「!?」

 

突然だが俺は全国の山という山の全てが噴火して日本中がマグマに包まれたことを思わせるくらいに驚いていた
声に出ない驚き―――
というよりも声に出せないと言ったほうが正しいだろう

 

 

 

灰色一色の閉鎖空間なる不気味世界や消えたはずの朝倉が戻ってきたりと驚くべき出来事は山のようにあった

 

 

 

それをも越えた、俺を現在進行形で仰天させている出来事が今、俺の前で発生しているわけだが

 

 

 

まさかあの無口で無表情かつ無感動な宇宙人がこんな行為に出るとは・・・

 

 

 

認めたくはないが俺の所為であることは明白だ

 

 

いやしかし俺は冗談のつもりだったんだがな

 

 

まさか本気で受け取るとは思わなかった

 

 

 

 

恐らくあの一言が全ての始まりになってしまったのだろう・・・

 

 

 

 

今日はいつもとは違い、部室には俺と長門しか居なかった

 

 

朝比奈さんが一日限定で売られている茶葉を買いに行きたいと発言したところ、ハルヒがじゃああたしも行くと便乗し、今日のSOS団は自主的活動となった

 

 

言うまでもないかもしれないが、古泉は機関に関係する怪しげなバイトらしく、すぐ帰って行った
できれば朝比奈さんの買い物に着いていきたかったが、午後の体育をしたことによって、俺の体が「これ以上無理」と言わんばかりに動くことを拒んでいた

 

 

相も変わらず色白で小柄な有機アンドロイドは例によって例のごとく終始無言で読書に勤しんでいる

 

 

今、部室には俺と一人の宇宙人しかいない

 

 

「・・・」

 

 

本のページをめくられる音がぱらりと室内に響く

 

 

なんとなく俺は話し掛けてみる

 

 

「なぁ長門」

 

 

「何?」

 

 

俺が声をかけるとショートカットの宇宙人モドキは読んでいるページから目を離さず返事をした

 

 

「今更なんだが、俺がハルヒと一緒に閉じ込められたあの灰色の空間あっただろ?あれって他に脱出方法なかったのか?」

 

 

「ない」

 

 

長門はいつも通り短い言葉で坦々と答えた

 

 

誰がどう見たってキスだったもんなあれ
今考えるとかなり凄いことをしたのかもしれないな

 

 

「そうか・・・なんなら俺らもキスしてみるか?ははっ、なーんて・・・」

 

 

俺としては何の気がねもない冗談のつもりだったのだが、この言葉を聞いた途端、長門は本から目を離し、俺の顔を見据えた

 

 

やばい
怒らせたか?

 

 

長門は本を持ったまま立ち上がり、パイプイスに座っている俺に歩みよった後、お互い数センチの距離というところで立ち止まった

 

 

「・・・」

 

 

頼むからなんか喋ってくれ

 

 

俺の他愛のないジョークにツッコミの一つや二つ入れてやってくれてもいいじゃないか

 

 

俺はビンタでもされるのだろうか
そう思った瞬間、長門の顔がずいっと俺の顔に近づいた
かなりの近距離で目と目が合う
磨きたての鏡のような目には俺の顔がはっきりと映っていた

 

 

今さっきよりも縮まった距離で長門は俺の目を真っすぐ見据えている

 

 

「・・・する」

 

 

この言葉が長門の長門自身へのスイッチとなってしまったのだろう

 

 

「!?」

 

 

そして今に至るというわけなんだが

 

 

長門の唇が俺の唇にしっかりと重なっている
予想外の事態に俺は思わず目を見開いてしまった

 

 

唇が重なりあったまま有機インターフェイスと目が合う
相変わらず無表情のままだった

 

 

突然の出来事に俺は少しばかり混乱しながら長門の肩を掴み、唇を離した

 

 

「その・・・なんだ・・」
何を言っていいのか分からなかった
そりゃそうだ
長門にキスをされて冷静でいられる奴なんか居ると思うか?
鎮静剤を百発射ったとしても俺の脳内に思い浮かぶ言葉は皆無と言っていいくらいでてこないに相違ない

 

 

「・・・」

 

 

一方長門はこれまたキツイ無言だ
仮にも接吻をした仲になってしまったのだから、何か言ってもらいたいものだ

 

 

一時の冷静さを取り戻した俺は無口無言の無表情娘に問い掛けた

 

 

「あー・・どうしたんだいきなり?」

 

 

俺の問い掛けに長門は視線だけを床に落としたのち

 

 

「・・・今のは誤作動」

 

 

と、力なく返事をした
どことなく困っているような表情だ
まぁ、俺以外のやつから見たら無表情そのものなんだろうが

 

 

「長門」
俺がそう呼ぶと長門はゆっくりと頭を上げた
視線は俺の胸元あたりに定まっている

 

 

「俺もなんだ」

 

 

俺の発言に長門は2、3回目をパチクリさせた後、数ミリほど横に首を傾げた
確かにこの一言で全てを把握するのは至難の技だ

 

 

「まぁこういうことだ」

 

 

そう言うと今度は俺から唇を重ねた
すっかり落ち着きを取り戻した俺は例にならい目を閉じた
よって長門の目が見開かれているのか否かは確認できない

 

 

数秒経過したのちに唇を離して目を開けると、いつもの無愛想フェイスの長門が俺の目の前に立っていた

 

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最終更新:2020年03月12日 23:33