高校を卒業後、SOS団は自然と解散という形になった。
古泉は、卒業と共に機関を脱退、大手不動産会社に勤務し、
みくるはキョンとハルヒを見守る為、「現代」の時間に留まることを決意。
そんな二人の再開はひょっとしたことからだった。

「え、えぇと・・・ここかな」
みくるは大きな建物の前でウロウロしていた。
「ふぅ・・・なんか緊張しちゃうな」
みくるはある決意をしていた。
鶴屋さんに譲ってもらった空き地に、みくるは小さなカフェを経営すると言う大きな博打に出ていたのだ。
そしてその土地についていろいろな手続きをしかければならないらしく、みくるは鶴屋さんに紹介された不動産会社に来ていた。
「こんなところでモタモタしてたら・・・頑張れみくるっ!」
みくるは深く深呼吸し、大量の書類を抱えてビルの中に入っていった。

「こ、ここでいいのかな?」
みくるは受付らしきフロアに来ていた。
「ん~と・・・あ、すみません」
みくるは通りがかった社員らしき女性に話しかける。
「何でしょうか?」
「え、えと・・・この書類の申請は・・・どこですればいいんでしょうか?」
みくるは恐る恐る社員に書類の束を見せる。
「あ、こちらでしたら六番受付の方で・・・」
「は、はい!ありがとうございます!」
みくるは深々とお礼をする。
「ふぅ・・・わ、わわっ!」
バサッ
突然、大量の紙が床一面に広がる。
みくるはあまりにも深く礼をしすぎたせいで、紙を手元から落としてしまったのだ。
「だ、大丈夫ですか?」
社員の女性が心配そうに聞く。
「あわわわッ!す、すみません」
みくるは慌てて辺り一面に広がった紙を広いあげ、顔を真っ赤にした。

「どうかしましたか?」
みくるが紙を一生懸命拾っていると、男の声が聞こえてきた。
「な、なんでもないです!」
「あ~あ、こんなにたくさん・・・ほら、手伝いますよ」
みくるは照れ隠しに拾う手を早めるが、さらに紙が散乱するだけだった。
「だ、大丈夫ですから!」
「フフッ、大丈夫そうには見えませんよ?朝比奈さん」
「・・・え?」
みくるは自分の名前を呼ばれたことに驚き、とっさに後ろを振り返る。
「こ、古泉君?」
「どうもお久しぶりで」
そこにいたのは爽やかな微笑を浮かばせていた・・・古泉一樹だった。

ーオフィスー
「どうして小泉君が?」
カチャカチャと忙しくタイピングしている古泉に、みくるは質問した。
「おや、鶴屋さんから聞いてなかったのですか?」
「鶴屋さん?」
「えぇ、先日連絡が来ましてね。朝比奈さんが土地の譲渡契約をする為に当社を訪れるから、詳しいことは僕に任したって」
「あ、あぁそうなんですか」
みくるはすこし恥ずかしい気がした。
古泉とはあまり仲良くはなかったが・・・目の前にいる彼は、高校の時とは違う魅力を持っていた。
「へぇ、カフェを経営なさるんですか?」
すると突然古泉が質問してきた。
「は、はい!」
「羨ましいな。自営業なんてそうそうできるものではないですしね」
「はぁ・・・」
「もし完成したら、お伺いしてよろしいですか?」
古泉はいつもの笑顔をみくるに向けて、スッと書類を渡す。
「は、はい!喜んで」
「ハハ、楽しみにしてます。ではこれが・・・」

その後、みくるは古泉に案内され、思ったより早く契約が終わった。

「じゃあ今日は・・・古泉くん、ありがとう」
「いえいえ、僕は社員ですから。それに朝比奈さんとは旧友ですしね。困ったことがあったらなんでもお話ください」
「ふふ、じゃあ、また今度」
みくるは古泉に小さく手を振ると、その場を離れていった。

「なんだか・・・古泉君、変わったなぁ」
みくるは小さな溜め息を漏らすと、少し早歩きで自宅へ向かった。

その後、みくるのカフェは鶴屋さんの力であっと言う間に完成した。

「鶴屋さん、その・・・いろいろありがとう」
「あははは!何を今さら!気にすることないさー」
「フフ、本当にありがとね」
「また困ったことでもあったらいつでも電話しな!」

鶴屋さんはそう言うと完成したカフェを見上げ、うんうんとうなずく。

「じゃ、私はこれで帰るわ!開店式の時はちゃんと呼びなさいよっ」
「開店式って・・・フフ。うん、またね」
「へへっ!ばっはは~い」

鶴屋さんは大きく手を振り、小走りで消えて行く。

「・・・あ、そうだ。古泉くんに連絡しないと」

みくるは鶴屋さんがいなくなったと同時に古泉の顔を思い出す。


プルルルプルルル

ガチャッ

「はい古泉です」
「あっ!え、えと、朝比奈です」
「朝比奈さん?」
「その、お店が今日完成したんで・・・」
「そうなんですか。ずいぶん早かったですね」
「それで・・・今、お暇ですか?」
「え?」
「えっと・・・その、お茶でもどうかなって。お世話になったし」
「まぁ暇ですが」
「じゃあ、良かったら来てくれませんか?」
「ハハ、じゃあお伺いします」
「は、はい。待ってますから」

