SIDE 古泉

 

僕は今、生徒会室の前に立っています。
今の時間は、生徒会長しかいないはずです。
もちろんその時間を狙って来ています。
他の生徒会メンバー……特に喜緑さんに聞かれてはまずいですからね。

コンコン

 

「どうぞ。」

 

ドアを開けると、そこにはしかめっ面の会長が一人で席に座っていました。
我々の計画の、ターゲットである存在です。

 

古泉「すいません。わざわざ人払いをして頂いて。」
会長「まったくだ。君達のようないかがわしい集団のために、わざわざこうして時間を割いてやっている。
   私も自分の心の広さに驚いているよ。」


何を言っているのやら……
元々はあくまで設定の上だけの敵であり、本来は私達の味方であるはず。
それなのに役に没頭しすぎて元々の立場を忘れ、本当に敵対心を持ってしまっている。
非常に愚かであると言わざるを得ません。
もっとも、ここでその感情を表に出してしまっては計画は台無しです。
使いなれた微笑をはりつけたまま、話を進めるとしますか。

 

古泉「例の件についてですが……」
会長「ふむ、決心はついたのかね?」
古泉「ええ。SOS団の解散が決定しました。最終的には涼宮さんも納得してくれましたよ。」
会長「そうか……それは何よりだ。」

 

そう言うと会長はクックと笑いだした。
長い因縁にようやくケリがついたと思っているのでしょうか。
しかし僕にとって、本番はこれからです。

古泉「それでですね、最後ということで1つ頼みごとが……」

会長「ほう、なんだね?」
古泉「解散ということで最後に明日体育館を使って大々的にイベントをするらしいのですよ。
   涼宮さんが納得したのもこれが条件でしてね?」
会長「何を勝手なことを……」
古泉「まあよいじゃないですか。明日で最後なのですから。」
会長「まあな。それで住むなら安いものだ。特別に認めよう。」

 

当然、本当に解散などするつもりはありませんが、イベントは行います。
僕に与えられた役目……それは、このイベントの許可を貰うこと、そして…

 

古泉「それとですね?もう1つお願いがあるのです。」
会長「なんだね?言ってみろ。」
古泉「是非会長にもゲストとして出て頂きたいなと……」

 

会長を体育館のイベントに呼び出すことです。
ここが1番の重要な場面です。気合を入れて交渉に臨みます。

 

会長「何故私が?」
古泉「あなたは我々SOS団にとって1番の敵でした。
   でも最後には敵同士でも和解したいという、涼宮さんの希望です。」
会長「そうかそうか。まあ最後だしな。出てやらんことも無い。」
古泉「ありがたい限りです。そしてですね?サプライズとしての登場となりますので……」

 

最も大事な部分なので、声を潜めながらも、強く語りかけます

 

古泉「他の方々には一切このことは内密に、そしてこっそりと体育館のステージ脇の部屋に来てください。」

 

さあ、どう出る!

 

会長「ハハハ、構わん。これで最後だからな、付き合ってやるよ。」

 

……どうやら交渉は成功のようです。解散すると聞いて機嫌が良いようで助かりました。

 

古泉「では、来る時刻は明日の……です。お願いしますね?ではこれで……」

 

交渉を終えた僕はにこやかに生徒会室を後にしようとしました。
すると、会長が後ろから問いかけてきました

 

会長「時に、君個人としてはどう考えているのかね?」

 

……会長に合わせたセリフを吐くことは簡単です。
「僕もうんざりだった」「良いことではないでしょうか?」「正直ほっとしています」

……しかし、僕にはこれらセリフを言うことは出来ませんでした。

 

古泉「……僕は何があろうと、SOS団の副団長ですよ。」

 

そして会長の返答も聞かずに部屋を後にしました。

やれやれ……先程役に没頭しすぎる生徒会長のことを愚かだと言いましたが、
僕も人のことは言えませんね……僕もこうして、SOS団という役に没頭しすぎている。
機関の意向を無視して、犯罪を犯そうとしているのですからね。
ですが止める気はありませんよ?だって僕は……SOS団の名誉ある副団長ですから、ね。

