Many times I've been alone and many times I've cried.
Anyway you'll never know the many ways I've tried.
夜そのものに溶け込むように、公園の中央に聳える時計台の前。長門さんは佇んでいた。
「……お待たせ、しました」
全力疾走の分、息が切れた。湿った夜気が咽喉に絡む。長門さんは僕を認めると小さく頷き、僕の前に完成された姿勢にて立ち、細い顎を上向かせた。繊細な面がひたりと此方に据えられる。澄んだ瞳に、深淵の銀河を覗き込むようなイメージに囚われる。
彼女は無言だった。僕の詞を、待っていた。その為の呼び出しであろうことも薄々察知していたから、まるで予想外ということもなかった。
これは彼女が、どんな心境でかは分からない――この時間軸の僕にくれた、文字通り最後の機会なのだろう。だから。
「無遠慮だったかもしれません。あなたを、この二週間、見ていました」
どれだけ逸らそうとしても、無視出来なかった。
「この夏がループしていることを知ったとき、絶望にも似た感情に支配されました」
初めて得た想いが尽き果てることに恐怖した。
「――忘れたくないんですよ。我ながら女々しいと思います。すみません、あなたには迷惑なだけでしょうが……」
「わたしは、あなたという個体を記憶している」
彼女が、決然と映った。心理の裏では戸惑いに軸を揺らしているようでもあったけれど、眼差しに人特有の感情の色に類似した何かを宿しているようだった。ヒューマノイドではない、固有の生命の色に近しく。
「わたしは、あなたの言葉を忘れない」
時々、少しだけ、無表情に思える面に表情の、彼女の色が混ざる。その微細な変化を見出せたとき、僕は堪らなくなる。――愛しいという想いが。
泣きたくなるような痛みだ。彼女がこんなに優しいことを、僕はまた一つ知る。掬い上げきれないくらいの思慕の礫を溜め込んで、僕は震える口を開いた。
「長門、さん。聞いて頂けますか」
自覚して差し迫って、告げないでおこうと一度は蓋をして、それでも覚えているからと促された最後の言葉を。八千八百四十二回目の僕がまた彼女に恋するかどうかわからない、だから今この瞬間だけの僕の声として。
「八月十七日に戻ったときには、忘れて下さって構いませんから。……最後に一言だけ」
そして願わくば、また僕があなたを好きになりますように。
But still they lead me back to the long winding road.
You left me standing here a long long time ago.
Don't leave me waiting here lead me to your door.
秒針が刻む。24時、一歩手前。
届くように祈った。
「僕はあなたのことが―――」