ふぁーあ。つかれた。
この世界史の先生、いっつも一気に板書するのよね、黒板一枚分も。
そのあとすぐに話をしだすけど、その頃皆は、ノートをとるので一生懸命。
話を聞けてるのなんて、涼宮さんくらいなのに。
もうちょっと、板書の後に時間をおいたほうが良いと思うのよね。
 
私は伸びをしながら、ちらっと涼宮さんの方を見やる。
涼宮さんの席は、窓側の一番後ろの席。
その前の席は、えっと、皆、本名で言わないから分からないけど、キョン君ね。
この席は、最初に席替えした時から変わんない、この2人の特等席。
毎回くじ引きで決めてるはずなのに。
偶然って続くものなのね。
チョンチョンと、涼宮さんがキョン君の背中をシャーペンでつついてる。
キョン君は慣れた風な顔つきで、後ろに振り向いてる。
何を話してるのかな?
涼宮さんは、満面の笑みを浮かべてキョン君に話しかけてる。
他の人と話すときは、あんな顔しないのにね。
あ、でも私がSOS団に依頼に行ったときも、こんな笑顔をしてたかも。
 
皆、涼宮さんとキョン君はお付き合いしてるって噂してるけど。
うーん、やっぱりそうなのかな。
確かに、あの感じは、単なるお友達には見えないけど。
でも、恋人同士って言うと、ちょっと違う感じがするのね。
どうなんだろう。ほんとのところ。
でも、直接聞いてみても、涼宮さんなら、
 
「え?そんなわけないじゃない。誰から聞いたのよそんなデマ」
 
…きっと、こんな感じなのね。
 
……あ、先生の話全然聞いてなかった。
でも、途中から聞いてもよく分かんないし。
それにこの先生の話って分かりづらいし、聞かなくても大丈夫よね。
板書で疲れたし、もうちょっとぼーっとしとこう。
…次の時間は体育かぁ。
 
体動かすのは好きだけど、今やってるテニスはちょっと苦手なのね。
何で、涼宮さんはあんなに上手くできるんだろう?
球技大会のバレーの時もそうだったけど、部活入ってる人と比べても、
あんまり見劣りしないってのはすごいと思うのよね。
今も、練習ですごいフラットショット打ってるし。
あの速さの球は、テニス部員でも取るのは難しいんじゃないかな?
 
でも、それなら長門さんもすごいかも。
涼宮さんがものすごい速さで打った球を、平気でボレー出来るんだもん。
あの反射神経はすごいと思うのよね。
それに、ラリーでは絶対にミスしないし。
見た目と違って運動神経もいいのよね、長門さん。
 
あ、次は私の番なのね。
よーし、今日はこれからダブルスの試合だし。
気合入れなきゃなのね。
 
えっと、私のペアは…
あ、この人って、隣りのクラスだからよく知らないけど、多分テニス部の人ね。
練習の時も、他の人より明らかに上手かったから。
これなら、かなり勝てるかも。
やっぱり、現役の部員と組むと違うのよね。
 
「よろしくねー」
「こちらこそ」
「相手のペアしってる?」
「…涼宮さんと、長門さん」
 
「ユキ!授業だからって手抜いたらダメよ!SOS団員は、
SOS団での活動中じゃなくても、敗北は許されないんだからね!」
「………」
 
…えっと。
これは、かなりきびしい試合になりそうなのね。
 
「足、引っ張っちゃうかも知れないけど、許してね」
「大丈夫。私がフォローするから」
「…うん。お願いね」
 
「あら、阪中さんじゃない。あなた達が試合相手?
ふーん…知り合いだからって、手は抜かないわ。覚悟しなさい!」
「うん、よろしくね」
「じゃ、早速やりましょ。表?裏?」
「表」
 
涼宮さんが、ラケットを地面に立ててくるくると回す。
からん。表。
 
「じゃ、こっちサーブね。ユキ!いくわよ!」
 
そういって、彼女はバックラインまで歩いていく。
レシーブはわたし。
正直、あんまり取れる気がしないのね。
 
「せいっ!」
 
スパァン。
 
うん。
これは、どう考えても無理なのね。
 
「あれはしょうがないよ、あんなサーブ素人じゃとれないって」
 
次は彼女のレシーブ。
この人なら、涼宮さんの殺人サーブもとれるのね。
 
わたしは、真ん中のラインに立った。
長門さんも、私と同じように立って、レシーバーの彼女をじっと見ている。
涼宮さんがサーブ体制に入る。
トスをあげて、
 
パァン!
パァン!
ぱこん。
 
気がつくと、長門さんがネットの前にいて、ボレーを放っていた。
 
「さすがユキ!ナイスボレー!」
 
えっと、私には、長門さんがネットの前に瞬間移動したように見えたのね。
それに、サーブの速度もすごかったけど、レシーブの速度も相当だったのね。
あれを表情一つ動かさずにストップボレー出来る長門さんは何者?
 
