「キョン、ぐずぐずしてないで早く来なさいよ」
 
「うるさい、分かってるよ」
あいつはこの坂道で何でこんなに元気なんだ。
 
「高校の通学路の方がきつかったでしょ、この程度余裕よ」
 
くそっ、高校の通学路の方がまだマシだった記憶があるぞ。
それとも俺が年取ったって事か?いや、まだそこまでは…
 
「あんた、体力落ちすぎよ。情けないわね」
 
「お前みたいに涼しい格好じゃねぇんだよ。しかも駅から距離があり過ぎるだろ
だからタクシーで行こうって言ったのに」
 
「この程度でタクシーなんてホントに情けないわ、それでも団員一号なの?」
 
団員か、懐かしい響きだな。SOS団は既に有名無実だ。ハルヒから団員という言葉も久々に聞いた。
やはり、久しぶりに他の団員に会えるからテンション上がってんのか?
 
「何ボッーとしてんの、もうちょっとだから頑張りなさい」
 
はいはい、分かりましたよ。
 
「それにしても丘の上の教会なんて、なかなかロマンチックね」
どうせなら街中とかホテル内の教会の方がありがたかったがな
そうすればこんな汗だくになりながら坂道を行く事も無かったんだ
 
「ロマンがないわねぇ、だからモテないのよ」
失礼な俺だってタクシーで来てればロマンチックだと思える精神は保ってたはずだ
だが、残念ながらそのロマンチックは汗と共に流れ落ちたのだよ
 
「あんたの屁理屈は聞き飽きたわ、ほら見えてきたわよ」
教会の屋根の先っぽが少し見え始めてきた、頑張れ俺
 
「それにしても古泉君が結婚とはね、ちょっと意外だったわ」
 
「何がだ?」
 
「古泉君はもっと年取ってから結婚すると思ってたのよ、ほら女の子に興味なさそうだったじゃない」
 
まぁ、高校時代の古泉は女にかまけてる暇はなかったからな。誰かさんのせいで
それに卒業後は数えるほどしか会ってないし、女の影が見えなくても仕方ない
やっかいなバイトから解放されたら古泉も男だったという事さ
 
そう、もう今のハルヒにあの馬鹿げた能力は無くなっている、俺達をさんざ振り回したあの力がね
何故かは未だに俺には理解できてない、長門に教えてもらったが理解不能だった
あの解説魔・古泉の言葉を借りるなら
 
「長門さんの説明を簡単に言うとですね。あの力は思春期の若者の心の葛藤が招いたものだそうです
思春期にはある者は異性に恋をし、ある者は親に反抗し、社会に反抗する者もいるでしょう
涼宮さんはその力全てを楽しみたいという思いにつぎ込み、さらに天文学的な確立の偶然が
幾つも重なり『神』の如き力を無自覚に手に入れたのでしょう。しかし、それもSOS団という
彼女の理想を叶える団体が出来、楽しみたいだけにつぎ込んでいた思いがあなたによって薄れ、
また彼女自身が成長して思春期を脱した事によりその力は失われたという事です絶妙なバランスの
上にあった力なんでしょうね」
 
という事らしい、古泉自身も実はよく分かっていないのではないかと俺は思っているが
理解できなくてもハルヒの力が無くなったのは事実だ。原因がどうあれ結果が良ければそれで良い
と俺は思う。
 
言い遅れたが、俺達は古泉の結婚式の為に教会へ向かっている
簡単に言うと古泉は高校を卒業後、さすが特進理数クラスだけあり、現役で有名国立大に合格
そして、某有名製薬会社に就職し結婚に到るという訳だ。
何と言う順風満帆な人生、こいつまさか俺の幸福吸ってんじゃねぇか?
 
