第2話 ~ヒーローと目撃~
 
 
はっ!!今の夢は…一体?……あれは…ハルヒか?どこかの学校の校庭にいたのは分かったが一体何処の……
「あぁ~!!キョンくん何でもう起きてるの?」
「ん、ああ。ちょっとな。」
 
俺は今朝の夢のことが気になってずっとぼーっとして歩いていた。
何だったんだろうな?あの夢は。ハルヒが出てきたような気がするが…
教室に着くとドアを開けた途端太陽のような笑顔のハルヒが俺に突撃してきた。
「キョン!!今すぐ一緒に来なさい!さぁ行くわよ!!!」
「おぉわっ!!ちょっと待て、授業はどうすんだ。」
「そんなもんサボるに決まってるでしょ!」
 
そう言ってハルヒはいつかのように俺のネクタイを引っ張って無理矢理俺を部室まで引っ張っていった。
ドカン 「ヤッホー!キョン一丁お待ちぃ。」
お待ちって誰が待ってるってんだ…って何でお前ら…
そこにはSOS団全員+鶴屋さんが揃っていた。
「それでは皆さん!これよりSOS団七夕緊急ミーティングを開始します!!」
「おいおいそんなもん放課後にやればいいだろ、
何で今授業をサボってまでやる必要があるんだ?」
「必要な事なの!!大体、あんたはどうせ授業何ていつも寝てるんだから関係無いでしょ。」
ま、まあ確かに殆どの授業で寝てるのは確かだが…
「それでは今日の議題は、七夕についてです。」
「で、七夕がどうしたんだ。」
「はいそれじゃあキョン、七夕と言ったら何?」
そりゃあ天の川とか、短冊とかだろ。
「確かにその通りね。じゃあその短冊を掛ける物は?」
そんなん笹に決まってるだろうが。
「そうよ!短冊は笹に付けるものよ。それは万国共通の事だわ。
そんでもって幾ら織り姫と彦星でも全ての人の願いを叶えてあげる事は不可能だわ。」
だからそれが一体どうしたって言うんだ。
「そこで笹よ!!やっぱり彦星もどうせなら
良い笹に掛かってるお願いの方が叶えてあげたくなるもんじゃない?
いえ、そうに決まってるわ。」
……相変わらずこいつの理論は訳が解らん。朝比奈さん、そんな貴重な事を聞いたみたいな顔する必要無いんですよ。
全部デマなんですから。それとも未来には七夕が無いのか?
 
「と、言う訳で、今日はSOS団プレゼン!!笹取り大会を開催します!!」
あー何だ、ツッコミたいとこは色々あるが
「おいハル「意見のある人は挙手をして発言しなさい!!」
ったく、コイツはそんなに俺にしゃべらさせたくないのか?
「は~い。」
「はい!鶴屋さん!!」
俺が挙げる前に鶴屋さんが挙げてしまった。
「笹取り大会って具体的に何をするんだい?」
確かにそれは気になるな
「そうね…じゃあ2人1組に分けて、それぞれ笹をとって来て一番良い笹をとって来たペアの勝ちってのはどう!」
じゃあって、今考えたのかよ!
「ちなみにペアはくじ引きで決めるわよ。それじゃあ有希から順番に行くわよ!はいっ…」
今回はいつもの爪楊枝に3色の印を付けていた。
 
しっかしハルヒもまた面倒なことを思い付いたもんだ。
まあしかし、今日の俺は余程ついているらしい。
「…青……」「緑だ。」「青ですね。」「赤にょろっ!!」「ぁ、緑です。」「赤だわ!!。」
今の会話で分かってもらえたかどうかいささか不安だが、
そう俺はなんと俺の天使様、つまり朝比奈さんとペアになったのである。
当の朝比奈さんはと言うと、自分の楊枝の先を少し赤くなりながら見ていたが、
暫くして俺の方を見て、はにかみながら会釈をしてくださった。いや~、心がどんな宝石よりも綺麗になる気がするね。
…ん?いつもだったらここで我がまま団長様がアヒル口で文句の1つや2つ言ってくるのに、何も言ってこないなんて珍しいな。
「それじゃあ皆!時間が無いから早く行くわよ。」
「行くって何処に行くんだ?」
「鶴屋山よ。」
 