カランカラーン

「あっ」
店内にベルの音が鳴り響くと同時に、スーツ姿の古泉がカフェに入ってきた。
「どうも」
「い、いらっしゃいませ!」
みくるはぎこちなく古泉に接客をする。
「ハハ、そんなに気を使わなくていいんですよ」
古泉はそう呟き、近くの椅子へと座った。
「え、えと・・・」
「ん?どうかしましたか」
「そ、その・・・こっちで一緒に・・・」
みくるはカウンター席の方を、おずおずと指差した。
「ハハ、そうでした。朝比奈さんを一人にしては失礼ですよね」
古泉は素早く立ち上がり、微笑しながらカウンター席に向かう。
「そ、そんなことは・・・」
「気にしないで下さい。っと」
古泉はカウンター席に腰掛けると、となりの椅子を手で引く。
「どうぞ」
「あっ、えっと・・・失礼します」
みくるは少し戸惑いながら古泉の隣に座った。

「それにしても・・・ずいぶんご立派なお店ですね」
古泉はみくるが差し出してきたコーヒーを飲みながら呟いた。
「そ、そんなことないですよ?」
みくるはカップを見つめながら顔を赤らめる。
「・・・フフ、朝比奈さんはすごいですね」
すると突然、古泉はみくるの顔を見つめながら呟いた。
「ふぇっ!?」
突然のことでみくるは間抜けな声を出す。
「ハハ、そんなに驚かなくても」
「す、すいません・・・」
「しかし、この時間に留まるなんて・・・僕には想像できませんよ」
「わたしは・・・キョン君と涼宮さんを見守らなきゃダメなんです」
みくるは少し悲しそうに呟く。
「なぜそこまでして?」
「そ、それは・・・禁則事項です」
古泉はそれを聞くと少し微笑みながら
「まぁ僕も涼宮さんの動向は気になりますよ」
と呟き、視線を前に戻すとコーヒーを一口飲む。

「でも、僕はもうあの二人に干渉はしません」
「・・・?」
「あの二人も大人の付き合いをしていますしね。僕が干渉したところで何も良いことは起きません」
「・・・」
「長門さんもそれに気付いてます。あとは・・・あなたの理解次第です」
「・・・古泉君?」
「はい?」
「古泉君は・・・涼宮さんのこと・・・」
「・・・」
「そ、その・・・言いにくいんだけど・・・」
「好きでしたよ」
「!?」
「しかし、キョン君には敵いませんでしたよ。まぁ涼宮さんが僕のこと眼中にないってのは気付いてましたけどね・・・それでも少し残念でした」
「(私は・・・キョン君のこと・・・)」
「・・・どうかしましたか?」
「へ!?な、なんでもないです!」
「ハハ、本当に朝比奈さんは変わりませんね」
「そ、そんなことないですよっ!」
「まぁそういうことなので・・・お互いあの二人には干渉せず、暖かく見守りましょう」
「・・・(コクリ)」

一時間後・・・
二人は高校のときの思い出などを談笑し、そこそこ盛り上がっていた。

「っと・・・もうこんな時間ですか」
「あっ、そうですね・・・」
「ではこれで失礼しますね。コーヒーご馳走様でした」
「・・・あ、あのっ!」
「はい?」
「その・・・また来てくれませんか?」
「?」
「え、えと・・・その・・・」
「フフ、わかりました。またご馳走させていただきますね」
「は、はいっ」
「それではまた」
「あ、ありがとうございました!」
古泉はいつもの笑顔でみくるを見直すと、小さく手を振り、店から出て行った。
「・・・はぁー」
古泉を見送り、みくるは誰もいない店内で深く溜め息をついた。



「古泉君、やっぱり涼宮さんのこと好きだったんだ・・・」
みくるはコップを洗いながら呟く。
「なんだか・・・少し寂しそうだったなぁ」

「・・・古泉君かぁ・・・」









「一樹くん、ご飯ですよ?」
みくるが楽しそうに古泉に話しかける。
「あぁ、もうそんな時間ですか」
「ふふ、ボーっとしちゃって。何読んでるの?」
「あれ?まだ見てないんですか?」
古泉はみくるに一枚のハガキを見せる。
「?」
「これ。キョン君と涼宮さん、結婚するらしいですよ」
「えっ!?ほ、本当にぃ!?」
「ハハ、まぁこの二人なら上手くやっていけそうじゃないですか」
古泉は少し笑い、ハガキを自分の手元へ戻す。
「うわぁ・・・いいなぁ・・・」
みくるは顔を真っ赤にして口を両手でふさぎ、そう呟いた。
「みくるさん?」
「わわっ!そ、そうご飯!ご飯食べよ?」
みくるは慌てながら食器を運ぶ。
「フフ、みくるさん、少しおかしいですよ?」
古泉はそう呟きながらみくるに近付く。
「お、おかしくなんかないです!」
「顔、真っ赤ですよ?」
古泉は笑いながら、みくるの頭の上に静かに手を置く。

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最終更新:2007年01月15日 01:07