「今日はみくるちゃんも来るっていってたけど、もう着いてるのかな?」
 
「えっ、朝比奈さんと連絡ってんの?」
ちょっと待てよ、朝比奈さんは既に未来に帰ってるはずだぞ
 
「電話は時差があるから遠慮してるけど、手紙でやり取りしてんのよ
っていうか、あんた連絡取ってないの?冷たいわね」
 
いや、俺だって未来に手紙届くんなら書いてるよ。一体誰が返事を…それ以前に届くのか?
俺はあの日以来朝比奈さんの文字すら見ていないというのに…
 
ハルヒの力が失われ、ハルヒを刺激する為のSOS団敵対勢力(?)の襲撃を
長門の活躍や朝比奈さん(主に大)の助言・古泉の機転などでかわしたり、撃退したりして
あっそうそう。もちろん、俺も走り回ったぜ。
 
そして、全てが落ち着いた高3の冬に朝比奈さんは未来に帰った、朝比奈さんは大学1回生だったがな
朝比奈さんはイギリス留学という名目で俺達の前から姿を消したんだ。
空港での朝比奈さんの大泣きは今でも鮮明に覚えている。
 
約束の場所に俺が着くといつもの様に皆もう到着していた
朝比奈さんはいつもと変わらず可愛らしい服装だったが大きなトランクを提げていた
それはまるで小学校に入学したての子がランドセルに背負わされているような感じだった
大きなトランクに振り回されている朝比奈さんもそれはそれで愛らしかったがな
空港につくまで俺達はいつもの不思議探索と変わらない会話、つまりしょーもない会話を
繰り広げていたが、いざ空港ロビーに着くと朝比奈さんが堰を切ったように泣き始めたんだ
 
「ウッ私…私…皆さんの事絶対に忘れませんから…ヒック…」
 
「ほら、みくるちゃん今生の別れじゃないんだから…」
 
「ちがっ…そ…そうんですけど…ウッ…」
そうか、朝比奈さんからしたら今生の別れだもんな
 
「私…皆さんに会えて…本当に楽しかったです」
 
「あたしもみくるちゃんに会えて良かった…もちろん、キョンも古泉君も有希もそう思ってるわ」
おいっ、俺達に断わりもなしにっと言いたい所だが同意なので何も言わない
 
「ウッ…恥ずかしい思いも一杯したけど……楽しい思いも…負けないくらいできました」
 
「もうっ、そんなに泣かないでよ。あたし笑顔で見送ろうって決めてたのに…ヒグッ」
 
ついにハルヒまで泣き出してしまった、と言いつつ俺も涙目な訳だが
隣の古泉は既にハンカチを出して目頭を押さえている
 
「キョン君…本当に…本当に今までありがとう…ヒック」
 
「こちらこそですよ。朝比奈さんのお茶とっても美味しかったです」
 
「迷惑ばかり…かけたけど、助けられてばかりだったけど…」
朝比奈さんの言おうとしてる事が俺には分かった、これ以上言われると…
 
「もう良いんですよ、朝比奈さん」
 
「ううん、最後まで言わせて…ダメダメだったけど、絶対に一杯勉強して…今度…今度は…」
あ~、もうダメだ。俺の涙腺も限界だ
 
「みんなを助けるから…どんな形か分からないですけど…絶対に助けますから」
 
「みくるちゃん、勉強に対する意気込みは良いけど助けるなんて大げさよ」
 
ハルヒは泣きながらいつもの南国系の花の笑顔を見せていた、器用な奴だ
笑顔で見送るという決意をまもっているつもりか?
俺だって笑顔で見送りたかったのにもう涙でグショグショだ、お前の器用さが羨ましいぜ
 
「…そうですね……私ったら最後までドジですね…フフッ」
朝比奈さん、もう無理に笑おうとしなくてもいいですよ。思いっきり泣いてください
あなたにはその権利が絶対にあります、俺が保障しますよ
 
「キョン君…これで涙拭いてください」
朝比奈さんがティッシュを俺に差し出しながら言ってくれた
ありがとうございます、朝比奈さん。あなたは最後まで優しいですね
さすが永遠のマイスウィートエンジェルです
 