何でも「この前ハルにゃん達が宝探しした山にさ、竹の密生地帯があるからそこを使うにょろ!」だそうだ。
んでもって俺達は今バスに乗っている。俺は朝比奈さんと鶴屋さんと一緒に座ってるハルヒから距離を取り、
古泉と長門に昨日休んだ理由を聞いてみた。
「近頃情報統合思念体は涼宮ハルヒという個体を2体観測した。しかし、涼宮ハルヒの近辺での情報改変は観測されていない。その真相を調査するため休んだ。」
何だと!?ハルヒが2人ってどういう事だ?
「詳しくは解っていない、涼宮ハルヒの能力が人格化し、涼宮ハルヒ本人から離別し行動している。」
え~とつまり、ハルヒの能力に人格が出来てそれはハルヒ本人とは別の意思を持っているって言うことか?
 
「その通りです。そしてその別の人格が涼宮さん本人とは別の肉体をもち、別の行動をしているようです。」
なる程、じゃあ元のハルヒは能力を失ってるのか?
「はい。しかし今そこにいらっしゃる涼宮さんが能力を持っていない訳ではありません。
なぜなら、彼女、つまり能力を持った涼宮さん、ここでは、そうですね…涼宮さん(能)とでも呼びましょうか。
彼女が現れるのは、涼宮さんが夜中に眠っている間だけだからです
。それ以外の時間は涼宮さん(普)の中で眠っているようです。」
何でそんな事になってんだ?
「それはまだわかっていません。しかし「3年前の七夕が関係している。」
今の今まで空気のように振る舞っていた長門が突然割り込んできた。
 
独りで歩いてて寂しくなったのか?
割り込まれた古泉はやれやれといったように肩をすくめてみせた。ちっ、様になってやがる
「彼女が出現したのは4年前の七夕のジョン・スミスが深く関わっていると思われる。気をつけて。」
「どう気を付けろというんだ。」
「それは………」
長門は急に俺から目を逸らし、明後日のほうを見ながら
「あなたに託す。」
はぁ、誤魔化したって無駄だぞ長門、要は分からないんだろ。
「やれやれ。」
しかしそんなごまかしたりする長門も珍しくて、なんだか可愛かった。
 
「さぁ、着いたにょろ!」
そして今俺達は鶴屋山の裏側の中腹くらいにいる。
「こっから山の麓近くまでずっと竹藪になってるっさ!!気にった竹を見つけたら好きに採ると良いよ!!」
 
採るったって、一体何で採るんです?まさか素手なんて事は…「あっ、そっかそっかぁちょろんと待っててね。」
そう言って鶴屋さんは、山の上の方に向かって歩きだした。ちょろんとっていうのはまた30分程なのだろうか?
 
しかし俺の懸念も空振りに終わり鶴屋さんは2分程で戻って来た。のだが…
「皆さん、お久しぶりでございます。」
何故かその隣に新川さんが居た。何故だ?意味が分からん。
俺がよほど怪訝な顔をしていたのだろう、古泉が突然解説しだした。
「新川さんには良い笹の審査員をして貰います。僭越ながら僕が先ほど呼ばせていただきました。かまいませんか?涼宮さん。」
「ええ、構わないわよ。確かに審査員無しじゃ誰が一番か決められないわね」
 
じゃあお前はどうやって勝負を決めるつもりだったんだよ。
「ありがとうございます。それでは新川さん。」
「かしこまりました。」
そう言って新川さんは何処から出したのか、
ちょっと大きめの鉈を3つそれぞれ俺と古泉とハルヒに渡した。そして
「それで竹を切って下さい。」
といって、もう1つ鉈を取り出し、
「この様にしてください…」
と言った。そしてふーっと息を吐いたかと思うと、突然カッと目を見開いて
「SUNEEEEEEEEEEEEEEKU!!!!」
と叫びながら鉈を一振りした。
一瞬だった。そして気付くと、新品のトイレットペーパー並みの太さの竹が真っ二つになっていた。スネークって一体…?
 
