おっす、オラ谷口! 今度の話はオラが主役なんだ。マジカオスらしくてオラわくわくすっぞ!

満天の秋空のもと、俺の文化祭はスタートした。
こんな最悪の立地条件のこの学校にわざわざ他の学校の女子生徒が来るなんてことはめったにない。
このチャンス、逃すわけにはいかない……!
幸いこの俺には持って生まれたビューティフォーフェイスと数々の経験によって鍛えられた巧みな話術がある。

まして今日はさらに成功率を上げるべくマイスウィートヘアーのお手入れもばっちり。
ふふ、99%を100%にして事に望む男谷口。今日の俺に死角なーし!
たとえ火の中水の中草の中森の中土の中空の中あの子のスカートの中、俺の彼女をゲットだぜ!


「なんだ谷口にやにやして。気色悪い」
「まぁまぁキョン、今日のために谷口がどれだけ頑張ったか知ってるでしょ? 今日くらいは応援してやろうよ」
くぅっ……! なんだお前らそれでも友達か!?

てか国木田お前今「今日ぐらいは」って言ったな? いつもの付き合いは何だったんだよ、俺だけピエロかよ……orz
少し童顔でお姉様方に人気あるからって調子乗ってんじゃないぞこら。
ふん……まぁいいさ。お前ら見てろよ。今日俺はぁ! 至高の彼女を手に入れてお前らを見返してやるんだからな!

キョン、実は俺はお前のこと、羨ましいと思ってたんだ。
あんなに可愛い子たちに囲まれてアフターファイブを過ごしているんだからな。
だが今日から俺とお前の立場は逆転だ。言うなれば下克上。そうGEKOKUJOUだ!
せいぜい俺の可愛い可愛い彼女を見て悔しがるんだな!
「あーん、僕も文化祭で女の子と仲良くなれば良かったよーっ」ってな!

「キョン、国木田。俺はそろそろ大人の階段を登りにガラスの靴を履いた俺だけのシンデレラを探しに行こうと思う。
一応言っておくがお前らは来ないのか? いや、無理はしなくて良いぞ。
ただ二人組だったりしたらどっちか片方余ったりして女の子が可哀想だろ? 
だからどうしてもと言うならついてきてもかまわんぞ?」

「阿呆かお前は。どこにガラスの靴を履いた女子高生がいるんだ。
大人の階段を登る前に病院のドアをノックしろ」
「もーキョンってばなんでそんな酷いこと言うかなー。あ、ごめん谷口。僕も谷口の邪魔したくないし今日は遠慮しとくよ」
ふふ、そうか。まぁ俺は一人でも全然心細かったりはしないから大丈夫だけどな。
俺はそのまま二人と別れ、マイスウィートハニーを探す旅に出た。

「ああ! 財布忘れた!」
何たることだ。財布を忘れてしまうなんて。
これで下がる成功率は微々たるものだがそこは万全を期す男谷口、教室まで取りに行くことにした。
教室までの往復でロスする時間が惜しい。
まぁこれは浮かれていた俺を戒めるイベントだと思えばな。そう、文化祭はまだ始まったばかり!


「WAWAWA忘れ物~」
教室に着いた俺を女子が見つめる。はは、そんな目で見つめられちゃ恥ずかしいぜ。なんだい?
俺に言いたいことがあるなら言ってごらん?
「谷口あんたチャック開きっぱなし」

おおぅ! とんだミステイクだぜ。サンキュー、おちびちゃん。君のおかげで今夜は俺のシンデレラとフィーバーできそうだ。
「えーっと財布は……と」
今日の軍資金もGET! これで今度こそ谷口に死角なし! おや? なんか机の下に落ちてるぞ?
「なんだこれ? おみくじか? おーい誰かこれ知らねえ?」
教室からは知らなーいというやる気のない声が返ってくる。なら貰っておくことにしようか。
このおみくじ、振ったら穴から運勢の書かれたくじが出てくる仕組みになってるらしい。
今日のナンパが上手くいくかどうかでも占ってみようか。

震えるぜハート、燃え尽きるほどヒート! ここぞとばかりに俺はおみくじをシェイクした。出て来たのは……
『恋愛』
「おおっ! こいつは幸先いいぜ!」
そっくりそのまま恋愛。これは期待できるぜ。うららかな気分で廊下に出て行く俺。
しかし学園祭というのは普段より学内が慌ただしくなるもので。
各教室の忙しさを廊下から覗いてうちのクラスにやる気が無くて本当に良かったと思ったものだ。
もし何か出し物でもしようというものならばこんなにのんきにまわれなかっただろうしな。
廊下の曲がり角……そこで俺は立ち止まった。曲がり角というやつは運命の出会いを素敵に演出してくれる。
ここで可愛い女の子と出鼻にぶつかったりして

「きゃっ! 痛い……」
「すいませんお嬢さん。今手を貸します。……おや」
「え? なんですか? もしかして顔に何かついてます?」
「いえ、少しあなたの美貌に見とれてしまいましてね。どうです? ぶつかったお詫びにパフェでも奢りますよ」
「え……」(そんなこと言われるなんて……でもこの人かっこいい……)「それじゃお言葉に甘えることにします」

