「ふ…ふぁぁぁ」
眠い…夜中彼と長電話し過ぎたようだ…。
「大きな欠伸ですな。会議が終わった後飲み会にも出ずに、サッサと帰ってしまいましたから…てっきり今日に備えて寝ているのかと。」
「ん…そのつもりだったんだけどね…」
理由を話すと生暖かい目でこちらを見てきた………こっち見んな。
「少し寝ては如何ですかな?まだ到着まで時間はあります。」
そうね…でも個室に男性と2人きりの状況で寝るのは無防備じゃない?まぁ新川なら心配ないか。
「そうね…じゃあその前に少し一服してくるわ。」
言いながら私は旅行鞄から煙草とライターを取り出し、ジーンズのポケットに突っ込むと立ち上がる。
「ここで吸ってもよろしいですよ?」
「せっかくフェリーに乗ってるのに、個室に居るのもったいないでしょ?」
私は新川に手を振ると船室を出て階段を上りデッキに出た。
太陽が夏の終わりを惜しむようにギラギラと照りつける。もう8月も後半なのにご苦労な事ね…。私は煙草をくわえ、火を着けるとゆっくりと煙を吐く…良いわね景色ね。
爽やかな潮風、太陽の光をキラキラと照り返す海。私は煙草をくわえたまま柵に寄りかかる。海を見ていると飽きないのは、やはり生物が海から生まれたからだろうか?などと古泉のみたいな思索に耽ってみる……柄じゃないわね。
 
 
後は国木田君が隣に居れば最高なんだけど…そんなに甘くないか。それにTシャツにジーンズにスニーカーなんて姿は少々気恥ずかしい。
でも新川しか居ないのにお洒落するのも虚しくない?などと考えながら私は左手首の腕時計に視線を落とす。
到着まで後4時間もある……デッキチェアで昼寝でも良かったわね。サングラスも持ってくれば良かった。しかし無いものは仕方ない、取り敢えず戻ろう。私は手近な灰皿に吸い殻を捨てると船室への階段に向かった。
 
 
 
「お帰りなさいませ。」
船室に戻ると、新川は読んでいた料理本から顔上げてこちらを見た。
「流石と言うか…何と言うか…本当に勉強熱心ね。」
「恐縮ですな。」
新川はわざとらしく立ち上がり深々と頭を下げる。……スラックスにポロシャツじゃ決まらないわよ。
「じゃあ悪いけど少し眠らせて貰うわ」
「畏まりました。」
私に目もくれず新川再びは料理本に目を落とした。
…安心なんだけど…それはそれで女としてのプライドが傷付くような……と考えているうちに、私はいつの間にか眠りに落ちていた。
 
 
その後、到着の少し前に新川に起こされた私は眠い目を擦りながらフェリーを降りた。
 
 
この後、1度孤島の別荘まで行き、そこで着替えて例の団を迎える手はずになっているのだが…多丸兄弟はまだ来ていないようだ。
「ふむ…この残暑厳しい中、待ちぼうけは流石堪えますな…。」
「そうね……あっ…向こうのお店の中で待ちましょうか?」
 
フェリー乗り場の近くにある喫茶店に入る事を新川に提案してみる。流石にこの暑さの中で待っていのは辛いのか新川は2つ返事で了承してくれた。
 
 
「少し、貴女にお話が有りましてな。」
「私に?何かしら?」
喫茶店で珈琲を飲んでいると、珍しく新川が真剣な目で私を見据えて口を開いた。なんだろう?表情を見るには楽しい話ではなさそうだが……
「彼に機関の事は話したのですか?事務所のバイトだと貴女が彼を連れてきた時は……正直驚愕を禁じ得られませんでしたな。」
「それは…その…ごめんなさい。」
新川は優しく私を見ると、珈琲を一口飲み、こう続けた。
「別に責めてはおりません。貴女の人柄も知っておりますし、彼も誠実そうな少年ですから、私は心配しておりません。しかし貴女もようやく…」
「あっ…ちがうの…国木田君には…まだ…話していないのよ…」
「そうなのですか?私はてっきり、彼がバイトに来た時点で貴女が話しているものだと思っておりました。」
 
