(※ これは同名ss連続撲殺事件の10年後の話です)

 

 

谷口「10年ぶり、か。懐かしいな」
谷口「28歳にしてようやく教員として採用されたと思ったら、最初の赴任先が母校の北高なんて。へへ。ちょっと運命感じるよな」
谷口「昔となんも変わっちゃいないなあ! おお。我が青春の学び舎よ!」
谷口「………」
谷口「ま、いい思い出ばかりじゃないけどな……」


谷口「あの部室棟も、来月取り壊しになるのか」
谷口「俺が在学してた時でさえ老朽化が進んでたのに、よく10年ももったもんだ」
谷口「部室棟か……昔はあの一角を涼宮たちが占拠して、SOS団なんて非公式集団を率いてたっけかな」
谷口「SOS団か……いい奴らだったのに………」


谷口「ん? もう夜中だってのに、部室棟の入り口に、人影が?」
谷口「ひょっとして泥棒か!? 来月取り壊される部室棟に入ったって、金目の物なんて何もないのに」
谷口「むしろ、持って行ってもらった方がいいようなゴミばかり。おい、そこの2人組! そこで何をしている!?」

 


?「うわ、やばい、見つかっちゃった!」
谷口「どこの誰だから知らないが、そこは現在放棄されてる旧棟だぜ。どうせ盗みに入るなら、新舎の方がいいと思うぜ」
?「ご、ごめんなさい! 不法侵入しようとしたことは謝りますが、別に私たち、泥棒にきたわけじゃ……あれ?」
谷口「うん?」
?「すいません、人違いだったら、ごめんなさい。もしかしてあなた、谷口くん?」
谷口「え? そ、そうだけど……?」

阪中「やっぱり! 覚えてない? ほら、私。高校時代一緒だった、阪中」
谷口「阪中、阪中……ああ、そういやいたな、そんなやつも。そうそう。いたいた。思い出した。確か、吹奏楽部の」
阪中「うふふ、覚えててくれたのね。すごい、こんなところで昔のクラスメイトに出会えるなんて。奇遇だよね、国木田くん」
国木田「本当だ、谷口じゃないか。久しぶりだね」
谷口「あれ、お前、国木田じゃないか! 本当かよ、おい!?」
国木田「懐かしいなあ」

 

国木田「そうか。谷口、教員試験に受かったんだ。おめでとう」
谷口「いやあ。これくらい、どうってことなかったぜ。なんてね。へへへ。俺、昔から落ちこぼれだっただろ。だからかなり苦労したんだ」
阪中「もう。谷口くんは同窓会にも全然こないから、みんな心配してたんだよ」
谷口「同窓会に行きたい気持ちはずっとあったんだけどさ。俺大学を出てからずっと臨時講師で県内の市町村をたらい回しだったから。出席できなかったんだ」
国木田「じゃあ、今年の同窓会にはこられるね。なんてったって、北高の正職員になったんだから。胸を張って出席してきなよ」
谷口「ああ、今度こそは絶対に行かせてもらうぜ!」

谷口「ところで、お前らは何やってたんだ、夜中にこんなところで」
阪中「………ええと……あはは……」
国木田「この旧館が取り壊されるって聞いてさ。3年間通った母校の校舎でもあるし、最後に一度見ておこうと思って来たんだ」
谷口「なんだよ。それじゃ昼間か夕方にでも来てくれりゃ、俺が案内したのによう」
阪中「ごめんなさい」

谷口「それにしても、珍しい組み合わせだな。国木田と阪中なんて。高校時代にも二人が特別仲良くしてた場面なんてなかったと思うが」
阪中「うん。高校時代はね。私と彼……国木田くんは、去年の同窓会の時から付き合い始めて、それで……」
谷口「国木田てめぇ! 僕は色恋沙汰には興味ありません~みたいなキャラだったくせに、同窓会の席で同級生だった女を口説くなんて、やってくれるじゃないか!」
国木田「やめてくれよ。僕だって男だよ。興味ない、だなんてことは。そりゃキミに比べれば確かに奥手だけどさ」
谷口「あ~、国木田でさえ彼女ができたってのに。学校教職員ってのは忙しい上に時間がやたら拘束されるから、出会いからして無いんだよな! くそ!」
国木田「ははは。まあ、キミならそのうち、ステキな女性とめぐり合えるさ。ところで、キミに出会えたついでに頼みたいことがあるんだけど。いい?」
谷口「遠慮するなよ。10年ぶりの再会とはいえ、俺とお前は友人だぜ。何でも頼めっての! 金以外のことなら何でも相談にのるぜ」

