人間は恐怖を感じるとそれを「恋」と勘違いすることがあるという
別にそれが悪いなんて言うつもりはない

だがしかし、その恐怖を作り上げた原因が俺をデートに誘うとは何を考えているのだか
刺そうとはされたがまさか誘うとは、この世の中はなに起こるかわからないものだ


「私は、人間が言う“死”っていうのが良く分からないんだけど……

「フフフ、美人な優等生って役なら、恋もしてみたかったなァ……

「こうやって自分が消えていくことを感じてると色々考えられるものね……

「あら?……そう…あと5時間、私は猶予を貰えるの?……

気がつくといつもの席にいつものように座っていつものように授業を受けている
だが、ついさっきまで命を狙われていた記憶があり、その記憶は決して夢ではないはずだ
一体いつの間にもとの教室に戻ったんだ?
今は5時を過ぎていたはずだが…確認しようにも教室の時計は電池が切れたのか止まっている

……俺の手首にある時計は6限終了5分前をしめしていた

……そして、後ろにいるはずのハルヒの席には誰もいない……


6限も終わり部室へ向かうための準備を始める

「キョン君?早くかえりましょ、今日は特別な日だから」

急に横から声がかかる
俺はその声に驚き、驚きすぎてか俺は動けなかった

「あ、朝倉?」

正直俺の声は裏返っていたと思う

「?どうしたのキョン君、早くかえろ」

何が起こったのかわからないまま朝倉に手を引かれ俺は教室を出て行くこととなった

「貴方、さっき声が裏返ってたけどやっぱり命を狙われた後だから?」

朝倉は笑いながら話す。まぁ答えは「はいそうです」以外にはないわけで。やはりさっきの声は裏返っていたか

「ふふふ、私ね最後のお願いが叶えてもらえることになったの。信じられる?ただのインターフェースごときが感情を持って、願いを言って、……笑えるわよね」

朝倉は笑顔だが、どこか物寂しい表情をしている。今までの笑顔は作り物だったのかもしれない
ところでどんな願いを叶えるつもりなんだ?朝倉は、最後の最後に俺を殺したいとか言うんじゃないだろうな

「この世界は貴方を除いて、全て私が考えて、想像した世界。だから凉宮ハルヒも長門有希、あとそうね朝比奈みくるも含めて邪魔者は誰もいない。
凉宮ハルヒがいないから貴方を殺す必要もない。命だけは心配しなくても大丈夫よ」

コイツは一体何を言っているんだ?想像した世界?邪魔者はいない?全くハルヒと関わってからろくなことがない気がする

「邪魔者がいないから貴方は私の言うことを聞くしかない。それだけ分かっていただけたかしら?」

朝倉、一体お前は俺に何をさせたいというんだ?
何の能力も持ってない一介の高校生に何を求めるんだ?

「私に与えられた時間はあと4時間39分22秒、単刀直入に言うから聞き逃さないでね?」

「 あと4時間…私とデートして 」

耳の掃除は3日に一度は 行った方がいいのだろうか
そんな疑問が浮かんでいる俺の顔色を察したのか朝倉は眉にしわをよせながら喋り始める

「インターフェースの一体が一人の人間に特殊な感情を抱きつつある
凉宮ハルヒの監視を目的としてるはずなのに、ある意味バグが発生している
そんなバグをもってしまった長門有希に私は消されてしまう
だったら最後にその優等生にちょっとちょっかいを出してあげようと思うの」

長門が、俺に特別な感情?それは本当なのか?

「ふふふ、期待してるのね。でもこれから4時間は私の恋人として色々回ってもらうから、そんな不必要な情報は忘れてね」

最初の曇った笑顔がウソのように晴れ晴れとしていた
現状は把握しきれていないが後4時間というのが鍵だと言うことと、俺に命の危機がないことは理解した
元の世界に戻れないのであれば谷口曰くA+の女の子とのデートを楽しもうではないか


いやA++?AA+だったかもしれない……まあそんなことは関係ないか



「ねぇ、人間はどうしてこういうものを欲しがるのかしら?私には理解できないんだけど」

ジュエリーショップの中で朝倉はこんなことを言い始めた
どうやら朝倉は「どうせ消えるのであれば、人間らしい恋をしてみたい」ということらしいが
その人間らしい恋が何かわからないらしい
俺としてはこんな美少女が純潔を保ち続けているということに驚きだか、まぁ宇宙人だしな

「ふぅん、なんだかよくわかんないわ」

いろいろと朝倉は見て回っている。こういった店に入るのは初めてらしい
デートだというんだから俺は何か買ってやるべきなのだろうが、買ってしまったら今月は結構きついことになる
いやこれは朝倉の想像の世界なんだから、結構現実に戻れば所持金は減っていないのかもしれない

「朝倉、ちょっとこっちに来い」

はてなと言う表情を浮かべながらやってきた朝倉の首にネックレスをかける
朝倉は眼を見開いて驚いているが、結構似合ってるじゃないか
財布の中身、7割強を定員に渡し、ネックレスを購入する

