いつもの朝。ジリリリリと鳴る目覚まし。それによって起こされる俺。
あぁ、すがすがしい朝だ。
妹爆弾も回避できたしな。
 
と、枕元に置いてある携帯が鳴る。
み、み、みらくる、みっくるんr
長門だ。何の用だろう?
「なんだ?」
「今すぐ来て欲しい。私のマンション。」
「制服でいいか?」
「いい」
「わかった、今すぐ行く」
「…そう………あと…」
「?」
「もし私が変わっても、動揺せずに接して欲しい。」
「なんのことだ?」
「……早く。」
長門の言葉を聞くと俺は電話を切り、すぐさま制服に着替え、
朝飯も済ませないまま家を出た。
 
自転車で行くこと25分。こんなもんか。
長門のマンションに着いた。
確か長門の部屋の番号は……708、だったな。
ピンポーン……
「……」
「俺だ」
「……」
…ガチャ
そしてエレベーターに乗る俺。7階を押す。
 
そういえば、小さい頃はエスカレーターとエレベーターの違いを区別してなかったよな…。
誰だって小さい頃はそんなもんだろう。
そんなことを考えているうちに7階に着いた。早いな。
ドアの前まで行く。ベルを鳴らす。ピンポーン。
俺は「はーい」なんて可愛い声聞けたらいいなとか長門だからありえないかとか考えていたら……
 
「はーい」
?!今のは長門の声……だよな…?しかもハートマークが付きそうな感じだ…。
ガチャ
「おっはよー、キョン君♪」
と、長門が抱きついて来た。気持ちいい。でもほんの少し柔らかさが足りないか?それは失礼だな。
ってあれ?ホントにこいつ長門か?
「なんでそんな顔してるのかなぁー?」
ふと、長門が顔を覗き込む。見た目は長門だよな。あ、目が合った。
「んもぅ、朝からそんな顔で見ないで……」
顔赤いな。ていうか何の真似だろうね、これは。
「お前、本当に長門か?」
「……あっ!そっかぁ~!まだ言ってなかったね~。さ、入って入って!」
言われるがままに部屋に入る。ん、いつもの無機質な部屋だ。そしていつものこたつに入る。
いつもと違うのは……
「それじゃあ、説明するね!」
長門だけか。
「ついさっきね、私が起きたら思念体さんからね、伝達が来たの。
内容は詳しくは教えてあげられないけど……
それをまとめるとねー、え~と、『もうちょっと明るい性格になって
ハルヒちゃん達と仲良くしなさい』、だって~。」
思念体もまた無茶しやがって……。
 
「むちゃくちゃだな。」
「でもでも、思念体さんは私がもともとこんな感じだったように皆の記憶を変えちゃったみたい。
でもあなただけは、キョン君だけは私が阻止したよ。」
「なぜだ?」
「んもう、キョン君ったら、にぶにぶさんなんだからぁ~」
がばっ!うおっ!急に抱きついてくるなよ。俺はうれしいが、違和感が。
「……どういうことだ」
「……こういうこと……」
長門は腕を首に廻してきた。顔、近いぞ。
目を閉じて、ちゅーをしてきた。ちゅーだぜ、ちゅー。あの長門が。
と思ったが、俺の顔の前で止まった。あとは俺に任せたということか?
今、俺の頭の中では理性と本能もとい煩悩がせめぎあっている……。
惜しい。実に惜しいながらも理性が勝った。
「よせっ、長門。」
そう言って俺は長門を俺の体から引き剥がした。
「もう、恥ずかしがり屋さんなんだからぁ」
というか、ここまで表情豊かな長門を見たのは初めてだ。
多分俺の顔は真っ赤だ。が、しかし長門も真っ赤だ。
もしかして長門は無理してやってんじゃないのか?
「長門。お前、昨日までの記憶、あるか?」
「もちろんあるよ~。」
「じゃあなんでこんなこといきなりすんだ?」
「これは……昨日までの言い方で言うと
『私という個体もあなたとこうありたかった』っていう感じなの。」
「まさか……」
「……とにかくっ!もう時間みたいよ!学校、行きましょ!」
「あ、あぁ・・・」
俺は手を引かれながら長門のマンションを後にした。
 
