暑い。気温が30度を超えている真夏日。俺は1人部室でへばっていた。
それにしてもハルヒ以外急用とはな。朝比奈さんを見て少しでも安らぎを得たかったのだが。
 
「遅れてゴッメーン!…って、あら?キョンだけ?」
 
「見りゃ分かるだろうよ。他の3人は用事があるらしい」
 
3人も欠席じゃやることもないだろう。さっさと帰って涼みたいぜ。
 
「ふーん。じゃあしょうがないわね」
 
そういって机に座りパソコンをいじりだすハルヒ。
 
「ちょっと待て、今日はなにも出来んだろう?なら解散でもいいんじゃないか?」
 
「なによ?あんたは全員揃ってないと何も出来ないわけ?」
 
「そういうわけじゃないが…」
 
「だったら掃除でもなんでもしてなさい!」
 
ったく、何だって言うんだよ。
俺はあまりの暑さとハルヒの理不尽さに頭にきて、わけの分からない嘘をついてしまった。
 
「………ハルヒ」
 
「なによ?」
 
「実は俺………病気なんだ」
 
「…え?」
 
「………」
 
「な、なに言ってるのよ!嘘をつくならもっとマシな嘘をつきなさいよ!」
 
「……………」
 
俺は悲しそうな顔を作り、ずっと黙っていた。
ハルヒは驚きと悲しみを足して2倍にしたような顔で俺を見ている。
どうやら信じているようだ。あともう一息でドッキリ成功だ。
 
「び、病気って……ひどいの?」
 
「………あぁ。今の医学じゃ治らないらしい」
 
うむ。我ながら迫真の演技だな。さて、そろそろ病名を言ってだな──
 
「………うぅ…グスッ……ふえぇぇ…キョン、嫌よ…そんなのぉ、キョン…」
 
ハルヒはポロポロと涙を流し俺に抱きついてきた。
 
あ~、これは想定の範囲外だ。なんかネタばらし出来ない空気だな。
 
「…なんて病気なの?」
 
へ?
 
「…病気なんか…あたしが何とかしてあげる。…あたしがキョンを助けるんだから!」
 
どうする?いや、後が恐ろしいがこれ以上騙すのも危険だ。
俺は用意していた病名を告白した。
 
「………可愛い女の子にキスされないと死んじゃう病だ」
 
そんな病気があるわけは無い。しかし俺は死んでしまうかもしれんな。
 
「………そんな…病気があるの?」
 
は?
 
ハルヒの目は真剣そのものだ。
 
「………あたしなら平気よね?」
 
ハルヒは小さい声でつぶやいた。何が平気なんだ?
 
「………キョン、あたしが助けてあげるからね」
 
ハルヒはそう言って俺にキスをした。
 
「ハルヒ………」
 
「………治った?」
 
俺はとんでもないことをしたんじゃないか?
今ネタばらしをすれば確実に殺されるだろう。
しかしいつまでも嘘を突き通せるもんじゃない。
 
グッバイ、俺の人生。
 
「…嘘なんだ」
 
「…え?」
 
「…その、病気とか全部嘘だったんだ。スマン」
 
「………な、ななな」
 
「こらぁ~!!キョンっ!!!!」
 
ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
 
「うっ!」
 
突然ハルヒが胸を押さえて倒れてしまった。
 
「ハルヒ!どうした!?」
 
俺は急いでハルヒの元へ駆け寄った。
ぐったりしているハルヒを抱き起こす。
呼吸は乱れとても苦しそうだ。
 
「待ってろ!今救急車を──」
 
ハルヒは俺のネクタイを掴み、救急車を呼びにいこうとした俺を止めた。
 
「ハルヒ?」
 
「はぁ、はぁっ、キョ、キョン。救急車は呼ばなくて…いいわ」
 
「バカ!そんなわけにいくかよ!」
 
「………いいから聞いて」
 
「………あぁ」
 
「あたしが死んだら…はぁ、はぁ…団長は…あんたがやりなさい」
 
「な、なに死ぬとか言ってるんだよ!?」
 
「あ、あたしね……みんなには黙ってたけど……持病が…あるの」
 
「………嘘…だろ?」
 
「だからね、あんたがさっき病気だって言ったとき、他人事だとは思えなくて」
 
「ハルヒ……」
 
「で、でも…死ぬ前に…いい思い出が出来たわ。
あたしの…ファーストキス…なんだからね」
 
「俺…最低だな。あんなくだらない嘘ついちまって…」
 
「…あたしは…キョンとキスできて…幸せ」
 
ハ…ルヒ
 
「…今まで…迷惑かけてゴメンネ。あたし…キョンに会えて幸せよ」
 
「……ハルヒっ!俺も…お前に会えて幸せだった」
 
「…最期に…聞いて」
 
「…なんだ?」


 
「あたしの病名は……好きな人にキスされないと死んじゃう病なの」
 
おしまい。

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最終更新:2020年03月12日 23:37