「フフッ…私がふいてあげますね」
あぁ、そんな恐れ多いと言おうとしたが朝比奈さんは俺に顔を近づけて
涙を拭き取ってくれた、だがそれは結果として涙を増加させる結果になっちまった
だって、その時小声で
(もう二度と会えないかもしれませんけど…鍵がキョン君でよかった、ありがとう)
 
朝比奈さん、あなたはこの先過去の俺には会えますよ
と言いたかったが言う訳にはいかなかったし、言うつもりもなかった
だって、今のこれからの朝比奈さんとこれからの俺は二度と会わないだろうからな
そう、これは朝比奈さんが思っている通り永遠の別れで正しいんだ
 
その後、朝比奈さんは鶴屋さんや他の友人達と挨拶を交わし
最後に朝比奈・ハルヒ・鶴屋のロビー中の人の注目を集めるほどの号泣の三重奏を演じ
エントランスへと去っていった。何度も何度も後ろを振り返って手を振りながら…
 
「あなたねぇ、SOS団の仲間なんだから手紙くらいだしなさい」
4年半前の思い出に心が飛んでいた俺を現実に戻すかのようにハルヒに背中を叩かれた
そして、ほらここに今度の結婚式には出席するって書いてるでしょう
と朝比奈さんからの手紙を俺に見せてくれた
 
「あぁ、そうだな…」
 
俺だって文通できるならしたい、でもこれは別の未来人が書いてる
俺は朝比奈さんの文字を見間違うことはまずない、これは別の人物が書いている
恐らく朝比奈みくるが現在にいるという整合性を保つ為の工作だ
しかし、という事は結婚式に来ると言うのは果たして本当なのか?
 
「みくるちゃん、どんな風になってるのかな?いまやイギリスのOLさんだもんね」
 
朝比奈さんは向こうで就職した事になってるのか、ちょっと無理がないかそれは…
しかし、朝比奈さん(大)ならありかもしれんな、あの俺に何度も助言をくれた彼女なら
イギリスのオフィス街を闊歩していても違和感は無い
 
そんな愚にもつかない想像をしてる間に教会までもう少しの所まで到着していた
我ながらこの急勾配の丘をよくスーツ姿で歩いてきたと思うよ、マジで
 
「みくるちゃんは来るらしいけど、有希は来るのかしらね?」
 
「さぁな、長門とは連絡取ってないのか?」
 
「う~ん、それが電話は通じないし、手紙は還ってきちゃうのよね」
 
SOS団の万能型宇宙人・長門有希、俺達はこいつに何度も助けられた
長門がいなければ現在は無いといっても過言ではないだろう
しかし、こいつも朝比奈さん同様全てが終わった後、俺達の前から姿を消した
朝比奈さんとの違いは全て終わった後期間を置かずしかも突然に姿を消した事だ
 
俺はその日、長門から呼び出され長門のマンションを訪れていた
ここに来る時はいつも困った時だったな、今回はどうなるのやら
まぁ、呼び出された理由は大体わかってるんだけどな
 
「話ってのは、お前の親玉がお前を呼び戻してるって事か?」
こういう事は単刀直入にズバリ聞いたほうがいい
 
「……そう」
 
「言ったはずだ、俺達はお前をどこにもやらせないと」
 
「……状況が変わった」
 
「ハルヒの力が失われた事か?」
 
「……」(コクリ)
 
長門はビードロの様な綺麗な瞳を俺に向けて続けた
 
「……情報統合思念体が私を廃棄しなかったのは、全端末の中で私が最も涼宮ハルヒに
近しかったから、他の端末では再びここまで近づく事は難しいと判断したから」
長門はいつもと変わらない平坦な口調、人形の様な無表情で話し続ける
 
「しかし、涼宮ハルヒは3809日と7時間3分前に見せたような大規模な情報フレアを
見せる可能性は全く無くなった。情報統合思念体はもう涼宮ハルヒの観測を必要としない
という判断を下した。しかし、これまでの涼宮ハルヒの情報は欲している。
その情報を一番持っているのは私。だから、私を呼び戻している」
 