俺達は喋りながら学校へ歩き出した。肩を並べて。
正直、この長門も嫌いじゃないな。
それにしても、こんなによく喋る長門は初めて見た。
にこやかな、健康的な笑顔で俺に語りかけてくる。ちくしょー、可愛いぜ。
でもやっぱり長門は長門なんだな、話してる内容が全部、最近の本のことだ。
「―――でね、今、私が読んでる本はね、恋愛モノなの!
たまにはいいかなぁーってね!ほら、コレ!」
長門は鞄の中からゴソゴソと一冊の本を取り出した。
その本はいつものように分厚いハードカバーに包まれたものではなく―――
「……谷川流の憂鬱?」
「そ!なんかスニーカー大賞を取ったとかで有名なのよ~。
主人公の流がどんな女の子にでも優しく接するばかりに泥沼状態に!っていう小説なの!」
「……面白いのかソレ?」
「もっちろん!私も太鼓判押しちゃうくらい!」
「……まぁ、長門がそういうんだから面白いんだろうな。」
「読み終わったら貸してあげる!」
「……ありがとな」
俺は長門に戸惑いつつも少しだけ好感を持つようになった。
 
――と、学校に着いた。
なんか久々にこの坂がキツくなく感じたな。長門のおかげか?
クツ箱にクツを入れる。
「それじゃあ、また放課後!あ、昼休みも部室にいるから!」
「…またな。」……やれやれ。
そろそろ始業のベルが鳴りそうなので急いで教室に向かう。
「うぃ~っす」
「よぉ、谷口」
谷口だ。なんか元気無さそうだ。ん、いつもこんな感じだっけか?
 
「どうした?元気無いぜ?」
「……お前のせいだよぉぉおおおおお!!」
クラスがざわつく。視線が痛いぜ。
「落ち着けって、谷口。なにがあった?」
「…………朝から……ランクAA+の……長門有希と…一緒に…」
「わかった、わかったからみなまで言うな。そして泣くな。」
「なぜお前だけぇぇぇえええええ!!」
不本意だが谷口はほっとく事にする。
それにしてもなんか長門のランクが上がってないか?微妙に。
ガタン、ドスッ
俺の後ろで物音が聞こえた。わざと聞こえるようにしてるな。
「……よ、よう、ハルヒ」
「おはよ」
それだけ言ってハルヒはふてくされた表情を見せて空の方へとそっぽを向いてしまった。
「どうしたんだ?ハルヒ」
なんかさっきも似たようなセリフ言ったばっかのような気もするが。
「なんでも無いわよ……。」
今日のハルヒはなんとなく話しづらい雰囲気を作っていた。
だから何も話せずに時が過ぎていき、いつの間にやら昼休みのチャイムが鳴った。
「おいハルヒ、お前はまた学食か?」
「そうよ、じゃ」
それだけ言うとハルヒは嵐のように去っていった……わけでもなく、とぼとぼと歩いていった。
チラチラこっちを向いていたが、何が言いたいんだろうか。
その行動はまるで俺について来いとでも言いたげだったが、気のせいだろう。
一応学食行ってみるか。長門と一緒に。だからまずは部室行くかな。
 
ガチャ
「おい長門ー。」
「待ってたよぉ~!もしかしたら来ないかと思ったぁ!」
「……そうか、ところで、学食行こうぜ。」
「いいよぉ!一緒に行こー!」
やばい。まさかここまでの笑顔を見せてくれるとは。
 
食堂についた。~っと、ハルヒハルヒと、あ、いた。
一人ぼっちだな。そばすすってる。
「隣、いいか?」
ハルヒをはさむように陣取る俺と長門。
「ハルヒちゃん、どうしたの?元気ないねぇ?」
「俺、なんか買ってくるけど、長門、なんかいるか?」
「じゃあ、お茶を頼んじゃおうかな~」
「あ!あたじも゙!ぼげぁ!ゴホッゴホッ」
「食べながら喋るな、ハルヒ。」
俺も弁当持ってきてるからお茶でいいや。
「おばちゃん、お茶3つ」
「あいよ……お茶3ー!」
「「「あいよー!」」」
うお、なかなかいい商売してくれてるな。
「はい、お茶3つで150円ね。」
お茶3つ抱えてハルヒ達のところへ帰ろうとすると、
ハルヒと長門が仲良く話している。朝からのハルヒの不機嫌はどこへ吹き飛んだやら。
「―――っていうのを考えてるんだけど」
「面白そうだね!」
笑いながらハルヒが話す。それを笑顔で長門が聞く。
………思わず一人で和んじまった。
 
