まったくをもって突然だが、俺とハルヒは今世間で言うところの゛彼氏彼女〝の関係になっている。まあ、何故かと言われてもただただ回答に困るが、少しだけ語れる事があるなら告白したのは俺のほう、と言うことだけだ。
しかし、そんな関係になったところであの天上天下優雅独尊及び俺を独占な態度は地球の公転周期ほども変わらず、相変わらずこき使われている。
谷口からは゛かかあ天下〝とまで称されてしまった。……別にいやではないが、まだ籍を入れた覚えはない。
ちなみに俺の彼女曰く、゛神聖にして不可侵の象徴たる私が団活をやめるなんて言語道断よ!〝とのことで、そこも相変わらず継続中だ。

ガチャリ、といつもの如く(元?)文芸部室の扉を開けて―――無論ノック後の「はぁい」という語尾にハートマークがつきそうな声を聞いた後にだが―――俺はいつもの面々の顔を確かめる。
メイド、
無表情、
ニヤケ、
団ちょ…彼女。
…箇条書きするとものすごい特異なメンバーに聞こえるのは今さら言うまでもないが、やはり改めると層々たるメンツだと思えてくる。
「キョン君、こんにちは」
「やあ、こんにちは」
「………」
「遅いわよ!」 
…どれが誰の発言かは言わなくてもわかると思うので割愛させていただく。
「…まあ、そう怒るなハルヒ。お前だって俺が掃除当番だったことぐらい知っているだろう?」
応える優先順位など考えなくてもとっくに出ている。…正直、自分でも驚いていたり。
「そんなの関係ないわ!団活と掃除を天秤にかけて掃除が勝つなんてあってはならない事よ!」
お前は掃除当番をしっかりとこなしているくせに……なんて言う訳がない。言いたくはあるが、週末のデートに罰金として報復されたらたまったものではないしな。
俺は『まあ、善処するよ』とだけ言っていつものポジションのパイプイスに腰掛ける。 「はい、キョン君。お茶です」 そこで朝比奈さんがお茶をくれた。…ん?
「あれ?もしかして茶葉変えました?」 何かいつもより茶の色も濃い気がする。
「あ、よく判りましたね。さすがキョン君です!」
と俺を極上のスマイルで褒めてくれた後、古泉と長門、そして愛しのハルヒへとお茶を配った。
「今日はチェスなどどうですか?」
と俺の正面にいる古泉が磁石式のポータブルチェスを取り出して言った。
「ああ、良いだろう。一ゲーム千円でいいか?」
本音半分、冗談半分。 
「ふふ、五百円なら受けてたちましょう」
…本音半分、冗談半分の半分になった。
「望まぬところだが…まあ、良いだろう」
と言いつつ白のポーンを並べていく。 その様子を、自分のお茶を汲んだ朝比奈さんが眺めていた。

その日の帰り道、俺はSOS団ごようたしの喫茶店にハルヒと来ていた。
「でね、そのとき坂中さんが―――」
俺らはたまにこの喫茶店に―――主に古泉に買ったときに―――来ている。 理由なんか地平線を突き詰めても見つからないだろう。まあ、地平線は突き詰められないけど。
「―――で、転んじゃったのよ!」
俺らが交わすのはなんでもない日常の話。普通の恋人らしいと言えば恋人らしい会話。
「そしたら谷口が―――」
俺はコーヒーをすすりつつ聞いている。うむ、旨い。
無論、ハルヒの話はちゃんと聞いている。 なんでもない時間がただ流れるこの感覚、俺は大好きだ。
無論ハルヒも大好きだ。
「―――でアイツのチャックが全開でさ!もう笑っちゃたわよ!」
と言って笑っているハルヒを見て俺は笑う。
…ん?話? それこそ無論、面白かったよ。
「まあ、谷口のファスナーがだらしないのはいつものことだろ」
と俺が微笑みながら言ったところで。

ズズ…………ズズ………ズズ……ズズ…ズズ

何かの足音らしきものが俺の頭に響いた。
…きっと俺にしか聞こえない音だろうがな。
俺はポケットに手を突っ込み、ケータイをポケットの中でいじって音楽を鳴らす。
俺はそれに応答するように耳に当てる。
「ああ、俺だ…ああ…何?今すぐ?」
勿論相手などいない会話だ。演技もいいところ。
そこでチラリとハルヒを見やる。
ハルヒは゛またか〝と言わんばかりに頬杖をついて、
いいわよ
と唇だけ動かした。 俺は片手で『すまない』とジェスチャーをして、相手のいない会話を再開する。
「ええ、大丈夫です…ハイ…いつもの場所ですね?…了解しました。すぐに向かいます」
ピ、と携帯の通話終了ボタンを押す。そして
「すまないな。…また、みたいだ」
と言いつつ席を立つ。 ハルヒは不機嫌そうに、
「まあ、良いけどさ…その代わり、ちゃんと週末はエスコートしてよ?」
と頬を膨らませアヒル口で言った。
「勿論だ」
俺は即答して2人分のお代をテーブルにおいて店を後にした。

―――…俺は古泉のように成ってしまった。
―――ああ、いや決してそっちの方面に目覚めたわけではない。
―――簡単に言ってしまえば、ある意味での超能力者になった、と言うことだ。
―――では閉鎖空間に飛び込んで赤く光った上で神人を倒すのかと言ったらそうではない。
―――閉鎖空間をハルヒが作り出す第二世界と定義するならば、俺の超能力は俺の作り出す第三世界で戦うことを指す。
―――固有結界―――無限の剣製(アンリミテッドブレイドワークス)―――。
―――それが俺の手にした能力。
―――自分の精神を世界に出現させるものを固有結界と呼ぶ。
―――そして、俺はその中で今現実世界にある、もしくはかつて世界にあった全ての剣や槍などの近距離武器を複製し使うことができる。
―――手に入れた理由など判らん。
―――どうして自覚できたのかと言えば、古泉と同じで『判ってしまうのだからしょうがない』というやつだ。
―――では何と戦うのか―――ということだが、これは楽に答えることができる。
―――情報統合思念体の急進派。
―――いつかの夕暮れ。俺を襲ったあいつの様な存在ども。
―――あいつが俺を殺せなかったのは長門がいたから。
―――ならば、゛長門が介入できない空間ならば邪魔されない〝。
―――故に、急進派はハルヒ閉鎖空間に近い世界から俺らに近づき、十分に近寄ったところでこの世界に現れ、干渉する。
―――その世界が先ほど定義した第三世界。
―――その世界から、奴らはハルヒを襲う。
―――俺を殺さず、ハルヒを直接゛情報〝として解析し、自立進化の糸口を見つけ出す。
―――それが奴らの狙い。
―――そして、俺はそれを防ぐ。
―――何故か奴らと同じ世界を作れる俺はその世界でそいつらを倒す。
―――俺の彼女を、ハルヒを守るために。
―――ちなみにハルヒには、『従業員の少ないところでバイトをしていて、いつ緊急で呼び出されるのかわからない』と言ってある。

裏路地。
駅から少し離れたその場所で、俺は世界を作り上げる。
真っ赤な、真紅の丘。
無限の剣が墓標のように刺さっている幻の丘。
俺による、俺がハルヒを守れる、俺の世界。

世界を出現させる呪文の詠唱、

「I am the born of my sword―――」

…誰にも内緒で彼女を守る。
…それが彼氏の役割ってもんだろう?

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2021年09月10日 15:39