会計をすましている間、首にかかった白銀のネックレスを朝倉は嬉しそうに撫でていた
こんなことでいいのか?そう思うがうれしそうなのでよしとしよう

「デートのときは遊園地だっけ……よし、じゃあ出発しようキョン君」

朝倉さん……元気なのはいいですが…やっぱり電車代も俺持ちですよね……

遊園地への移動は意外と楽だった。普段の三分の一ほどしか乗客もおらず二人とも座席に座ることができた

「恋人同士が、こうやって座って相手の方に頭をよりかけてたっけ……」

何かのドラマの話だろうか、朝倉は俺の方に頭を載せてくる
普段なら人の眼を気にしていただろうが、今日はそれほど気にならない
気にはならないが自然と顔がほてってくる
十何年生きてきてこんな風に電車に乗ったことはなかったからだろう

目的地に着くまでの間、朝倉はずっと俺の肩に寄りかかっていた……

「私はこういうことは良くわからないから貴方が案内してね」

遊園地を前にして主導権が俺に譲られた
いや譲られてはいないが、これはどうやらエスコートしてくれということらしい……多分
とりあえず財布をさらに貧しくして2枚のチケットを購入する

「これが最初で最後なのね……」

改札を通る朝倉の後ろ姿がとても寂しそうに見える
俺は走って追いかけていき、ちょっと後ろから抱きしめてみる
まああれだ、泣きじゃくる子どもをあやす感じ、そんな感じで

「……バカ」

朝倉は小さい声でそうつぶやたが、その後も俺を振り払おうとはしなかった

それから3時間、朝倉と俺は二人で遊園地を楽しんだ
朝倉が本当に楽しかったかはわからないが、いつものように太陽のような笑顔を振りまいている
その笑顔を見ているだけで俺もなんだか楽しくなってきた

途中、アイスクリームを二つ購入する、もちろん男として買ってやらぬわけにはいくまい
朝倉には苺を買ったのだが半分ほど食べてから「やっぱりバニラがいいな」といって俺の食べていたアイスを奪い取っていった
これはあれか?世間で言う間接キスというあれか?
朝倉は何を考えているのかわからないが、特に気にしてはいないようだ
とてもおいしそうにアイスを食べる横目に空いた手に渡された苺味のアイスをかじる

バニラもいいが、苺も結構おいしいじゃないか。

「もうそろそろ時間がないや」

朝倉は遊園地のメインである城の前でそういった
そういえばいつのまにか日が落ち、周りのイルミネーションがきらきらと光っている

「キョン君、女の子ってこんなデートをするのかな?」

恋愛経験がないのはお互い様だ。もっとも俺にはお前のように恋愛をしない理由などなかったが

「……最後にもう一つだけお願いがあるの」

今日1日で何度か見た、少しさみしそうな笑顔
そうか、朝倉はこのままいなくなってしまうんだっけか

「デートの最後って何をするのかな?」

少しおどけたように疑問文が投げかけられる
この雰囲気から考えれば「キス」ってことになるのか?

一応言っておくが俺にはそんな経験は全くないということだけ報告しておこう

ここで断る理由は俺にはない
別に今現在で付き合っている彼女と呼べる人間もいないし、特別俺に好意を抱いている人間がいるとも思えない
それなのに、俺の前に好意を抱いてくれているであろう美少女が一人
その感情が本物であるかはわからないが、高校生という思春期真っ盛り人間にとってはここは考える必要はないだろう

しかし、どうも最後の一線を踏み越えることができないでいるのはなぜだろうか
さっきはいかにも当然のように後ろから抱きつけたというのに

「……やっぱりダメかな?私じゃ」

いやいやいや、とんでもない。断る理由なんかひとかけらもない
…はずなのだがなぜか進めないのも事実なのだ

「そうよね、つい5時間前命を狙われた相手だもんね……」

ああ、そういえばそうだった気もするが、いまでは幼稚園のときの記憶よりもはっきりしていないぞ

「この5時間で、今までの3年以上に沢山のものを得られた気がする。もちろん私以外には一握りの価値もないけど
それでも私には大切な記憶……」

喋る朝倉は俺を見ているようで、しかしどこか遠くを見ている

「キョン君、ちょっと眼を閉じて」

朝倉の手が顔に覆いかぶさってきた
普通、顔に何かが近づいてくれば体を後ろに下げたり、振り払ったりするのだろうがこの時は何の抵抗もせず朝倉が言ったように眼を閉じる……


………
………………

「ふふ、本当に今日はごめんね。でも多分、楽しかった」

これから消えるというのに、目の前の少女は屈託のない夜のイルミネーションにも負けない笑顔で微笑んでいる
なぁ朝倉、お前は本当にこんなんでよかったのか?

だんだんと視界が白くぼやけてきた
最初にいった「想像の世界」ということの意味がようやく分かった
朝倉が消えれば、ここもまた一緒に消えていく


はっきりしない感覚の中でさらにはっきりしない声を聞いたような気がした

「……本当にありがとう……」

その先の記憶は全くない






エピローグ?

気がつくと俺は部室で寝ていた
時計を見るとそろそろ5時になろうとしている

「変な夢を見たな」

そういえば、変な手紙をもらっていたんだっけ
いったんその場で伸びをして、教室へと向かっていく


その後、朝倉に命を狙われたり、谷口に誤解されたり色々あったりした
その上、財布をどこかに落としてしまう

財布は次の日見つかったが案の定中身が9割ほど盗まれていた。皆も財布は落とさないように気をつけよう


  終わり

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最終更新:2007年01月15日 01:12