そうだ、私は彼にまだ機関の話はしていない。…内容が内容なだけに彼に不信がられないか心配で上手く切り出せないでいた。
「彼には…ちゃんと話そうと思うのよ?だけれど…その…上手く話せなくて……怖いと言うか不安だって言うか…」
私は溜め息を吐き、珈琲カップに視線を落とす。
「貴女の不安も分かりまよ。信じられない内容ですからな。しかし、時間が経てば経つだけ秘密は打ち明け難くなるものです。
彼を想うなら早く打ち明けるべきですな。」
新川は優しい声色で私に諭す様に言うと、照れ隠しか珈琲をずずっと啜った。
「ありがとう…頑張ってみるわ。」
 
私だって彼に秘密など作りたくない。だが、機関に入ってから今までに付き合った男性は誰も信じてくれなかった。私を異常者を見るような目で見てその場で去るか、後日別れ話を切り出されるか……そのどちらかだった。
国木田君…信じてくれるかな?いや、考えないでおこう。嫌な事ばかり思いつき、仕事前に気が滅入るだけだ。
 
 
結局多丸兄弟が現れたのは、私達が「いつまで居るんだ?」と言う店員の目が気になり始めた頃だった。何やら久しぶりに使う別荘の掃除や、出迎えの準備に手間取っていたらしい。
別荘の掃除位業者に頼めば良いのに…孤島は買い取るくせに掃除は自前とか機関って変な所でケチなのよね。
 
 
 
………全く…機関は本当に金の使い方を間違っている。孤島の別荘に着き、私にあてがわれた部屋に用意されたメイド服を見て改めてそう思う。
何と新品だった。去年と同じ物で構わないでしょ……普通……しかもそれだけではない。去年のシックでクリティカルななメイド服ではなく、その…なんと言うか…若干ゴシックでロリータな方向に趣旨変えしている。
全体的にフリルとレースが30%増し、スカート丈は30%減。メイド用のカチューシャがヘッドドレスになっている。
「誰の趣味よ誰の?!恥ずかしくて着れる訳無いじゃない!それにこれじゃあ仕事出来ないでしょ?!」
などと悪態を吐いても仕方ない…仕事なのだ仕方ないのだと自分に言い聞かせ、メイド服をハンガーから外しさらに絶望する。メイド服で見えなかったが……ハンガーには黒いガーターベルトとガーターストッキングが架かっていた。
私は軽い目眩を覚えベッドに座り込む。落ち着きなさい園生…取り敢えず多丸(圭)に連絡よ。
『どうしたんだい?そろそろ彼らを迎えに行って欲しいのだが……』
内線に出た多丸(圭)はヤケに含みのある嬉しそうな声だ。
「どうしたんだい?じゃないわよ!何よあのメイド服!?ふざけてるの!?」
 
 
『あぁ、それかい?昨日の機関の飲み会で決まったんだよ。なかなか調達に時間がかかってしまってね…今日の遅刻の半分はそれだよ。』
……頭が痛くなってきた。
「こんな恥かしい物は着れないから、去年のか別のを出して。時間がないなら早く用意してね。」
皮肉たっぷりにそう言って内線を切ってやろうとした。だが……
『ハッハッハー!残念ながらそれしか無いんだよ。まぁ気にせず、早く着替えて彼らを迎えに行ってくれたまえ。』
ガチャンと多丸(圭)が内線を切った音がする。………で?これは何の罰ゲームなのかしら?
結局、私は仕事なのだと泣く泣く自分に言い聞かせ、ガーターベルトとストッキングを履き、メイド服を着て、髪を結びヘッドドレスを着け鏡の前に立つ………あら、こんにちわ。どこのイメクラ嬢さんですか?
何というか、国木田君から貰った可愛いピアスが衣装からは浮いているが…今、唯一の私の心の拠り所だ。外すワケにはいかない。
さて……行こうか……仕事自体は大した苦ではないのだが…仕事まえに色々ズタボロな気がする。
いいえ、負けてはダメよ頑張って園生。頑張っていればきっと彼がご褒美をくれるはずよ……多分…ね。
ごめんなさいご褒美なくて良いから、帰りたいです。
 
 
 
トボトボとした足取りで玄関ホールに行くと3人が待っていた。もちろん3人ともピクピクと口元を痙攣させ、笑い堪えている。
「笑う位なら普通の用意しなさいよ……だいたい私は去年のメイド服でも嫌々だったのに、これは酷すぎるでしよ?」
「いやいや、意外と似合っているよ?」
「新たな魅力かもしれませんな。」
「そうだなぁ…くじ引きで決まった時はどうするかと困惑したが、悪く無いじゃないか。」
くじ引きって……いや、もういいわ…何も言わないでおこう。もっと虚しくなるだけだ。
ハッハッハと笑う3人を無視して私は外に出た。取り敢えず煙草でも吸って落ち着きましょ……って煙草は着替えたジーンズの中だ。今更戻るのもカッコ悪いし…今日は厄日だったのかしら?
もちろんこの孤島に煙草の自販機など存在しているはずがない。
仕方ないから、向こうでこの衣装の事を黙っていた新川に買わせましょ。それでこそ気が晴れるものね。
 
