キョン「ただいまー」

ハルヒ「足りたでしょ?」

キョン「あぁ。すき焼き肉1パック498だった。」

ハルヒ「広告に書いてあったでしょ?ちゃんと見なさいよね?」

キョン「いっちょ前に主婦じゃねぇか…ハルヒ。」

ハルヒ「ふふん♪」

キョン「なぁハルヒ、久しぶりに朝比奈さんたちも招待しないか?」

ハルヒ「いいわね~っ!じゃお肉足りないからもっかい買って来て~。はい1000円。」


キョン「…………」

俺はハルヒに渡された1000円を握り締め、近くのスーパーへいわゆるおつかいに来ている。
しかし二度目のご来店となるとさすがに恥ずかしいな。

俺は先程と同じ段取りでカゴにすき焼き肉を二つ放り込む。

「さて、」

お会計を済まそうとさっさとレジへ進もうとしたその時、何やら見たことのある二人がカートお押しながら仲良く並んでショッピングを楽しんでいた。

古泉とみくるさん夫妻だ。


全く…そのままジャスコかなんかのCMに出ればいいってくらいの美男美女だ。
どうせ後で呼ぶのもあれだしな、今声をかけておこう。

買い物カゴを持ったまま不審者の様に古泉たちの後を追い、声をかけた


「おい古泉。」

「なんでs…」


恐る恐る振り向いた二人の顔が俺を見た途端にいつものニヤケハンサム面と天使の微笑みに変わった。

「キョンくん!!」


声をかけた古泉よりも真っ先に返ってきたのはみくるさんのエンジェルボイスだった。


「おやおや、奇遇ですね。ハルヒさんはどうしました?」
「いや、ハルヒに頼まれた使いなんだ。」


このニヤケハンサム面を拝むのも何年ぶりだろう。
いやしかしまさかこいつが俺の中の永遠のアイドル(旧)朝比奈さんをモノにするとはっ!!
こいつめっ…!こいつめっ…!

などと考えてる場合じゃないな…。
早いとこ伝えておこう。

俺が事の説明を話しているとみくるさんは目を輝かせて

「いいですね~♪」

と言って古泉に同意を求める様な仕草をした。

「では僕たちも材料を買いましょうか。」


快く古泉は頷いた。


「肉はもうこれで十分だからな。あとは適当に野菜とかで良いんじゃないか?」

「そうですか。では、ビールとおつまみを見に行きましょうか。」

「だな。」

「じゃあ私はお野菜見てきますね♪」


そしてみくるさんは頭の上に「♪」でも出てきそうなくらいの足取りで青果コーナーへと向かった。

さすがにビールとおつまみ代を古泉…いやみくるさんに出さす訳にはいかないな。
少々痛いが乏しい俺のポケットマネーで賄うとしよう。

古泉と飲むのも成人して以来か…

酒やつまみを適当にカゴに放り込みながら古泉に話しかけた。


「なぁ古泉…」

「何ですか?」

「お前、成人式以来長門に会ったか?」

「いいえ。しかし毎年年賀状は送ってくれますし、さほど心配もしてなかったのですが…。」


そう、長門は毎年あのパソコンでうった様な文字で年賀状を送っては来るものの…それ以外に長門と連絡を取ることが無かった。
しかし年に一度の生存確認で大概俺とハルヒは安心していた。

何てったってあの長門だ。


今になっては「元」宇宙人だが。

今から約7年前、高校を卒業して1年たち、卒業後もしばらくは行われていたSOS団の活動も治まって、俺とハルヒは社会に程々に順応していた。
ハルヒくらいの頭なら大学へ行ってもおかしくないが…


ある日突然「キョンっ、一緒に暮らすわよっ!」な~んて言われた日にゃ俺もびっくりしたね~。
なんせあの不思議大好き野郎と暮らすんだからそりゃもう高校時代より疲れる生活が待っていること請合いなので俺も断ったんだがな…。

俺の安月給じゃ生活できんぞってな。
ところがあのハルヒは、「あたしも出すわよ、生活費くらい。」

最初自分の耳を疑ったがその後にまた俺の心の朝日新聞の一面を飾る様な一言がハルヒの口から言い放たれた。

「好きなのよ…あんたのことっ!!」

なんて強引な告白の仕方があるだろうか?


