時が流れるのは早く季節は冬、もう雪がちらつく季節となった。
今日はこの冬一番の寒さらしく、こんな日はこたつでぬくぬくしながらゆっくりしたいものだ。だがそんな余裕は全く無く
「こらぁ、馬鹿キョン!人の話をちゃんと聞きなさい!」
俺は今ハルヒに家庭教師をして貰っている、もうすぐ期末テストなのだがこれまでに無いほど俺は追い詰められていた。
原因は授業中に居眠り等をしている俺にあるのだが、今回の期末テストの範囲はいつもの3倍近くある。
前回の期末テストも赤点ギリギリだったというのに、ここまで範囲が広いと手の施しようが無い。そこで俺はハルヒに家庭教師を頼んだのだ。
ハルヒは「追試や補習でSOS団の活動に参加出来なくなったら困るしね、いいわよ。明日の土曜日から毎日あんたの家でみっちり教えてあげる。
ただし!これで万が一にも赤点を取るようなヘマをしたら特大の罰ゲームだからね。覚悟しなさい」
と、家庭教師を承諾してくれたのだった。そして今日は土曜日、朝からハルヒが自宅へ来て俺に勉強を教えてくれているのだが
「もう、何余所見してるのよ。ちゃんと問題に意識を集中させなさい」
「そんな事言われてもなぁ、もうかれこれ3時間だぞ。少しは休憩させてくれ、適度に休憩を挟んだほうが効率がいいと言うだろう?」
正直勉強に慣れて居ない俺としてはもう限界だった。3時間も持ったのは奇跡と言っても過言ではない。
「何言ってんのよ。今回は範囲が広いんだから休憩なんてもってのほかよ!そんな暇があるなら数式の1つでも単語の1つでも頭に叩き込みなさい!」
「しかしもう12時だぞ。そろそろお前も腹が減っただろ?昼飯がてら一旦休憩を入れようぜ」
「仕方ないわね。あたしが小テストを作るから10問中7問以上正解したらお昼ご飯にしましょ。6問以下だったらあんたはお昼ご飯抜き!」
7割は酷いだろと言いたかったがここで口を出すとまたややこしい事になりかねない。俺はグッとこらえて
「もし俺が6問以下だったらお前はどうするんだ?」
「あたしは食べるわよ。あたしはお昼ご飯抜いて勉強するほど追い詰められてないもん。さあどうするの?小テストを受けるの?受けないの?」
やれやれ、7問も正解できるかどうか分からんが、やらないよりはやった方がマシか。
「分かった、受けるよ」
「そうこなくっちゃ。丁度期末は10科目だから全問違う科目に出来るわね。少し待ってなさい、今問題を作るから」
おいおい、午前中にやったのは英語と数学なのに10科目から出題されるのか?何て理不尽な・・・。これはホントに昼飯抜きにされかねない。
「安心しなさい。今日は初日だし基本的な問題からの出題にしてあげる。ただし英語と数学は発展問題だからね。ちゃんとあたしの話を聞いていたら解けるはずよ」
ある程度話は聞いていたが応用問題何て解けるかね。そんなに簡単に解けるようになってるなら俺はわざわざテスト勉強何かしなくても赤点を免れる点数は取れるだろう。
しかし現実問題教師の説明を聞いても解けない問題があるわけで、そして解けないまま俺は夢の世界へと旅立っているのだ。
「教師の教え方が悪いのよ、あんな教え方じゃ頭に入るものも入らないわ。テストで上位を取ってる奴ってのは教師の説明を聞いた後で自分なりの暗記方法や