 

国木田「僕と阪中が今夜、この部室棟に忍び込むことを見なかったことにしてもらいたいんだ」
谷口「え?」
阪中「谷口くんが北高の職員で、見て見ぬふりをできる立場じゃないっていうことは分かってるつもりなのね。でも、そこを曲げてもらえないかな」
国木田「ごめん……。自分勝手で迷惑な申し出だということは十分わかってる。けど……」

谷口「……そのお願いは、無理だな。悪い」
阪中「………」
谷口「俺だってお前たちの言うことは、できれば聞いてあげたい。でも、これは俺だけの責任でどうこうできる話じゃないんだ」
谷口「今、学校現場に向けられる世間の目はすげぇ厳しいもんだ。ちょっとしたことでも吊るし上げられるくらいにな」
谷口「深夜の学校に不法侵入者があって、それを学校職員が私情のため見逃したなんて事件があったら。学校は総スカンだ。学校全体だけじゃなく、近隣の学校、教育委員会にも迷惑がかかる。臨時校長会も開かれる。大勢の人に迷惑がかかるんだ」

谷口「だから、すまん」
国木田「そっか。残念だな。でも、気にしないでくれ。それが当然の判断なんだ。キミは正しいよ」

谷口「学校への侵入者を見逃すわけにはいかない。でも、愛校心から母校を訪ねてきた昔の生徒を俺が案内した、という形にすれば問題はないぜ」
阪中「谷口くん……」
国木田「本当に、いいのかい?」
谷口「おうよ! だから、心配するな。回れ右して帰れ、なんて言わないさ」
阪中「ありがとう!」
谷口「ちょっと待っててくれよ。今、職員室から鍵をとってくるから。入るために鍵を壊されたんじゃ、管理責任問題だ」
国木田「あはは……ごめんよ」

 

 

 

阪中「うわあ、懐かしいなあ。10年ぶり。私も昔はよくここで、楽器を演奏したのね」
国木田「僕はあまりここに来なかったけど、懐かしい母校のにおいがする気がしてノスタルジックだな」
谷口「だろ? 俺も最初そう思ったもんだ。来月にはここを取り壊して、新しく校舎を新設する。今のうちに思う存分母校を満喫しとけ」

阪中「………」
谷口「ん? どうした、阪中?」
阪中「……谷口くん。何も訊かないの?」
谷口「え?」
国木田「よせ、阪中!」


阪中「谷口くんだって、本当は気づいてるんでしょ? 私たちが、ただ単に取り壊される旧館を懐かしんでわざわざ夜中にやってくるなんて、おかしいって」
谷口「……まあ、な。おかしいとは思ってたよ。ただ母校を見に来ただけなら、鍵を壊してまで中に入ろうとはしないだろうし」
阪中「だったら訊いてよ! 表面だけ平静を装って、言いたいこと腹の中に隠しておくなんて卑怯よ! 卑怯者!」
国木田「阪中! やめないか! 谷口、ごめん! 彼女、いろいろあって。最近疲れてるんだ」
阪中「この卑怯者ぉ!!」


国木田「ごめん谷口。いろいろあってね……。阪中はちょっと情緒不安定気味になってるんだ。それだけなんだ……」
阪中「はあはあはあはあ」
谷口「そ、そうなのか……」

国木田「谷口の心遣いは嬉しいよ。本当に。僕たちに気を遣って、不審な点があっても訊かないようにしてくれたんだよね」
谷口「……ああ。でも、やっぱ訊いた方がよかったのかな。阪中の言ったことにも、一理あるし」
国木田「………」
谷口「………」

国木田「あの、さ。もしよかったら、聞いてくれる? 僕たちのこと。いや、主に阪中のことだけど」
谷口「いいのか?」
国木田「うん。聞くだけなら、谷口にも学校にも迷惑はかからないはずだから。でも、約束して。これから話すこと、絶対に秘密にしておくって。阪中もいいよね?」
阪中「…………うん……」
谷口「分かった。これから聞くことは、絶対に口外しないようにする」


国木田「阪中はね。大学を卒業してから2年くらい、OLしてたんだ。順調な生活だったらしい。手に職はあるし、当時は僕の知らない元カレもいたらしくて、なにも不安を感じることのない日々だったんだって」
国木田「でも、その当時つきあっていた元カレというヤツが最低の男でね。ギャンブルで身銭を使い果たして散財し、借金までしてたらしい」
国木田「それでも遊びがやめられず、目が曇ったのかな。とうとう法外な非合法高利貸しから金を借りてしまったんだ」
谷口「人生の落伍者としてドキュメンタリーなんかでよく聞くパターンだが、ひどい話だな」