ハルヒは目を爛々と輝かせ
「スッゴいわねぇ!!どうやったらそんな事が出来んの?」
と嬉しそうに言っていた。
鶴屋さんは爆笑していたし、長門と古泉はいつも通りだった。しかし朝比奈さんはよほど新川さんの顔が恐かったのか、殆ど半泣き状態だった。因みに俺は声一つ出せなかった。
「じゃあみんな!!1時間後にまた此処に竹を持って集合ね。さあ、行きましょう鶴屋さん!!」
「ラジャーっさ!!」
そう言ってハルヒと鶴屋さんはものすごい速度で竹藪に消えてった。
「それでは長門さん、僕達も行きましょうか。」
「………」
長門は3ミクロン程頷いて古泉と歩いていった。
さて、俺達もそろそろいこうかね。
「さ、行きましょうか、朝比奈さん」
「…あ、はい。」
そうして俺達も竹探しに向かった。
 
しばらく歩いてからのことだった、突然朝比奈さんが俺の方に向き直り、潤んだ上目遣いで俺を見て
「キョ、キョンくん!あ…ぁあの、昨日はごめんなさい。せっかくキョンくんが遊びに来てくれたのに…本当にごめんね。」
と言いながら、頭を腰より下まで下げて謝った。
「そんな謝らなくて良いんですよ。俺は気にしてませんから。」
俺は出来るだけ朝比奈さんをなだめるようにいった。
「でもぉ、自分から呼んでおいて部屋に入れた途端に寝ちゃうなんて、わたし…最低です。」
そういえば朝比奈さん(小)は朝比奈さん(大)に眠らされた事は知らないんだもんな。
 
そりゃあ朝比奈さん(小)本人にしてみれば、突然寝ちまったようにしか思えないよな。
しかしまずいな、朝比奈さんはもう顔を上げては居るが、今にも泣きそうな顔をしている。
朝比奈さん(大)のことをいうわけにもいかないし……しょーがない。
「じゃあこうしましょう朝比奈さん。今度また改めて俺を家に招待して下さい。それでどうですか?」
「ぇ、で、でも…キョンくんはそんな事で良いの?」
「ええ勿論ですよ。その代わり、その日は朝からお邪魔させてもらいますよ。それでおあいこです。良いすよね?」
俺はこれ以上朝比奈さんに文句を言わせないように言った。
「あ、じゃあ…そんな事で良かったら、今度の日曜にでも、また遊びに来て下さい。」
 
勿論かまいませんよ。来週の日曜ですね。たとえハルヒの奴が何を言おうが、遊びに行きましょう。
「うふ、ありがとう。キョンくん」
朝比奈さんはもう涙目では無く、とてもこの世のものとは思えない天使のような笑顔で俺を見つめて言った。俺も朝比奈さんを見つめ返した。
ガサガサッ
「ひえっ!!」
突然俺達の横にある茂みから音がして朝比奈さんは俺に抱きついてきた。あ~、このまま天に召されても悔いはないね。
「にょろにょろーん!!」
茂みの中からは鶴屋さんが出てきた。あれ?ハルヒが居ないようだが…
「おーいキョンくん。みっくるぅ!!ハルにゃん見なかったかい?はぐれちゃったんだよ~。」
ハルヒですか?見てませんが…
 
勿論かまいませんよ。来週の日曜ですね。たとえハルヒの奴が何を言おうが、遊びに行きましょう。
「うふ、ありがとう。キョンくん」
朝比奈さんはもう涙目では無く、とてもこの世のものとは思えない天使のような笑顔で俺を見つめて言った。俺も朝比奈さんを見つめ返した。しかしそんな良い空気の時に……
ガサガサッ
「ひえっ!!」
突然俺達の横にある茂みから音がして朝比奈さんは俺に抱きついてきた。あ~、このまま天に召されても悔いはないね。
「にょろにょろーん!!」
茂みの中からは鶴屋さんが出てきた。あれ?ハルヒが居ないようだが…
「おーいキョンくん。みっくるぅ!!ハルにゃん見なかったかい?はぐれちゃったんだよ~。」
ハルヒですか?見てませんが…
 