ふふふ、この完璧な計画。最高だ……! やはりこの谷口に死角なし!
さて、向こうからめぼしいターゲットでも来ないかチェックしてみるか。ふんふん、どうやらいいのはいないようだな。
さてどうしようか。ここで待ち続けるのも芸が無いし……

どーん!☆

「痛っ! って誰だよいきなり! 注意して歩けっての!」
後ろからの突然の衝撃に振り向くとそこに

俺の天使がいた。

「あーごめんごめん。ちょっと急いでたからさ。あ、手、貸そうか?」
俺は何も言えずにいた。俺の顔をまじまじと見つめるその顔はまさに天使。
さっぱりと切られた短い黒髪は艶やかに輝き、ほのかに石けんの香りを漂わせている。
他校の生徒かと思いきや、着ている制服はこの学校のものだった。
谷口ランキングもまだまだだな、こんな上玉を見逃してたなんて。

「あれ? どうしたの? ボクの顔に何かついてる?」
しかもボクっ子! これは天然記念物もんだぜ!
「いや、なにもないです。あ、そちらは大丈夫ですか?」
「ん、ボクはなんともないよ!」
ああ、その笑顔、百万ドルでも足りないぜ。
「ねぇ君、今ヒマ? もしよかったらぶつかったお詫びになにか奢るよ」
「いえいえそんな。俺がボーっとしてたのが悪いんですから」
「いやいや、ここは年上の顔を立てさせてよ。いいっしょ?」
そこでニコリと笑うなんて反則っすよ先輩、先輩、いい響き……
「それじゃ……お言葉に甘えさせてもらいます」
「うん、後輩は素直なのが一番だよ。あれ? これ君の?」

そう言って先輩が差し出したもの、それはさっき拾ったおみくじだった。
これで恋愛出た途端にこれだもんなぁ……いいもん拾ったぜ!
「へぇ、これおみくじなんだ? おっ、ぶつかった拍子に出てるよー。
なになに? 『バトル』? 変なおみくじだねこれ」
なんか嫌な予感がするのは気のせいでしょうか?
「さ、行こうか君。ちょっとボク急がなきゃいけないんだよね。……いや、遅かったや」

俺たちの前に現れた一団。ここまでくればお約束。バトルの時間だ。数は十人……先生、逃げ道が欲しいです……orz
「松山忍、早くこちらに投降せよ、これは交渉ではない、命令だ」
「まったく……せっかくの文化祭なのにさ……ボク怒っちゃうよ?」
「繰り返す、松山忍、早くこちら……ふおっ!?」
松山先輩は怪しい一団の中に突っ込むと激しい肉弾戦を始めた。
彼女の手足が集団を駆け抜ける毎に屈強の男たちが一人、また一人とどんどん倒れていく。

「くそっ! さすが『死の旋舞』……手を出せばただではすまないか……」
おいおい、なんだよ死の旋舞? そんな非日常系は俺の周りにはいらないっつーの。
可愛い彼女さえいればそれでいいんだってば。しかしそんな俺の願いと裏腹に戦闘は熾烈の激化を極める。

「ふふふ、楽しいなぁ『死の旋舞』!? お前と敵味方でやりあうのも久しぶりだぜぃ!」
「ボクはあんたなんかには二度と会いたくなかったけどね! ボクの日常を壊すな!」
人外だ……人外がここにいる。既に俺の目では彼らの動きは捉えられない。
実況の谷口さーんなんてスタジオから振られても困るわけだ。
いやいや、そんなこと言ってる場合じゃない。松山先輩は惜しいが命より惜しいものはない。
さっさと逃げ出すことにしよう。

「待ちな坊主。お前にはまだ働いてもらう」
ひ、ひぃーっ!? いつの間にか俺にも魔の手は伸びていたのか!

「おい『死の旋舞』! こいつがどうなってもいいのか!?」
「君……! 仕方ない、か。一般人を巻き込むなんてプロの仕事じゃないからね」
「フフン、お前にプロ意識なんてあったのか? 無邪気な顔して戦場を駆け抜けていったお前の姿、今でも目に焼き付いてるぜぇ」
くそっ……! いくら俺がヘたれでも松山先輩の足手まといにはなりたくねぇっ!……そうだ! おみくじ! こいつにかけるぜっ!

からから……

『カオス』

カオス……! ここでこれかよ。まぁ今の状況を打破するには仕方ないか?
その時俺の耳は捉えた。この地獄に近づいてくる足音を。更なるカオスをもたらす音を。
「ふふふ、あたしだよ。意外だった?」

この絶体絶命九回裏ツーアウト八点差みたいな最悪な状況に現れた代打打者、その名は朝倉涼子。
「な……! 朝倉っ!? お前なんでいきなり出て来るんだよ!?」
いつの間にか消えてしまった朝倉。突然出てくるなんてこれは夢か?
「えへへ、お久しぶり。元気だった?
誰に呼ばれて出てきたか、カオスを求めるその場所に、いつでもどこでも駆けつける。
カオスの使者朝倉涼子、情

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最終更新:2020年06月13日 09:42