俺は今、鋸を担いで鶴屋山を歩いていた。何でかって?本日は77日、七夕だ。七夕と言えばハルヒが何を考えているかだいたい想像することができるだろう。
つまり、七夕で使用する笹を切るためだ。ん?ハルヒ争奪戦はどうなったって?まあ待て、今から順を追って話してやる。ハルヒ争奪戦の話は昨日のことだ。
昨日ハルヒが争奪戦を思いついたあたりから話せばいいかな

……………


「さて、どんな試練を与えようかしらねぇ・・・」
ハルヒは三方原の戦いで家康を破り京へむかう信玄のような不適な笑みを浮かべながらペンを取って『試練』とやらを考えていた。

「そうねえ、みくるちゃん、古泉君、有希、あなたたちも一つずつ試練を考えてくれる?」
「え?え?試練ですか?ええと、お買い物とか、お食事の準備とか
「僕にも試練内容を考察させていただけるとは、喜ばしい限りです」
……………

とまあ、三者三様の受け答えがあったわけであるが、何でお前の争奪戦のために他のみんなが試練とやらを考えなければいかんのだ?
そして、何故俺だけのけ者にされているんだ?別に試練を考えたい訳じゃないんだが、何か少し腹が立つ。
「あんたは試験官でしょ。それにあんたを使った試練はもう考えてあるわよ」
何か俺にやらせる気か?だがハルヒに楯突いてその試練とやらをやめさせるのは、俺が古典物理学を否定する証拠を集めるくらい無理だ。
アルバートさんの説法を聞いて対抗するしかない。勿論理解なんてできないが。

「争奪戦は一ヶ月後、87日よ!各員、試練は明日までに草案をあたしに報告すること!それと明日は七夕パーティーを開くわ!10時に鶴屋山の麓に集合よ!」
唐突に話が変わったな。
「あしたは七夕なんだから、七夕パーティーを行うのは当然でしょ?」
何が当然なんだ。意味が分からん。
「明日は織姫と彦星に願いをするだけじゃなくて、デネブにもお願いするから、大きな笹が必要なのよ。あんた知ってる?
ベガとアルタイルは地球からせいぜい数十光年しか離れていないけどデネブは3200光年も離れているのよ。
それだけの距離が離れているのに他の一等星と同じくらい光っていると言うことは、とってつもなくすっごいのよ!
織姫や彦星なんて目じゃない位の願い事を叶えてくれるわよ!」
七夕はベガとアルタイルだけだ。デネブも入れるとは、夏の大三角形にする気か?それともお前は氷河のファンか?
マザコンで師匠と友を墓場送りにした、罪なやつだったのか。
「何訳の分からないこといってるのよ。そんなことより、大きな笹が必要だから鶴屋さんに相談したら、
『ウチの山にめがっさ大きい笹があったっけな?全然手入れしてないから勝手に捕っても構わないっさ!』
って二つ返事でOKしてくれたわ!だからキョン、あんたが切って鶴屋さんの家まで運ぶのよ!」

……………

こんなところか。つまり、それはそれ、これはこれ、ってわけだ。
不機嫌を司るであろう座敷童はハルヒから俺にトレードしたようだ。俺にはFA権はないからこのまま住み着くことになるのだろう。全く持ってメランコリーだ。
「こーらー!キョーン!!何してんのよー!!こっちこっちー!!!」
拡声器を使ったかのような声を張り上げてハルヒの呼ぶ声が聞こえた。

ハルヒの声が聞こえる方へいってみると、そこには笹の樹海が見えていた。笹の樹海?
「どうっかな?なかなかの笹にょろ?」
鶴屋さんは言い放った。これ、笹ですか?全長10mは超えている。茎も竹と見間違えるほどのものであった。
「いやあ、うちのご先祖様の時代から生えているみたいさ。七夕だけじゃなくて、笹団子とか笹餅とか、将軍様御用達の笹だったみたいだね」
そんな大層なものだったのか?そんなものをおいそれと使っていいのか?
いや、ハルヒのことだ。『今は誰も使ってないし、あたし達が有効に使うんだからいいでしょ?』と言うのがオチだ。