国木田「人間追い詰められて必死になると、何をするか分からないものだよね。その男、自分の恋人である阪中に借金の連帯責任者になってくれって頼んだらしい」
谷口「まさか、阪中、それを受けたのか!?」
国木田「そう。彼女は、あの通り優しい人だから。恋人の必死の説得に、とうとう印鑑を押してしまったんだって。バカな話だよ……」

阪中「……私、あの人がどうしようもない遊び人で、お金を湯水のように遣い続けていること知ってたのに。彼の説得でホロッときちゃって。それで……。本当に、バカだよね。どうしようもないよね……」
谷口「……阪中……」
国木田「返すあてもないのに金を借りたその男は、とうとう阪中を置いて蒸発。残したのは最悪の思い出と、莫大な借金だけ。しかもその借金の金利は、どう考えてもまともな人間が返せる率じゃなかったらしい」
谷口「人間のクズだな。貸す方もだが、それで借りて逃げた男の方も」

谷口「でも、その阪中の身の上話が、ここへ二人が来た理由と関係あるのか?」


国木田「谷口は覚えてる? 忘れたくても忘れようもないことだけど、10年前の、連続撲殺事件」
谷口「いくら物忘れの激しい俺でも、さすがにそれは覚えてるぜ。なんせ、俺たちの直接の知り合いたちがたくさん死んじまったんだからな……。しかも、その犯人があの……朝比奈さんだったってんだから」
国木田「20名近くに及ぶ死者を出し、その実行犯である朝比奈さんが学校屋上から飛び降り自殺。その数日後、負傷を負って入院していた涼宮さんと鶴屋さんが」
国木田「同時刻に病院の屋上から転落。死亡。それが自殺か他殺か、事故だったかすらも分からず仕舞い。日本全国を震撼させた事件だったからね」
谷口「俺たちの担任だった岡部先生も、朝比奈さんを止められなかったことを悔いて、自宅で自殺したんだったよな……」
国木田「………本当に、悲惨な事件だったよ」
谷口「一時期はバカな騒ぎがあったよな。巷の噂から三流雑誌、ネット上でまで、凶器に使われたバットが呪いのバットだなんて言われてさ」
国木田「そうそう。バカバカしいよね。殴られた人は必ず死んでしまう、呪われた悪魔の殺人バットだなんて」

国木田「そしてそのバットが、北高の部室棟に今もこっそり隠されている、という話もあるよね」

谷口「……おい、国木田……? お前ら、まさか……そのバットを………」
国木田「…………」
阪中「…………」
国木田「そう。僕たちはね。そのバットを探しに、今日、ここへ忍び込もうとしたんだ」
谷口「……冗談だよな? な? うそだろ? そんな物が、ははは、ここにあるわけない……」


国木田「そうだよ。そんな物は無い。存在するはずないのさ」
谷口「へ?」
国木田「人口に膾炙しても、そんなのしょせんは取るに足らないデマさ。ただのオカルト的願望がそういう筋書きとなって広まっただけの話なんだ」
阪中「そう。私たちは、そのバットがここに無いことを確認しにきたの」
谷口「無いことを……確認?」
国木田「僕らはね。話し合ったんだ。もしそんな殺人バットが本当にこの旧館にあったとしたら、それを使って悪徳高利貸しと逃げた男を殺してやろうって」
谷口「……殺すって、お前……」
阪中「でも、しょせんオカルト話。あの事件で使用された凶器も、どうせただの普通のバットだわ。呪いなんて存在するはずがない」
国木田「もし殺人バットが実在したら。僕らは殺人を行う。でもバットがなかったら。全てを諦めてまっとうな方法で借金をなんとかしよう。そう話しあったんだ」

谷口「つ、つまり、言うなれば、辛い現実を見据える踏ん切りをつけるために、わざわざありもしない凶器の確認に来たってことか」
国木田「シャレた物言いをするなら、現実を受け入れるための儀式、とでも言おうかな」
谷口「そ、そうなのか」
国木田「そういうこと。無いとは分かっているけど、それを自分の目で確かめれば、やはり僕らは人としての倫理に基づく生き方をしなければならないんだという現実を再確認せざるをえないだろ」
谷口「……辛いな。そこまでしないと、普通に生きていくことすらも見失いかけるくらい追い込まれてたなんて……」