解き方を編み出すの。授業を聞いてるだけじゃ何の意味も無いのよ」
「お前も自分流の暗記方法や数式の解き方があるのか?」
「勿論よ、さっき教えたのがそれよ。さ、小テストが出来たわ。解いてみなさい」
ハルヒの教え方がいいのか昨日までなら解けなかったであろう数学と英語の応用問題はあっさり解けてしまった。他の問題も基礎的な物が多く何とか書ける物多かった。
そしてあっさりと10問終わってしまった
「出来たぞ」
「じゃ採点するわ、言っとくけど7問以上正解してなかったらホントにお昼ご飯抜きだからね」
昼飯抜きだけは勘弁して欲しいねホント。だが俺の自己採点では10問全問出来てる筈だ。自信満々で採点結果を待っていると
「へぇー、やるじゃない。全問正解よ。英語と数学もちゃんと覚えてるじゃない、これならお昼ご飯を食べさせてあげてもいいわね。でも調子に乗っちゃダメよ」
どうやら昼飯と休憩時間を無事に獲得できたらしい。これで俺の頭もオーバーヒートせずに済みそうだ
「ところで妹ちゃんやお母さんはどこへ行ったの?朝は居たのに全然話し声が聞こえないんだけど」
「ああ、あいつらなら居ないぞ」
「え?なんで?」
「昨日ハルヒが家庭教師を引き受けてくれる旨を伝えたら、邪魔をしちゃ悪いからと明日の夜まで親戚の家へ泊まりに行くと言っていたんだ。
恐らくハルヒが来た後くらいに出発したんだろう」
全く、勉強の邪魔って言ったって妹が部屋に入ってこなければ騒々しい訳でもないのにわざわざ親戚の家に出かけることは無いのにな。
「え?じゃあ明日までこの家には誰も居ないの?」
「まあそうなるな」
「ふーん・・・」
何か嬉しそうな顔をしてるな。何でだ?
「今日あたし泊まっていくわ」
「は?」
何言ってんだこいつは。俺の家に泊まる?冗談だろ?
「別にいいでしょ、誰も居ないんだし。それに泊まった方が長く勉強を教えることが出来るじゃない」
まあ、それはそうかもしれんが・・・。いやいや、歩く核兵器とは言えハルヒは黙っていれば超が付くほどの美少女なのだ。
ましてや親が居なくてこの狭い屋根の下に男女が2人?ハルヒの親だって黙っては居ないだろう。
「それにキョンと少しでも長く一緒に居たいし・・・」
「ん、何か言ったか?声が小さくて聞き取れなかったんだが」
何か顔が赤いが暑いのだろうか?ちょっとストーブを効かせすぎたかもしれないな。
「何も言ってないわよ、馬鹿!とりあえず今日あたし泊まるから。親に連絡しておくわ」
そういうとハルヒは携帯電話をバックから取り出して部屋の外へと出た。
どうせハルヒの親だって外泊を許可しないだろう。大事な娘をほいほいと知らない男の家に、ましてや2人きりの状況など許す筈も無い。
ハルヒから甘いシャンプーのような香りがしていたが、部屋の中にも染み付いて来ている様だ。
ハルヒが居ない今も甘い香りがしていて、その香りを嗅いでいると頭がボーっとしてきてしまう。
いい香りだな・・・
そんな事を考えているとバン!と大きな音を出して扉を開けハルヒが笑顔で戻って来た。
「親からもOK出たわよ!」
なっ!ハルヒの親は正気か?
