ここは…どこだ?それよりも、いつなんだ?
俺は荒地というにふさわしい荒野に制服という場違いな格好で立ち尽くしていた。
いったいなにがあったんだっけ?頭の中を整理して数分前のことを思い出す。
そうだ、確か朝比奈さんと古泉が―――
「キョンくん、今はこうするしかありません 。
向こうに行けばきっと長門さんが待っててくれるはずです」
こんなことを言っていた気がする。断片的にだが思い出してきた。
古泉もいたな。あいつは確か
「残念です。あなたとはいい友人関係を築いていけると思ったんですが…。
あまりに急な出来事でもう時間がありません。涼宮さんのことは僕たちがどうにかします」
そうだ。とにかく朝比奈さんたちは焦っていたんだ。
「あなたのことは好きでしたよ。おっと、勘違いしないで下さいね。妙な趣味は僕にはありませんので。
それでは僕は行かなければなりません。最後に一言、言わせてください」
そういって古泉は閉鎖空間じゃないにもかかわらず紅の球に変化した。
「あなたのことは、一生忘れないでしょう」
今生の別れみたいな事を言って古泉は飛んでいった。
 
状況が飲み込めない俺は朝比奈さんに事情を訊く。
「朝比奈さん、なにがどうなってるんです?ハルヒは!長門は!?」
すると朝比奈さんは節目がちに言った。
「長門さんのおかげで今、私たちの世界はまだ正常を保っています。それ以上は…」
またハルヒが何かしでかしたってのか?古泉は赤玉に変身するし異常事態ってことはわかるが…。
「最初に言ったように、もう時間がありません。あなたをここではない時間平面に飛ばします」
「な、なんでですか?長門の力でどうにかできないんですか?」
「長門さんでも後数分が精一杯みたいなんです。それでは、目を瞑ってください」
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
俺はどこか嫌な予感がしたんだ。
もしかしたら、本当に今生の別れになっちまうんじゃないかもしれない、なんて予感が。
「長門と話すことはできないんですか!それにハルヒは!?
古泉がハルヒのことはどうにかするって、あれはなんだったんですか!?あさひ」
朝比奈さんの唇が俺の唇を塞いでいた。
至近距離で見ると朝比奈さんは涙ぐんでいるように見えた。
 
この時俺は悟った。
 
ああ、もう朝比奈さんのお茶を飲む事はないんだな、と。
 
意識が薄れてきた。時間移動の「あれ」だ。
視界の端に朝比奈さんがいる。
「キョンくん」
完全に声が震えてる。泣いてるのかな?
頼りない声で朝比奈さんは続けた、ように聞こえた。
「×××××」
ここで俺の意識は完全に断たれた。
 
シーンは冒頭に戻る。
何もない荒野がこんな寂しいものだとは。いったい何がどうなったのか…。
そういえば朝比奈さんが長門がいるとかいないとか言ってたような…。
そうだ。長門なら全て知っているだろう。俺は当てもなく歩き始めた。
しばらく歩くとようやく建物らしい物が見えてきた。
しかも見覚えがあるぞ!嬉しくなって歩を進めると、それは北高の部室棟だった。
なぜ部室等だけが?なんてことは疑問に思わなかった。
長門しかいないだろう。こんなわかりやすい目印にしてくれるのは。
ぽっかりあいた一階の校舎と繋がっていたであろう渡り廊下から中に入る。
部室までの廊下や階段は老朽化を通り越して風化している部分もあった。
相当の時間が経過しているのか?とにかく長門がいることを期待して部室前まで歩を進めた。
部室の周りだけは他に比べると多少はきれいだった。
もしここに長門がいなかったら?―――意を決して部室のドアを開ける。
果たして、長門はそこにいた。
 
「長門!!」
いつもの制服姿でいつもの椅子にすわってこちらをゆっくりと見上げる。
よかった…もし長門がいなかったらなんて考えた俺がバカだった。
こいつが居てくれないわけないじゃないか。いつだって俺たちを助けてくれた長門有希が。
続けて矢継ぎ早に質問をする。
「ここはどこなんだ?ハルヒは何をしでかしたんだ?古泉は?朝比奈さんは?」
長門はゆっくりと俺の質問に答えた。
「ここは北高のあった場所。部室棟はわたしの情報制御下にあるので辛うじて原型をとどめている」
ってことはここいら一帯は俺たちが住んでいたとこってことか?
その後の長門の話を聞いても、わからないことは多かった。
ハルヒが暴走を始めて古泉たちがそれをどうにかしようとしたらしい。
古泉や朝比奈さんのその後は長門にもわからないらしい。
俺への気遣いなんじゃないかと思ったがそんなことは大して気にしないでおく。
俺がここへ飛ばされたのはどうやら朝比奈さんの計らいらしい。
 
そうだ長門、お前はどうしてたんだ?
「待っていた」
って俺をか?
「そう」
なんでまた?他の仲間はどうしたんだ?
「今この地球上に現存する有機生物はあなたとわたしだけ」
俺は長門を、いや自分の耳を疑いたかったがそうもいかないらしい。
たしかにここにくるまでの風景を見てればなんとなく想像はつく。
いつぞやのハルヒとの二人だけの世界を思い出したがそれが地でくるとは…。
ってことは俺は長門と二人でやっていかなきゃいけないってことか?
「だから、待っていた」
う、そりゃ長門、お前とならやっていけそうな気もするがそれこそ閉鎖空間で古泉が言っ
てたようなことも…。いやそんなことは今考える事じゃないな。
そこで俺はかねてから思っていた質問をしてみることにする。
「ところで長門、朝比奈さんは俺を未来に飛ばしたのか?そんなことを言っていたような気がするんだが」
「そう」
「どれくらいなんだ?」
俺はこの質問の答えを聞いて驚愕した。
 
「約一万二千年」
こんどこそ俺は耳を疑った。以前、三年間待っててくれたことはあったが、一万二千年だと!?そんな長い時間ここにいたってのか!?ここに!ひとりで!?
 
「そう」
 
平然と答える長門が突然愛しいような、哀しいような感情が押し寄せてきた。
 
「一万二千年、あなたを待っていた」
 
俺は気付くと長門の華奢な身体を抱き寄せて泣き崩れていた。
 
「どうかし…」
 
長門が何か言う前に俺は耳元で声を張り上げていた
 
「どうして!なんだって!こんな俺なんかを!待っててくれたんだよ!一万二千年も!」
 
「情報統合思念体との通信がある時を境に断絶した。彼らの元へ還るのは不可能になった」
 
「もし…もし俺が来なかったらどうしてたんだよ!ずっと一人で!そんなの…」
 
「へいき」
 
いつぞやと同じトーンで長門は言った。そして続けた。
 
「信じてたから」
 
俺は長門をさらに強く抱きしめ、こいつを一生放さないと決めた
 
fin

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最終更新:2020年03月15日 18:25