「そんな事だろうと思ったぜ。で、お前はどう思ってるんだ?」
 
「……私は情報統合思念体の指示に従おうと考えている」
何だって!?俺は長門は少なくとも今の俺達と3年間過ごした長門は俺達に仲間意識を
持っていると考えていた。
 
「どうしてだ…ハルヒの力が失われたから前の脅しは使えんが、お前の為なら皆…」
 
俺が最後まで言う前に長門の声が俺の声に被さってきた
 
「だから…あなた達は私がいなくなると色々考えて私を帰さないように行動する…だから」
その通りだ、当たり前だろう
 
「情報統合思念体は涼宮ハルヒの情報を欲している。私が送る情報だけだはなく
私自身を情報に還元して取り込むことを欲している。それを邪魔する存在には容赦しない」
 
「受けて立ってやろうじゃねぇか」
 
「情報統合思念体ならあなた達の存在自体を消去する事も可能、抵抗は無意味」
 
「だからって黙ってお前を差し出せるかっ」
そう、俺は長門には普通の女の子として暮らして欲しいんだ
最近は感情らしきものも頻繁に出すようになってきたじゃねぇか
これまで、俺達の目付け役として頑張ってきたんだ、情報統合思念体とかも
それくらいの温情を長門にかけてやっても良いじゃねぇか
 
「…あなた達が害を受ける事を私は望まない」
俺だってお前が害を受けることを望んでない、だから…
 
「あなたは私が守ると言った…だから、私は情報統合思念体の指示に従うと決めた」
 
そんな…お前は俺を…俺達を守る為に宇宙に帰るというのか……
他に選択肢は無いのか…俺は長門の瞳を吸い込まれるように見つめ続けた
どれくらい見つめあい続けたのだろう、長門は俺から目を逸らし言った
 
「これは決めた事、あなたには聞いて欲しかった」
 
そうか俺はそうとしか言えなかった。長門の声は決意に溢れていたし
その瞳には迷いは微塵も無かったからだ。長門検定1級の俺が言うんだから間違いない
本当は間違っていて欲しかったがな…
 
「…いつごろ宇宙に帰るんだ?」
 
「……まもなく」
 
「えっ?」
 
「正確には1分15秒後」
 
お前、何でそんな急なんだよ。心の準備も何もできてねぇよ。
それにハルヒ達はどうすんだ?学校は?
 
「問題ない、涼宮ハルヒ達には手紙を出してある。学校側にも相応の処置を施している」
 
お前は問題なかもしれんが、俺達には大有りだ。もっとちゃんとした別れの挨拶とかしたいだろ
俺は捲くし立てたが、長門は全く慌てる風もなく奥の部屋に引っ込み封筒を持ってきた
 
「これを…あなたには直接会って渡したかった」
ハルヒ達に出したと言う手紙か
 
「なぜ俺にだけ手渡しなんだ?ハルヒ達もお前に会いたかったと思うぞ」
 
「本当は誰にも会わない予定だった。でも、あなたは私を導き助けてくれたから…」
 
いつも導き助けてくれたのは長門の方だろ、俺はいつもお前に頼るばかりで…
 
「…もう時間……私はあなたに会えて良かった………ありがとう」
 
そう言い終えると長門の身体は光に包まれ一瞬大きく光ったかと思うと次の瞬間には消えていた。
最後の長門の表情を思い出しながら俺は泣き崩れた。それはいつもの無表情だったが
微かに微かにだが哀しみの色を帯びていた、少なくとも俺はそう感じた。
 
長門は海外で仕事をしている母が危篤状態に陥り急遽現地へ向かい
そのまま、向こうに転校したという事になっていた。
 
ハルヒは数日間騒いでいたが、長門からの手紙が届くと途端に静かになった
一体何が書いてあったのか?しかし、俺達は互いに手紙の内容を見せる事は無かった
何故だかは分からない、ただそうしたかったのだ。
だから俺はハルヒや朝比奈さん・古泉への手紙内容は知らない
 