国木田「彼女はかわいそうな被害者なんだ。ただ、平凡に暮らしていただけなのに、こんなことに巻き込まれて。せめて、僕がその苦しみを少しでも取り除いてあげられれば」
谷口「……国木田。お前、立派だよ。ちょっと見ないうちに成長しやがって。くそう、俺が置いてかれたみたいで悔しいじゃないか!」
国木田「あっははは。そんなことないよ。キミはキミで、立派じゃないか」

谷口「おっし! そういうことなら、俺もガンガン協力するぜ! 全力でバットを探そうじゃないか! そして見つけられなくてガッカリしようじゃないか!」
阪中「谷口くん……ありがとう。本当に」


国木田「ここって、吹奏楽部の部室だった場所だよね?」
阪中「うわ~、懐かしいのね! もう楽器は全部外に出されちゃってるけど、昔のまんま」
谷口「ここはついこないだまで軽音楽部が使ってたんだ。最後まで、楽器がたくさんあった部屋だったな」

 

 

阪中「ここは、囲碁将棋部の部室? 碁盤とか駒が残ってるみたいなのね」
谷口「それは廃棄物。古くなったから、この旧館と一緒処分するんだと」
国木田「囲碁将棋部に友達がいてね。暇な時なんかは、よくここに来て一局打ったものさ」



谷口「ここが、例の撲殺事件で我が大先輩、岡部教諭が朝比奈さんと対峙した廊下。当時は長期封鎖されてたよな。なかなか血のりが落ちなくて」
国木田「生々しかったよね。封鎖が終わった後も、僕は怖くて近づけなかったよ」
阪中「あれ? ねえ、ちょっと二人ともあそこ」
谷口「ん。どした?」


阪中「今一瞬だけど、人影が横切ったような……見なかった!? ねえ、廊下のつきあたりの角!」
国木田「え? いや、見てないけど。あはは。こんな時間に僕たち以外の客がいるわけないじゃないか」
谷口「そうそう。俺たちが来た通路を通らないとあそこへは行けないんだぜ? 誰かが入ってきたなんて、そんな」
阪中「見間違いだったのかな……。女性の後姿に見えたんだけど……」
谷口「や、やめてくれよ。まさか幽霊が出たなんて言うんじゃないだろうな?」
阪中「ゆ、ゆうれいだなんて……そそ、そんな非科学的なものが、いるわけないのね……」

国木田「わっ!!」
谷口&阪中「わきゃああぁぁぁ!!」


国木田「あははは! 冗談だよ! そんなにビックリするとは思わなかったよ! あはは」
谷口「よせよ国木田! 本気でビビったじゃないか! 寿命が3分は縮んだぞ!」
阪中「ひどいよ、国木田くん!」
国木田「あはは、ごめんごめん!」

 

 

谷口「ここが、当時SOS団に隷従を強いられていたかわいそうなコンピ研の部室。ここは最後までコンピュータ研究部の部屋だったな」
阪中「なーんにもないのね。やっぱりコンピュータは全部持ち出されたのか。次に行きましょう」
谷口「ああ。そうだな」

国木田「ねえ、谷口。ちょっと」
谷口「ん、どした?」
国木田「あのさ……。さっきは阪中の手前、僕も黙ってたんだけど」
谷口「え?」
国木田「阪中が廊下で人影を見たって言った時。実は僕も見てたんだ。女性の後姿」
谷口「………」
国木田「これは冗談じゃなくて、本当に。信じるかどうかはキミ次第だけど、だから阪中があんなこと言った時には、僕もぞっとしたよ」
谷口「おい、よ、よせよ……本気にしちゃうじゃないかよ」

阪中「二人ともどうしたのね? 早く行こうよ」
国木田「ああ、行こうか」
谷口「………」

 

 

阪中「………ねえ、どういうこと?」
国木田「………」
谷口「………」
阪中「ねえ谷口くん。これ、どういうこと?」

阪中「なんで、誰もいないはずの文芸部室に、電気がついてるの?」
国木田「僕らが旧館に入って、谷口が廊下の電気をつけるまで、旧館内はどこも真っ暗だったよね……」
阪中「だ、だれか中にいるってこと……? 誰かが中に入って電気をつけて……まさか、さっき見た人影!?」
谷口「ああ、どうやらそうらしい。俺たちがあちこち見てる途中に、俺たちの後ろを通り過ぎて先回りした不審者がいたようだな」
阪中「じゃ、じゃあ、幽霊じゃないのね?」
国木田「幽霊は、部屋の電気をつけたりしないだろ?」
阪中「あ、そっか」