「ほい、お茶だ。」
「それでこそ私の奴隷よ!」
「ありがとねー!」
それにしても俺はいつの間にハルヒの奴隷になったっていうんだ?
長門はそれをひょいっと手に取り、こくん、と飲む。
さてと、俺も弁当食うか。腹減った。
二人が話してる横で俺は弁当をパクパク食っていた。話しかけてくれてもいいじゃないか。
食べ終わった。お茶をかたむける。うまいな、だがしかし、それも井の中の蛙だ。
朝比奈さんの淹れてくれるお茶の足元にも及ばぬわ!とはいっても、これも十分うまいんだがな?
おっとそろそろ午後の授業の始業のベルがなるな。
「おい、そろそろ行くぞ。」
「もう?早いわね。」
「また放課後部室でねー!」
教室に歩いてハルヒと戻る。
「なぁハルヒよ」
「何?」
「いったいどんなこと長門と話してたんだよ」
「映画の話よ!次は有希ちゃんがアクションシーンやるって。それも――」
まったく、午前中は自ら話しかけにくい雰囲気作っておいてこれか。
でも、SOS団の無口キャラがいなくなったのは結構痛いな。
っていうか俺が結構無口キャラになってないか?まぁいい。
「――ってキョン!聞いてた!?」
「あぁ、聞いてたよ、もちろん。」
聞いてないけどこう答えるのが俺だ。聞いてないなんていったらどうなることやら。
「それよりも、始業のベル鳴ったから急ぐぞ」
「う、うん。」
 
午後の授業は俺の耳にはなぜかあまり入らなかった。
いや、理由は分かっている。長門だ。
あいつは可愛くなった。いや、元から可愛いんだが、違うんだ。
笑う長門。よく喋る長門。抱きついてくる長門。たまらない。
いつの間にか俺の頭の中は長門でいっぱいになっていた。
 
放課後になった。
「あたしは少し用事あるから先言ってて!」
言うが早いか行うが早いか。ともかくハルヒはどこかへ走り去っていった。
俺は一人でSOS団の部室へと向かう。
 
ガチャ
部屋の中にいるのは……長門だけ……か。
「キョン君おっそい!早く顔見たかったよぅ~」
長門が抱きついてきた。
「顔、近いぞ」
冷静を装いつつも理性の壁にヒビが……。
やばい。心臓バクバクだ。俺は以前ここまで長門に対してドキドキしたことがあるか?
いや、無い。多分無い。
それにしても長門からは良い匂いがするな。
頭がクラクラしてくる。理性?なにそれ?おいしいの?
長門にキスをしようと顔を近づける。
「だ~め。」
長門はそういって俺の唇に人差し指をチョン、とつける。
俺はねんがんの理性を手に入れた!ってな感じだったが、まだ長門が愛らしくてたまらない。
「今度してあげるから……ね?」
「……あぁ。」
俺はふてくされたような顔をした。
 
「そんな顔してるとハルヒちゃんに『死刑!』て言われるよ~?」
『死刑!』て言うときに指を指してハルヒっぽく言ったつもりらしい。
そして長門はいつもの席の戻ると本を読み始めた。
読んでる本は……「谷川流の溜息」……続編か?
バアアアアアアン!
「遅れてゴメーン!」
ハルヒが来た。朝比奈さんも。そして古泉も。
俺はいつものように古泉とオセロに興じることにした。
朝比奈さんは今日は制服のままのようだ。
やっぱり朝比奈さんの淹れてくれるお茶はうまい。
しばらく過ごしていると、パタン、という長門の合図が。
こうしていつも通りの活動は終わった。
さて、帰るかな。
「んじゃあたし、もう帰るわ。」
「僕もお先に」
じゃあ俺も帰ろうかな。
「んじゃ俺も。」
「ちょっと待って」
引き止めたのは長門だ。
「コレ、貸してあげる。すぐに読んでね?」
差し出したのは朝の例の本だ。
「ありがとな。んじゃ。」
「じゃあね、キョン君!」
と、俺は一直線に家に帰った。
 
ん?携帯に未読メールがあるぞ?さっきまで無かったのに。
……長門からだ。あれ?メールが来た日付がおかしいぞ。
明日の日付だ。まぁ、いい。読んでみるか。
『あなたが一番やりたい事を』
それだけだ。何だろうね、これは。長門が言うことだから、何かあるだろう。
と、そこで気がついた。自転車、長門の家に置きっぱなしだ。
取りに行く前にさっき借りた本でもパラパラと読んでみるか。
ふむふむ。こんな感じか。俺は小説とかの絵はとりあえず先に見ておく派なんだ。
って?なんだこれ……栞だ。デジャヴを感じた。なんか書いてあるぞ。
『7時に○○公園で。』
……走ったら間に会うか?
 