「そおかぁい。そんじゃスモーk「持ってません。」
「にょろーん。まあそんな事より…お熱いねぇお二人さん。はっはっはぁぁ!!」
「ひょ!!だ、だ、だだめです。また同じ穴の二の舞ですぅ」
朝比奈さんはよくわからない事を言って俺からパッと離れ、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。あぁ俺の至福の時が…
鶴屋さんさんは気付いたら消えていた。
 
5分後朝比奈さんはまだそっぽを向いていた。これじゃ笹が取れないまま帰ってハルヒにどやされちまうな。
「朝比奈さん、そろそろ行きましょう。時間がきちゃいますよ。」
「うぅ。」
顔を真っ赤にして唸りながら振り返り俺の方へ寄ってきた。
その時
「朝比奈さん!危ない!!」
「ふぇ?」
朝比奈さんは小さな崖から足を滑らせバランスを崩していた。
 
俺はとっさに朝比奈さんを抱き止めたが、結局2人して落ちてしまった。
こうなったら朝比奈さんへのダメージを出来るだけ減らすしかない!
そう思った俺は自分の体を下にして朝比奈さんを包み込むように抱き締めた。
「ひょえぇ~~~~~!!!!」
恐怖のあまり朝比奈さんはとんでもない音量の叫び声を上げていた。
崖は10メートル以上もあったが、幸い地面に落ちる直前に一度木に引っ掛かってクッションになったため、大した怪我はしなかった。
しかしこれは暫く動けそうに無さそうだ。
それに俺は今仰向けに倒れており、朝比奈さんは俺の上にうつ伏せに倒れていた。
そう、俺達は今抱き合っているような構図になっている。
いや~何で今日はこんなについているんだろうね?
 
「ふぁ!!ぁ、ぁ、ごめんなさい!!」
と朝比奈さんは言ってガバッと体を起こした。
あぁ朝比奈さんそれでも今度は馬乗り状態になって別の所がものすごく気持ち、いやっな、なんでも無い!!只の妄言だ。
「ああ、朝比奈さん、大丈夫ですか?怪我は有りませんか?」
俺は朝比奈さんに手を差し向けながら言った。
「ぁ、はい。勿論大丈夫です。」
それは良かった。怪我をしてまで守った甲斐が有ったというものだ。
それから朝比奈さんは俺の差し向けた手を両の手で包み込むようにして取って、
「キョンくんが…守ってくれましたから。……すっごくかっこ良かったですよ。ありがとう」
と言って朝比奈さんは真っ赤になった。きっと俺の顔も真っ赤だろう。
 
「キョンくんはわたしのヒーローですね。いっつもわたしを助けてくれて、励ましてくれるし。それに今だって、ね?」
朝比奈さんは既に赤くなっている顔を更に真っ赤にして、やっぱりまだぎこちないウィンクをした。
余りの可愛いさに俺は朝比奈さんをどおしようもないほど愛おしく思い、
思わず朝比奈さんの手を引き、また俺の胸の上に倒して、抱き締めてしまっていた。
いかんな。いつもは抑えられるのにな…
「ふ、ふぇ?キョンくん?」
「すいません朝比奈さん。暫くこのままで居させていて下さい。」
「ぁ……はい。」////
そして朝比奈さんは俺の胸に顔をうずめて気持ちよさそうな声をあげた。
俺はそんな朝比奈さんの頭を撫でながら抱き締めていた。
最高だ~。死ねる!!今ならラオウのポーズで死ねる。
 
しかしキョン達はこの時自分たちを見撃して去っていった存在に気付いていなかった。
 
そう、鶴屋さんとはぐれたハルヒの存在に。ハルヒが自分たちを見ていた事に。
 
ハルヒは鶴屋さんを探している時にキョン達が崖から落ちたのを見て、崖の下に大慌てで降りてきたのだが、キョンとみくるが抱き合って居るのを見て走って逃げていったのだ。
ハルヒは普段なら確実にキョンを怒るのに、気付いたら逃げ出していた自分に困惑していた。
「…キョンと……みくるちゃんが?……そんな…なんで?………嘘でしょ?」
 
誰も気付きはしなかったがハルヒは独り涙を流していた。
 
 
 
涼宮ハルヒの方舟
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最終更新:2007年01月26日 18:17