「あ~、もう!ほんっと退屈だわ!!」

 

ハルヒの不機嫌そうな独り言を聞きながら、俺は古泉とオセロをしていた。
放課後いつも通りに部室に集まり、何事もなく時間だけが過ぎていく。
平和そのものだった。ただ、その平和というものを団長様はいたく嫌っている。

 

「何かおもしろいことは無いのかしらねー?
最近は本当に退屈すぎて死にそうだわ!」

 

確かにここ最近は特にイベントごともなく、放課後部室に集まっては
ただぼけーっとした時間を過ごすだけだった。
さすがに退屈だとは感じるが、死にたくなることはないね。

 

俺が不意にハルヒに目をやると、じー、っと長門の方を見ている。

 

十数秒は見ていただろうか?ハルヒは突然何かを思いついたかのように
満面の笑みを浮かべ俺の方を見た。今度は何をしようってんだ?

 

「キョン、あんた有希の笑ってるとこって見たことある?」

 

「ん?あぁ、…いや、見たこと無いな」

 

俺は瞬間的に、あの改変世界での長門の優しく微笑む顔を思い浮かべたが
それはこの長門じゃないからな。

 

「でしょう!実はあたしも有希が笑ってるとこってみたことないのよ!
これって大発見じゃないかしら!?」

 

そんなもんは大発見でもなんでもない。長門と三日も見ていれば
誰だってそんなことには気づくさ。こいつはそういう奴だってな。

 

「そうと決まれば話は早いわ!みくるちゃん、古泉君
こっちに来て。作戦会議よ!」

 

俺達4人は部室の隅に集まって作戦会議とやらを始めた。

 

「いいみんな?この作戦は有希を笑わせることよ!
半端な笑い方じゃダメ。それこそお腹を抱えて転げまわるくらいの笑いよ!」

 

長門が腹抱えてもんどりうってる姿なんぞ俺は見たかない。
いや、少しは見てみたいかもしれないが。
俺はこれまた部室の隅で本を読んでる長門を見ながら考えていた。

 

「あの有希の笑いのツボが分からない以上、とにかく色々試す必要があるわね。
まずはみくるちゃん、なんかしてきなさい!」

 

「へ?ふぇぇ~!?わ、わたしがですかぁ?む、むむ無理ですぅ~!」

 

朝比奈さんは今にも泣き出しそうにハルヒにすがっている。

 

「いいからやるの!団長命令よ!」

 

俺は今回、ハルヒを止めようとはしなかった。
正直なところ、俺も退屈していたからな。

 

「うぅ~」

 

朝比奈さんは困り果てたように長門の目の前まで行った。
長門は依然としてイスに座り本を読んでいる。
朝比奈さんは一体どうやって長門を笑わそうというんだ?

 

「そ、そのぅ…な、長門さん!き、きき聞いてください!」

 

なにやらものすごく気合が入っているようだ。
いや、これはもはや開き直ってるのかもしれん。

 

「ふ、ふとんがふっとびましたぁ~!!」

 

「………」

 

瞬間、その場が凍りついた。
朝比奈さん、それギャグになっていませんよ。

 

「………」

 

長門は何の反応を示すこともなく読書に勤しんでいる。

 

「あ、あれぇ??つ、鶴屋さんはこれで笑ってくれたのにぃ。
ど、どうしてぇ~?へ?み、みんなまでどうしちゃったんですかぁ~!?」

 

すみません朝比奈さん。俺もそれで笑うことは出来ません。
鶴屋さんはきっと違う理由で笑ったんだろう。
もっとも、あの人なら何言っても笑ってくれるかもしれないが。

 

「仕方ありませんね。僕に考えがあります」

 

そう自身ありげに長門の方へ向かう古泉。
朝比奈さんはすっかり落ち込んでしまったようだ。
さて、古泉の考えとやらに期待でもするか。

 

古泉は長門の前まで行くと、いつも以上に眩しい、いや、腹立たしい笑顔になっていた。

 

「長門さん。今日の朝食はなんでした?」

 

「……カレー」

 

「そうだね!プロテインだね!!」

 

パクリやがった。

 

「違う。今日の朝食はカレー」

 

「え、い、いや、ですから、その…」

 

「プロテインというものを朝食で食べたことはない」

 

「…あの、長門さん。今のはですね…」

 

「あなたは間違っている」

 

古泉は死んでしまうんじゃないかと思うほど落ち込んでしまった。

 

「あぁ~ん、もう!しょうがないわね、あたしが何とかするわ!」

 

そう言って団長自ら長門を笑わせに行くようだ。
さて、ハルヒはどんなことをするのやら。
言っておくが、長門が笑うことは絶対に無いと断言しておこう。
俺としては、つまらないギャグを飛ばしてハルヒが落ち込む姿を
見てみたいものだな。

 

俺がハルヒの落ち込む姿を想像していると
ハルヒは長門の後ろに回りこんでいた。
ん?何をするんだ?そう思った瞬間、ハルヒは
長門の両脇をくすぐり始めた。

 

「ほらっ!有希~、ここかしら?ほれほれ!
さっさと降参しちゃいなさい!その方があなたの為よ!」

 

こいつに正攻法を期待した俺がバカだった。

 

強硬手段に訴えているハルヒは、そりゃもう楽しそうだった。
長門が笑っているかは気にしてないなこいつ。
つーか普段長門とじゃれあうことなんてないからな。
ハルヒは長門の感触だけで十分楽しそうだった。

 

ハルヒが長門をくすぐり始めて数分が経ったとき
長門はいい加減なんとかしてほしかったのだろう。
俺の方を見ている。どうやら助けを求めてるみたいだな。
ハルヒも楽しんだようだし、もうそろそろ止めるか。

 

「おいっ。もういいだろ?長門だって、無理やり
そんなことされたら迷惑だろうよ」

 

そう言って俺は長門からハルヒを引き剥がす。
ハルヒはまだ物足りなかったようだが、まぁそれなりに
退屈をしのげたからだろう、すんなりと俺の言うことを聞いてくれた。

 

「結構面白かったわ!じゃあ今日は解散!!」

 

さっさと部室を出て行くハルヒ。それに続けと
古泉も出て行った。今日はメイド服を着ていない
朝比奈さんも、ぺこりとお辞儀をして帰っていった。

 

ったく、長門を笑わせるのに大げさすぎなんだよ。
気づけば部室には俺と長門の2人だけだった。
長門は読んでいた本を閉じる。今日はもう帰るようだ。
帰る前に俺は長門にお願いしてみる。

 

「長門、ちょっと笑ってみてくれないか?」

 

「………」

 

部室には野球部の金属バットの音が聞こえ、放課後ってのを演出していた。
窓際には夕日が差し込んでいた。

 

そこには笑顔のよく似合うひとりの美少女が立っていた。

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最終更新:2020年03月15日 18:13