……間に合った。間に合ったハズだ。
間に合ったハズなんだが―――
 
―――誰もいないぞ?
あれ?おかしい。この公園は狭いからいたとしたらすぐに見つかるのに。
呼んだら出てくるかもな。
「おーい、長門ー。いるかー?」
返事がない。やっぱいないのか?
仕方がないのでベンチに座って待つことにするか。
……待つこと10数分。
来た。長門にしちゃ遅いな。
 
「ごめんね!準備してたら遅くなっちゃった!」
「準備?なんだそりゃ?」
「なんでもないの!」
「…そうか。」
「それじゃあ私のマンション行きましょ!」
「お、おう。」
うーん。やっぱこの笑顔は何物にも変えがたいな。
長門のマンションまで歩いていく。
前一緒に行った時はなんにも思わなかったのに、今は違う。
なんだろうか、ドキドキする。
 
着いた。
長門が鍵で開ける。ガチャリ。
エレベーターに乗る。ウィイイイン。
ドアの前まで来た。
「さ、入って入って。」
「おじゃまします。」
部屋の中はいかにも以前の長門らしい、無機質な部屋だった。
「お茶、淹れたの。飲んで♪」
「……あぁ…。」
ゴクゴクゴク、と飲み干す。
コト、と湯のみを置く。
長門がおかわりいる?と目で言っているようだ。
俺は首を横に振った。
「俺になんか話でもあるのか?」
「うん。一つ聞きたいことがあるんだけど……。」
急にもじもじし出す長門。頬がほんのり赤い。
まるで告白でもするみたいじゃないか。
「なんだ?」
「キョン君は……私のこと……どう思う…?」
まるで金槌で頭を叩かれたような衝撃が走る。
こ、これは遠まわしの告白なのか?
「お、俺は……まぁ…」
「……」
「好き…か、な」
「私も!」
ガバッ!抱きついてきた。
「大好きぃ……」
「俺も…だ…」
この『大好き』は以前の罰ゲームでの大好きとは程遠い、感情のこもったような『大好き』だった。
俺と長門は抱き合っている。良い匂いだ。柔らかい。
ここでなぜか、俺はさっきのメールを思い出した。
『あなたが一番やりたい事を』
待て。今気付いたが言葉遣いが今の長門と違うような気がしないか?!
以前の長門のような…、そう、以前の長門だ。
明日の日付……未来からのメールか?!
あり得ん……だが長門ならやりかねん。
自分自身を過去へ行かせることは不可能でも
メール、つまり電子情報だけ過去へ飛ばすということは可能なんじゃないか?!
だが、その内容はサッパリだ…。まったく分からん。
 
一番やりたい事?なんだろう?今の俺には今の長門しか見えない。
長門。可愛い。やわらかそうな唇。キスしたい。長門を感じたい。
そういう事か?長門。くそ、なんか頭がぼやけてきた。
目の前の長門。俺の腕の中の長門。いつの間にか目を瞑ってる。
キス?俺にしろって言うのか?あぁ、好きだ、長門。
 
俺は長門の唇に自分のそれを近づける。俺も目を瞑る。
「好きだ……長門…」
「私もっ」
ムニュ。唇同士が触れ合う。柔らかい。
舌を出す。長門の唇をなぞる。開いた。舌を押し込む。
「ンッ……!」
歯をなぞる。歯茎をなぞる。舌と舌を絡ませ合う。
チャプ…
「ん…ぁ…ふ…ん…」
チュプ…
唾液と唾液を交換する。
その直後、ピカッという擬音が聞こえそうなほど強烈な光が俺の目を覆う。