俺の手紙内容?つまんないぜ、長門も実際会って話しちまったから書く事ないと思ったんだろうな
手紙にはただ
 
『楽しかった、ありがとう』
 
と書いてあっただけだ。一緒に長門の図書館貸出カードと懐かしい栞が入ってな
 
「有希も来て欲しいわね。でも連絡できないんだから今日の事知らないだろうな
久しぶりにSOS団全員集合したかったのに」
 
「そうだな、長門にももう一度会いたいな…」
そんな会話をしている内に教会に辿り着いた。


 
「なかなか感じ良い教会ね。私の結婚もここにしようかしら」
ハルヒが誉めるだけあって雰囲気がある教会だった
こじんまりとしているがそれが逆に良い味を出している
 
「ようこそ、よくいらして下さいました」
高校時代と変わらぬ丁寧語で現れたのは言わずもがな古泉一樹その人である
相変わらずニヤケハンサムだが、年を経てヤリ手の若者風に見えるのがむかつく
 
「古泉くん、結婚おめでとう」
 
「おめでとう」
 
「いやぁ、ありがとうございます」
 
古泉はいつものニヤケ面をさらにニヤケさせて言った
あれ以上ニヤケる事が出来るとは、いつもはセーブしてたのか?
 
「涼宮さんもキョン君もお久しぶりです」
 
「そうね、1年ぶりくらいかしら。まさか結婚式で再会なんて思わなかったわ」
 
「お前、いつから付き合ってたんだよ」
 
「実は結構長かったりするんですよ」
 
「どうしてあたし達に隠してたのよ」
 
「隠すつもりは無かったのですが、言うタイミングを逃しまして」
 
「まさか、高1の夏合宿の時からじゃないでしょうね?」
 
「ハハッ、さすがにもっと後ですよ」
 
「怪しいわね」


 
そう、古泉の結婚相手、今日の主役である花嫁は年齢不詳のメイド・森園生さんだ。
ハガキが来た時マジでビビッたね。いつの間にとか、まさかあの時は既にとか考えまくったよ
 