それからと言うものハルヒは気が強い普通な女の子となってしまったのである。

その時の古泉曰く、徐々にハルヒの世界を変える力は失われていっているらしかった。
「そうなれば僕の能力も無くなり、朝比奈さんや長門さんたちそれぞれの役目も終わります。」

両手を拡げそう言った後、俺は気付いた。
ハルヒを見守る必要が無いなら古泉を除いた二人はどうなるんだ?
古泉は元は普通の人間、まぁ朝比奈さんもそうだが、そうなると朝比奈さんは未来に帰り、長門は消えてしまうんじゃ…

「鋭いですね…」

ニヤケた面が真顔になった。
古泉と意見が合ったりするのは年に数えるくらいだが…
珍しい事もあるもんだな。

「おや、僕はただハードな青春を共にした仲間と離れたくないだけですよ。」

「あとどれくらいで無くなるんだ…?」

「保って2日といったところでしょうか?」

「行くか…!急いだ方がいいだろう?」

「わかりました。」

「僕は朝比奈さんに話をつけてきます。長門さんを頼みました…!」

「わかった!!」

急いで走って着いたあのマンション…
卒業した後も長門宅には行ってたからな、自宅はここで間いない!
急いでベルをならした。


………………………
出ない!?まさか…!

「長門!」

珍しく長門がエントランスから直接鍵を開けにきた。
少し目が潤んだ様に見えるのは気のせいか。

そしてゆっくりとエントランスのドアが開けられた。


「長門っ!話がある!!」

「………(コクン)」

「あのな、長門…」

「私もあなた達に話があったところ。」

「涼宮ハルヒの能力があと26時間42分8秒で失われる。だからお別れを言おうとした。」

「その事なんだがなぁ長門、俺はそうはさせないぞ…。」

「……。」

「いつだったか俺言ったよな?お前がもし情報なんとかに消される様なことがあったらハルヒに全部話して何としてでも見つけ出すって!」

「以前は私のバグが原因。でも今は任務が終わった。だから情報統合思念体は」

「長門っ!!」

俺が叫んだせいで長門が少し驚いた顔をした。
くそっ写メ撮っとくんだったぜ…

「結局はその親玉に消されるんだろ?そんなの俺は認めないぞ!!」


熱くなり過ぎたか、俺は長門の腕をつかんでいた。
その時、長門の頬をわずかな水分が滴った。


「だからな、長門。今からハルヒに全部話そうと思うんだ…。」

「…そう。」

俺は長門の腕を掴んだままハルヒの待つ自宅へと走った。

そしてマンションの前に着くと先に古泉と朝比奈さんが居た。

あとから聞いた話しによると、朝比奈さんは判りやすく荷物をまとめて準備していたという。

なるほど、この時すでに……っ!!!


「キョンくん、……ぅぇっありがとう~…!!グスン…。」

古泉の隣りの朝比奈さんの顔は涙でぐしゃぐしゃだった。


「では、行きましょうか。」

「おう。」

「ハルヒ!」

「なっ…何!?みんな揃って…!?」


いやぁ~あの時のハルヒの顔も見物だったね。
なんせみんな血相変えて走り込んで来たんだからな。


「いいですか涼宮さん、これから僕らが話す事は全て事実です。」

それから小一時間今まであった出来事を洗いざらい吐いてやった。
長門が宇宙人、朝比奈さんが未来人、古泉が超能力者でお前はとんでもない力を持っているという話。3人の役割、そして役目を終えた長門や朝比奈さんがいなくなると言う事を。