 
 
「しかし…新川遅いわね。」
その後、孤島から新川の操るクルーザーで、フェリー乗り場に着き、新川に煙草を買いに行かせたが……なかなか帰って来ない。
この姿でこんな大勢人が行き交う場所で人待ちって…全く、羞恥プレイは好きじゃないのに…でも国木田君になら好きなだけ辱めて貰ってかまわ……んんっ!駄目だ…暑さで頭が暴走している。
落ち着きなさい園生。この姿でニヤニヤしてたら本格的に変態なのよ。
 
昼間から何を妄想してるんだ私は……と1人で悶えていると……
「もっ森さん!?いったい何事ですかその姿は?」
古泉達がやって来た。やたら大袈裟に驚いているが、演技臭い気がする。
「お久しぶりです。新川は今買い物に行っておりますから暫くお待ち下さい。」
古泉の言葉を黙殺し、私が深くお辞儀すると
「お久しぶりです。素敵なメイド服ですねぇ」 「……ユニーク」「今度はみくるちゃんもゴスロリかしら…」と女性陣は様々な反応を返してくれた。まともに会話が成り立っているのは1名だが、もう気にしない事にしよう。そう言えば1人声が足りないと思い顔を上げた瞬間だった。
「おいハルヒ!人に荷物を全部持たせて先に行くな!」
「そうだよ!誘ったのはそっちなのに何で僕も雑用なのさ!?」
……気のせいかしら?国木田君の声がするわね。
「あっ森さんお久しぶりです。怪我はもう大丈夫ですか?」
「えっ?森さん?」
鍵の彼の台詞に驚いた彼もこちらに気付いた。
「あれ?森さん今日から泊まり込みで仕事じゃなかったんですか?」
「えっ…あっそれはね…なんて言うか…」
駄目だ頭が熱暴走する。
「でも可愛い服ですね。普段のスーツ姿も素敵ですけど、似合ってますよ。」
「そっそう?ありがとう。」
…これは…どう言う事なのかしらね…私はフッと意識が遠くなるのを感じた。
 
 
 
太陽が今日に別れを告げる様に赤々と燃える夕刻。
赤い幻想的な海と、白い砂浜を駆ける彼と私。
はしゃぐ私を捕まえようと無邪気な笑顔を浮かべる彼。
クスクス笑いながら逃げる私。
やがて彼の腕に絡め取られ、勢い余って砂浜に押し倒される。
見つめ合う2人。
やがて彼に唇を奪われ、私は目を閉じ、貪り尽くされる。
「森さん…」
駄目よ…こんな時は園生って呼び捨てて…
「森さん…」
彼が私の名を囁きながら白いワンピースをはだけさせる。
「森さん…」
もう…国木田君の意地悪。
私は…ゆっくりと目を開いて…………あれ?
 
「良かった…森さん大丈夫ですか?」
国木田君がホッと安堵の笑みを浮かべる。
え~と……さっきのは夢?って言うかどうなってるの?
「大丈夫ですか?急に倒れられた時は驚きましたよ。」
「ふむ…流石に野外でその衣装は危険でしたか。」
古泉?新川?
「……早急に水分の補給を勧める。」
「あのぅ大丈夫ですか?」
「可愛い衣装も弱点があるって事ねメッシュ素材ならいけるかしら?」
「お前なぁ…少しは心配しろよ。」
「うっさいわね!あんたは黙ってなさいよ!」
例の団の子達?
 