 
――――どうやら俺は気絶していたようだ。
目を開けて、周りを見渡す。
すると、長門と朝倉がいた。なぜ朝倉がここにいる?!
それに上半身だけしかない。下半身は光の粒になって消えていっている。
「あら、やっと起きたのね。」
「朝倉……なぜお前がこんなところに…!」
「大丈夫」
「長門!お前…」
「キョン君はお変わりなさそうね。」
なんだってのんきな奴だ。そして、長門は以前の長門に戻っていた。
なんかもうワケ分からん。
「私は朝倉涼子に操られていた。正確には意識はあった。しかし行動が伴わない。
急進派の思念体が情報改変までした。
元に戻るための方法は私があなたの体液を受け取る事だった。」
「?なぜそんなややこしい事を。」
「決まってるじゃない。」
朝倉が言う。
「私がちょこっと長門さんの恋心からのエラーを解消してあげたんじゃない。
それに涼宮ハルヒが嫉妬するとなにかしらの変化が観測されるかもしれないわ。」
もう胸まで消えかかっている。
「しかし、お前は俺に自分から…キスをしようとしたじゃないか」
「演出よ、え・ん・し・ゅ・つ。」
「でも、俺がキスをしたときには抵抗しなかったのは?」
「それは……」
「私という個体がそれを…望んだ……から」
「長門さん本来の意識に流されちゃって……ね。」
「長門……。」
「それじゃ、さよならキョン君。長門さん。」
もう首まで消えている。
「お、おい!」
「長門さん、私はあなたを応援してるわ!」
「……ありがとう」
……そして朝倉は完全に消えきった。
「長門……」
「何」
「俺は…お前のことが…」
「言わなくていい」
「長門有希のことが…」
「言わないで」
「……す」
「だめ!」
ギュ。
さっきまでの長門とは違う、控えめ、だけど優しい抱き方だ。顔は見えない。
「だめ……それ以上…言うと…私は……」
「俺は長門のことが好きだ!」
言い切った。それはあまりにも清々しいほどに。
長門は困惑と歓喜と悲しみを混ぜたような表情を俺に見せた。
「私はそれに…答えられない……」
「答えなんていらない。お前だけが欲しい。」
それを聞いた直後にこちらをみる長門。
ちらりと見せる長門の涙。
長門は少しだけ抱きついた力を強めた。まるで答えを示すかのように。
俺は長門を思いっきり抱く。唇を近づける。
長門は俺の首に腕を廻してきた。
「…………すき」
チュ……
それは聞こえるか聞こえないかというくらいの小さな声だったが、俺には確かに聞こえた。
長い時間唇を合わせたままだ。どれだけキスをしていたのだろう?
息が苦しくなって唇を離す。息を吸う。
「今だけ…今だけは…有希と呼んで…欲しい…もう一回…好きって…言って…」
「…有希……好きだ…」
小さく震える長門、ではなく、有希。
「…そして……キスして…」
「あぁ…」
もう一度、俺達はキスをした。
息が苦しくなったら、口を離して、息をして、もう一度した。
何回も、何回も、何回も、俺達はキスをした。
そのうち、有希のほうから求めるようになった。
「あむ…ん…ぷはぁ…」
「可愛いぜ、有希…。」
「……」
黙って頬をほんの少し赤くする有希。
俺はやっぱりこっちの有希がいい。
 
携帯がなる。
家からだ。母さんか?
「…家からだ。」
「……」
空気読め。母親よ。
 
「―――じゃあ」
プチッ
「そろそろ遅いから帰って来いって…」
「帰って」
「分かった、じゃあまた明日な。」
そう言って俺は長門のマンションを出た。あった、俺のチャリ。
急いで家に帰る。
 
そして次の日、学校に行き、いつしか放課後になる。
俺はSOS団の部屋に行った。
長門だけだ。
「よう、有希。」
「……もう…いい…」
「お前はそれでいいのか?」
「私は涼宮ハルヒの観察者。あなたは重要なキー。本来は深い干渉はできない。」
「それでも、俺はお前のことが好きだぞ。」
「……キョン…くん」
バアアアアアアン!
「あら?キョンと有希だけ?せっかくみくるちゃんに新しい服を買ってきたのに」
こいつ…空気読めよ…。
俺は有希の耳元で囁いた。
「有希、世界とお前を天秤にかけるなら、俺はお前をとる」
「……ありがとう」





 
ここからは後日談になるのだが、俺と有希は付き合っている。
もはやハルヒにも知られている。他の二人にもな。
ハルヒはどうやら超巨大な閉鎖空間を一回出した後、それ以降何も無いそうだ。
北半球まるまるだったらしいな。すまんな、古泉とその仲間達。
ハルヒは古泉と付き合っているらしいのだが…。まぁ、いい。
古泉いわく「できるだけあなたの代わりを務めますよ」とのことだ。ありがたい。
 
そして今日も俺は放課後、SOS団の部室に向かっている。
何が楽しみって?そりゃあもちろん……






 
           有希の最高の笑顔を見るためだ!   ~fin~

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最終更新:2020年03月15日 18:25