「そういう事だから今晩は泊まるわね。それじゃお昼ご飯にしましょ。冷蔵庫の食材使わせて貰うわよ」
ハルヒは俺に反論の暇すら与えずに喋り、部屋から出て行き台所へと行ってしまった。
一人部屋に残された俺はどうするか考えていたがハルヒの頭の中で決まった事を撤回させるのは至難の業であり、出来るとも思わない。
ハルヒの親も外泊を許可したようだし、みっちり勉強を教えて貰うことにするか。1人でやるよりハルヒに教えて貰った方が遥かに効率がいいからな。
「キョン、ちょっと来て。3秒以内!」
階段の下からハルヒが叫んでいるようだ。昼飯を作って貰ってるんだから行かないわけにもいかないだろう。
「何してんのよ!早く来なさい!」
ハルヒがお怒りのようだ、早く行かねば俺の昼飯が危うくなるかもしれない。まるでゲーム最中に母親から晩御飯だから早く降りて来なさいと言われてる気分だな。
俺は急いで部屋から出てこれ以上無い速度で階段を降りて行った。予想通り階段の下にハルヒが居た。
「どうした?」
「いいからちょっと来て」
俺は袖を引っ張られ引きずられる形で台所へ入った。そしてハルヒは俺に見せるように冷蔵庫を開け
「あんまり材料が残ってなくてチャーハン位しか作れないのよ。あんた何か食べたい物ある?あるなら材料買ってくるけど」
「今から買いに行くと時間がかかるし、チャーハンでいいぞ」
腹ペコだから早く食べたいしな。ハルヒの料理なら何でも美味いだろうし。
「そ、じゃあ後で晩御飯の買出しに行きましょ。流石にこの材料だけじゃ晩御飯は作れないし、あんたが食べたい物作ってあげるわよ」
「なら、晩飯はカレーがいいな。最近食べてないし」
「オッケー。じゃ晩御飯はカレーにしましょ。とりあえずチャーハンを作るからあんたは飲み物でも出しておいて」
そういうとハルヒは手馴れた手付きで野菜を切っていった。俺の出番は無さそうなのでリビングのテーブルを拭いて、お茶を出して待っておく事にした。
暫くするといい匂いがしてきた。どうやら完成が近いようだ。待ちきれなくて腹の虫が鳴ったころに
「出来たわよ、はい、あんたの分」
出された皿には彩り鮮やかなチャーハンが盛り付けられていた。まるで高級飯店で出るようなチャーハンだ。行った事は無いけどな。
「早く食べましょ、まだまだ手を付けてない教科があるんだから。」
「やれやれ、すぐに勉強か」
昼飯後くらい長めに休憩が欲しいぜ。学校でも給食の後は長い昼放課があっただろ?
「当たり前じゃない、あんたの成績じゃこれでも間に合うか心配だわ。少しでも勉強時間を増やさないとね」
確かに少しでも多くの勉強時間をとらないとヤバイ。休憩時間が欲しいという葛藤もあるが、ここは我慢して勉強をするべきだろう。
「分かったよ。とりあえずチャーハンを食おうぜ。昼飯のときくらい勉強のことは忘れたい」
「それもそうね。いただきまーす」
「いただきます」
美味い。滅茶美味い。ハルヒが料理上手なのは知っていたが、チャーハンでここまでの味が出せるものなのか。
俺が作るチャーハンとは桁違いの美味さだった。同じ料理でここまで違うものかと感心してしまった程だ。
「どう?美味しい?」
俺の方を見ながらハルヒが聞いてきた。
「ああ、滅茶苦茶美味いぞ」
嘘偽り無く答えた。事実だからな。
「それは良かったわ。人によって好みの味付けとかあるからちょっと不安だったのよ」
ハルヒの顔も見てみると特大の笑顔で嬉しそうに語っている。う、その笑顔は反則だろ。ドキっと来ちまったぜ。
「何?あたしの顔に何か付いてる?」
自分では気付かなかったが長時間ハルヒの顔を見つめていたらしい。ハルヒが不思議そうな顔をして聞いてくる。
「いや、可愛いなと思ってな」
「は?」
ハルヒはポカンとした表情で俺を見ている。変なこと言ったか?俺。
「お前の笑顔がだよ」
「ななな・・・」
ハルヒの顔が真っ赤になっている。おかしいな、俺の部屋はともかくリビングはそんなに暑くないと思うんだが。
「ハルヒ、顔が赤いぞ。暑いなら窓を開けていいぞ」
「ば、馬鹿!いいからさっさと食べなさい!食べたらすぐ勉強だからね。もうビシバシいくから覚悟しなさい!」
どうしたんだ?よく分からん。嬉しそうな顔になったと思ったら顔が赤くなり、そして怒るとは。しかし怒ってる癖ににやけているな・・・。
ハルヒの怒りをこれ以上買わない為にも俺は急いでチャーハンを胃へと流した。
「ご馳走様でした」
「ご馳走様でした」
「あたしお皿を洗っておくからあんた先に部屋へ戻って古文のワークやってなさい。片付けたら見てあげるから」
「ああ、分かった」
片付けの手伝いをしようかと思ったが、邪魔になりそうだったので止めた。洗い物の数が多いわけでは無いしな。
時刻は12時半。さて、昼の部のスタートか。

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最終更新:2007年06月15日 21:51