 
……あっそうか思い出した。私は恥ずかしさと暑さのあまり倒れたんだ。
意識がハッキリし出すと共に、現状が把握出来だした。耳障りなモーター音と揺れる視界、潮の香り……という事はここは孤島に向かうクルーザーよね。
「起きられますか?」
国木田の顔が真上にあって……まさか…これって膝枕?私は一気に体温が上がるのを感じる。ダメ…またボーっとして意識が………
「あぁああ森さん?!大丈夫ですか?しっかりして下さい。」
そう言って彼はスポーツドリンクのペットボトルを渡してくれた。彼に支えて貰いながら体を起こし、喉を潤す。
「ありがとう…少し落ち着いたわ。」
「良かったです。倒れた時は本当に驚きました。」
「ごめんなさね…心配させてしまって…」
「ゲフンっ!げふん!…んんっ!」
例の団の彼がわざとらしく咳払いする。「キョンくん、風邪ですかぁ?」
「えっ?!キョン風邪なの?寝てなさいよ!」
「いや、少し[熱すぎ]てむせただけだ。」
そう言って[キョン君]は私達を見る。この状況で2人の世界を作るなって事かしら?ごもっともだけど、何となく………ムカつく。
「クスっ…風邪はこじらせると大変ですよ?そうなる前に貴方も優しい彼女に膝枕でもして貰っては如何ですか?キョン君?」
「ちょっ?!森さん貴女までそのあだ名で…」
「あら?私の国木田君もそう呼んでいますもの、何か問題がお有りですか?キ・ョ・ン・ク・ン?」
そう言って、いつか彼の前で敵対組織に見せた妖絶な微笑みを一瞬だけ披露してあげる。
「いや…何でもないです。」
彼はめでたく大人しくなった。
 
「ちょっとキョン!急に態度変えて……まさか……アンタやっぱりメイド萌なの!?」
「……けだもの。」
「なっ!?何でそうなるんだ!って言うか長門!けだものって何だ?!」
「けだもの…獣。読んで時の如く獣の事。この場合は……」
「いや、そうじゃなくてだなぁ…やれやれ…良いかハルヒ!俺はメイド……」
彼は慌てて周りに弁解を始めた。まぁ、端から見たら私に優しく微笑まれて大人しくなったように見えるわよね…良い雰囲気の邪魔した罰よ。
因みに古泉は我関せずを気取り、操舵に必死な振りをしている新川に話す振りをしている。国木田君は……何故か真っ赤になって俯いている。
「どうしたの?」
「いや…だって森さんさっき…私の国木田君って……」
あっ……もぅ…私まで恥ずかしくなってきたじゃない。
 
結局、孤島に着くまでクルーザーには淡々と[けだもの]について解説するTFEI端末と、必死に涼宮ハルヒに言い訳する彼の声が続いていた。平和で良いわね……
出来ればこのまま何事もなく、別荘での数日を終わらせたい。そう願い私はぼんやりと海を見つめた。
 
 
 
例によって専用ハーバーで、手を振って出迎えをしていた荷物持ちこと、多丸(裕)を引き連れて私達は別荘に到着した。
「さて、主をお呼びしますので暫くお待ち下さい。」
恭しく一礼した新川が別荘に入って行くと、国木田君が恐る恐る私に尋ねてきた。
「あの…本当にいいんですか?想像してたのよりかなり豪華なんですけど…」
「大丈夫よ。……そうね、また時間が出来た時に詳しく話してあげるわ。」
事情を知っている古泉や、物怖じしない涼宮ハルヒはここに初めて来た時も自然体だったけど……まぁ…国木田君みたいなのが普通の反応よね。
などと考えていると、新川に連れられ多丸(圭)が扉から出て来た。
「お久しぶりです圭一さん今年もお世話になります。」
「久し振り!今年も宜しくね!」
「…………」
「あの…お久しぶりですぅ。」
「暫くぶりです多丸さん。」
「あぁ、久し振りだね。みんな元気そうでなによりだよ。」
古泉を始めに再会の挨拶をするSOS団に多丸(圭)は別荘の主として挨拶を返す。
「おや?君は……」
「あっ、あの国木田と申します。そっ…そのお世話になります。」
国木田君がガチガチに緊張した様子で応える……可愛い…これは萌ざるえないわ。
「国木田君……あぁ君が噂の森の…」
「圭一様、中でお話になりませんか?この様な炎天下の元客人を立たせたままなのは、推奨致しかねます。」
「……そっそうだな…んんっ、それではみんな、中に入ってくれたまえ。」
咳払いした多丸(圭)は笑顔を引き吊らせながら、全員を別荘に招き入れる……のは良いが、そう言う私が怖い女っぽい反応は遠慮して貰いたい。
ほら、またキョン君引いてるじゃない。それはそれで面白いけどね。
 
 
 