俺と古泉がぎこぎこ切り落とし、えっちらおっちら鶴屋邸まで運んだ。
女性陣はそれまで何もしなかったが、笹を立てた後の飾りやパーティー用の準備は全て女性陣だったため(とはいえパーティーの準備は鶴屋家侍女が殆どやっていたが)、
俺と古泉はパーティーが始まるまで暇を与えられた。
しかし、次から次へと思いつく奴だ。おい古泉。お前の機関は何をやっている?ハルヒを退屈させないイベントを早く開催してくれ。俺が楽できるようにな。
涼宮さんに先手をとられてしまいましたね。今年も大々的にイベントを起こそうと企画していたのですがね。
ですが、争奪戦の企画は非常に楽しみでもあります。うまくいけば、我々の活動も終焉を迎えることになるかもしれませんし」
お前のバイトが無くなって、ひもじい思いをすることになるぜ?
「お金よりも、閉鎖空間が発生しなくなり、僕の能力も無くなってしまった方が幸せですよ」
ちっ、まともな回答をしやがった。
「まあまあ、これはいい機会だと思いますよ。涼宮さんの本音を見るためには。
僕たち機関は心理状況こそ分かっているつもりですが、真意が分かっているという意味ではありません。
もしかしたら、涼宮さんがあなたに何をしてほしいのか、どうあって欲しいのか、その意志が伝わるかも知れません」
伝わったところで困る。面倒くさそうになることは分かっているからな。
古泉は両手を『やれやれ』の形にして溜息を一つ。そこでハルヒからパーティー開催の号令を受け取った。

パーティーは恙なく進行した。日本三大七夕祭り混ぜたような盛り上がりを見せてくれた。
花火やら七夕飾りやらが舞い、織姫に扮した朝比奈さんが何やら祝詞っぽいものをあげていた。
「さあ、デネブに願い事をするわよ!みんな!短冊を用意して!!」
団長の号令の元、10mを超える巨大笹の葉に短冊を括り付けた。
因みに、デネブまでは3000光年以上だから、願い事が届くまで生きるのは難しいぞ、と進言したところ、笹が大きいから願いは直ぐ叶うでしょ、とのことだった。
笹の大きさによって光の速度を超えるらしい。だが笹からチェレンコフ光は見えないぞ?

俺は「いい大学に合格できて、いい会社就職できますように」と言ったありきたりな内容を短冊に書き、笹に吊した。
横を見るとハルヒが笹の一番上になる部分に、そして隠れるように短冊を取り付けていた。ハルヒ、お前は今年は何を願うんだ?
「あんたには関係ないでしょ?」
そういってしまえばそうなんだがな。何だかひた隠しにしているハルヒの姿を見て、何としても見てやろうという衝動に駆られた。
ハルヒは短冊を取り付け、笹の根元に戻っていった。
俺も根元に戻る素振りをみせつつ、ハルヒの短冊の近くに来て、ハルヒの目がそれた好きを狙って短冊を見てやった。

「あこら、キョン!!」
ハルヒの声が聞こえるが無視だ。後から折檻を受けるかもしれないが、ハルヒがこれほどまでにして読ませたくない短冊だ。
弱みを握れるかもしれないし、ここは読んでおくに越したことはない。俺はハルヒの短冊を見てやった。そこには


『あたしにとって最高の彼氏ができますように』


………
これは、見たのはマズったかな

数秒もしないうちにハルヒは俺のところまで来て、シャツの襟首を持ち上げていた。
「あんた、今見た内容忘れなさい。さもなきゃ誰一人として今の内容を喋っちゃだめよ。喋ったら殺すわよ
わ、わかった。勝手に見たのは悪かった。しかし、お前もなんだかんだ言ってそうゆうのに興味があるんじゃないか。少し安心したぜ。
来月争奪戦があるから、それに乗じて願い事してみただけよ。他意はないわ」
ということは、そのイベントで彼氏を作る気満々って訳だ。応援するぞ。お前にお似合いの彼氏が見るかるといいな。
………あたしにお似合いの彼氏が見つかると思う?」
ああ、お前次第だ。お前が望むのなら、見つかるさ。
………そう」

一言そういい放った後、暫く黙っていたが不意に、
………あんたにも、お似合いの彼女が見つかるといいわね」
と言った。ハルヒが俺の心配をしてくれるとは思わなかった。どういう風の吹き回しだ?
「あたしだって、団長として団員の幸せを願っているのよ。そうだ、今度はあんたのために争奪戦を企画してあげるわ!」
そうかい。そりゃありがたいな。だが俺はお前と違ってもてないからな。古泉争奪戦に企画変更した方がいいんじゃないか?
「それもそうねあんたモテないから、やるだけ無駄ね!」
ハルヒは嬉しそうに俺に問いかけた。何か突っ込もうかと思ったが、ハルヒの笑顔が俺の瞼と脳裏に焼き付いて何も言えなかった。

「さあ、笹を立ててお願いするわよ!」
俺たちは笹を引っ張り上げ、笹にお願いすることとなった。

こうして七夕パーティーは終わった。
さてさて、続いてのイベント、争奪戦の準備が待っているな。

やれやれ

二年目の勉強会に続く

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最終更新:2020年06月19日 16:54