「有希を消しちゃうなんて許しがたいことだわっ。それにみくるちゃんも!団長の許可無しに未来へ帰っちゃうなんて駄目じゃない?!」

ハルヒの言葉を聞いた朝比奈さんはさらに涙の量を増やし

「涼宮さぁ~ん……」

声を荒げて泣き出した。
そしてハルヒから

「で、有希やみくるちゃんはほんとにそれでいいのね?」

と確認されると長門と朝比奈さんは頷いた。
やっぱり団長は頼りになるなと実感させられたときであった。

「有希、その能力はどうやって使うの??」

「心の中で、今まであなたが思っていた通りの私達を想像すればいい。私も協力する。」

そう言ってハルヒと長門は目を瞑り、念じ始めた。

しばらく瞑想していたハルヒと長門に割って入る様で悪いが俺は万能宇宙人である長門に最後の疑問を聞いてみた。

「すまんが長門、この後の歴史はどうなるんだ?」

「情報の操作は得意。今はそれも含め涼宮ハルヒに協力している。」

「そうか。そうだったな。」

「そう。」


それからややあって、長門は一言だけ俺に告げた。

「終わった。」


その場にいる全員の肩の荷が降り、朝比奈さん達はペタンと腰を下ろし、また泣き出した。
ハルヒは笑顔で俺に言った。

「こんな面白いこと黙ってたなんて信じられないわ!!今夜はみんなでキョンに説教よ!!」


その後俺とハルヒが住むマンションで「すき焼きを大いにた盛り上げるための涼宮ハルヒのキョンを説教する会」が行われた。

ハルヒが消えちまった後の鍋もうまかったがあの時のすき焼きも申し分ないくらいうまかったな。
前置きが長くなったがその後普通の女の子になった長門を成人式の日以来見ていない。
出るか不安だったが長門の携帯に何年ぶりかに電話をかけてみる。
………………
「…もしもし。」
「長門か?」
「…。」

恐らく受話器の向こうで頷いたのだろう。

「久しぶりだな。」
「…。」

あの、長門さん?受話器の向こうの頷きは俺には見えないから少しはしゃべってくれよな。

「…わかった。」
「変わらないな。」
「…そう。」
「今日俺んちにみんなを呼んでまたすき焼きでもしようと思うんだが。」
「くるか?」
「……行く。」
「そうか。ならもう古泉と朝比…みくるさんは来てるからな、待ってるぞ。」
「わかった。」

そう言って長門は電話を切った。

長門の家からここまでは電車で一駅、さほど来るのに時間はかからないだろう。

ハルヒとみくるさんも仲良くすき焼きの準備を……

「みくるちゃぁん!折角だから裸にエプロンやってみない!?」
「ふぇ~~!!」

ハルヒ!人妻バージョンのみくるさんも見てみたいのは山々だが夫の前だ!!自重せい!
おい、古泉、ニヤけてないでお前もなんか言え!

「変わらないのはあなたもハルヒさんも一緒ですね。」

とチラシのモデルから雑誌のファッションモデルに進化したスマイルで俺に言った。
しかたないな…。

「やめろ!ハルヒ!!一昔流行ったしゃぶしゃぶじゃ無いんだぞ!」

懐かしいな…まさか今になってこのやりとりをするとは。

「しゃぶしゃぶ?今はすき焼きを作ってるのよ??」
「わかってる!これ以上言わせるな!!」

古泉夫妻がそれをみて笑っていた。
古泉、後で覚えておけ。

「それは恐ろしいですね。」
こいついつの間にビール一本空けやがったっ!

「一樹くんは酔ったら手強いですよ?」

みくるさん、それはどう手強いんですか?

「ふふ♪禁則事項です♪」

人妻最高!……っ!?

「キョン?何鼻の穴膨らましてんの!?」

油断した…ハルヒを止めていた途中だった…

―ピンポーン―

するとチャイムが鳴った。
きっと長門だろう。
インターホンのモニターを覗き込む。



……………誰だ?

モニターの向こうには髪は肩まであり、
背は高くないもののスラッとしてて清楚な感じの女性が立っていた。

「なぁハルヒ、知り合いか?」
「有希じゃないの―??」

準備していたハルヒはエプロンで手を拭き、いそいそとモニターに目を向けた。

「すいませんどなたですか―?」

「…長門有希………………です。」

『ぇえ―っ?!!!!』

一同は驚きの声をあげ、俺を挟み込むかの様にモニターを我先にと覗いた。
みくるさん、肉の塊が…そして古泉、顔近いぞ。

「今開けるわね!!」

鍵を開け、進化した長門をリビングに招待する。
しかしこうも変わっちまうとちょっと畏まってしまうな。
「変わったな、長門。」
「そう?」
「背も少し高くなったんじゃないか?」
「あれから…少し伸びた…わ。」

伸びた…わ って…。
少し無理してるな、ここでは普通の長門でいいんだぞ?