SOS団の面々は部屋に荷物を置くと、[時間が勿体無い]と言う涼宮ハルヒに従って、早速着替えて海に遊びに行ってしまった。
正直な話、こうなると私はやる事がない。別荘の掃除は朝に多丸兄弟がやっているのだし、食事は新川が用意するのだ。
私自身は食事の時、給仕として仕事があるのだが…それまでは手持ち無沙汰で、今回は推理ゲームもない……そう、暇なのだ。
こんな絶海の孤島まで来て彼氏も近くに居るのに、自室で暇を持て余すのは気が滅入る。
散歩でもしようかとは思うが、この18禁ゲームに出て来そうなメイド服では気晴らしどころか、羞恥プレイだ…暇だから、外に行きたいが、恥ずかしいからずっと部屋に籠もって居たい…まったくどうしたものかしらね…
などと考えながら煙草を吸っているとコンコンと扉からノックの音がした。
 
 
 
「あの…国木田です。今、良いですか?」
「国木田君?良いわよ。」
扉に向かって応えながら、私は立ち上がり部屋の扉を開け、立っている国木田君に話し掛ける。
「古泉達と海に行かなかったの?」
「はい。森さんが心配だっので。」
「ふふっ…ありがとう。入って。」
 
部屋に彼を招き入れソファーに彼と座ったのだが、どこか落ち着かない様子で私を見ている……どうしたのかしら?
「どうしたの?私なら心配しなくて大丈夫よ?」
「あっ…その…そうじゃないんです…」
彼が少し頬を赤らめて此方を見る。
「…何て言うか…森さんの姿が普段と違うから、何か緊張しちゃって……」
「やっぱり…変よね。」
「いっいえ、違うんです!その凄く可愛いくて、素敵で、改めて見ると、見てるだけでドキドキするって言うか…その……」
急に顔赤くしてナニ言ってるのよ……バカ……そんな事言われたら私の方が…どうにかなっちゃうじゃない…嬉しいけど……
「でも、あの事務所ってお手伝いさんの斡旋所みたいな場所だったんですね。今日森さんと新川さんを見てビックリしましたけど、やっと理解できました。」
「ふふっ…そうね、当たらずしも遠からずかしら。」
私は微笑みを浮かべ彼の頭を撫でる。少し俯き、照れているが嬉しそうな彼の顔……私の好きな彼の表情の1つだ。
「そうなんですか?」
「まぁ確かにメイドや執事は私たちの仕事だけど、本当は…何と言うか…」
ある意味チャンスだ。このまま機関の事を言ってしまっても良いかも知れない。流れ的にも自然だし、朝に新川が言っていた事もある。
「話すと長くなるけど……良いかしら?」
「はい。大丈夫ですよ?」
「そうね…何処から話しましょうか……」
 
 
 
悪い…君の事好きだけど……宗教には興味ないんだ。ごめんな…じゃあさよなら。
何だよ?せっかく良い女だと思ったのに…電波なメンヘラ女かよ。
すいません…貴女の言うことは俺には理解できません。ごめんなさい…もう会わないでおきましょう。
 
ダメだ…何故か話して拒絶された事ばかりを思い出してしまう。私はそんなに彼を…国木田君を信用していないの?ううぅん…そんな事はない信用している。でも、この恐怖は何?
「森さん?大丈夫ですか?顔、真っ青だし…震えてますよ?」
「いえ…大丈夫よ…」
顔が青い?震えている?いつから私はそんなに弱くなったのよ…国木田君……本当にごめんなさい。
「大丈夫じゃないですよ……お話はまた今度で良いから休んで下さい。」
「えっ?えぇ…ありがとう…ごめんね。」
「良いですよ。森さんが休んでる分、僕が新川さんのお手伝いしてきますね。」
そう言ってニッコリ笑うと彼は行ってしまった。
 
…また私は彼の優しさに甘えた。恋愛は人を強くする。でも…人を弱くするのも恋愛なんだと思い知る。
「どうしてなのよ……」
私はベッドに寝転がると天井を仰いだ。彼ともっと深く心を繋ごとしたら、機関の話は避けて通れないのだ。
彼を信じているなら、私がどんな話をしても受け入れてくれるはずだ。そう思うべきなのに……出来ない。
弱くなった私は彼を信じられない?
違う…信じてる。
じゃあ…何で言えないのよ?
私の思考は堂々巡りを繰り返す。うちに私の意識は沈んでいった。
 
続く

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最終更新:2020年03月13日 09:20