 

SIDE みくる


ハルヒ「さあ!セッティングするわよ!ほらキョン!ちゃんと持って!」
キョン「へいへい。」

 

今私達は、あと1時間後に始まるイベントの準備をしています。
全員で6時間目をサボって、体育館に集まりました。
鶴屋さんも来ると言ったのですけど、なんとか断りました。
あの人まで巻き込むわけにはいきません。

イベントの内容は、「SOS団1周年記念!チキチキ!朝比奈みくる争奪戦」だそうです。
……ちょっと私にとって嫌なイベントですけど、文句を言っちゃいけませんよね。
キョン君は反対してくれたんですけど、涼宮さんに
「人は多ければ多い方がいいの!集客力が1番あるのはみくるちゃんだからね!」
といわれて、納得したみたいです。

そのことはもういいんです。でも、それに隠された本当の目的については……
……言うなら今しかない。

 

みくる「あの、みなさん!!」

 

涼宮さん達は私の方を一斉に見ました。
私は意を決して……言います。

 

みくる「本当に……やるんですか?今ならまだ……」
ハルヒ「やるに決まってるでしょ!何言ってるの!」
みくる「でも……悪いのは私なんです!会長に秘密を知られたのは私……!
    それなのにみなさんを巻き込むようなことは……
    最悪、私だけでもやめれば……」
キョン「……朝比奈さん。」

 

キョン君は私に優しく言いました。

 

キョン「あなたは全然悪くないです。それに、巻きこまれたなんで思っちゃいませんよ。
    俺達はみんな、望んでこの場所にいるんです。」
古泉「そうですよ。僕達は僕達の望んだ通りに動いているだけです。」
ハルヒ「そうよ。みくるちゃん。みくるちゃんがいない部室なんて、なんの意味もないわ!」

 

古泉君も涼宮さんも、私に励ましの声をかけてくれる。

 

長門「……私達は仲間。」

長門さんまで……!

みくる「……ありがとうございます。みなさん」

 

出そうになる涙を必死でこらえて、みなさんに言いました。
泣くわけにはいかない。もうすぐターゲットであるあの人がやってくるはず……


……来ました。

 

会長「ふふ、やっているね。まあせいぜい、最後に盛りあがるがいいさ。クック……」

 

キョン君と涼宮さんは明らかな敵意を持った目で見つめています。
古泉君は流石ですね。いつも通りのスマイルです。長門さんも……いつも通りかな。
私は……内心、動揺が隠せません。もう、引き返せない。

 

古泉「良くいらしてくれました。感謝します。では、こちらの部屋で待機しててください。」

 

そう言って会長をステージ横の部屋に案内していきます。そして私も、ついていく。

 

会長「まったく……こんな部屋で待たせるつもりか?埃臭いったらありゃしない。
古泉「すいません、最後なのでお付合いください。では、僕はこれで……」

 

古泉君が出ていきました。
そして私の方を一瞬見る。「頑張ってください。」。そう言っているように見えました。
そう、私の役目はここからなんです。
あらかじめこの部屋に持ってきていたポットからお湯を出して、お茶を作る
そしてそのお茶に……粉状の睡眠薬をそっと混ぜます。

 

みくる「あの、これ、良かったらどうぞ……」

 

私はそのお茶を会長に出しました。

 

会長「クク、頂くとするかな。」

 

会長はそのお茶に口をつけました。
その後も私に嫌味も言い続けていましたが、5分もたたないうちに、彼は眠りへつきました。
そしてきっと、もう目が覚めることは無いでしょう……

 

みくる「……さようなら。」

 

私はそう呟いて、この部屋を後にしました。

 

 

SIDE ハルヒ

 

 

ハルヒ「れでぃーすえーんど、じぇんとるめーん!!
    第1回!チキチキ!みくるちゃん争奪大会ィィィ!!!」

 

