俺達が北高に入学して、もうすぐ1年になる。
季節は、まだまだ春にはほど遠い、冬。
俺は朝から憂鬱であった。
 
自分の成績があまり良くない、もしくは悪い人なら必ず、
先生の前で親とケンカになる日。
前日からもうやってますって人もいるだろう。
 
そんな、おそらく生徒の大半から嫌われているであろう、この行事。
もちろん俺もこいつが大嫌いだ。
 
しかしヤツは必ずやってくる。年に2度も。
 
そいつの名は「三者面談」
 
くそいまいましい。
 
岡部と親による連携ばっちりな二段攻撃をくらいつつ、
荒む心を抑えながら、やっと面談時間が終わった。
親はまだまだ説教し足りないって顔をしている。
 
やれやれ、今回も親の説教を聞きながら帰らなけりゃならんらしい。
岡部にあいさつをして、教室を出た。
 
「あっ、キョン」
 
教室を出てすぐの廊下のパイプ椅子に、ハルヒが座っていた。
苦い物を口に含んで我慢しているような顔をしている。
 
「よぅ、次お前の番だったn・・・」
 
と、ハルヒの隣、とてもキレイな美人が優雅な姿勢で座っているのに気づいた。
 
え~っと、今日は三者面談だから、ということは、ハルヒの母親?
ハルヒの母親を初めて見たってのにも驚きだが、なによりその容貌である。
どう見ても30代前半くらいとしか思えないような若さだ。
笑顔をこちらに向けてくる。
 
「こんにちは」
「あ、こんにちは」
 
あっけにとられていた俺は、我ながら情けないあいさつを返した。
 
「へぇ~、あなたがキョン君かぁ~」
「へ?」
 
なんだ?どういう意味だ?
笑顔を絶やさず
 
「いえいえ、なんでもないのよ。あ、キョン君のお母様ですか?
この間はウチの娘がそちらにお邪魔したそうで、お世話に~~~」
 
視線を俺からウチの親のほうに向け、椅子から立ち上がり俺の親に深くお辞儀をする。
俺の親もほとんど同時にそれを返した。いわゆる世間話が始まった。
どうでもいいけど廊下でやるってどうなんだ?
 
ハルヒはなぜか落ち着かない様子で、そわそわしている。
 
「お前はいいよな、成績の事じゃ、怒られた事なんてないだろ?」
 
学校での普段の態度も、と言わないのは俺なりのオモイヤリ、ヤサシサ。
屋上で爆竹やったり校門前でバニーガールになったりしてるからな・・・。
 
「まぁね。そのぶんもっと頑張ればこの大学へ行けるとか言ってうるさいけど」
「行きたい大学あるのか?」
「別に。自分の進路なんて今決めなきゃいけないもんでもないでしょ?」
「そりゃまぁそうなんだが・・・」
 
話が途切れた。俺達2人は黙ってしまったが、親達の世間話はまだ続いている。
なんか2人共携帯取り出して、番号を言い合ってるようだが。お互いの連絡先教えてる?
しばらく終わりそうにないな。仕方ない、話題をかえるか。
 
「お前のお母さん、キレイだなぁ」
「そりゃどうも。誉めたってなにもでないわよ」
 
うおお、これは不機嫌なときのハルヒだ、
なんとなく、近づくなオーラが出ているような気がする。
 
「いつも娘と遊んでくれて、ありがとうね、キョン君。これからも仲良くしてやってね」
 
と、世間話の続きのようにハルヒの母親は俺に言った。
 
「あ・・・はい、こちらこそ」
 
なぜか少しだけ恥ずかしい気分になった。俺けっこうヘタレですね、うん。
 
「ママ!?こいつはただあたしの前の席に座ってるだけなんだからね?
部活だって雑用係なんだから!」
 
別に俺にあいさつしてくれてるだけなんだから、怒る所じゃないだろハルヒ。
 
ハルヒ母は、そんな自分の娘を見てニンマリした顔になり
 
「あら~~?ハルヒそんな事言っちゃうのかなぁ?
食卓じゃいつも楽しそうにキョン君や部活のみんなの話するじゃない?
それにあたし知ってるのよ?あなた自分の部屋の写し・・・」
 
「ちょっ・・・!!!何言ってんのママ!?ほら早く三者面談行くわよ?」
 
なぜか顔を赤くしたハルヒは、ものすごい勢いで母親が何か言いかけるのを止め、
腕に手を回し教室の方へ向けさせる。
 
「それじゃまたね、キョン君」
「はい。それでは、失礼します」
 
今度はちゃんと言えた・・・って小学生レベルだな俺。
 
俺の母親ともあいさつし、中に入って行った。
 
「さっきの子、あんたの彼女?」
 
母親がそうぬかしやがったのは、ちょうど校舎を出たところだった。
んなわけないだろ。
 
「そうなの?あんたも将来嫁をもらうんなら、あんな子にしなさいよ。
あんなに元気でかわいい子、他にいないわよ。この間ウチに来た時も、礼儀正しかったし」
 
なぜかニヤニヤ(今日はいやにニヤニヤ顔を見る日だ)
子供の恋愛なんてほっといてくれよ。
それにしてもよくもそこまであのハルヒを誉めちぎれたもんだ。
まぁ確かにかわいいし、いいトコもあるんだよな・・・。
 
なぜか心の中が少しモヤモヤしたような、よくわからない気分になった。
 
そのまま帰り道の話が成績や進路の話にならなかったのにほっとしつつ、家路についた。
 
数日後・・・
 
せっかくの休みだというのに、電話の音で目が覚めた。
発信者の名前は予想通り「涼宮ハルヒ」
 
「キョン!あんた今日暇よね?」
 
予想通りあいさつもなく、いきなり用件。
なんだ?不思議探索か?
今日は妹と昼からチョコレートパフェを食べに連れてってやるという約束をしてるんだが。
 
「あっそ。昼からなら問題ないわね、んじゃあこれからあんたの家に行くから」
 
はいはい予想通り予想どお・・・って!!おい!!なんでそうなる!?
 
「ウチの親とあんたのお母様が、今日一緒に遊ぶ約束をしたらしいわ。
でもママはあんたの家知らないから、あたしがそこまでママを送って行かなきゃなんないわけ」
 
なるほどそういうことか・・・。
 
「そういうわけで」
 
ハルヒは続けて
 
「あたしもパフェ食べに連れて行きなさい。もちろんあんたのおごりだからね」
 
そう言うや否や、電話からプー、プーという音が鳴り始める。
俺はむくりと身体を起こし、大きく伸びをした。
 
やれやれ。もらったばかりの今月分の小遣いは、俺の財布から一刻も早く抜け出したいらしい。
まぁ、話したいこともあるし、たまには古泉のバイトを手伝ってやりますか。
 
ハルヒを退屈させない事が、大事なんだろ?



 
おしまい
 

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最終更新:2020年08月16日 08:57