「涼宮さん、も…園生さんの所にも行ってあげて下さい」
 
「そうね、じゃあ一足先に花嫁さんを見せてもらうわ」
 
ハルヒが花嫁控え室の方に向かったのを見届けて俺は最大の疑問を古泉に投げかけた
 
「機関はまだ動いてるのか?」
 
「いえ、もう完全に消滅してます」
それはよかった、お前と森さんが結婚すると聞いてまさか…と思ったもんでな
 
「ハハハッ、でも交友関係は続いていますよ」
 
「それは当たり前だ。どんな事情であれ知り合ったんだからな」
 
「そうですね、もう皆超能力を持ってない一般人ですから」
 
「それはそうと、お前いつから森さんと付き合ってんだ?まさか本当に夏合宿から」
 
「そんな訳無いでしょう。付き合い始めたのは涼宮さんの力が消滅してしばらくしてです」
 
「お前、それならそうと俺達にも教えろよ。卒業まで時間もあったし、大学行ってからも会ってただろ」
 
「その…タイミングがね…ハハッ」
笑って誤魔化そうとしてやがるなこの野郎、その手には乗らんぞ
この際とことん追求してやる
 
「あなた方こそどうなのです?同じ大学に進学したのでしょう」
うっ、思わぬ反撃だ
 
「もしかして、未だに何の進展もないのですか?」
 
「俺はハルヒに引っ張りまわされてるだけで、好きな訳じゃねぇからな」
 
「いつまでそんな子供っぽい事を言っているのです。彼女も魅力的に成長してるじゃないですか」
 
「見た目は成長しても、中身が変わらんのだ。あいつは」
 
「そんな事言ってると、誰かに取られますよ」
そんな物好きがいるなら熨斗紙つけてお譲りするぜ、別に俺のものでもないがな
 
「あなたも素直じゃありませんね、とっくに涼宮さんの魅力に気付いてるくせに」
 
「お前、これから結婚する男が花嫁以外の女を魅力的とか言ってて良いのかよ」
 
「魅力を感じるのと愛するのは別ですよ。そうですね、僕が涼宮さんに感じる魅力は
あなたが朝比奈さんや長門さんに感じる魅力と同じと言えば良いでしょうか」
 
こいつの遠まわしな言い方は高校時代から全く変わらん、もっとハッキリ言えよ
 
「まぁ、お前がハルヒに魅力を感じているのは良く分かった。後で森さんにも伝えておこう」
 
「ちょっ、ちょっと待ってください。魅力はありますがその…だからそういう意味ではなく」
 
じゃあ、どういう意味なんだ?
 
「もぉ~、勘弁してくださいよ。彼女ああ見えてスゴイやきもち焼きなんですよ」
 
さすがに可哀想になってきたから辞めておいてやろう
しかし、古泉…見事に尻に敷かれてるな……さすが森さん
 
そうこうしてる間に時間が来たようで古泉は準備に行ってしまった
忙しそうだ、今日のもう一人の主役だから当たり前なのだが
周りを見てみるとなるほど結構知った顔もあった
多丸兄弟や新川さんを見つけた俺は挨拶がてらに話しかけに言った
 
「ちょっとキョン!そろそろよ、こっち来なさい」
 
ハルヒに言われて気付いたがもう客は席につく時間だった
それにしてもこいつ何か妙に生き生きしてないか、いつも元気なのは確かだが
 
「ほらほら、ボンヤリしてないでこっちに座るのよ」
 
おかしい、この感じ高校時代にSOS団を結成して好き勝手やってた頃を
彷彿とさせる。さっきまでは普通だったのに…
 
教会の中の定められた席に着席し、しばらくすると遂に式が始まった
音楽がかかり聖歌隊が歌い始めた、結構本格的だ。
教会の扉が開き真っ赤なバージンロードを森さんが父親と歩いてくる
森さん最後に会ったのは5年ほど前なのに全く老けてない
というか、むしろ若返ったような気すらする。男には見とれずにいられない。
それ程真っ白なウェディングドレスを着た森さんはそれは綺麗だった。
 
途中エスコート役を森さ…いや園生さんの父から古泉にバトンタッチされ
俺の席に近づいてくる。冷やかしの一つも浴びせてやろうと思っていると
思わぬ声が聞こえ俺は固まってしまった
 
「古泉くん・園生さんおめでとうございまぁす」
 
この声はまさか…朝比奈さん、あなたなのですか?
 
俺は声のした後ろを振り返った、そこにいたのは見紛う事なき人物だった
俺の右後ろに見事に死角になるような位置に朝比奈さん(大)の姿があったのだ
皆、花嫁を見ている中俺だけ振り返っているという間抜けな姿を数秒さらした後
ハルヒによって前を向かされた
 
「もう、みくるちゃんたら後でキョンを驚かそうと思ったのに」
 
それであんな生き生きしてたのか、しかしお前が手紙を俺に見せた時点でこの可能性は
考えていたぜ。この程度で驚くはず無いだろ、まぁちょっとはビックリしたが
 
「そう…そうよね」
 
何だ、もっと残念がるかと思っていたが何故そんなに嬉しそうなんだ?
やはり朝比奈さんに会えたのが嬉しかったのか?
 
