「そ……バト…フェ…ズ!!フ………ドに召………いるモン………で戦……わ。プ……ヤーに……レク……攻撃…る事……き……よ。」
ハルヒのデカい声が聞える。相変わらず騒がしい奴だ…。
もう少し静かにできないんだろうか?俺の安眠を出来るだけ妨げないで頂きたい。
長門はコンピ研。朝比奈さんはクラスの用事。
この部室には俺とお前の二人しかいないわけだ。
お前が静かにしてくれれば俺は快適な安眠時間を過ごせる。
古泉?あいつは知らん!
大体、俺はお前に言われて昨日の夜はデッキを作っていたから寝不足なんだよ。ゆっくり寝かせろ。
それにしても…デッキを作っていてわかったがデュエルモンスターズは奥が深い。
カードの組み合わせ次第でどんな戦術だって作る事ができる。
確かに、世界で流行している、というのも頷けるかもしれんな。
ただ値段がネックだな…
俺はそんなどうでもいいような事を考えながら眠りに落ちていったわけだ。
俺は暗闇の中にいた。
目の前にはいつだったかの夕日に染まった教室を思い出させるように朝倉が立っている。
「人間はさ…よくやらなくて後悔するよりもやって後悔した方がいいって言うよね?
これは…どう思う?」
「よく言うかどうかは知らないが言葉通りの意味だろうよ。」
俺は闇の中から質問してくる朝倉に何故かあの時と同じ言葉を述べていた。
「じゃあさ、たとえ話なんだけど、現状維持するだけではジリ貧になることはわかってるんだけど、どうすればいい方向に向かうことができるのかわからない時、あなたならどうする?」
「何だそれ?日本経済の話か?」
何から何まであの時と同じ。
「とりあえず、何でもいいから変えてみようって思うんじゃない?どうせ今のままでは何も変わらないんだし」
「まあ、そういうこともあるかもしれん」
「でしょー♪」
この後起こるのは愛の告白でもドッキリでもなんでもない。
体中全ての細胞が逃げろと俺に訴える。
だが俺は何故かこの場から離れられない。機械のようにあの時と同じ言葉を返していく。
「…でもね、上の方にいる人は頭が固くてついていけないの。でも現場がそうもしてられない。手をこまねいていたら、ドンドンよくないことになりそうだから。だったら、もう現場の独断で強行に変革を進めちゃっていいわよね?」
逃げろ。逃げるんだ。
冷や汗が流れる。背筋がひんやりとしてくる。だが足は動かない。
「何も変化しない観察対象に私はもう飽き飽きしてるのね?だから、あなたを殺して涼宮ハルヒの出方を見る。」
足が動いた。正にあの時と一緒。俺は紙一重で何とかナイフを避ける。
まったくわけがわからない。何故俺はこんな所にいるんだ。
なんであの時とまったく同じ事を再現してるんだ。
「ねぇ、諦めてよ。結果はどうせ同じなんだしさ。」
「何者なんだ、お前は。」
俺は知っている。朝倉涼子。急進派のヒューマノイド・インターフェイス。
「最初からこうしておけばよかった。」
体が動かない。だが俺の記憶が正しければここで長門が来る。
長門が来ればこんな状況は…
「じゃ、死んで♪」
ナイフは俺の腹部に刺さった。
燃えるような痛みが俺を襲った瞬間、目が冴え完全に脳が覚醒する。
「……はっ!!ドリームか!!」
「死刑ね。」
俺は一瞬にして事態を飲み込み死を覚悟したのであった。
「はぁ…助かった…」
俺は窓から蒼い空を見ながら呟く。
俺の命は朝比奈さんによって救われた。
死を覚悟したその時、朝比奈さんが丁度やってきたのだ。
そして俺は朝比奈さんが着替えるから、という名目で部室から脱出、事なきを得たわけというわけだ。
そんなこんなで部室の外の廊下にいた俺は長門と遭遇した。
「よぉ長門、調子はどうだ。」
無難にそんな言葉をかけてみる俺。
「問題ない。それより…」
長門はバッグに手をかけるとデッキを取り出した。
「コンピ研の協力を得て完成した。私のデッキ。」
俺にデッキを見せる長門の顔は心なしか誇らしげな気がした。
「情報操作は一切行っていない。あなた達と一緒に買ったカード、そしてコンピ研の部員たちから寄贈してもらったカードで構成した。」
表情は変わらないが明らかに嬉しそうに喋っている。
こいつも随分と人間らしくなったもんだ。
「遅くなってすみません、荷物を持ってきたもので」
長門と俺が和やかに話していると大きなバッグを担いだ古泉がやって来た。
「よ、遅かったな。何持ってきたんだ?」
「いいものですよ。いいもの♪」
そう言って古泉はにこやかに笑うと俺と長門にウインクして部室の中へ入っていく。
どうやら朝比奈さんの着替えも終わったらしい。
あぁ…心が洗われるぜ…やはりメイドはいい…
「で、古泉。何持ってきたんだ?」
「これですよ。これ。」
古泉は持ってきた無駄に大きいバッグの中から銀色の円盤のようなものを取り出した。
「決闘盤じゃない!!どうしたのよそれ!」
「いやぁ、ゲームショップ等で働いている僕の親戚の叔父に涼宮さん達の話をしたら5つもくれたんですよ、ただで。」
「ただで!?高いんじゃないの!?それ!?」
「いやぁ、あまりに高くて田舎のほうでは売れないんだそうです。ラッキーでしたね。」
どうやらハルヒ達が言うにはこの「決闘盤とやらにカードをセットするとソリッド何たらでモンスターを忠実に再現したビジョンを出すらしい。
どんなもんだか試さして貰うとするか…。
俺は「決闘盤を腕に装着した。ハルヒ達がじっと見る中、俺は説明書に書いてある通りにスイッチを入れデュエルディスクが展開させる。
「ここにデッキをセットするのか…。」
デッキをセットすると上の部分に4000と表示された。
そしてデッキから引いたモンスターカード『サファイアドラゴン』(星4/風属性/ドラゴン族/攻1900/守1600)をセットする。
そしてセットと共に部室内に電子音が鳴り響き…サファイアドラゴンがその美しい姿を現した。
その時俺は、朝倉に刺された夢の事などもう既に頭の片隅にもなかった。
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