私は高らかに叫んだ。それと同時に、男達が「うおぉぉ!!」と雄叫びをあげる。
まったく……単純なヤツらね。
全校の男子の半分近く集まっているんじゃないかしら?
はっきり言って、この中の誰にもみくるちゃんをあげる気はないけどね!
そして体育館のステージの上には、私を含めたSOS団5人が居る

 

ハルヒ「これからみくるちゃんに関するいろんなイベントをするわ!
    その中で1番ポイントが高かった人に、みくるちゃんからあつーいキスが贈られるわ!」

 

その声と共にまた「うぉぉぉぉぉぉ!!」と歓声があがる。
ほんとに単純なんだから……まあみくるちゃんにはそれだけの魅力はあるけどね。

そしてイベントが始まった。いろいろなことをしたわ。
みくるちゃんクイズ、みくるちゃんジェスチャークイズ、みくるちゃんとのジャンケン勝負……
どれもこれも異常な盛り上がりを見せたけど、割愛させていただくわ。
それにはっきり言って私は、その後のことで頭がいっぱいだったし。

そして、私達にとっての本番とも言えるイベントが始まる
私は高らかにアナウンスをした

 

ハルヒ「じゃあここで特別企画をするわ!準備をするから、ちょーっと待っててね!」

 

そう言って5人は舞台袖に下がった

 

ハルヒ「……いよいよね。」
古泉「涼宮さん、本当に大丈夫なんですか?僕がその役をやっても良いのですが……」
ハルヒ「何言ってるの。1番大事な仕事は団長がやるって決まってるの!
    それに古泉君は舞台に居てもらわなくちゃ困るわ。」
古泉「分かりました。……キョン君、涼宮さんのサポート、任せましたよ。」
キョン「ああ。」

 

そう話していると有希とみくるちゃんが着替えてやってきた。
みくるちゃんはメイド姿。有希は魔女の姿に仮装している。似合ってるわね、相変わらず。
そして私はステージに出て、アナウンスをする。

 

ハルヒ「さーて!お待たせみんな!ここからは「恋のみくる伝説」の特別編よ!
    この場所でしか見れないものを見れるあんた達は超ラッキーよ!
    まばたきすら許さないわ!じゃあ、スタートよ!」

 

そう言って私は舞台袖に下がって、それとすれ違うようにみくるちゃん、有希、古泉君がステージに出る。
メイド姿のみくるちゃんと魔女姿の有希に歓声があがったが、私にはもうそんなのは耳に入らない。

 

ハルヒ「じゃあ……行くわよ。」
キョン「ああ。」

 

私とキョンの役目……それは会長を殺すこと。
みくるちゃん達の寸劇が終わる前に、事を済ませなくちゃいけない

 

 

ガチャ

 

私達は会長がいる部屋を空けた。会長は完全に爆睡している。
みくるちゃんが入れた睡眠薬のおかげね。
そして私は用意していたロープを手にとった。

 

あれ?なんで……

 

わたし、手が震えてる?

 

何よ、ビビってるの?わたし。

 

みくるちゃんのため、SOS団のため、やるって決めたじゃない。

 

でも……震えが止まらない。

 

キョン「ハルヒ。」

 

キョンが声をかける。何よ、これからが大事な時だってのに……
え!?

キョンが私からロープを奪い取った。
そして……会長の首にかけ、締めつける。

………1分ぐらいそれを続けただろうか。
もう会長の息は無かった。ついに殺したのだ。

 

キョン「終わったぞ。」
ハルヒ「何やってるのよ!こういうのは団長の仕事でしょ!勝手な真似して!」
キョン「すまんな。今度罰金を払うさ。」

 

わかってる。キョンはわたしのために代わりにやってくれたんだ。
だけど絶対に言わない。だからわたしも、気付かないフリをしてあげる。
でも……これだけは言わせてね


ハルヒ「……ありがとう。」

キョンに聞こえたかわからない声で、そっと呟いた。
そしてわたし達は、イベント真っ最中のステージへと戻っていった。

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最終更新:2020年06月10日 14:44