「そう。」

「人ってのはこうも変わっちゃうもんなのね―。」

ハルヒは長門を珍しいものを見る様な目で長門を見つめる。
無理も無いがな…。
あの時は制服しか着てなかったし、今はan〇nにでも乗ってそうなくらいの美人だ。

「あれから何か変わった事はあったか?」
「特には。強いて言えば制服が入らなくなった。」

今のは長門なりのジョークだろう。古泉も相当ウケている。

「フフフ………ケラケラケラwwwwww」

ウケすぎだろ!いかん、こいつ完全に逝っちまってる。

「しかし突然そんなに変わられるとさすがの俺も驚いたな。」
「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイズに基本的な身体の成長は無かった。
あの時の情報改竄によりあなた達と同じ有機生命体になったことにより、今までの反動が訪れた。」
「よくわからんが人間になって遅れた分一気に成長したってことか?」
「そう。」

久々に長門の顔を見たが前の幼かった長門とは一転、ハルヒやみくるさんが居なければ確実に心魅かれていただろうね。

「ところで長門…前みたいに金に自由は利かないだろう?仕事とかしてるのか?」

元宇宙人に超現実的な質問をしてみる。
古泉は元機関とやらの誼で何かの研究をしているらしい。
かという俺はハルヒの紹介で夫婦揃ってA〇ショップの店員だ。
携帯ショップの何が悪い!
言っとくがハルヒのユニフォームの似合いようははんそk…話が脱線したな。

「ファッションデザイナー。」

!?

「有希―!すごいじゃない!?」
「長門さん昔から多才でしたもんね~♪」
「マッガーレ」
「こら古泉!スプーンを力ずくで曲げるな!!
しかし長門、専門学校とか行ってたっけ?」

今日日学生のバイト代で行ける学校なんてどっかのお笑い芸人養成所くらいだ。

「親玉から仕送りみたいなのがあったのか?」
「定期的に。その一部を蓄えていた。」
「そんなとこまでしっかりしてたんだな。」

そんな話をしながらビールをちびちびやっていた。

すると長門はハルヒ達のいるキッチンへと向かって行き

「手伝う。」

と一言言い、下準備を始めた。
あの時からようやく人並みの生活をできる様になったのか。
そういや表情に乏しく、この俺の眼力でようやく変化したのが伺えたあの長門だが、今は誰が見ても分かるだろう。
楽しそうだった。
笑いながら作業する美女3人を見ていると心から幸せだと思うね、うん。

「はたしていつまで続きますかね、永遠にこの状態だといいのですが…。」

いきなりマジに戻るな!空気読め!顔を近付けるな!酒臭い!!

「……。今我々はその長門さんの元親玉、情報統合思念体について研究しています。みくるさんにも手伝ってもらってね。」
「何?!完全に情報を操作したわけじゃ無かったのか?!しかもみくるさんまでそのいかがわしい仕事を…」
「えぇ。いくら前の長門さんでも何億年前の情報から操作するのは無理だったと思われます。」
「で、何かまずい事でもあったか?」
「もしあなたが大事にしていた息子をさらわれて、もうあなたのもとに戻らないと分かった時、あなたならどうします?」
「一生さらった奴をゆるさねぇな。」
「そうです。」

まさか…………。

情報なんとかがそんな子供思いのお父さんだったとはな。

「ということは、結果長門は情報思念体から千切られて無理やり人間にされちまったようなもんか…。」
「本人の意思もありましたし、無理やりという表現は正しくないですが。まぁそんなところです。」

そうだな、俺が長門の親ならあんな可愛い娘をさらった奴に制裁をくわえる。

「しかし今のところ、何の動きもありません。安心してもいいでしょう。」
「そうかい。ま、長門の親以上に怖いのがうちのハルヒなわけだが。」

なんだがまた俺だけ2Gくらいの圧力がかかったくらい体が重くなった。
飲み直すぞ、古泉。

「はいw」

「できたわっ♪」

そうこうしてるうちにすき焼きが出来上がったみたいだな。
ん~いい匂いだ。
さっきのことは一旦忘れて、今日はみんなの再会を祝してSOS団すき焼きパーティーだ。

そうだ、今度また不思議探ししないか?
駅前とかじゃなくどっかの温泉とかな…。

ん、うまい!!!




涼宮ハルヒのすき焼 ―完―

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最終更新:2020年06月12日 16:32