぁ、空になったジュース
の缶を片手に100ワット笑顔を見せるハルヒに免じて、そのくらいは我慢するか。
〆
最終更新:2007年01月12日 13:41