このペア、テニス部で3ヶ月ほどしごかれたら、きっと全国制覇できるのね。
 
「ふっふーん、私とユキが組んだらこんなもんよ!」
「………」
 
結局、1ポイントも取れなかった。
涼宮さんの殺人サーブ、殺人ショットもひどいけど、
一回も読み負けない長門さんのポーチがそれ以上に反則なのね。
ラリーが2往復以上しないのって、既にテニスじゃないと思う。
 
「さ、ユキ!この調子で、全員叩きのめして頂点に立つのよ!」
「………」
 
コートの隅で私のペアが泣いてるけど、かける言葉が見つからないのね。
 
体育が終わって、お昼休み。
私たちはいつものメンバーと机をくっつけて、お喋りしながらお弁当を食べていると、
 
「なあキョン。お前、まだ涼宮とつきあってねえのか?」
 
谷口君の発した一言で、ピタリと私たちの会話が止まる。
他の女の子のグループからも話し声が止んだ。
教室が、わずかに静まり返る。
やっぱり、女の子はこういう噂が大好きなのね。
そういう私も立派な女の子。
キョン君と谷口君と国木田君の話を、聞き漏らさないように意識を集中。
 
「前も言ったが、俺は涼宮と付き合う予定もなければ、付き合ってもいない」
「何だ。つまらん」
 
そういって、3人とも弁当を口にかき込む。
私の隣の子が、ちっと舌打ちしたのが聞こえた。
ていうか、クラス中で聞こえた。
そりゃそうなのね。
キョン君にそういう質問をしたら、さっきみたいな回答がくるのは分かってるもの。
もっと突っ込んだ質問をして、キョン君の反応を見ないとだめなのに。
谷口君、使えないのね。
 
「でもさ、もうすぐ僕たちも進級して2年生になるわけだし。
そうなると次も涼宮さんと同じクラスになるとは限らないよ?」
 
ナイス国木田君。私たちはそういう質問を待ってたのね。
 
「そうそう、俺もそれが言いたかったんだよ」
 
黙れ谷口、と私の向かいの子が低く呟く。
キョン君は、ごっくんと口の中のお弁当を飲み下して、
むう、と少し腕組みをして考える素振り。
 
「確かにそうなんだけどな。俺は、ハルヒとはまた同じクラスになる気がしてならんのだ」
 
左隣の子が、きゃあ、と小さな悲鳴を上げる。
私も声を上げたい気分。
だって、これはどう聞いても、ラブラブのバカップルの言葉にしか聞こえないのね。
 
「なんだそりゃ。何の根拠もないのか」
「うーん、でも実際、涼宮さんとキョンって、席替えで毎回同じ席をキープしてるんだよね。
それ考えると、確かに、次も同じクラスになるような気がするよね」
「ん?でも、この学校って、2年から進路でクラス分けするだろ。お前、涼宮と進路同じなのか?」
 
「ああ。俺もあいつも、国公立志望だ。お前達と同じだな」
「そうか。確かにあいつなら国公立だろうとなんだろうと、どこでも受かりそうだな」
「でも、キョンは大丈夫なの?成績そんなによくないでしょ」
「まあな。しかし、いざとなったらハルヒが家庭教師してくれるらしいし、なんとかなるだろ。
あいつ、頭もだけじゃなく教え方も上手いからな。」
 
「きゃー」
あ、声漏れちゃった。
でも、さすがにこの発言は驚きよね。
これってつまり、涼宮さんがキョン君と同じクラスになるため、
更には、同じ大学に行くために、キョン君に勉強を教えるってことよね。
で、キョン君は涼宮さんと同じクラスになるため、
更には、同じ大学に行くために、勉強を頑張るってことよね。
少女漫画みたいな展開じゃない。
 
うん。
やっぱり、涼宮さんってキョン君って、お互い相思相愛よね。

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最終更新:2020年09月01日 01:36