 バタン

谷口「こらあ! 誰だ、勝手にここへ入ったのは!?」

国木田「………」
阪中「………」


?「どうしたんです? そんなところに突っ立って?」
?「ごめんなさいね、勝手に入っちゃったりして」

?「お茶が入ったところなんですよ。一杯いかが?」


谷口「だ、だれだ、あんた……? だれかに、すごく似てる気がするが……」
国木田「………み、見た目は変わってるけど、あの外見、面影がある。まさか、あなた……」
阪中「………朝比奈、さん?」

みくる「お久しぶりね。10年経ってみんな見た目が変わってるけど、谷口くんと国木田くんと、阪中さんね。本当に懐かしいわ」
阪中「……う、うそ……うそよ……あなたが、朝比奈さんなんて……うそよおぉぉぉ!」
国木田「お、落ち着け阪中!」
阪中「いやあああああああああ! 幽霊いいぃぃぃ!!」
国木田「ちがう、落ち着け阪中! 幽霊なんかじゃないよ!」
谷口「おい阪中! よく見ろ、脚もあるし、年もとってるじゃないか! あれは俺たちの知ってる朝比奈さんじゃないんだ!」
阪中「うわああああああああああああ!」

 

 

 

みくる「ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったんですけど……とは言っても。死んだことになってる私がこんな時間にいたら、そりゃ驚くか」
谷口「……あんた、確かに朝比奈みくるさんなのか? 俺たちの記憶の中にある朝比奈さんが成長したらそんな外見になるとは思うけど、信じられない」
みくる「谷口くんも言ったでしょ? 脚もちゃんとあるじゃない。それに、年をとる幽霊なんていないと思わない?」
国木田「10年前のニュースでは、確かにあなたは屋上から転落して死亡したと報じられています。まさか全国ニュースが長年、誤報を隠蔽し続けてきたとは思えない。あなたは、確かにあの時死んだはずです」
谷口「双子の姉妹とかじゃないんスか?」
みくる「う~ん、そう言いたいところだけど。残念ながら私は朝比奈みくる本人よ。あなたたちのよく知っている、ね」

みくる「私はあの日、屋上から落下する途中、未来へ強制送還され、実際に落下したのは私が殺してしまった生徒の遺体で……」
国木田「はあ?」
みくる「あ、ごめんなさい! なんでもないのよ、気にしないでね。ともかく! 私は朝比奈みくるであって、こうして生きているのです」


谷口「難しい話は後回しでいいや。阪中、大丈夫かな」
国木田「パニックを起こして気絶してるだけだよ。彼女は非合法な取立て屋のヤクザに散々ひどい目に遭わされて、もう精神的にボロボロの状態なんだ。だからたまに日常でも、ちょっとしたことで取り乱して気絶することがある」
谷口「……本当にひどい話だな」

国木田「ところで。自称朝比奈みくるさん。あなたは、何故ここに?」
みくる「自称って……まあ信用してもらえなくても仕方ありませんね。私は、回収にきたんです」
谷口「回収? なにを? SOS団の備品?」
みくる「いえいえ。違います。それならどれほど良かったことか。でも、違うんです」

みくる「あの日、私が使った………バットです」

 

国木田「!」
みくる「あれは私の罪の象徴ですから。自分のこの手で、処分するためここに来ました」
国木田「朝比奈さん! そのバットは、本当に、ここにあるんですか!?」
みくる「え? ええ、ありますけど。この部室内に」

国木田「殺人バットは、ここに存在していたんですね!?」

みくる「はい。その、掃除用具入れの中に」


谷口「おい、待て! 国木田!」
国木田「あった、これが……これが、殺人バット! まさか実在したなんて……」
谷口「おい落ち着け国木田。なんか目が据わってるぞお前」
国木田「谷口。覚えてる? 僕が話したこと」
谷口「なにを?」

国木田「僕はね。バットがあったら。あのクズどもをブチ殺してやるつもりだったんだよ」


谷口「お、おい待て! 国木田! やめろ!」
国木田「どけ!」
みくる「え? え? な、なんですか一体!?」
谷口「国木田、やめろ!!」

 

 

 

 

国木田「クズめ、クズめ、クズめクズめクズめクズめクズめ」

国木田「社会のクズどもめ!!」

国木田「憎い! 憎い! 憎い! よくも僕の愛する人を! あんな目に! 憎い!」

国木田「殺してやる……阪中を苦しめたどうしようもないクズどもを、この手でブッ殺してやる!」

国木田「できる、僕にはできるんだ! この呪いのバットがあれば!」

国木田「オカルトなんかじゃなかったんだ! 呪いは本当にあったんだ!」

国木田「ひあははははははははははははははは!!」




 ~つづく~

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最終更新:2007年09月01日 23:38