式はその後も滞りなく進み教会内での規定事項は間もなく終わった
後は教会の外で出てくる新郎新婦を米を浴びせかけるだけだ
ほら、外に移動するよう係りの人が呼びかけている
俺は移動のついでに朝比奈さんに話しかけようと思い近づいた
 
「朝比……」
 
俺は最後まで言わずにまたしても固まってしまった
朝比奈さんの隣にはあの無口読書宇宙人がいたのだ
俺の硬直時間は先ほどの朝比奈さんの時より随分と長かったのだろう
多分変な顔もしていたのかもしれない
とりあえず、俺の反応にハルヒは大喜びだった
 
「アハハ、ビックリした。さっきは有希も見つかったと思っちゃったけど
やっぱり見つけてなかったのね。でも、確かにビックリよね。
私も花嫁控え室であった時はビックリしたわ。みくるちゃんは大きくなってるし
有希に至っては全然変わってないんだもの」
 
まぁ、普通はそう驚くのだろうが俺はもっといろんな意味で驚いていた
 
「なっ…長門なのか?」
 
「……」(コクリ)
 
「キョン君、話は後にして外に行きましょう。ライスシャワーもしなくちゃね」
 
「はっはい」
 
朝比奈さんに促される形で俺は外に出た
 
「キョン君、本当に久しぶりです。また会えるなんて…」
 
ハルヒは長門とかける米を貰いに行っている
 
「そうですね、本当にお久しぶりです。昔の俺にはもう会いました?」
 
愛らしい朝比奈さんはもう完全にあの大人版になっていた。
服装は俺の知っている秘書風ではなく、淡いピンクのドレス姿だったが
その漂う余裕がかつてのSOS団付メイドとの違いを示していた
 
「フフッ、それはこれからなんです、でも私があの時を過ごしたのはその為だったんですね」
 
「すみません、教えようかとも思ったんですが…」
 
「良いんですよ、あの時の私はそれを知らなかった。だからこそ頑張れたんです」
 
「朝比奈さん…そういえば、ハルヒと文通してるそうですが」
 
「あれはこの時代にいる駐在員が代筆してるんです、でも内容だけは教えてくれるんですよ」
 
「なるほど、それでこの結婚式を知ったのですね」
 
「本当は反対の声もあったんですよ、でも私が参加しないのは不自然だって説得したんです」
 
朝比奈さんが人を説得するなんて、やはり時は俺の知ってる朝比奈さんを
朝比奈さん(大)に成長させたようだ。安心したような寂しいような…
 
「さぁ、涼宮さん達が戻ってきましたよ」
 
教会の出口で待っていると古泉と園生さんが出てきた
二人とも幸せそうでとてもほほえましい光景だが
俺は古泉に問いたいことがあった、お前は二人が来ている事を知っていたのか?
俺の問いを読んだかのように古泉は俺に向かって微笑みかけやがった
こいつ全部知ってやがったな、お前は秘密主義すぎるんだよ
「幸せにな、コノヤロー」
俺は米を思いっきり古泉に浴びせかけてやった
 
そして、結婚式も最後のイベントを残すのみであった
そうブーケキャッチだ、あの女のイベントだ。
 
「ほら有希、みくるちゃん行くわよ」
 
「そうですね、ロマンチックだなぁ」
 
「…私は遠慮する」
 
「有希どうしてよ」
 
「……興味ない」
 
「う~ん、それも有希らしいわね。いくわよ、みくるちゃん」
 
ハルヒは高校時代に戻ったかのようなはしゃぎぶりで朝比奈さんを連れて行った
 
長門はマンションで別れた時の姿と全く変わりなかった
ただ服装が制服ではなく青いワンピースのドレスだったのを除けばだが
 
「長門…お前にまた会えるなんてな」
 
「…私も意外」
 
「また、俺達の観測か?」
 
「…違う。古泉一樹の結婚式を知り、それにあなた達が皆参加するという情報を
情報統合思念体が手に入れた時、情報統合思念体の中で私を構成していた情報群に
激しいノイズとエラーが起こった。情報統合思念体はこのエラーとノイズを処理する
為には、私をもう一度構成し式に参加させる事が最も効率が良いと判断した」
 
なるほど、それで昔のままの姿で俺たちの前に現れたのか
長門は昔懐かしい微かなクビの動きで答えた
 
「……そう」
 
「情報統合思念体も粋な事するな、でこれからどうするんだ?またあのマンションか?」
 
「……違う、これは一時的なもの式が終われば私は還る」
 
そんな…と言いかける俺を長門は人差し指を出して制した
 
「…私はそれで十分、あなたにもう一度会えた」
 
ブーケはハルヒが取ったらしい、何かすごいジャンプ力だったと
新川さんは誉めていたが、スマン見てない…
その後古泉夫妻はオープンカーに乗って先に披露宴会場へ向かった
俺達もバスに乗って会場へ移動となる、今回は歩かなくて済みそうだ
 
「フフッ、やっぱり団長たるもの何事においても負けられないわ」
ハルヒはブーケを取った事ですっかりご満悦だ
 
「さぁ、みくるちゃん、有希、会場にいくわよ」
 
「すみません、私もうイギリスに帰らないといけないんです」
 
「……私も還らなければならない」
 
その後、ちょっと位いいでしょうと粘るハルヒを
俺と朝比奈さんで説得しバス出発ギリギリになりやっと諦めてくれた
それにしても朝比奈さんがハルヒを説得とは…俺はまた驚いてしまった
今日何度目のビックリだろう
 
「そう、事情が事情だし仕方ないわね」
 
「…そうだぞ、あまり無理を言って二人を困らすな」
 
「でもでも、また会えるでしょ」
ハルヒの質問は俺も聞きたい事であった、今度こそ永遠の別れなのか
 
「どうでしょうね、でも後一回は会える気がしますよぉ」
てっきり禁則事項に触れる質問だと思っていた為に俺はフイをつかれた
 
「一回なんてけちな事いわないでよ、何度も会えるわよね」
 
「ウフフ、そうだと良いですね」
 
朝比奈さんは悪戯っ子のような微笑するだけだった
 
「SOS団は永久に不滅なんだからねー」
 
送迎バスの窓から顔を出しハルヒは教会に残る二人叫んでいた
もう社会人なんだから辞めとけよと思いながら俺も顔を出していた
あ~あ、俺もまだまだガキだな
 
「また、きっと会えますよぉー」
「………」
朝比奈さんは笑顔で手を振り、長門は無言で手を振っていた
 
「…長門さんもキョン君の事好きだったんでしょう」
 
「……私は情報統合思念体に作られた人型のインターフェイス、人の感情は分からない」
 
「でも、初めて見ましたよ長門さんが泣いてる所、キョン君に会えて嬉しいのと
また別れるのが哀しいのが混ざったみたいな涙ですよ」
 
「……今の私は大半がエラーとノイズで出来ているその為の誤作動」
 
「ウフフ、多分そのエラーとノイズが人の感情なんですよ」
 
「……」
 
「大丈夫です、次に私達SOS団が会う時までには情報統合思念体は人の感情の解析を
終わってるみたいですよ」
 
「……そう」
 
「ええ、次に私達SOS団が揃う時には笑顔でした。私にとってはつい最近の事ですけどね」
 
「……そう」
 
「有希もみくるちゃんも変わんないわねぇ」
 
「長門は変わらんが朝比奈さんは変わったぞ」
 
「見た目じゃないわよ、根っこの部分の話よ」
人の根っこの部分はそうそう変わらんだろというツッコミはやめておいた
 
「SOS団結婚第一号は古泉君だったけど、この調子なら二号はあたしね」
 
「何でだ?」
 
「みくるちゃんは見た目は大人になったけどまだまだだし、
有希に至っては結婚には程遠そうだしね、あたししかいないじゃん」
 
「俺の立場はどうなる?」
 
「あんたなんて逆立ちしたって結婚は無理よ、それにあたしにはブーケがあるもん」
相変わらず理不尽な奴だ、しかも根拠の無いこの自信はどこからくるのか?
 
「お前を貰ってくれる物好きなんてそうはいねぇよ」
 
「何ですってー、あたしがその気になれば…」


 
お前についていける物好きなんてホントにそうはいない
少なくとも俺は俺以外そんな物好きはしらないぜ
 
                        ~END~  

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最終更新:2020年08月19日 03:16